ヴァンドレッド the second stage連載「Eternal Advance」
Chapter 21 "I hope your day is special"
Action25 -野海-
ひとまず、冷静になることにした。カイは自分から引き下がり、メイアへ反論するのを止める。決意を見破ったというのに追求してこないカイに、むしろメイアが戸惑ってしまう。
カイとて、納得したのではない。言いたいことは色々あるし、絶対に言えないこともある。追求しないのは単純な話、無駄な酸素の消費を抑える為だ。
メイアを納得させる絶好の材料は、手元にある。サプライズパーティー、彼女の誕生日会。仲間が盛大に祝ってやれば、メイアという人間がどれほど価値があるのか思い知るだろう。
昔と今の明確な違いが、ここに現れる。孤独に戦っていた過去とは違い、今は命さえ預けられる仲間達がいる。
『今からこのコンソールでの画面越しに話そう』
『急にどうした』
『言い争うだけ、酸素の無駄だ。なるべく口を開かずに、話し合おうじゃないか』
救命ポットのコンソールは旧式だが、文字を打つ程度はカイでも行える。滑らかにタイピング出来ないが、会話を成立させるのには支障はない。
カイの意図を知ってメイアは小さく頷いたが、納得した様子はない。言い争うのを止めたところで、酸素の消費を抑えられる量は限られている。
メイアも、簡単に諦めたのではない。あらゆる試行錯誤を繰り返して、救命は間に合わないと判断したのだ。酸素の節約なんて、一番最初に検討している。
この会話こそ無駄だと言わんばかりに、メイアは明確に要求する。
『話し合う事は何もない。お前とカルーアが生き残ればいい』
『俺がこの場で舌を噛めば、お前の願いは叶わないな』
『カイ、お前の気持ちは本当にありがたく思っている。私を案ずるお前の気持ちに嘘はないと、今であれば理解できる。そんなお前に生きてほしいんだ』
言葉にはせず、メイアは儚く微笑んでいる。彼女が笑った顔なんて殆ど見たことはないが、あまり見れた顔ではなかった。
不細工なのではない、全くの逆だ。自分の終わりを悟った女の顔は、今まで見たことがないほど美しかった。見惚れてしまうほどに、心に染み入る笑顔だった。
だからこそ、カイはもどかしく思う。こういう顔をさせたくて、今まで一緒に戦ったのではない。こんな馬鹿げた事故で死ぬなんて、それこそ馬鹿げている。
サプライズパーティという、明確な答えがある。ならばここで、何を言うべきか悩む必要なんてなかった。
『お前にだって、生きてほしいと思う人がいる』
『私にはいない、とは言うつもりはない。例えばお前だって、私の死を悲しんでくれるだろう。
先程も言ったが、私はそういう人にこそ生きてほしいと思っている』
『同じ意見を、そのままお前に言ってやる』
『ならば、平行線だな。話は終わりだ』
やはり、言葉が足りない。決め手に、欠けている。どれほど言葉を尽くしても、両者が同じ想いであるのならばメイアの言う通り平行線だった。
カイは説得するのを、この時諦めた。やはり無理、彼女を本当の意味で説得出来るのは誕生日を祝うことだけだ。
そして誕生日のことを告げてしまえば、仲間の信頼を裏切る事になる。緊急時であれば許されるであろうが、それもまた仲間に甘えているだけであった。
メイアは、本当の意味で分かっていなかった。カイは別に、言葉だけの男ではないのだ。
『よし、分かった』
『分かってくれたのか、すまないな』
『謝らなくてもいい。ただ、聞いておきたい。実際問題お前が死んだところで、俺はともかく赤ん坊のカルーアはもつかどうか分からないぞ』
『その点については、心配しなくてもいい。お前には苦労をかけてしまうが、一人分の救命装備は残されている』
パルフェはこの救命ポットを廃棄処分するつもりだった。だからこそ救命ポットに何の整備もせず、廃棄だと放置していたのだ。
だがそもそも救命ポットというのは、避難者を守る為に存在する。宇宙へ緊急避難させるだけであれば、単なる片手落ちで終わってしまう。宇宙には、酸素がないからだ。
救命ポットに関わらず、救命装置全般には緊急避難者用の装備が用意されているのは、常識である。放置していたのであれば、そのまま放り込まれたままとなっていたということだ。
そしてこの装備には、当然酸素ボンベも用意されている。
『お前の計算では、救命装備があっても三人はもたないのか』
『一人用しか用意されていない、そして我々は三名。酸素の消費を抑えても、大人二人は無理だ。
この装備はカルーアが使用し、お前には我慢を強いるが何とか生き残って欲しい』
『分かった、装備をカルーアが使用する事は賛成だ』
『今、準備する』
――メイアとて、心苦しい。償いといえど、それは本人だけの思いだ。カイには何の関係もないのに、無理を強いてしまっている。
己の死が、カイに傷を残してしまう事だけが無念だった。逆の立場であれば、強行して反対していたであろう。無茶苦茶な理論だった。
自分に押し付けられたら何を言われても反対すると言うのに、カイには無理に納得してもらっている。それが本当に、申し訳なく思ってしまう。
救命ポットの戸棚から装備を取り出しながら――メイアは、瞼を震わせた。
「本当に、すまない。でも、私は……お前に、生きてもらいたいんだ」
「俺も同じ気持ちだよ」
「ッ――!?」
最後の思いを自分の声で告げたメイアに、カイもまた真剣に応えた――気持ちを込めた十手で、思いっきり頭に叩きつけて。
頭を殴れば気絶するなんて物語の中の事実でしか無い素人考えだが、男の腕力で力いっぱい殴れば話は別。殺す勢いとまでは言わないが、カイは祈る思いで叩き付けた。
昏倒したメイアを目の当たりにしてカルーアは泣き出してしまい、カイは慌ててあやした。全く何をやっているのか、カイは苦笑いする。
言葉で通用しないのならば、腕力で黙らせるしかない。実に原始的な手段だった。
「さて、後は"計算外"の奇跡が起こることを願うしかないな」
妙な話だと思う。
今まで運命に抗うべく戦っていた自分が、運命に抵抗してしたメイアを気絶させて――
大いなる運命に、身を委ねている。
<to be continued>
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