ヴァンドレッド the second stage連載「Eternal Advance」
Chapter 20 "My Home Is Your Home"
Action9 −垂涎−
「男湯」
「女湯よ」
「何でだよ、男湯だろう」
「あたし達が沸かせたんだから、女湯よ」
「俺達の部屋だよ、男湯だ」
「この船はあたし達の船よ、女湯」
「元は男の船だよ、男湯」
「奪ったもん勝ちよ、女湯」
「なら占拠している俺らのもんだな、男湯」
「元捕虜に与えた部屋なだけよ、女湯」
「仲間入りしたから俺らの部屋だ、男湯」
「あんたは海賊嫌がってるでしょ、女湯」
「だから独立国なんだよ、男湯」
「あんたはタオルで身体拭けば満足なんでしょう、女湯」
「風呂と温泉を一緒にするな、男湯」
「長風呂するあたし達の方が有効に使えるわよ、女湯」
「元男の部屋で長風呂するのかよ、男湯」
「ペークシスが洗い流してくれているわよ、女湯」
「そのペークシスが男と女を合体させたんだぞ、男湯」
「だったら権利は平等じゃない、女湯」
「ペークシス使用の実績があるのは男側だ、男湯」
「勝手に使ってるだけじゃない、女湯」
「使ったもん勝ちだよ、男湯」
「――平行線になるだけだ。論議はその辺にしておけ、カイ」
「――噛み合わない議論は徒労になるだけだぞ、ミスティ」
男側の代表者であるカイと、女側の代弁者に選出されたミスティ。温泉が沸いたと報告を受けた彼らは一旦母艦の調査を中止して、ニル・ヴァーナへ帰還した。
温泉発掘の事実は水質検査の結果明らかとなり、ニル・ヴァーナ全艦にて大々的に発表された。男達は興奮し、女達は歓声を上げた。
元々、融合戦艦ニル・ヴァーナには大きな共同風呂がある。エステクルー管理下の元徹底した使用時間が定められており、男と女が交代で使用している。
男の仕様が認められたのは第一次母艦戦後の仲直りの後で、今のところ問題は起きていない。男の定められた使用時間は女よりも少ないが不公平ではなく、本当に使用時間が短いだけだ。
そこへきて、温泉の発掘――長旅で憩いに飢えた彼らにとっては、金山を掘り当てたに等しい。
「大体、何でお前が女の代表なんだ。バアさんかブザムが筋ってもんだろう」
「クルー全員で話し合って決めろとお達しが来たのよ」
「それでも、新参者のお前が選出される理由が分からん」
実を言うと最初に候補に選ばれたのはメイアだったのだが、近頃の二人の関係を顧みて却下となった。昔は犬猿の仲だったのに、今では何かと二人で行動しているからだ。
メイア本人は温泉に思い入れはないし、彼女もシャワーで済ます効率重視の人間。女性としてのランクは高いのに、無駄な美貌だとエステクルーまで嘆かれてしまっている。
セルティックもカイを――表面上は――敵視しているが、彼女は元来人見知りする人間。討論には向いていないと、これまた棄却された。
ということで、ミスティが選ばれた。新参者だがカイに匹敵する行動力と負けん気で、今ではすっかりマグノ海賊団より信頼を得ている。
というよりカイに影響されて、行動的になったと言ってもいい。カイに押し上げられるように、彼女もまた表舞台に立って活躍しているのだ。
「皆に推薦されたのよ。あんたを倒せるのはあたししかいないってね、うしし」
「憎たらしい笑顔だな、この野郎!?」
こうして会議室を陣取って温泉の権利を取り合う裁判となったのだが、論戦は悪口の言い合いに発展しつつある。不毛の一言だった。
似た者同士が言い合えば、不毛な口喧嘩になることは目に見えている。そこでそれぞれの仲裁役として、ドゥエロとメイアが選ばれた。
ちなみにこの裁判の様子は、ニル・ヴァーナ全域で中継されている。長期滞在中ならではの、娯楽番組だった。
マグノやブザムはブリッジで呆れ果てていており、口出しする気力もなかった。
「今の話を聞いていただろう、ドゥエロ。俺達の勝利だよな」
「野生の原人の言うことなんて無駄ですよね、お姉様」
