ヴァンドレッド the second stage連載「Eternal Advance」
Chapter 21 "I hope your day is special"
Action30 -恩河-
地球が今回用意した新型は、奇襲型――カイが立案した奇襲作戦で貴重な戦力である母艦を略奪された地球は学習し、奇襲に最適な新型兵器を誕生させた。
地球の意図はどうあれ、無人兵器達に感情はない。意趣返しの意味は毛頭なく、戦略に有効だと判断して作り上げられた無人兵器である。
彼らにとって想定外だったのは、ユメの存在。地球が保有する赤いペースシス・プラグマを感じ取れる彼女が、奇襲兵器の隠密を簡単に探索してマグノ海賊団に知らせてしまった。
ただし、作り出した事自体は決して無意味ではない――今こうして、ディータ・リーベライが追い詰められているのだから。
『ディータ、こっちはもうすぐ全機片付けられるわ。すぐに応援に行ってあげるから!』
「駄目です。周辺の警戒と宇宙人さん達の探索に回って下さい」
『何を意地張ってんのよ、あんたは!』
「ディータよりも、宇宙人さん達の命が危ないんです。この機体だって他にも居るかもしれない、命令を徹底して下さい」
『ディータ……』
ミサイルを撃てば、迎撃される。レーザーを放てば、回避される。機銃を撃てば、物ともせずに突っ込んでくる。全火力で挑めば――姿を、消してしまう。
血の混じった汗を、操縦席で拭う。ディータは懸命であり、それでいて賢明だった。敵は奇襲型、速度やステルス性は高いが、火力そのものは低い。単騎こそが、最適。
奇襲タイプは、敵の翻弄こそが真価。もしも複数で挑んでいれば、チームワークをかき乱されて、一機ごとの性能が発揮できなくなる。落とされていたかもしれない。
この敵は、一対一で戦わなければならない。リーダーとしての教訓が、実感として発揮されていた。
(動きも早いけれど、それ以上に回避性能が高い……!)
意外にも、今までの機体の中で回避性能に特化した無人兵器は居なかった。火力や速度、奇抜な性能が多々あったが、回避性能に優れていた機体はデータ上いない。
敢えて言えば尖兵のキューブ型となるが、彼らは行動力に乏しい。数打てば当たる理論で、撃墜を物ともせずに攻撃を仕掛けてくる烏合の衆である。
今回の新型は回避しては隠密行動に移る連続性を持っており、目で追えても動きを掴むのが難しい。だからこそ、厄介極まりなかった。
下手に目で追えてしまっている分、翻弄されてしまう。動きに目を奪われてしまって、ついつい視線が走ってしまうのだ。
(敵さんも攻撃しあぐねている。多分最大の攻撃は火器系統じゃなくて――あの突進)
こちらの攻撃の勢いが弱まると、新型は果敢に突っ込んでくる。単純な体当たりに見えるが、機体の構造上先端が鋭く尖っているので、動物的に突き刺してくるのだろう。
攻撃自体は、見覚えがあった。カイとメイアのヴァンドレッド、ヴァンドレッド・メイア。あの機体の最大速度による突進攻撃、おそらくあの攻撃を模倣している。
ヴァンドレッド・メイアは速度に物を言わせた攻撃だが、新型は構造に頼った突進だ。とは言え頑強な装甲を有している以上、実に有効な攻撃と言える。
一撃でも正面から食らったら、ドレッド一機くらい容易く破壊できるだろう。
(リーダー……宇宙人さん)
こんな時、リーダーであるメイアから指示を受けたらどれほど勇気付けられるか。カイに助力を受けたら、どれほど元気付けられることか。
ディータとて、自覚はあった。メイアの判断力であれば、これほど苦戦はしない。カイの決戦力であれば、これほど追い詰められたりはしない。
この辛い旅、新人だった自分が生き残れたのは頼れる仲間達のおかげだ。皆に助けられて、生き延びた。毎日を笑って生きることが出来た。
今も周りには、仲間達が居る。だが、頼ってはいけない――彼らを頼りにしているのは、自分だけではない。
(宇宙人さんも、リーダーも、今もきっと生きている。ディータ達を信じて、待っていてくれている!)
本当に、心細い。傷だらけになっている自分の弱さを、痛感させられる。身体が痛くて、心が苦しくて、何もかも投げ出したくなってくる。
リーダーに抜擢されたとはいえ、ディータは急激には強くなれていない。今も泣きたくなるほど、苦しんでいる。歯を食いしばって、耐えている。
彼女が今戦えるのは、彼女を必要としてくれる人達がいるからだ。この自分の戦いに意味があるからこそ、頑張れる。
リーダーとは、責任を背負う者だ。重荷であろうと背負って、仲間の分まで戦わなければならない。
(敵さんもきっと、苦しんでる。ディータを倒せなくて、戦いあぐねている。どうすればいいのか、いっぱいいっぱい考えよう!
敵の攻撃は見えても、敵の姿が見えない。目では追えない、レーダーにも反応してくれない。攻撃は当たってしまうけど、あの突進の時が見えるから何とか躱せられる。
だったら――突進する時に、ディータの武器を全部ぶつけちゃえばいい)
――ディータは自覚していないが、思いついた案は実に危険な発想である。そして何よりも、実に"カイらしい"発想であった。
確実に影響を受けていると、メイアがいればため息を吐いていただろう。ディータの発想は単純なカウンターだが、そもそもカウンターというのはタイミングが命の危うい戦術である。
少しでもタイミングが遅ければ、敵の攻撃を食らってしまう。少しでもタイミングが早ければ、敵に回避されてしまう。ある程度近づけ、それでいて近すぎてはならない。
そうなると確実に敵を捉えなければならないのだが――敵は突進するまで、姿を隠している。
(どうしよう、どうしよう。目で追っても消えちゃうし……目で、追えば?)
ディータ・リーベライは顔を上げて――操縦桿を、離した。
ドレッドであるディータ機は急停止、新型からの攻撃の数々が直撃してしまう。
『あんた、何してんのよ! まさか機体が故障したの!?』
「っっ……ディータだって……学習するんだ!」
敵は影に潜んで、絶好のタイミングで姿を見せて襲い掛かってくる。その敵の行動そのものを、ディータは模倣する。
動きが目で追えないのであれば、わざわざ追いかけても仕方がない。だったら敵のように動きを消して、攻撃を仕掛けるタイミングを待てばいい。
ただし敵とは違って姿は消せないので――集中攻撃を浴びてしまう。
「どんなに辛くても……どんなに痛くても……ディータは、戦うんだ!」
有人兵器と、無人兵器の根比べ――
感情がある人間が勝つのか、感情のない兵器が勝つのか。
勝敗は、命を持って決する。
<to be continued>
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