ヴァンドレッド the second stage連載「Eternal Advance」




Chapter 21 "I hope your day is special"






Action16 -杷木-








 カイとメイア、二人に対する極秘作戦が決行。刈り取り襲来時に発令される非常事態警報そのものは鳴らさないが、各部署への警告と通達だけは当然行っておく。

非戦闘員含めて全クルーが一丸となってサプライズパーティの準備に取り組んでいる最中なので、連絡漏れは一切ない。

警報が発令しない理由は言われるまでもなく全員察して、協力は怠らなかった。ニル・ヴァーナ艦内はパーティ準備に専念し、艦外ではパーティの邪魔をする敵を倒しに行く。


メイアが出撃不可となる本作戦において、リーダー候補生としてメイア直々に指南されていたディータが遂に抜擢された。


「以前からメイアより報告は受けていてね、教育内容を含めてお前さんの努力は評価しているよ。初陣だ、しっかりやりな」

『は、はは、はい! ディ、ディータ、頑張ります!』

「そう固くなるな、初陣で何もかもお前に押し付けるつもりはない。サブリーダーのジュラをつけるし、チームメンバーもベテラン揃いだ。
肩の力を抜いて、メイアより教わった事を遺憾なく発揮すればいい」


 本来であればこのタイミングでディータに任せるつもりはなかった。現リーダーであるメイアをつけて一戦一戦、丁寧に着実に学ばせるつもりだった。

今回メイアが出撃不可となったのは、彼女の誕生日前である今日敵の待ち伏せが発覚した偶然である。この偶機を、生かすことになったのだ。

メイアが不在であればサブリーダーのジュラが代役するべきだが、今回はよりにもよってカイも不在である。


女性だけのチーム構成はマグノ海賊団にとってむしろ通常営業、ならばいっその事この機にディータに経験させる事とした。


『リ、リーダーも、宇宙人さんもいないんだ……ううっ』

『ちょっと何なのよ、その落ち込みようは。ジュラがサポートだと、そんなに不安なの?』

『ううん、そんな事無いよ! ただ――』

『ただ?』


『その、敵の宇宙人さんの中に新しい敵さんもいるんだよね。ディータ達だけで戦えるのか、ちょっと考えちゃって』

『……』


 ドレッドチームのリーダーとして出撃するのが怖いのではなく、リーダーとしての責務が果たせるのかどうか不安になっているようだ。

ジュラとしても分からなくはなかった。何しろ前回の戦闘は母艦戦であり、ジュラやディータは偽ニルヴァーナという新型兵器に殺されかけたのだ。

倒せたのは独力ではない、カイやメイアを含めたスーパーヴァンドレッドという新兵器あってこそだった。自分たちだけでは殺されていただろう。


刈り取りの新戦力は、都度強さを増している。まして今回はカイがいないのでヴァンドレッドシリーズが使えない。不安視するのも無理はなかった。


『不安になるのは分かるけど、想像だけで怖がるのはやめておきなさい。そういうのは、ジュラの嫌いな贅肉よ』

『ぜ、贅肉……?』

『アタシらを殺せる戦力を持っているのなら、いちいち待ち伏せなんてせずに真正面から襲いかかってくるでしょう。
ま、奪い取った母艦やカイのヴァンドレッドにビビってるのは事実でしょうけど、アタシ達だって十分強くなっているわよ。

アンタだってそうでしょうに』

『……ディータ、強くなっているのかな』


『アンタね、半年前までは新人だったのよ。リーダー候補にまで抜擢されるなんて、異例中の異例なの。全く、ジュラを差し置いて!
それでもこうやってサブリーダーとして協力してあげるのは、アンタのことを認めてやっているからでしょう!』