「――タラークでは、どんぐりの背比べと呼んでいる」
「――メジェールでは、似たり寄ったりだな」
自分の仕事が一つでもあれば、こんな無駄な論戦に付き合わなかっただろう。メイアは大掃除宣言した責任感、ドゥエロは自分の部屋に起きた事件の義務感から出席している。
温泉は一つ、性別は二つ。掘り当てた金山は山分けという結論に全く至らず、彼らは独り占めを狙って言い争っている。
まさに自分達が嫌悪する見難い大人達そのものなのだが、自覚が無ければ自分を正義だと思ってしまうのが子供だった。
子供の喧嘩手段は、幾つもある。
「よし、分かった。戦いで解決しようじゃないか」
「イベントクルーにパイロットが喧嘩売る、普通!?」
「だったらシンプルにジャンケンしようぜ」
「そっち、二人。こっち、百五十名。プレッシャーの差が凄すぎるから。くじ引きでいいでしょう、平等に」
「お前ら海賊が提示するクジとかどんなイカサマが仕組まれているか、分かったもんじゃねえ。早食い対決とかどうだ」
「物資の消費は怒られるでしょう。計算勝負しましょう」
「教育の差が圧倒的過ぎる。長距離勝負しようぜ」
「普段エレベーターも使わず走ってる奴に勝てないわよ! 短距離でいいでしょう」
「無駄に素早いからな、お前……この前教わったしりとりは?」
「しりとり対決って長引くと観客が退屈するわよ。あやとりで勝負しましょう」
「この前苛立ってハサミで切る暴挙に出たことを、俺は一生忘れない」
「……あれは正直、悪かったわ」
メイアとドゥエロは、顔を見合わせる。どうやらこの二人、プライベートでも交流はあるらしい。そう言えば、彼らは何かと一緒に行動している。
純粋に仲が良いというより、何となくでも相手の存在を意識しているからだろう。
異性としての感覚はないにしろ、人間として似通っている彼らは側に居ると安心しているのかもしれない。
逆に似ているからこそ仲が悪くもなるのだが、良くも悪くも影響しあう二人のようだ。
今もこうして、ヒートアップしている。
「よーし、分かった。温泉勝負しようぜ」
「のった、ケリをつけようじゃない」
「――待て」
「その勝負方法とは、まさか――」
「逆上せたら負け!」
「耐え切ったら勝ちよ!」
二人して握手、無論正々堂々を宣言する誓いなどではない。友好とは程遠く、お互いに力を込めて握り潰さんとしている。
ヒートアップしている二人に比べて、全くついていけないメイアとドゥエロ。理論的な彼らに、非理論的なカイ達の暴走に追いつけていなかった。
頭が痛くなるのを堪えながら、メイアが恐る恐る聞いてみる。
「温泉勝負と言っていたがまさかお前達、一緒に入るつもりか?」
「真剣勝負なんだから当たり前だろう、お前」
「何を言っているんですか、お姉様」
「なるほど、理解した」
「何故納得するんだ、ドクター!?」
首を傾げ合う二人に、深く頷いているドゥエロ。謎の理解成立に、メイアは自分の常識を根底から崩れ落ちそうな錯覚を覚えた。
各所で画面を見ているクルー達はメイアの苦痛を察しつつも、大いにはしゃいでいる。無駄に盛り上がっていると、言い切ってしまってもいい。
ようするに皆、憩いと同じく娯楽にも飢えているのだ。
「よ、ようするにだな……お互いに裸を見られて、恥ずかしくはないのか?」
「勝負に男も女もない!」
「裸だからと逃げる訳にはいかないんです、お姉様!」
「分かった、もう好きにしろ」
――タラークとメジェール、故郷を飛び出して半年以上。彼らは今まで幾度となく、お互いの正義を懸けて戦い合ってきた。
銃を売った。殴り合った。言い争いもした。口喧嘩もした。無視した。張り合った。殺し合った。そして、競い合った。
長きに渡った男と女の因縁に、とうとう――決着を着ける時が来た!!
<to be continued>
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