ヴァンドレッド the second stage連載「Eternal Advance」
Chapter 21 "I hope your day is special"
Action14 -経過-
メイアの誕生日サプライズパーティの為に、カイが隠密作戦に従事している事はマグノ達も知っている。メイアの誕生日を祝いたい気持ちは上司としても、個人としても当然持っている。
彼女本人が自分の誕生日を祝う気持ちがない事は本人はともかくとして、周りは不幸だと思っている。自分を祝う余裕が無いのは、人生が切羽詰っている証拠だ。
今まで一度も成功したことがないサプライズが、男たちの協力で実現できるのは素敵だ。そう思えるくらいには、男たちとの関係を築けたと言い切れるだろう。
その点を前提としても、職務である以上無条件に肯定は出来なかった。
「ユメ、お前の気持ちは我々も共感している。カイへの度が過ぎる感情もまた、お前がカイと出逢ったことによる成長の証なのだろう」
「つまらない前置きはいいから言いたいことを言いなさいよ、気持ち悪い」
「カイ本人は、どう思うだろうな」
「ますたぁーは、あの"白きアスディワル"の操縦者を祝いたいんでしょう」
「アスディワル――Asdiwal?」
「ガラクタ共と戦闘になっちゃえば、パーティの準備は台無しになっちゃう。そうなったら、パーティは中止になるよね。それはますたぁーの望みじゃない」
ユメの言葉にマグノが不思議そうに呟くが、本人は気にせずにズケズケと言いのける。率直であるが故にユメの主張は正論であり、極論でもあった。
子供なりの素直さの表れであろうが、今この場では可愛げであるとは見ない。ブザムというマグノ海賊団副長は、公私混同は一切しない。
子供の脅迫に安々と屈する度量では、海賊なぞ務まらない。
「パーティが中止となれば、確かにカイは無念に思うだろう。だが戦力不足で仲間達に負傷者や死傷者が出れば、カイは果たしてどう思うだろうな」
「自分達の無能が原因でしょう、ますたぁーに押し付けないでよ」
「我々の力不足は認めよう。だが、我々とカイは同盟を結んでいることも考慮してもらいたい」
「困ったことがあれば、すぐにますたぁーに押し付ける。そうして助けられても、感謝の一つもしないじゃない!」
ユメは憤慨する。ブザム達は決して恩知らずではない。むしろ海賊としては義理人情には暑く、故郷でも義賊として密かに民から評価を得られている。
だが、彼女達はメジェール人である。メジェールは女尊男卑の国是が根底にあり、男達への敵対心が根付いてしまっている。
その為半年もの時間を費やさなければ、男に対する理解が及ばなかった。その間カイ達は捕虜として冷遇されて、監房に押し込められていた。
話を聞いていたアマローネ達にも反論はあったが、事実でもあるので口を閉ざしている。ユメはまだ成長途中の子供である、人間関係の機微は極端にしか語れない。
「感謝はしている」
「嘘つき、そうやってますたぁーの優しさに甘えている」
「うむ、だからこその"ヴァンドレッド"システムだ」
「? いきなり何よ」
「ヴァンドレッドは男と女の機体が合体して生まれる兵器だ。どちらが欠けても成立しない、相互理解が必要な協力体制システム。
そしてつい先日、スーパーヴァンドレッドという一体型の新兵器が誕生した。その中にはお前も含まれているんだ、ユメ」
「……ますたぁーとの協力関係が結ばれているとでも言いたいの?」
「スーパーヴァンドレッドが人型であることに、意味があると私は思っている。皆が一つとなり、新しい可能性となって刈り取りに対抗する。
気持ちを察することも確かに大切ではあるが、苦労を一方的に背負う関係を私は健全とは思わない。
我々は常に、命を懸けて敵と戦っている。だからこそ出し惜しみなどせずに、全力で挑みたい。最高の結果を出して、皆で笑いたいじゃないか」
「むぅ……」
噛み砕いた物言いはブザムの弁には若干似つかわしくはないが、その分ユメにも受け入れやすい言葉であった。
口を尖らせながらも、抗弁は出来ず不満気な顔をするユメ。彼女もまたカイを理解する存在、仲間を守るべく戦ってきた少年の理念を知っている。
地球との過酷な戦いで死傷者が出なかったのは、本当に奇跡的だ。なまじ奇跡が続いているだけに、ここまで来て失ってしまうことには耐えられないだろう。
ブザムの指摘に素直には頷けないが、さりとて反論も思い浮かばず。消化不良のまま、苛々させられてしまう。
「あんな雑魚共、アンタ達でも倒せるでしょう」
「新型が厄介だ。あの"幽霊船"は、我々のレーダーに探知されない。ドレッドは極めて高精度のレーダーを持っているが、追尾するのも困難だろう。
今の我々に課せられたミッションは、サプライズ。潜んでいる敵を追うのに対し、味方に秘密を潜ませたままにするのは分が悪い」
