ヴァンドレッド the second stage連載「Eternal Advance」




Chapter 21 "I hope your day is special"






Action17 -暗愚-








 融合戦艦ニル・ヴァーナに備え付けられている脱出ポットは、メジェールの海賊船とタラークの軍用艦が融合した際に作り出されたものではない。

ヴァンドレッド等のような新型機ではなく、修理ポッドはあくまで非常時に使用される小型脱出艇であり、深宇宙を航海する宇宙船には必ず標準装備されている。

当然軍用艦イカヅチや海賊船にも規格こそ異なるが脱出ポットは用意されており、融合した際に一隻の融合戦艦に複数の脱出ポットが搭載された形となる。


規格の違う脱出ポットであるがゆえに、尚の事早急なメンテナンスが必要とされていた。パルフェやドゥエロの最善とも言える決断が、今回ばかりは裏目に出たのだ。


「脱出ポットが勝手に起動する筈がない。まさか、敵が攻めて来ているのか!?」


 脱出ポット一つに押し込められて、勝手に艦外へ射出されてしまったカイとメイア。メイアの当然とも言える推測に、カイはカルーアを抱っこしながら内心舌打ちする。

彼女の推察は恐らく当たっているだろうが、だからといって肯定する訳にはいかない。緊急事態となれば、後日に渡って尾を引く形となってしまう。

職務に生真面目なメイアが事を疎かにする事はなく、誕生日当日を迎えても恐らく職務を理由に欠席するだろう。自分の怠慢で今回の事故は起きたと、悩んでしまうかもしれない。


