ヴァンドレッド the second stage連載「Eternal Advance」
Chapter 21 "I hope your day is special"
LastAction -祝福-
――そして、その日が訪れた。
「おはよう、青髪。朝飯、食いに行こう」
「ああ、付き合おう」
本当に偶然なのだが、結果としてこの日の布石となった。廃棄ポット事件の前後から何かと行動を共にするようになった二人、カイがメイアを朝食に誘っても疑われない。
元々本人の動向を見張るのが目的だったのだが、今では自然と一緒に行動している。元々同じパイロットなのだ、職場も同じであれば付き合うのは不自然ではない。
今まで問題だったのは両者の関係であり、メイア本人の性格ゆえだった。孤高である彼女は普段、誰かと行動を共にする事は決してない。
心境の変化があったのは、誰の目から見ても廃棄ポット事件以後である。
「ようやく艦内の改装や正装が終わったようだな」
「これもまた男女共同作業となってしまったな。私とお前は結局、入院させられていたが」
これもまた、偶然の産物。記念すべき日が静かであっても、メイアは疑わない。艦内一斉清掃と称した準備で騒がしかっただけに、急に静かになっても理由付けが出来る。
通路を歩いていても誰にも会わなくても、昼夜問わず行われた正装が終わったのだとしか思えない。皆が休んでいるのだと、メイアが勝手に思い込んでくれる。
実際のところ皆ヘトヘトだったのだが、今日という日が訪れてテンションが上っている。興奮が、疲れを吹き飛ばしてくれる。
そうした熱気が上手く隠れているのは、見事といえる。
「カルーアが問題なく退院できただけでも僥倖だろう」
「うむ、あの子に悪影響がなくてよかった」
そもそもメイアとカイは廃棄ポット事件による酸欠症状で、検査入院させられていた。窒息死寸前で救助されたのだ、医務室で寝かされても不自然ではない。
仕事の鬼であるメイアも、同僚のカイやカルーアまで一緒に入院していては強弁が出来ない。本人も思うところがあったのか、大人しく入院していた。
周囲が騒がしくても館内清掃の名分と、本人が入院中という環境が全てを覆い隠してくれる。後は彼女が少しでも不審に思わないように、同じく入院していたカイが励むだけだ。
そして励んでしまったせいか、メイアとご飯を誘い合うほど親密になってしまったのである。
「どうした、カイ。カフェテリアへ行くのではないのか?」
「清掃は終わったが、食物の保管や点検が終わっていない。あそこのチーフは、徹底しているからな」
「なるほど、一つ一つ自分で最終チェックしなければ気が済まないのか。食料は我々の命そのものだ、管理が徹底している人間は信頼出来る」
カイの証言は本当であり、嘘でもある。チーフが食物のチェックを行っているのは本当だが、今朝行っている訳ではない。
全てを嘘で塗り固めてしまうと後で発覚した場合、トラブルの種になる。そして発覚するのは確実なので、嘘ばかりつかない方がいい。
メイアも理由を知れば許してくれるだろうが、こういうのは日頃の積み重ねである。
善意の嘘は時として、悪意よりも傷付けてしまう。
「わざわざ階を降りてまで何処で食べるつもりだ、カイ」
「カフェテリアが閉店なのは分かっていたからな、準備している」
「食事を予め用意してくれていたのか、わざわざ済まないな」
「誘ったのは俺だぞ、気にするな」
食事を準備している事自体は本当だが、もし関係が悪ければこの辺でメイアも不審に思っていただろう。正直カイも、気付かれないかヒヤヒヤしていた。
ところがメイアは不審に思うどころか、感謝の礼まで述べている。誘われたのだという意識が、誘い込まれたという発想にまで結び付かせないらしい。
本人の機嫌の良さに、カイは内心で首を捻っていた。食事に誘っただけでこれほど喜んでくれるとは、カイも思わなかったのである。
まあ何にしても――
お膳立ては全て、整った。
「ここだ」
「? 此処は確か、ホールでは――」
扉が、開かれた。
『ハッピーバースデー、メイア!』
「……」
いきなりクラッカーで、サプライズ。定番ではあるが、マグノ海賊団総出で一斉に行うと激しいクラッカー音が鳴り響く。祝福の鐘は、とても明るくて賑やかだった。
シンプルなサプライズだが、本人にとっては想定外であり予想外。ホールの大きな入口でクラッカー片手に待ち構えていた女性達を前に、メイアは唖然呆然である。
何が起きたのか、本人が気付くより前に振り返ってカイを見やる。普段のニヤけた笑いはそこにはなく、カイ本人はひたすら任務が達成できた安堵感に胸を撫で下ろしていた。
そうしたカイの様子を見て、ようやくメイアは気付けた――今日は、何の日であるのか。
「――艦内一斉清掃はパーティの準備の名目だったのか、パルフェ」
「名目というより、この機会に便乗した形かな」
「――私と常に行動していたのは監視が目的か、カイ」
「目的というより、この機会に便乗させてもらった」
「――検査入院させたのは封じ込める為か、ドクター」
「監禁というより、この機会に検査させてもらった」
「全員揃って私を騙していたのか、お前達ー!」
『騙したというより、この機会にお祝いさせてもらいましたー!』
毎年誕生日に逃げているという過去を思い出したメイアは、全員揃っての反論にガックリ肩を落とした。グウの音も出ない、サプライズである。
頭を抱えたくなる歓喜、怒鳴り散らしたくなる羞恥、逃げ出したくなる衝動。ありとあらゆる衝動に襲われるが、全員に囲まれていては逃げようがない。
サプライズパーティ、この一言がこれまでの全ての不自然の理由に繋がった。思い出してしまえば何もかも変だったのに、他に理由があった為に見逃してしまったのだ。
誕生日を忘れてしまっていた自分にも問題はあるが、思い出させないようにした彼らにも理不尽な怒りが湧いてしまう。
「まあ、そう怒るなよ。皆で今日という日のために、必死で準備してきたんだ」
「怒ってはいない。ただ何というか……腹立たしい」
「仲間はずれにしていたんじゃないぞ」
「私は子供ではない、それぐらい分かっている」
「いや、分かっていない。いいか、青髪――」
カイは揃った面々の前に達、両手を広げた。
「今日は、お前が主役なんだ。ここに集まった皆、お前がこの世に生まれてくれて感謝しているんだ」
「……」
「お前の命には、価値があるんだよ――"メイア"。だから、しっかりと生きてくれ」
「……っ……」
ようやく――メイアは、本当の意味で気付いた。
この日の為に用意した言葉、自分への誕生日プレゼント。
だからカイはあの時何も言えずに、自分を殴って気絶させたのだ――
「わっ、リーダーが泣いてる!?」
「えっ、何でだ!?」
「ちょっとカイ、何で泣かせるのよ!? こういう時は、喜びの笑顔でしょう!」
「違う、俺が喜んでほしくてだな――」
ジュラ達から総出でボコられているカイを目にしても、メイアは言葉に出来なかった。悲しんでいるのではないと伝えたいのに、声が出ない。
生きていて、良かった。今日まで必死で強く、生きようとした事は間違えていなかった。自分は祝福されて生まれ、生きていることに祝福されている。
ありがとう。
この喜びを、決して忘れない。
<END>
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