ヴァンドレッド the second stage連載「Eternal Advance」
Chapter 21 "I hope your day is special"
Action18 -執奏-
「おいでなすったか……へへ、燻り出されたな!」
『ユメの手柄だからね、威張らないように』
「分かってるよ!」
サプライズパーティー準備を切り上げて、操舵席へ乗り込んだバート。普段サポート役を務めるソラと交代して、今回はユメが渋々バートのお守りを引き受けた。
本来であればカイを除いた人間達の手助けなんてしたくもない彼女だが、カイやカルーアの為になると説き伏せられて今回限り参戦している。
まず敵が待ち伏せている座標データをバートに渡し、奇襲を仕掛けられる針路をナビゲートしてニル・ヴァーナを誘導。隠れていた敵へ攻撃を行う。
待ち伏せていた敵からすれば、完全な不意打ち。潜んでいたがスーンから慌てて何機も飛び出してくるのが見える。
『万が一ますたぁーにバレたらお仕置きだからね、サクッとやっちゃいなさい』
「相変わらず怖い事を言う子だな……分かってますよ、だから僕が前線に出てきたんだから」
蛮型乗りでもドレッドパイロットでもないバートが、わざわざ母船であるニル・ヴァーナを駆り出してきたのには明確な理由がある。
非戦闘員も多く乗船している戦艦自ら攻めこむのは、本来の愚策の極み。本丸が突撃するなど、弱点を自らさらけ出すようなものだった。
だがこのニル・ヴァーナは本城ではない、戦艦だ。半年以上の実戦経験を経てバートは成長し、ニル・ヴァーナは進化を遂げている。
ニル・ヴァーナに新しく搭載された砲門が、次々と発射体制に入った。
「見てろよ――いけ、僕の必殺技ホーミングレーザー!」
病の惑星での戦闘で発現し、先の母艦戦でのスーパーヴァンドレッド誕生による影響で進化したホーミングレーザーが一斉に火を吹いた。
ユメが完璧な照準を定めて、バートがタイミング良く発射。刈り取り兵器達も回避を試みるが、照準が定まったレーザーは軌道を変えて確実に敵に突き刺さっていく。
面白いほど小気味良く、敵が撃ち落とされていく。これこそマグノ海賊団の切り札の一つであり、短期決着も見込める即効性の高い兵器であった。
どれほど多く敵が押し寄せてこようと、物の数ではない――これまでの敵であれば。
『ちょっと、一機ハズしたわよ。後でお仕置きね』
「待って待って、照準を定めたのは君だろう!?」
敢えて言うならば、エイ型とでも言うべきか――ユメが真っ先に警戒を促していた新型には、着弾しなかった。
狙いは完璧だった。タイミングも的確だったと言い切れる。ユメにも、バートにも、一切のミスはない。
即席ではあるが、二人のコンビネーションは見事の一言に尽きる。エイの形をした奇妙な敵だけが、あろう事かホーミングレーザーに着弾しなかったのである。
回避したのではない――消えてしまったのだ。
「何なんだよ、あれ!? 幽霊じゃあるまいし、出るか消えるかハッキリしろよ!」
『幽霊というのは的確な表現ね。幽霊船とでも呼ぼうかなー』
『ユメ、あの機体について分析は行えるか』
副長より問い質されて、ユメは面白く無さそうに鼻を鳴らした。こちらが勘付いた事に、ブザムが気付いたらしい。賢しい人間だと、唇を尖らせる。
そもそもユメは、刈り取り兵器については一日の長がある。新兵器についても詳細までは把握していないにせよ、ある程度の分析は行える。
ただ敵への思い入れがないように、味方とする人間達にも好意はあまり持っていない。教えるのは面倒だが、教えなければカイ達に危険が及ぶ。
面白く無さそうな顔をしつつも、ユメは一応答えてやることにした。
『こいつよ』
「へっ……僕?」
『生意気にますたぁーの作戦を真似した実戦機ってのもあるんでしょうけど、あの新型はこいつが使う戦艦の兵器に対抗した兵器なのよ』
『……なるほど、対ホーミングレーザー用の機能を有した新型なのか』
『後はさっきも言ったように、待ち伏せする為の機体。ポンコツ達の母船を奪われたのが、よほどムカついたんでしょう』
ニル・ヴァーナのホーミングレーザーは照準さえ合えば、確実に着弾する光学兵器。有用性が非常に高く、発射されれば多くの刈り取り兵器を破壊出来る。
回避不能のレーザーとなれば、どれほど数を増やしても確実に落とされてしまう。ペークシスは無限のエネルギー源、何発でも発射できる。
病の星から今までの戦いで、このホーミングレーザーによって戦局を全て塗り替えられている。地球側は危機感を強めて、急遽開発を行った。
あの新型のエイ型――幽霊船は、対ホーミングレーザー用に開発された試作機なのだ。
「もう一発、いや何発だって撃ち込んでやる。逃げ場なくぶっ放せば、いつか必ず当たるさ!」
『オバカちゃんと一緒に戦うのって、疲れるね』
「う、うるさいよ! 何事も数打てば当たるって言うだろう!」
『スマートじゃないし、何度やっても消えられたら一緒でしょう。それに』
「そ、それに……?」
『何発撃っても当たらないのだという結果を、あのポンコツ共に伝えちゃってもいいの?』
『ユメの言う通りだ、実戦効果を見込めると地球に知られるのはまずい。頭を冷やせ、バート』
「ちぇっ、僕が倒したかったのに、ぐぬぬ」
確かに新型を送り込んで来たとあれば、あの幽霊船は試作機である可能性が高い。待ち伏せまで仕掛けたのも、今後の戦略への期待値からだろう。
何しろこの先には、ミッションのボスであるリズより教えられた情報では、磁気嵐地帯が待っている。電子機器が無効化される、恐るべき魔の地帯だ。
敵からすれば、待ち伏せできる絶好の場所である。もしも今の戦いでホーミングレーザーが通じないと発覚したら、大量に投入される危険がある。
何としてもこの場で破壊して、何の役にも立たない試作機だと相手に思い知らせる必要がある。
『ユメのおかげで、我々に待ち伏せは通じないと敵に突き付けられたのだ。わざわざ、弱みを見せる必要はない。
あの新型はディータ達に任せて、お前は他の無人兵器の掃討にあたってくれ』
「りょ、了解っす!」
『それと、ユメ』
『何よ?』
『貴重な情報を感謝する』
『……フン』
規律正しい副長からの素直な勝算に、ユメは目を丸くして顔を逸らした。本心からの言葉であることくらいは、人外のユメにも分かる。
人間なんて、どいつもこいつもくだらない。何年、何十年、何百年経っても、愚かでバカな生き物たちだ。
ようやく出会えた理想の主であるカイを除いて、全てが有象無象。どうだっていいし、どうなってもかまわない。そう思っていた。
なのに――
『ユメは大人だから、お世辞なんて通じないわよ』
「……素直じゃないな」
『お仕置き』
「すいません、やめてください」
不愉快だった、たまらなく不愉快だった。
不快ではないのが、ユメにとっては実に不愉快であった。
<to be continued>
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