ヴァンドレッド the second stage連載「Eternal Advance」
Chapter 21 "I hope your day is special"
Action32 -明示-
操縦桿を握り締めながらも、操舵は行わない――その行為はパイロットにとって、任務の放棄を意味する。
ディータ機が攻撃を止めたのを確信でもしたのか、敵は猛烈な勢いで攻撃を仕掛けてくる。不幸中の幸いだったのは、他の無人兵器からの攻撃がない事だろう。
新型殲滅をディータに任せたチームメイト達は、信頼に応えるべく他の無人兵器群を次々と破壊。多くの死闘を乗り越えて強くなったのは、カイ達だけではない。
そんな彼女達の強さを分かっているからこそ、ディータも歯を食いしばって耐えている。どんなに攻撃されようと、ディータは自分から決して仕掛けない。
業を煮やしたのか、強制通信が入ってジュラの顔が大写しになった。
『あんた、何してるのよ! 本当に死にたいの!?』
(……)
不謹慎かもしれないが、ジュラの焦った顔を目の当たりにしてディータは不思議と口元が緩んでしまう。心配するジュラの気持ちが嬉しくて、暖かくなった。
もしリーダーに抜擢されなければ、ジュラの心配も当然のように受け止めてしまっていたかもしれない。人を案ずる気持ちを、当たり前だと思ってしまう性根の甘さ。
自分にそんな気持ちがないとは、言えなかった。今までずっと誰かに助けられてきて、ずっと甘えてしまっていた。
責任を背負う立場になって初めて、信頼を得る難しさと嬉しさを実感している。
『――何か考えがあるとでも、言うのかい?』
艦長席から向けられるマグノの気持ちは、ディータ本人には直接届いていない。けれど彼女は、自分が見守られている事を感じていた。
ディータ機はペースシス・プラグマによりカスタマイズされた機体、強度は通常のドレッドを遥かに上回るが決して鉄壁ではない。
皮一枚ずつ剥がされていくような感覚に、ディータは唇を震わせる。痛みは断続して襲いかかっており、体の各所が裂傷して血が流れる。
その事実に、ディータはむしろ安堵した。
(やっぱり、火力は低い。削られているけど、何とか耐えられる)
回避と隠密性能に優れている分、火力は低い。断続して襲いかかってこられているが、致命打は与えられていない。
敵は無人兵器、感情そのものは一切ない。けれどどれほど攻撃しても倒せないのであれば、必ず仕掛けてくる筈だ。
どれほど高い学習能力があっても、どれほど高度な戦術を備えていても、とどのつまり倒せなければ何の意味もない。となれば――
必ず倒せる攻撃を持って、仕留める。
(絶対に、仕掛けてくる――我慢して、待つんだ!)
ジュラやバーネットがその後も何度か通信を送ってくれるが、声が聞こえなくなった。通信系統ではなく、ディータの感覚が壊れ始めている。
敵の通常攻撃に耐えられるというのは、結局ディータの憶測でしかない。万が一敵が強力な火器を保有していれば、ディータは宇宙の藻屑と化すだろう。
ディータ機も徐々に削られている。一瞬で破壊されない分、真綿で首を絞められている気分だった。明確な苦痛があるだけに、余計に辛く苦しい。
――こんな重圧に、メイアは一人で耐えていた。こんな苦痛に、カイは一人で立ち向かっていた。
二人が苦しんでいる間、自分は二人に守られて安堵しているだけだった。共に戦っているつもりだったが、彼らと共に辛酸を味わっていない。
半ばディータの誤解もある。少なくとも、カイやメイアはディータの苦悩を否定するだろう。ディータだって、必死で戦ってはいたのだから。
それでもディータは、納得しない。納得なんて出来ない。彼らの立場になった途端、泣きたくなるほど苦しくて、怖がっているのだから。
(宇宙人さんも、リーダーも、戦っている……頑張ってる……ディータだって!)
現状を顧みれば、彼らが生還する可能性は高くはない。行方不明になって随分経過しており、カルーアという赤ん坊まで抱えているのだ。
カイやメイアが仮に耐えられたとしても、カルーアはとても助かりそうにない。カルーアがもし死んでしまったら、二人は間違いなく苦悩するだろう。
理想が破れて、夢が途絶えてしまうかもしれない。今まで何とか犠牲者を出さずに済んだが、ここでカルーアという犠牲を出してしまえばどうなってしまうのか。
故郷まで、近付いている――だからこそ、その無念は限りなく大きい。
(ディータだって、信じて戦える!)
それでも、ディータはその手に握りしめた操縦桿を離さない。戦うことはしなくても、戦う意志まで手放したりはしない。
モニターが歪み、いよいよ亀裂が入り始める。通信が一切途絶えてしまい、機器系統まで狂いが生じる。このままいけば、コンソールまで壊れてしまう。
コンソールが故障すれば、パイロットとしてはほぼ死に体だ。一切の機器が使えなくなり、外の状況が一切分からなくなる。目隠しされるのと同じだ。
それでもディータが見据えるのは――敵本体のみ!
(――来た!)
敵が反転――逃走したのではない。むしろ勢いを付けて豪快に発進、ディータ機へと急接近してくる。
エイを模倣した敵が仕掛けてきたのは、突進。ガタガタとなったディータ機を串刺しにするべく、加速を付けて突っ込んできた。
ここまで攻撃して動かないとなれば、もはや行動不能。敵からの反撃はもはや、一切ありはしない――コンピューターは、そう結論づけた。
確かにありえないだろう。何しろ戦術なんてものではなく――馬鹿まっしぐらな、戦い方なのだから。
「押して駄目なら――引いてみろ、です!」
どれほどの困難であろうと、どれほどの苦痛であろうと、一切敵から目を離さなかったディータ。
最大加速であろうと、敵の突進を決して見逃さない。彼女は、操縦桿から最後まで手を離さなかったのだから。
全火器、一斉放射――ディータ機に積み込まれたあらゆる火器が彼女の咆哮に合わせて、吠え立てた。
勢いよく突っ込んできた敵にとって、反撃は想定外。しかも回避するタイミングを完全に殺された、必殺の瞬間。
どれほど回避に特化していようと、回避する隙きなければ何の意味もない。何故という疑問さえ、生まれる余地もありはしなかった。
新型めがけて、次々と着弾。不屈に耐えきったディータとは違って、彼らに根性などという概念などありはしない。
爆発、四散――文句なく、ディータの完全勝利だった。
「やった、やったわ……ディータ、本当によくやったわ!」
――ディータ機が、動かない。敵を倒したというのに、一切動きを見せようとしない。
擬態を演出する必要性はない。呼び掛けてみるが、返答がない。接近しても、何をしても、反応が一切なかった。
何の反応もなく――ディータ機が、崩壊していく。
「――ディータ……?」
<to be continued>
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