ヴァンドレッド the second stage連載「Eternal Advance」
Chapter 21 "I hope your day is special"
Action24 -哀史-
カイが居ないということは、ヴァンドレッドシリーズ全般が使えないという事だ。メイアが居ないという事は、ヴァンドレッドメイアが使えないという事だ。
前者が居なければ後者もありえないのだが、新米リーダーであるディータの中できちんと区切りをつける。両者の不在を自覚した上で、現状に対抗する為に。
それほどまでに、両者の不在による指揮及び戦力の低下は目に見えて明らかだった。気掛かりな点も多く、先行き不安となる戦場。ゆえに大切なのは、自覚であった。
カイもメイアもどれほど苦境に立たされようと、毅然としていた。部下や仲間達を決して、不安にさせてはならない。
(せめて、あの新型だけはディータの手で倒さなきゃ……!)
指揮系統の低下はサブリーダーのジュラが補ってくれる。ならば戦力の低下は自分で補うべく、敵の主力を打ち砕く決意を固めた。
機械に情なんて湧くわけ無いでしょう、辛辣に言った先程のユメの言葉をディータは噛み締める。敵を庇うのか、味方を守るのか、検討するまでもない。
兵器に、情けはない。無人兵器は無慈悲で人を殺す、仲間同士なんてありえない。破壊しなければ、自分達が破壊される。
「だから……ディータは、兵器さんを倒すんだ!」
無人兵器には優先順位があるように、人間にだって優先すべきものはある。ディータは仲間を守るべく、自分を変える決意を固めた。鬼になるのではなく、パイロットとなる為に。
タラークの人達は女は悪鬼羅刹、鬼のような生物だと恐怖していると言う。故郷が、その背後にいる地球が仕組んだ教育に黙られてはならない。
あくまで人間として戦う。だからこそ、引き金を引けるパイロットとなる。引き金を引けと命じる、チームリーダーとなる。
ディータは、引き金を引いた。
「!? また避けた……!」
躊躇いはなかったが、発射した弾丸よりも早く回避されれば意味はない。驚きはあったが、意外ではない。新型の性能は少しずつ分かりつつある。
新型は常に尖兵であるキューブ達に守られており、一度攻撃すれば猛烈な反撃が待っている。ディータも心得ており、懸命に回避行動へ移る。
迂闊な攻撃は反撃を許すだけ、さりとて攻撃しなければ死を待つだけ。ディータはメイアの指導を思い出し、頭の中で必死に戦術を組み立てていく。
高度な戦術はまだ、彼女の頭では思い描けない。だから彼女は頭ではなく、操縦桿で宇宙に軌跡を描いた。
「前方の二機を倒しちゃえば、中心の兵器さんの動きは鈍り……当てやすく、なる!」
通常兵器による掃討で前衛を速やかに破壊して、新型の上方へすかさず飛翔。真上から直下に撃ち落とす機動で、ミサイルをぶっ放した。
ディータにしては派手な攻撃、彼女の覚悟が見える猛烈な火力。本人は意図していなかったのかもしれないが、元よりディータ機は火力に長けている。
新米だった当時、本人としては火力があったほうが強いという単純思考による装備だったのだが、機体にパイロットの覚悟が上乗せされて威力を発揮。
今この瞬間、ディータ機はパイロットと一体となった。
「残りの機体では庇いきれない数……これなら!」
ミサイルの弾数も計算の内、新型を取り巻く護衛機体数の上を撃っている。その上で火力を思う存分発揮、威力を殺すのは不可能だった。
次々とミサイルが着弾、護衛をしていたキューブ達を破壊。甲斐もなく守ろうと懸命だった彼らも、物理的破壊までは防げない。
火力は波となって押し寄せて、新型を飲み込んでいった。真上から撃ち落としたのも、新型の構造上回避が行えないとの判断に基づいてのことだった。
一連の行動を目の当たりにしたジュラが、本人よりもその戦果に驚いている。
『す、すごいじゃない、あんた……い、一応ジュラが発破をかけてあげたけど、えらく思い切りがよかったわね』
「……」
『ちょっと、無視しないでくれる? 褒めてはあげたけど、階級が逆転したからといってふんぞり返るなんて生意気よ』
「姿が見えない」
『えっ……?』
「兵器さんの姿が見えないの」
『あんたが今、倒したじゃない』
「ディータはあれで倒せたとは、思っていない」
リーダーとしての判断ではなく、パイロットとしての経験が物語っていた。手応えというのを肌で感じるのではなく、感覚で感じ取る。
無産としたと言えば聞こえはいいが、爆発に巻き込まれて諸共消えたと思いこむのは理想より願望に等しい。ディータは、操縦桿を離さなかった。
ジュラからの反論が聞こえてくる前に、計器からの警告音が発する前に、ディータは操縦桿を動かして機体を発進させる。
その途端、真下から機銃が襲い掛かってきた。
「姿が見えないまま!?」
メイアの指導の一つに、敵からの攻撃により敵の位置を把握するやり方を教わっている。ディータは模範的に対応したのだが、この敵にはその指導に該当しなかった。
明らかに反撃があったというのに、敵影すら見えない。計器は警告音こそ訴えているが、敵の反応を捉えていない。
攻撃があった事実を告げるだけで、攻撃がどこから来たのか捉えられない。愕然とするが、ディータは首を振って思い直した。
常識で判断できない、という事実を、常識の下で判断すればいい。
「ジュラや副長さん達が言っていた通り、この兵器さんは姿を消せるみたいだね」
『奇襲用に特化した新型、というわけね。まったく、嫌らしいわね』
ディータの判断を、ジュラは舌打ちをもって肯定する。実に特殊な機能ではあるのだが、無人兵器は姿形を平気で変える。消す機能を搭載できても不思議ではない。
極端にミクロ化すればレーダーでも捉えられないし、あるいは特殊迷彩を施して宇宙に溶け込んでいるのかもしれない。この技術自体は、そう珍しくはない。
ただし人が乗る機体でこのような真似をすれば、当然パイロットはあらゆる後遺症に襲われてしまう。
機体の形とはパイロットに適しているからこそ機能を発揮するのであって、何でもかんでも作り変えればいいというものではない。
『どうするつもりよ。レーダーでも捉えられないわ』
「ジュラは、兵器さんを守る子達を何とかして」
『じゃあ、あんたは――』
「あの兵器さんは、ディータが倒すよ」
ジュラは、生唾を飲んだ。ユメの言ったように破壊するとまでは言わないにせよ、今ディータはハッキリと敵の打倒を告げた。
その点も驚かされたが、何よりも自分自身の手で倒すと宣言した。今までにない宣言、自信に満ちた結論ではなく、揺るぎなき決意による発言。
カイとメイアの行方不明という凶報をもってしても、ディータは揺るがなかった。
この場に居ない二人を補うことが、彼らを救うのだと信じて。
<to be continued>
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