ヴァンドレッド the second stage連載「Eternal Advance」
Chapter 19 "Potentially Fatal Situation"
Action11 −実行−
ディータ・リーベライはメイア・ギズボーンが生死不明となった現状、実質上のドレッドチームリーダーである。最前線に立つ戦士達の中で、一番偉いと言っても過言ではない。
厳密に言えば彼女はまだリーダー候補ではあるが、メイアがこれまで候補に選んだ人間は彼女一人。よって緊急時、何かあれば彼女にチームの指揮権が委ねられる。
極論を言えば、やりたい放題出来る身分。遊ぶことなど許されないが、独自の裁量で何もかも行える。大勢の部下を、自分の手足として動かせるのである。
彼女の気質を考えれば戦闘中馬鹿な真似などするはずはないが、何でも出来る権利は持っている。彼女の一喝で、戦場を動かせるのだ。
そんな彼女が今、非戦闘員一人に泣かされていた。
『ディータだっけ? あんた、いますぐニル・ヴァーナに戻って来て』
「ミスティ……? 急にどうしたの」
『いいから一秒でも早く、戻って来なさい!』
「は、はは、はい!!」
カイとメイアの事故による生死不明で、神経が尖っていたディータ。ジュラに諌められて少しは収まったものの、焦燥は今も胸を焦がしている。
カイ達の無事を信じてジュラと一緒に突撃しようとした矢先に、挫かれた出鼻。それこそ怒って当然なのだが、ディータはほぼ反射的に敬礼してしまっていた。
突然ニル・ヴァーナへUターンしたディータにむしろ、ジュラが度肝を抜かれてしまう。敵前逃亡にしか見えないが、敵前逃亡する心境ではないのは分かりきっているがゆえに。
帰投したディータを待ち構えていたのは、予備のパイロットスーツを来たミスティだった。
「待っていたわよ。さ、ドレッドを出して」
「えっ、ミスティが出るの!? というかそのスーツ、ディータが初任務の時支給された――」
「早く出しなさい! お姉様とあいつが危ないのよ!!」
「ラ、ラララ、ラジャー!!」
この時点で、泣かされた。リーダーとは何だったのか、と言わんばかりに担がれてドレッドに乗り込まれる。早く早くとシートを蹴られて、ディータは震えながら出撃した。
ディータは大切な仲間を襲った敵に怒っている。だが目の前の女の子がそれ以上に怒っている為、飲み込まれてしまっていた。勢い任せというしかないが、本人達に自覚はない。
こんな時こそ、サブリーダーの出番。とんぼ返りに再出撃してきたディータ機に、ジュラは怒り心頭で通信を入れる。当然だった。
そんな彼女も通信画面に映しだされたミスティには、我が目を疑った。
「ミスティ!? 何であんたが出ているのよ!」
『お姉様と約一名が危ないからに決まってるでしょう。あたしが助けに行くの、文句ある?』
「あるわよ、ありまくるわよ!』
ドレッドに許可無く一般人を載せるのは、固く禁じられている。安全面もそうだが、保安面も含めて。ドレッドの内部は精密機器の塊であり、機密も多く含まれているからだ。
マグノ海賊団はスパイの線を常に疑い、入団時は厳しく身元をチェックされる。なので海賊団創設以降裏切り者は一名も出ていないが、彼女達は用心を常日頃欠かさない。
仲間を守る為のルールであり、規則である。違反を犯せば、仲間とて厳しく罰する。ミスティの乗船は、それほどまでに危うい行動であった。
本人とて、それは承知している。
『副長さんの許可は、貰ってあるわ――出撃寸前に脅した形だけど』
「聞こえているわよ、あんた!? 何でそこまでするのよ!」
『さっきも言ったでしょう。大切なお姉様と馬鹿一人を、助けに行くのよ。見てたでしょう、さっきの事故』
徹底してカイの名前を呼ぼうとしないが、本人なりに強く意識しているのは見て取れる。ジュラとて同じだ、助けに行けるから行きたい。
むしろまだ生きているとどこかで信じているからこそ、先ほどディータと一緒に母艦へ突撃をかけていたのだ。ミスティの行動は、むしろ邪魔をしている。
ジュラと話し合っている内に冷静になれたのか、ディータも操縦しながら話しかけた。
「ミスティ、ディータやジュラだって宇宙人さんを助けに行きたいんだよ。こんな事をされても困る」
「分かってる。あたしだって勝算があるから、呼び戻したの。あんた、さっき戻って来た時、レジに頼んで兵装の補充をしていたでしょう」
「う、うん。長期戦になるだろうから、補給をしたよ」
慌てて呼び戻されたとはいえ、ディータもドレッドのパイロット。帰還した以上無駄に時間を使わず、せめて補給は済ませたのである。
作戦も随分長引いていることもあり、長期戦は避けたいとはいえ戦いは長引かざるをえないだろう。反撃するにしても、武装が十分でなければ戦えない。
ディータのそうしたパイロットしての行動を、ミスティは予測していたのである。
「その武装の中に、一個足してもらったのがあるの。チェックしてみて」
『勝手に追加したの!? えとえと……何これ、"パニックン"?』
「ディータ、それにおばさんもよく聞いて」
『おばさんって誰のことよ!?』