 ジュラとしては、今でもディータは危なっかしいと思っている。経験だってまだまだ足りないし、実力的にもリーダーには及んでいない。

ただ、資質はあるとは感じている。メイアは決して身内贔屓で人選を行わない。メイアが抜擢した以上、ディータにはリーダーの素養は確実にあるのだ。

チームを引っ張って行く気概も身に付けつつあるが、何よりもチーム全体の強調を重んじる点は大きい。リーダーとして、自分の命さえもメンバーに預けてくれるのだ。


仲良しこよしという子供じみた一面が、実戦を経て協和へと発展している。メイアとは違った統率を、彼女は行えるのだ。


『ありがとう、ジュラ……ディータ、自分の事はまだちょっと信じられないけど、ジュラの事はいっぱい頼りにしているね!』

『出来れば早く、ジュラの世話にならないくらい強くなって欲しいけどね』

『えへへ、勉強しまーす。じゃあ――ドレッドチーム、出撃!』

『ラジャー!』


『――あっ、ただしリーダーと宇宙人さんには気付かれないように注意してね!』

『ズッコケルことを後から言わないでよ!?』


 ニル・ヴァーナは全長三キロの融合戦艦、カイやメイアとの位置関係に気を付ければ出撃の気配を気付かれる心配はさほどない。

無論、事前に調査は行っている。カイとメイアは医務室にいて、カルーアの育児を行っている最中。赤ん坊の世話に取り掛かりきりになっている。

医務室は入院患者の為に防音対策が完璧であり、外からの刺激を良しとせず情報は遮断されている。特に育児ルームと化している医務室の一室は、窓の一切もない。


子慣れしているとは到底思えないあの二人はきっと今、赤ん坊こそが敵となっているだろう。手のかかる魔神を相手に、外の刈り取りまで気を配る余裕はない。


「むぅ、ユメもますたぁーと一緒にお姉ちゃんとしてカルーアの面倒を見たいのに」

『残念だとは思うけど、今だけは手伝って欲しいんだ。あの新型を追えるのは、君だけなんだからさ』

「面倒くさい奴ねー、まあいいわ。あんたはともかく、シャーリーのお願いであればリーダーとして聞いてあげないとね」


 人間には非協力的なユメだが、カイの作戦を成功させるべく渋々手伝っている。ただ嫌々なのは明白で、気分次第でまた態度を変えるかもしれない。

ユメのその辺の気持ちをきちんと察しているブザムやマグノは、搦め手を取っている。ユメにとってはカイの次に大切なシャーリーやツバサに段取りをつけたのだ。

ツバサも負けじとへそ曲がりではあるが、誕生日パーティは楽しみにしている。何としても成功させるべく、ユメにお願いしたのである。


二人にお願いされては聞かない訳にもいかず、ユメは今回バートのサポートとして操舵席に乗り込んでいる。


『それにしても、やはり君も操舵席に入れるんだ』

「ソラに出来ることがユメに出来無い訳ないでしょう、バーカ」

『どうして出来るのか、そもそも分からないんだけどね』

「ふっふっふ、ユメの偉大さを少しは思い知ったかしら。これからはリーダーとして頭を下げなさい」

『勝手に加えられてる!?』

「シャーリーと同じチームよ」

『あ、いいかも』


 ――メインブリッジに駄々漏れになっている話を聞いて、アマローネ達が引っくり返りそうになった。シャーリーが居れば何でもいいのか、真剣に聞いてみたい。


異星人であるミスティが訪れてからというもの、この船にはカイ達以外にも何人もの不思議な子達が乗船するようになった。

自分達メジェール人だけの船だったのに男が加わって、異星人が来て、ソラやユメのような存在まで入って来ている。劇的に変わってきていた。


そんな彼らがカイやメイアの不在を埋めるべく、立ち上がってくれた。それだけで嘘のように安心させられて、アマローネ達は苦笑させられる。


「セルティックは艦内に目を配っていて。メイアはともかく、カイは何するか分からないから注意してね」

「任せて。余計なことをしたら殺すから」

「……あんた、本当にカイのことになると目の色変わるわね」


 カイをオーマ候補にしているアマローネとしては、セルティックの心の内は複雑だった。気にしているのは丸わかりだが、気持ちとしては複雑怪奇である。

全てをバラして整理すれば好意に該当するのであろうが、純真な気持ちではないので頭が痛い。本人もきっと、気持ちを持て余しているのに違いない。

一つ言えるのは、カイの事には決して手を抜かないということだ。動向の一部始終を逃さず、監視するだろう。その点だけは頼もしいといえる。


艦内はセルティックに任せて、自分はベルと共に艦外の分析にとりかかる。


「カイやメイアにばれないように、戦況分析は今まで以上に徹底して行うわよ。決して敵を寄せ付けず、あらゆる想定外に対処する。
新型はユメちゃんに任せて、あたし達は戦況に気を配りましょう」

「了解。ようやく念願が叶いそうだもんね、メイアに喜んでもらうためにも負けられないわ」


 こうして各自準備を整えて、待ち伏せしている敵への奇襲に取り掛かる。戦力不足が露呈している分、各自の能力が試される局面だった。

そうした中で、オペレーターのエズラ一人が悩んでいた。彼女達は自分の役割を果たそうとしている。だったら、自分の役割とはなんだろう?

自分はオペレーターであり、母親である――だが肝心の子供は、渦中の二人に預けてしまった。


本当にこれでいいのか自問自答を重ねるが、答えは出ない。



母親の役割とは、なんだろうか?























<to be continued>







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