ヴァンドレッド the second stage連載「Eternal Advance」
Chapter 19 "Potentially Fatal Situation"
Action10 −遮断−
地球が実行に移している狂気のプラン、刈り取り。人間の臓器を奪う無慈悲な行為に及んでいるのは、母艦を主力とした無人兵器。この兵器をどうにかすれば、刈り取りを阻止出来る。
無人である以上、兵器を操縦しているのはプログラム。プログラムを実行しているのは、システム。システムを運営しているのは、ネットワーク。パルフェは、ここに着目した。
プログラムは無人兵器一つ一つに搭載されている為、完全なる破壊は物理的にしか不可能。システムの根絶は、母艦を破壊するしかない。機関士が干渉出来るのは、ネットワークしかない。
このネットワークの破壊こそ、宇宙規模に拡大する刈り取り計画の阻止に繋がる。パルフェは早くから実現に向けて取り組み、難儀させられていた。
ネットワークへの干渉はペークシス・プラグマを通じて行えば不可能ではないが、機能障害を起こすレベルの干渉となると保有する技術力に限界があった。
当然向こう側も自分達の弱点は熟知しており、そう容易くネットワークへのアクセスを許したりはしない。堅牢なセキュリティで守り、干渉を拒んできた。
現実的に難しいと諦めかけていたところに、救いの女神が舞い降りたのである。
「それって、誰……?」
「あんた」
「あたし!?」
壮大な刈り取り阻止プランを聞かされていたところで、自分の名が出て驚愕するミスティ。聞き入っていただけに、驚きも人一倍であった。
機関室に飛び込んで無茶なお願いをしてきたミスティに、パルフェは今一つの可能性を提示している。この苦境を打破する可能性を秘めた、一つのプログラム。
そのプログラムの根幹を形成した要素こそが、ミスティ本人であった。
「正確に言えば、あんたが持ち込んだメッセージカプセル。あそこに仕込まれたウイルス、覚えてるでしょう?
カプセルを開封してうちのシステムに繋げた途端、あっという間にシステムダウンしちゃったウイルス。あれを解析してみて、判明したの。
このウイルス特性を利用すれば、ネットワークを守るセキュリティを破壊出来る事を」
「へえ……」
「何でそんなに反応が薄いの!? これは劇的な発見なんだよ!」
「そう言われてもピンと来ないし、何よりあのウイルスのせいでエレベーターに閉じ込められたから!」
自分の発見への無関心ぶりに怒るパルフェを宥めつつ、ミスティは頬を引き攣らせる。停止したエレベーターの中で出産に立ち会ったのだ、忘れられようもない。
決して悪い思い出ではないのだが、喜び勇んで語れる物語でもない。苦労させられた分、武勇伝として記事にするべきかどうか今でも悩んでいる。
エブラの赤ん坊が無事に産まれたから良かったが、もし万が一流産にでもなったら悪夢となっていただろう。母子共に、危なかったのだから。
反論を受けて当時の大変さを思い出したのか、パルフェも咳払いして改める。
「とにかくカプセルに仕込まれていたウイルスを使って、無人兵器を遠隔操作するネットワークへの干渉を行えるようになったの。
ウイルスそのものが危険だから慎重に取り扱う必要があった分、まだネットワークを破壊出来るまでには至ってないけどね。
おかげで研究そのものは進められて、つい先日試作品が完成したの」
「それがさっき言っていた――」
「そう、"パニックン"」
「……こう言っては何だけど、ネーミングセンスは良くないね」
「分かりやすければいいの」
ミスティに地味に貶されてもあまり気にしていないのか、パルフェは気軽に笑う。名前への愛着はさほど無く、彼女は中身を重視するタイプであった。
彼女は部下に頼んで、完成された試作品を持ってこさせた。とはいえ実際に製作した本体ではなく、あくまでサンプル品。本体は危険物に該当するので、機関室へは持ち込めない。
ミスティが持ち込んだメッセージカプセルと外見が似た遠隔操作妨害兵器、これぞ"パニックン"である。
「完成しているのなら、使えばいいと思うけど」
「試作品と言ったでしょう。形には出来たけど実験も満足に出来ていないし、ぶっつけ本番に使っていいもんじゃないの」
「今目の前で、無人兵器で暴れ回っているのよ。実験する、絶好の機会じゃない!」
両拳を握りしめて、ミスティはパルフェに発破をかける。自分にやる気がどれほどあっても、相手が許可しなければ何の意味もない。
試作品であれば尚の事、自分勝手に使用していいものじゃない。いざとなれば何でもやるつもりだが、試作品を勝手に持ち出すのは単なる無法だ。
