ヴァンドレッド the second stage連載「Eternal Advance」




Chapter 21 "I hope your day is special"






Action31 -外務-








 "Warning"、コンソール画面にメッセージが流れた瞬間に警告音が脱出ポット内に鳴り響いた。


状況把握に務める必要も余裕もありはしない。わざわざ警告してくれなくても、今の状況はよく理解している。ポット内の空気量が、いよいよ生存可能率を下回ったのだ。

抱き合う形になっていたカイとメイアは、瞬時に離れる。照れたのではない、焦ったのだ。タイムリミットが来ることは分かり切っていたが、いざとなれば緊張する。

カイは今まで躊躇っていたメイアの束縛をすぐに解き放って、眠っていたカルーアを抱き上げる。警告音が鳴り響いているポットで、眠れる赤ん坊なんていない。


メイアは備え付けられていたロッカーからメジェール産の宇宙服を取り出して、素早くカルーアの顔に取り付けた。酸素の吸入が速やかに行われる。


『いよいよ刻限が近付いてきた。一応聞くが、今ならまだ間に合うぞ』

『もう今更だ。争って酸素を無駄遣いするのはやめよう』


 息を止めようが止めまいが、ポット内の空気量は低下する一方だ。呼吸も満足に行えず、息を荒げるばかりとなってしまう。カイもメイアも、覚悟を決めて座り込んだ。

今からどんな行動に出ても、もう手遅れだろう。仮にメイアが犠牲になったところで、失われた酸素は戻ってこない。空気は既に希薄となっている。

この瞬間が訪れた時点で、運命は決した。後はどのような結果を迎えるのか、覚悟を決めて待ち構えるしかない。


少なくとも、宇宙服を着ているカルーアが最後に死ぬ。そこに生還の道はまだ、残されていた。


『この子は、絶対に死なせはしない。私達で必ず守り遠そう』

『ああ、勿論だ』


 何だかんだと言い争ってしまったが、最後の最後で心は一つとなった。そう思えると、今の状況も悪くはないとメイアは寂しげに微笑んだ。

随分と回り道をしてしまったが、自分の気持ちは自覚出来た。一度認めてしまえば、さほど抵抗は感じない。こんな状況でなくても、きっと近い内に気付いていただろう。


いつの間にか、これほど頼ってしまっていたのだから。


『カイは、この先どうするつもりだ』

『この先……?』


『仲間が必ず助けに来るのだろう。ならば、この先だ』


 カイは思わず、メイアを凝視してしまう。危機的状況で未来を語り出すのは、むしろ危うい傾向だ。希望を追うあまりに、辛い現実を受け入れられなくなる。

今は我慢のしどころなので、カイとしては自暴自棄に走ってしまうのは避けたい。だからこそ警戒しているのだが、メイアは顔色こそ悪いが表情は穏やかだった。

心境の変化はイマイチ把握できないが、未来を語ることで生きる希望となるのであれば、敢えて夢を描かずに現実的な展望を語るべきだろう。


とはいえ、カイも苦笑いしてしまいそうな程に難しい理想ではあるのだが。


『刈り取りを阻止した後はまず、メジェールとタラークの戦争を終結させる』

『我々が生まれる前――両国家が誕生した頃からの戦争だぞ』


『戦う理由は所詮、地球から囁かれたデタラメだ。俺の予想では両国家の首脳、つまり植民船時代の連中は確実に真実を知っている。
俺達が事実を公表すれば、両政府は確実に動き出す。恐らく俺達の抹殺を図るだろうから、俺達もまた国家を味方とする』


『国家……?』

『地球打倒を掲げた同盟軍、協力を呼びかけたメラナス達だよ。ヴァンドレッドシリーズに加えて、彼らの影響力があれば、両政府は沈黙するしかない。
閉鎖的環境によって奴らの技術も知識も衰退しているのは、広い宇宙へ飛び出して見聞きした俺達が一番よく分かっているだろう』


