ヴァンドレッド the second stage連載「Eternal Advance」
Chapter 21 "I hope your day is special"
Action22 -合海-
「だ、誰かメイアの姿を見なかった!?」
「隔離していたでしょう、他でもないアタシ達が。監視していたのはカイだけど、そのカイも一切反応がないの!」
セルティックの報告を受けてベルヴェデールが狼狽して確認を取るが、既に確認していたアマローネが唇を噛み締めながら返答する。
通常戦闘態勢に入れば、即座に乗員の確認とパイロットの点呼を取る。当然である、生死をかけた戦いへ突入するのだから。
ただ今回に限って、例外があった。サプライズパーティを重んじて、戦闘態勢そのものに入らなかったのだ。
当然、サプライズ対象であるメイア相手に確認など取れる筈がなかった。点呼など以ての外である。
「この際怪しまれてもいいから、艦内全域に生体反応を確認してみて!?」
「もうやったよ、何処もかしこも一切反応がない。隠れている様子もないし、この船にいないとしか考えられない」
報告を受けて、ブザムが思案する。刈り取り兵器との戦闘に入ったことはカイにも連絡していないが、あの男の事だから戦況を察したのかもしれない。
戦いになることを予感したカイはメイアへの発覚を畏れて、何らかの理由をつけて母艦への退避を試みた可能性はどうだろうか?
あるいは自分の蛮型に搭乗して、メイアを連れてパトロールにでも出掛けた事も考えられる。想像を超える行動を起こすのが、あの男だ。
そこまで考えて、ブザムは顔色を変えた――不可能だ。
「カルーアはどうした!? カイやメイアが面倒を見ていた筈だぞ!」
カルーアの存在である。カイがどれほど無鉄砲でも、カルーアを連れて宇宙へ飛び出す筈がない。
彼はパイロットである、宇宙の恐ろしさは嫌というほど理解している。赤ん坊を連れて遊びに行ける場所では、絶対にないのだ。
宇宙船ならばまだ可能性はなくもないが、そもそもの話カイはSP蛮型しか操縦出来ない。メイアがカルーアを連れて遊びに行くことはあり得ない。
再度セルティックに確認したが、回答は同じだった。
「……カルーアちゃんの反応も、ありません……」
「そんなっ!?」
エズラが血相を変えて立ち上がった。育児ノイローゼにかかっていた彼女にとって、この現実は追い打ちに等しい。
もしも自分がきちんと育児を心がけていれば、間違いなく起こらなかった問題だ。かといって、カイ達の責任などという気持ちは微塵もない。
あの二人がどれほど自分を心配し、どれほどカルーアを思い遣ってくれていたか、痛いほどよく分かっている。だから安心して、任せることは出来た。
だが、その安心は決して母親が持っていいものではない。少なくとも、育児ノイローゼにかかっている母であれば。
『なにやってたのよ、あんた達ー!!』
最大音量、最大画質、最高音質で発狂するユメ。音波地獄と化したメインブリッジ、反響音でクルー達が軒並み倒れて耳鳴りに苦しめられる。
怒り心頭なんて生易しいものではない。音で人を殺せるのであれば、躊躇なく殺していただろう。直接手を下さなかったのは、生死不明という一点のみ。
カイが生きていれば、彼女達を殺害するのは怒りを買う。アマローネ達の命なんて、ユメにとってはその程度の価値しかない。
カイの存在がかろうじて、ブレーキになっているだけであった。
『一刻も早く探し出しなさい、さもなければ全員殺す。お前たちを皆殺しにしてやる!』
「っ……や、やってみなさいよ!」
『お前……!』
セルティックにとって不幸中の幸いだったのは、『カイが』提唱したサプライズ作戦中の為、クマの着包みを頭からかぶっていたことだ。
防音効果のコーティング自体は行ってしないにせよ、セルティックの着包みは材質上声が届きづらい。耳へのダメージは強いが、理性は何とか保てている。
彼女の無事が、ユメの更なる怒りを煽る。ユメに最初凶報をもたらしたのは、この少女である。憎んでも憎みきれない怨敵であった。
そしてユメは、この人間であれば殺せると確信している。
『ずっと前から、お前の事はキライだった。いっつもますたぁーにひどいこといって、バカにしていたでしょう!
