ヴァンドレッド the second stage連載「Eternal Advance」




Chapter 21 "I hope your day is special"






Action26 -志夢-








 ――辿り着くのに、時間はかからなかった。


「副長、脱出ポットの一つが無くなっています」

「な、何だと!?」


 傍で報告を聞いていたユメが、憮然と鼻を鳴らした。自分には直接言わず、人間の上司を介したその態度が腹立たしい。

だが、今は内輪揉めしている場合ではない。先ほど散々やりあった後だ、これ以上は人間の言う通り不毛に尽きる。

敬愛する自分の主と可愛い妹が見つかってから思う存分言ってやるのだと、ユメは口を挟まずに経過を見守った。


報告を受けた副長ブザムは、理解出来ないとばかりに首を振る。


「何故、脱出ポットになど乗っている。そもそもメイアはカイが見張り、カイにはメイアがついていた。馬鹿な真似をする余地がない」


 カイの突拍子もないおふざけであればメイアが止めて、メイアのありえない失敗であればカイがカバーに入っている筈である。

この二人が揃って行動していて、カルーアの育児に勤しんでいるのであれば、どんな不都合も起こりようがないのだ。

そもそも脱出ポットというのも、よく分からない。緊急用の脱出ポットに何故乗り込んでいるのか、何から何までよく分からない。


カイの事をよく理解しているユメは、考えられる範囲の現象を口にする。


「ますたぁーはトーゼンとして、万が一あの人間の女が何もしていないのなら、何かトラブルでもあったんじゃないの?」

「トラブルと言っても、脱出ポットになど――」


「ますたぁーはそのありえない事をする、ステキな人だよ!」


「……これ以上ない説得力ですよ、副長」

「……またあの男は……」


 セルティックの同意に、ブザムは頭痛を堪える。ユメの自信満々の発言は、得てして人間にとって不吉な事なのだ。

ブザム達とて、半年以上も長くカイと付き合っている。万が一が起こったのであれば、まさかという疑問は一切捨てる。

今まで部下達から進言を受けた内容を吟味しながら、最初からこの事件の真相を推理する。と言っても、大した事ではない。


そもそも脱出ポットの存在が、怪奇なのだ。そこから辿って行けば、すぐに真相に辿り着ける。


「確かパルフェが停泊するこの機会に、ニルヴァーナの一斉点検を行うとの連絡があった。脱出ポットの点検結果を聞かせてくれ」

「あっ……受けた最新報告によると、廃棄処分となったポットが幾つか出たそうです!」


「それだ。恐らく廃棄予定だったポットの一つに誤って乗り込んでしまったのだろう。
何故そうなったのか、本人たちを発見して聞けばいい。今必要なのは、廃棄処分されたポットの行方だ。

セルティック、ポットの反応を辿れるか?」


「すっ……すぐには難しい、です。廃棄処分が決定されたポットは、機体反応がありませんので」

「廃棄が確定しているのならば当然だな、つくづく厄介な事になった」


 職務遂行への怠慢だと、叱責出来ない。廃棄処分のポットは粗大ゴミと変わらないのだ、ゴミの反応を追っていてはキリがない。

宇宙とはスペースデブリの溜り場でもある。広大な宇宙では全てが存在し、全てが塵となっている。塵の反応は無限大に等しい。

となれば物質反応や化学分析に頼らなければいけないが、その解析にはどうしても時間がかかってしまう。


セルティックは厳しい顔でユメを仰ぎ見るが、本人も忌々しげに首を振る。


「ますたぁーの生体反応は、距離があると簡単に辿れない。こういうのは、悔しいけどソラの方が上」

「だったら、すぐにお願いしてよ」

「分かってるわよ、バーカバーカ――ソラ、やってくれる?」


『勿論です。全リソースを使用して、確実に追います』


 マスターの生存がかかっているのであれば、是非もない。元々真面目なソラは、ユメの力不足を追求せずに承諾した。

ユメは悔しげに眉を震わせる。『本来の機能』を発揮すれば、夢と同等かそれ以上の機能を発揮出来るのだ。出来ないのは、理由があった。

そしてその理由は、主のカイには一切関係がない。自分の不都合で機能が発揮できない、その理由はユメにとってこれ以上ない屈辱だった。


カイ・ピュアウインドこそ、本来の主。なのに――


『ユメ』

「……何よ」


『マスターは間もなく、"精霊の地"へ辿り着きます。真実を知ったあのお方は、試練を受けるでしょう。
他でもない、貴女の為に』


「!? そ、それは……」

『運命に甘んじて何もしないのは、大いなる運命に流されるだけの人間と同じ――貴女が唾棄していた存在と、何も変わらない』

「うるさい、うるさい! 破壊するわよ!」

『私を破壊しても、貴女は私にはなれません』

「ますたぁーを独り占めしているつもりなの!?」


『私も、貴女にはなれません』


「……!」

『私と貴女は同一であり、そして分かたれた存在。その事を自覚するのです、"ユメ"』

「"ソラ"……」


 ユメは頭を掻き毟った。ソラはいつも正しい事を口にする、その理がどうしようもないほど疎ましい。

この危機を乗り越えれば、間もなくあの人はあの場所へ辿り着く。あの地の民は、あの方に真実を伝えるだろう。


そして、あの人は知るだろう――その、全てを。



「蒼い巨人、貴女はますたぁーを守るべく今猛威を振るっている。あんな奴が力を発揮しているのに、ユメは……!」



 ユメが捉えているのは――赤い血を流して戦う、ディータ・リーベライの姿。

仲間の危機を知りながら、自分の使命を全うする。涙を堪えて、血を流して、彼女は自分の力を覚醒させつつある。


ペークシス・プラグマに一切頼らないその雄姿が、ユメの背中を押していた。



その一歩が、人の言う勇気なのだと知らずに。























<to be continued>







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