 突拍子もない壮大な計画だが、カイならばあり得るとメイアは思わされた。同盟を呼び掛けたのはカイであり、協力関係を結べたのもカイの功績だからだ。

水の惑星はカイの努力で立ち直り、病の惑星はテラフォーミングが実現。メラナス国家とは同盟関係にあり、ラバット達とも無事に対等な関係を作り上げた。

これだけの支援があれば、タラーク・メジェール両国家では太刀打ちできないだろう。そもそもこの二つの国家が争っているのだ、協力なんて出来るはずがない。


カイの展望に驚きつつも、メイアは頷いた。


『目的が達成すれば、俺はお前達に再び海賊の解散を呼びかけるつもりでいる』

『やれやれ、私達まで脅すつもりか』


『タラーク・メジェール両国家が和解すれば、目の上のたんこぶとなるのはお前らだけだ。それに、海賊が成立するのはあくまで乱世でしかない。
平和な時代が訪れれば、海賊に義なんぞ無くなってしまうぞ。義賊で居る内に、もう辞めておくべきだ』


 ――実のところカイの予測通り、マグノ海賊団はメジェール政府には蛮族だが、メジェールの民からは義賊として羨望されている。

そもそも海賊誕生のきっかけは難民政策であり、政府が行った政策によって大量の難民を出したからだ。その難民たちを掬ったのが、マグノ海賊団である。

海賊業によるメジェール政府からの略奪は民へも還元されるので、拍手喝采を浴びている。言わば、政府が民の敵だからこそ成立する前提なのだ。


政府自体が改善されてしまえば、略奪行為は義とはならない。本当の意味では、マグノ海賊団は蛮族となり下がるだろう。


『お前であっても、俺は戦うぞ。今度こそ、お前達を止めてみせる』

『その時の状況次第となるが――少なくとももう、お前と争うつもりはない』


 メイアは言われずとも、海賊を辞めるつもりだった。随分と心を患ってしまったが、今では霧が晴れた思いでいる。答えを見出すことが出来た。

両親の生死を確認した上で、両親の夢を引き継ぐ。それは決して、海賊では出来ないことだ。両親と同じく、自分の国を愛したいと思う。

愛せる国にするには、カイが今言ったような国家間の改善が必須となるだろう。実現させた上で、仲間達の力を借りて故郷を生まれ変わらせるのだ。


思い馳せるだけで、自分の未来が――輝いて見えた。


「おい、青髪!?」


 ――メイアはそのまま倒せ伏した。低下し続ける酸素量に、いよいよ酸欠状態となり始めた。意思はあっても、身体に力が入らない。

先程暴れてしまった分、カイよりも早く死が近付いてきている。結局、未来は変わらないようだ。どう転んでも――最初に死ぬのは、自分らしい。


カイが声を出してまで狼狽えているのを見上げるのは、本人には申し訳ないが――とても。



とても、嬉しかった。



「くそっ、絶対に諦めてたまるか。俺は最後の最後まで、こいつを――仲間が来るのを、信じ続けてやる!」


 吐き出したのは気持ちだけではなく、酸素も一緒だった。カイも顔を青くしてよろめいてしまうが、震える手でもカルーアを抱くのは決してやめない。

カイも、メイアも、瀕死に陥っても運命を呪わなかった。救出に来ない仲間達を、恨んでもいない。最後の最後まで、彼らは信じるのをやめなかった。

もしも仲間達を信じず絶望していれば、自暴自棄になっていれば、もっと早く死んでいただろう。メイアは自ら命を断ち、カイも悔やみに悔やんで、苦しみ抜いたかもしれない。


運命に対して、無抵抗だった。仲間達に対して、どこまでも真摯だった。だから酸素の一滴まで無駄にせず、命をつないだ。



死神が、追い付いてくる――





『見つけたピョロ〜〜〜〜!!』


 ――よりも、生へのナビゲーションに長けたロボの方が早かった。























<to be continued>







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