ミスティのやる気を見て、パルフェは逆に溜息を深くする。
「そもそも何で、自分が出ようと思ったの? パイロットじゃないでしょ、あんた」
「パイロットじゃないから戦わないなんて、理由にならない」
「……非戦闘員の存在意義を無くすような発言を、エンジニアの前でしないで欲しいんだけど」
反論はするが、何を言いたいのかパルフェも分かってはいる。気持ちそのものは共感すら出来る。行動力には目を見張るが、この事態なら頷けるものはある。
カイとメイア、あの二人が生死不明となった。そして最近この艦に来たミスティにとって、あの二人は心通わせる間柄だったのだ。
死んだとは恐らく、彼女も思っていない。むしろ生きていると信じているからこそ、こうして助力するべく乗り込んで来たのだろう。
彼女の意思には、敬意さえ払える。しかし、賛成だけは出来ない。
「今実行されているこの作戦では、"パニックン"は使えないの」
「どうして?」
「そもそも使えているのなら、最初から持ち出しているでしょう。切り札は確かに取っておくべきだろうけど、相手があの母艦であるのならむしろ出し惜しみするべきじゃない。
実際に会議でも、この"パニックン"については説明したの。話し合いもしたけど、使用は見送りになった。
分かる? 作戦を指揮するカイやメイアが使わないと、決めたのよ」
ミスティは、息を呑んだ。自分が何とか助けようとしているあの二人が、使わなかった試作品。自分が強行すればどうなるのか、想像に難くない。
行動力こそあっても、自分の至らなさはミスティも分かっている。戦いにおいては素人同然であり、プロが駄目だと決めたのなら反対する材料すら見つけられないだろう。
だからこそ単純な反論ではなく、神に縋る思いで聞き出した。
「どうして、"パニックン"は使わないの?」
「簡単よ――使わないと言うより、ガス星雲の強い磁場の中では"使えそうにない"からよ。不発に終わったら、無駄死にするわよ」
それを聞いて、ミスティはようやく気付く。今置かれている戦況は、極めて特殊な環境である。しかも作戦上、意図的に導かれている。
宇宙空間で発生しているガスの星雲、強力な磁場で構築された濃密な空間。電磁波が荒れ狂うこの状況下において、電子機器類は大きな負担がかかるのだ。
プログラミングは、電子で構成されるアルゴリズム。ウイルスもまた然り、そのウイルスを分析して作られた"パニックン"も同様である。
実験もしていない試作品を、磁場が蔓延する特殊な環境下で使用出来るなんて、あのカイだって思えなかった。
「地球側にはオリジナルのペークシス・プラグマがあり、母艦には刈り取りを実行するメインシステムが恐らく搭載されている。
この"パニックン"を使えばネットワークそのものを遮断し、全無人兵器を停止させることが出来る。
母艦の自己修復機能は驚異的だからすぐ再構築するだろうけど、一定時間は確実に遮断できるわ。
だけどこのガス星雲の中で使っちゃうと、磁場が邪魔してネットワークへの干渉が行えないかもしれないの。ここまで言えば、分かるでしょう」
ミスティは弱々しくだが、頷いた。難しい専門用語を入れず、分かりやすくパルフェは説明してくれた。実際はもっと複雑な理論が、その下地にあるのだろう。
肝心なのは今、使えないということ。ガス星雲内で使用しても不発に終わる可能性が高く、試作品なので効果が発揮するかも分からない。
試しに使うにも、リスクは高い。試作品が不発に終われば無人兵器は動きっぱなし、のこのこ出てきたミスティを船ごと吹き飛ばして終わりだ。
「だったら」
「えっ……?」
――けれど。
「磁場の干渉が及ばない、母艦の中に撃ち込んじゃえばいいじゃない!」
彼方よりやってきた異星人の発想は、メジェール人の上をいっていた。
「えっ、どうやって?」
「勿論、直接近付いて撃つの」
「だからどうやって、母艦に近づくの?」
「ドレッドに乗せてもらうわ。確か今お姉様の代理をしているのは、ディータと言う子でしょう。一度帰還してもらって、この秘密兵器と一緒に乗せてもらうわ」
「それって……ミスティが行く意味、無いよね?」
「発案者は、あたし。だったら、責任取るのもあたしよ!」
「うわ、この無駄な責任感と行動力――やっぱりこの子、カイの相棒だわ」
そしてリーダーになっても、カイには弱いのがディータという娘である。パルフェが止めるのも聞かず、ミスティは奮然とお頭と副長の許可を貰いに走る。
こうして実に無謀極まりない作戦が、新たに実行されることとなった。
<to be continued>
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