メインブリッジクルーとて、己の職務にプライドを持っている。話し込んでいる今も懸命に分析しているが、一向に新型の姿が割り出せない。
ユメの指摘で位置情報だけは何とか探知できているが、もしも動き出してしまえば再びレーダーから消え失せてしまうだろう。
幽霊船である最大の長所を生かして、敵は常に死角から攻撃を繰り出してくる。艦内に秘密を抱えたままでは、到底生き延びられない。
そうなれば、カイが恐れている味方の死が待っている――ミッションは、失敗だ。
「分かってくれるな、ユメ」
「……」
――次善の策はある。ユメ本人が彼女達に手を貸すことだ、システムへ干渉すれば割り出すのは決して不可能ではない。
しかしソラが構築しているニル・ヴァーナのシステムへ干渉することは、遊びを超えた協力となってしまう。そうなれば、システムを通じて察知されてしまうだろう。
ユメには、秘密がある。カイ本人には、もう知られてもかまわない。大好きな主は、必ず受け入れてくれる。最早、彼へ全権を委ねる事に微塵の躊躇いもない。
ただその最初のきっかけを、彼女達マグノ海賊団への協力とするのは嫌だった。こんな形で発覚したくない、手伝うからにはカイへの支援としたい。
カイに任せるか、自分が手伝うか、答えはすぐに出た。嫌そうに舌打ちしながらも、協力を申し出――
『ちょっと待った!』
「……バート?」
デデン、と外部モニターを乗っ取ってバート・ガルサスが全面に出てくる。これほどの自己主張はかつてなく、ブザムやマグノが目を丸くする。
最高幹部が唖然とする中、下っ端気質な彼が親指を立てて自己主張し始める。何もかも、唐突に。
カイ・ピュアウインドの友人であることを、当然のように誇って――
『上等じゃないですか、僕達の手で見事敵を倒してみせましょう』
「突然、何を言い出す。お前は操舵手じゃないか」
『僕だって、それなりに成長してます。この際だから、この一戦でこのニル・ヴァーナの機能を完璧に掌握してやりますよ。
おい、君達。あの新型は僕が追跡するから、君達はドレッドチームへのフォローを頼む』
「は……? あんた、ブリッジの仕事なんてしたことがないでしょう。敵を見たら悲鳴を上げる奴が、敵影を完璧に補足なんて出来るの?」
『や、やってみせる!』
アマローネの容赦無い指摘を受けて、若干怯んだあたりが何とも彼らしい。だが、彼の心意気はよく分かる。性根は優しく、素直な青年なのだ。
シャーリーを家族に迎えてから、バートは自分の出来る事を探すようになった。家族を持った人間として、価値のある人間となりたい。家族に誇れる自分でいたい。
青年としてはまだ、未熟である。ほんの少し前まで、自分の進路さえも流されるままに決めていた子供だ。急に、大人にはなれない。
だからこそ、彼なりにキッカケを求めていたのだろう――それが今だった。
『カイは、僕の友達――ううん、親友なんです。今までずっと助けられてばっかりだったけど、僕だってあいつの助けになることをしたい。
それに、あいつばっかり戦わせるのは嫌なんです。僕には守るべき家族が居る、大切な人を守れる男になりたいんすよ!』
「……、ハァ……どうしてこう、うちに関わる人間は公私を混同するのか」
「ははは、いいじゃないかBC。うちは軍隊じゃないんだ、部下がやる気を出してるのならやらせてやるのが上司の責任さね」
――ブザムも、本心ではユメやバートの気持ちを汲んでいる。カイに重荷を背負わせることに、何とも思わない人間ではない。
幼い少女から焚き付けられて、大人ヅラして受け流すにはブザムは少しだけ若かった。やらせてやりたいと思えるほどには、理解のある上司であった。
そしてお頭であるマグノから許可が出たのであれば――是非もない。
「いいだろう、ユメ。それにバート、お前達の提案を受け入れよう。カイヤメイアには決して悟られず、極秘にミッションを遂行する」
「ふふん、当然よ。ま、バカもバカなりに頑張るみたいだから、シャーリーのトモダチであるユメもほんの少しだけ手伝ってあげるわ」
『滅茶苦茶バカ呼ばわりされてる!? くそ、見返してやるからな!』
これは訓練ではない、実戦である。決してお遊びでは済まされない、真剣勝負である。それでもこうして、過酷な戦いを試練として挑める気概を持っている。
馬鹿なのか、頼もしいというべきか、ブザムにも判断は出来ない。結局は結果だ、彼らがやる気を出して成功したのであれば過程は関係ない。
バートやユメの気炎に触れて、マグノ海賊団もまた全力でサプライズミッションへと挑む決意を固めた。
<to be continued>
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