ますたぁーが優しいことを嵩に来て、言いたい放題言ってた。ずっと助けられていたくせに、この恩知らず!』
「分かっているわよ、そんなこと! でも、人間はそんな簡単には割り切れないの!」
『だったら、死ね。ますたぁーのお荷物になってるあんたなんか死んでしまえ!』
「あんただってカイの優しさに甘えて、ずっと足を引っ張ってたじゃない!」
『嘘つかないで、ユメはますたぁーの力になってるもん!』
「カイは人殺しになんて――命を"奪う"なんて、絶対に許さない!」
――セルティック・ミドリは、聡明な少女である。メジェールの教育で育ちながらも、自らの感性を大切に出来る理性的な女の子。
だからこそ最年少でお頭が乗船する海賊船に乗ることを認められ、メインブリッジの重要な管轄を任されている。
分析官ともなればどれほど過酷で矛盾に満ちていても、決して偏見を持って職務を行ってはならない。男であろうと女であろうと、平等に分析しなければならない。
そんな彼女が、カイ・ピュアウインドの本質を分析出来ない道理はなかった。
「あの人の理想を他の誰よりも踏み躙っているのは、あんたよ。
カイが愛する人間を馬鹿にして、カイが大切にする仲間を殺そうとして、カイが大事に思う世界に唾を吐いてる!」
『そ、それは……だって……ますたぁーだって、その内きっと分かってくれる!』
「分かっているわよ、あいつはもう分かってる。人間なんて馬鹿で、唾を履きたくなるほど世界は腐っていて、仲間なんて簡単に出来はしない。
けどそれでもあいつは信じようと努力しているでしょう、あんたの事だって!」
『だ、だから何だってのよ! その結果、ますたぁーがいっつも辛い目に遭ってるでしょう!』
「あいつが苦しんでるから、あいつのやってることを否定するの? 止めようともせず、何でもかんでもハイハイ言ってるだけのくせに!
わたしはね、自分だけがカイの理解者であるかのような顔をしているあんたが一番許せないわ!」
『……っ!』
何故だか分からないが、確信はあった。この少女であれば、如何ようにでも自分を殺せる。逆らえば、きっと命はない。
けれど、知ったことではなかった。ユメは自分を許せないというが、セルティックだってユメの事を前々から気に入らなかったのだ。
カイを慕った顔をしているが、結局甘えているだけだ。子供だから甘えていいというのを免罪符に、言いたい放題言っている。
そして何より自分だけではなく、大切な友達や仲間を馬鹿にしている。それが許せなかった。
「あんたの癇癪に付き合っている暇はないのよ。早くカイを見つけて、メイアやカルーアちゃんを助ける。あいつならきっと何か手を打って、必死に行動している。
あんたはそこでずっと、人のせいにして吠えていればいいのよ。何でもかんでも何かのせいにしていれば、楽だもんね。
冗談じゃないわ――あいつを大事に思う気持ちは、あんたなんかに負けない!」
言葉を叩きつけてセルティックはクマの着ぐるみを脱ぎ捨てて、猛烈な勢いでコンソールを操作し始める。
言いたい放題言われてユメは赤くなったり青くなったりしているが、言い返せなかった。殺すのは容易いが、それでは相手の言うことを認めるのと同じだった。
悔しさの余り殺意で表情が歪むが、何とも腹立たしいのはセルティックが今必死でカイを探していることだ。
カイを探している彼女を殺せば、カイの救助が遅れてしまう――それでは本当の意味で、足を引っ張るだけとなる。
『ちょっと、ソラ。こいつ、生意気だから殺して!』
『お断りします、私はマスターの捜索に取り掛かっていますので』
『そもそも何でますたぁーから目を離したのよ、この役立たず!』
『そっくりそのままお返しします』
「ぐううううう……もう、皆、バカバカバカバカバーカ、死んじゃえ!」
――ユメの爆発ぶりを目の当たりにして、エズラは心の中に懐かしい感情が灯った。
純粋な子供が放つ感情、セルティックが憎たらしいというその態度こそが、母にとっては可愛らしいと思える子供の仕草であった。
赤ん坊は特に、親の言うことを聞かずに泣いてしまう。あやしても泣かれ、笑顔を向ければ怒り出し、怒ってしまえばまた泣いてしまう。本当に厄介で、どうしようもなくワガママ。
それでも、可愛かった――愛らしかったのだ……
どうして忘れてしまっていたのか――
「ユメちゃん」
『何よ、あんたまでバカにする気!?』
「ありがとう、カルーアのことを心配してくれて」
『えっ……う、うん……べ、別にあんたのためじゃないし、あの子はユメのいもーとだから!』
「私もあの子にユメちゃんのようなお姉さんが出来て、本当に嬉しいわ。あの子を探すのを、手伝ってくれる?」
『ふん、しょーがないな……ますたぁーと一緒に、探してあげる』
不安に思うことなんて、何もなかったのだ――子を愛する気持ちさえ、あるのならば。
<to be continued>
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