冗談ではない。カイはこの期に及んで非常警報が鳴らない理由を看破している。仲間達より受け取ったバトンを落としてはならない。


「おいおい、落ち着いて考えろよ。何度も言うが、敵が攻めて来たのなら真っ先に俺達に連絡が届くだろう」

「それはそうだが、非常事態ともなれば態勢を立て直すのに時間が掛かる。我々への連絡が遅れた可能性もある」

「だからといって、非常警報さえ鳴らないのはどう考えても変だ。まず真っ先に警報を鳴らして、非常時を訴えるべきじゃないか」


「では、この事態をどう思っているのだ、お前は。脱出ポットが勝手に稼働しているのだぞ」


 そう、その点が確実におかしい。カイもその点だけが理解に苦しんでいる。何故非常警報も鳴らさなかった仲間達が、脱出ポットだけ動かしたのか。

隔離するという意味では、これ以上ないほど有効だ。何しろ船の外へ放り出されたのである、艦内で堂々とサプライズを行う準備が整えられる。

だが、幾ら何でも強引に過ぎる。何の前触れもなく艦の外へ放り出されたら、誰だって不審に思う。誕生日である事を隠したい自分達には、不審に思われるのはまずいのだ。


どういう事なのか考えて、カイは一つの結論を出した。仲間達を第一に信頼するのであれば、解答は限られている。


「勝手に動いたのではなくて、動作テストでもしていたんじゃないのか?」

「動作検証している際に、我々が触ってしまい稼働したとでも言うのか。そんな偶然があるものか」

「何でそう言い切れるんだ。カルーアにかかりきりで、俺達だって注意が散漫だったんじゃないか」

「ぐっ……し、しかしだな、そんな重要なシステム点検を行うのであれば、まずは私に一言連絡を――」

「パルフェが艦内清掃と改修の許可を貰っていたじゃないか、その一環でやっていたかもしれないぞ」

「そんな重要なテストを、艦内清掃の一環で行うのか!?」


「責任者はあのパルフェだぞ」

「……ありえるな」


 本人達は知らないが、パルフェの決断にはドゥエロも一役買っている。優秀だが変人の二人、相互作用は運命さえ狂わせてしまったのかもしれない。

数々の不運と不幸が重なって起きた事故、不自然な前後状況から考えればありえる可能性だと、メイアも頭を痛めつつも納得した。

ひとまず不自然さを自分の誕生日へと結び付けなかったことに、カイは安堵する。誕生日パーティ一つやるだけでこれほど苦労するとは夢にも思わなかった。


不幸中の幸いだったのは、この事態によりメイアが自分の誕生日を自分で思い出す事はありえそうにない事だろう。


何しろ色んな不幸が重なって脱出ポットに押し込められたのだ、こんな状況で呑気に自分の誕生日へ思いを馳せる輩では決して無い。

この事態をどうにかするのに手一杯で、自分自身に頭が回らないのには間違いない。これでサプライズは確実に実現出来る。


後は誕生日パーティを滞り無く始められるかどうかの一点に尽きる。その為には、今起きている事態を平和裏に解決しなければならない。


「起きてじまった原因は本人に聞くとして、出ポットを操縦できないのか、青髪」

「脱出ポッドはそもそも敵襲や大惨事からの脱出手段として、射出されるように設計された非常用小型艇だ。
これらのポッドは使いやすさを考慮した設計がされていて、母船が完全に動力を失った場合でも射出させる事も可能としている。

推進剤も用意されているが、あくまで脱出を第一とした設計だ。ドレッドのように、精密な操縦が行える仕様となっていない」


 脱出ポットは射出するのに制御スタッドを押すだけであり、薬品や爆発物によって留め金が連鎖爆発を起こして、ポッドそのものを宇宙空間に放出する事を目的としている。

乗員を安全に脱出させられるだけのポッドであり、こうした小型の脱出ポットは最低限の人数しか乗せられない。れ以上の大型はライフボートとして、別枠で用意されているのだ。

あくまで緊急時に脱出する為のポットであり、最長でも数時間までの使用を想定して作られている。その為内部構造は非常に簡素に作られており、簡易的な操縦ステーションと重力椅子しか用意されていなかった。


ニル・ヴァーナからまず安全な距離を取った上で、その後メインブリッジより遭難ビーコンを発信して誘導する仕組みである。


「つまり、パルフェ達が俺達の事故に気付いていないと駄目なのか」

「我々が下手にポットを弄るよりも、大人しく救助を待っていた方がいい。脱出ポットが使用されれば、ブリッジにも連絡が届くようになっている。
それこそ敵が襲ってでも来ないかぎり、すぐにでも気付いてくれるだろう。それまでは救助を待つ」


(――となると、長引く可能性もありえるのか……)


 敵襲の気配は今のところ無さそうだが、母艦奪取以後刈り取り側が静かなのが気にかかる。もしかすると、戦法を変えて来たのかもしれない。

いちいちこちらの真似事ばかりしてくる、腹の立つ敵だ。母艦を奪われた自分の作戦を真似される危険性があった。ガス星雲で採用した、待ち伏せ作戦である。

ガス星雲はこの近辺にはないが、スペースデブリ等は何処にでも散らばっている。この先には磁気嵐も待っている、近辺で敵が待ち伏せている可能性が高い。


ブザムやマグノは、極めて優秀な軍略家だ。ソラやユメといった、未知のサポーターもある。敵の待ち伏せに気付いて、戦闘へ移行するかもしれない。


「ただそうなると、まずい事になりそうだな」

「戦い? お前は先程否定したではないか」

「単純な戦闘じゃない、我慢比べ。俺達はパイロットだ、どんな状況にでも耐えられるが――」


「しまった、カルーア!?」


 真っ暗な脱出ポットの中でカイに抱っこされたまま、カルーアは小さく身を震わせている。事態は何も分かっていないが、分かっていないからこそ怖いのだろう。

メイアは慌てて脱出ポットの非常蛍光灯をつける。暗闇の中で安穏と眠ってくれるとは、夢にも思っていない。眠りにつけるのは、安心だからこそだ。

優しい母親がいない。頼りになる父親もいない。あやしてくれるロボットもいない。姉として可愛がってくれる少女もいない。


ここにいるのは自分だけで精一杯な、未成熟な少年少女のみ。


「……厳しい戦いとなりそうだな」

「ああ」


 敵が目の前にいないというのに、戦いを強制されている。味方であるというのに、倒すことよりも厄介な敵――

単純に泣かさなければいいのではない。幼少時に与える不安や恐怖が、大人となった時にどれほど悪影響をおよぼすのか、よく知っている。


メイア・ギズボーンは、よく分かっている。



何も、乗り越えられていないのだから。























<to be continued>







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