ジュラの叱咤を取り合わず、ミスティは作戦の概要を伝える。とはいえ、戦略性はない。パルフェが製作した未完成兵器を、母艦にぶつけるだけである。
"パニックン"は命令系統を遮断する兵器。母艦を指揮系統とした地球側のネットワークに干渉し、通信ラインを含めた一切を遮断する科学兵器であった。
使用上の要点を考えれば無人兵器の大群に発射するのが効果的なのだが、ミスティはこの兵器を母艦に直接ぶつけることを決行したのだ。
巨大な母艦内全てのセキュリティシステムを、問答無用で破壊するために。
「お姉様とお供のあいつが生きているなら不時着しているか、事故って機体を損傷していると思う。孤立無援の状態で、敵の懐にいるの。
通信だって出来ないだろうし、このままでは生きていても追い詰められるだけだわ。こっちから援護しないと、立て直せない。
言い換えれば援護さえしてやれば、二人を助けられるの」
話は、分かった。実によく、分かった。未完成であっても、あのパルフェが製作したのであれば確かであろう。コンセプトも理に適っていて、今まさに必要としていたものだ。
母艦を直接狙うというのも用途には適していなくても、本丸狙いである本作戦には案外むいている。上手くいけば逆転の足がかりになる、大金星であった。
しかし、である。
「話は分かったけど、どうしてミスティが一緒に来ているの?」
『そうよ。ディータ機に積み込んでるんだから、後は任せておけばいいじゃない』
「あたしがいてこそ、作戦は成功するの!」
「そうなんだ!?」
『何で納得するのよ!』
自信満々に胸を張るミスティに、ジュラは久しくなかった頭痛を感じた。この猛烈に鬱陶しい暑苦しさ、半年前の誰かさんにソックリだった。
立てた作戦そのものは納得できるし、自分達のために頑張ってくれているのも分かるが、無駄な自信と必要以上の行動力が鬱陶しい。
成功すれば絶対ずに乗るのが分かりきっているだけに、余計にムカつきが出てくる。良くも悪くも、カイによく似た女の子だった。
どうしてブザムが許可を出したのか、分かった気がする。多分言っても無駄だと、諦めたのだ。マグノ海賊団に入団していないので強権が使えないし、時間もない。
「いい? あいつらは絶対生きてる、あたし達が来るのを待っている。あたしらが、助けましょう!」
「うん、頑張ろうね!」
『……まったく』
こういうところが一番腹が立つのだと、どうしてカイもミスティも分からないのか。ジュラは呆れ果てて反論せず、操縦桿を握り直す。
のせられるのが悪く無いと思える、感覚。自分主体で行動したい人間にとってこの感覚は愉快であり、不快でもある。心を上手くコントロール出来ない。
こうしている間に、いつの間にか自分の大事な仲間になっている。土足で踏み込んできているのに跳ね除けられないのは、何だか面白くない。
何だか上手くやれそうな気がすると思わされるのが、本当にあいつソックリだった。
「ジュラ、危ない!?」
『! こいつ……っ!』
母艦へ突撃してとんぼ返り、そうした際立った行動はどうしても目立ってしまう。味方の目にも、そして敵の目にも。
突撃を阻止出来たとはいえ、母艦そのものに大穴を開けてしまった自体。マグノ海賊団にとっては不運だが、敵側にとっても予想外の大事故となった。
本丸をこれ以上傷つけることは出来ない。刈り取り作戦にも、支障をきたしてしまう。プログラムであっても、危機感を抱くのは当然だった。
何人たりとも、母艦には近付けない――ただそれだけを至上の命として、偽ニルヴァーナが堅牢と立ち塞がる。
『ディータ、ミスティ。先に、行きなさい』
「ジュラ!? で、でも、一人じゃ――」
『任務を優先しなさい。"パニックン"を使えば、今の状況を覆せる。ミスティの頑張りだって、無駄じゃなくなる。
カイ達が動けるようになれば、作戦は再開できるわ。ここで不要な時間はかけられない、いきなさい』
到底、許容できなかった。偽ニルヴァーナは、偽ヴァンドレッドを超える性能を持っている。ドレッド一機で、ニルヴァーナ相手には戦えない。
生きていると信じてはいても、カイもメイアもやられてしまった。バーネットやガスコーニュだって、こいつに倒された。
仲間をこれ以上失うのは、絶対嫌だった。ジュラを信じたいが、現実を顧みれば無茶無謀でしかない。
震えるディータの手を、汗ばんだ手が握りしめた。
「行こう、ディータ」
「ミスティ、ジュラは置いておけないよ!」
「だったら、早く行こう。母艦に直接撃ちこめば、無人兵器は止められる。もしかしたら、あいつだって止まるかもしれない」
「あっ……!」
「怖いのは分かる。でも、あたしが一緒に居る。一人じゃ不安なら、二人で信じよう」
「うん……!」
ミスティの言うことは、どこまでも勢い任せだった。聞いていたジュラも、思わず笑ってしまう。何だそれはと、言い出しておいてなんだが文句を言いたい。
異星から来た、異星人。正体不明の女の子だが、意外と仲良くやれそうだった。この戦いが終わったら、お茶くらい誘ってやろう。
だったらここで、絶対に負けられない!
「ジュラ、お願いね!」
『そっちこそ、バーネット達を頼んだわよ!』
強敵と、本丸。どちらも向かうのは、死地。限りなく危険で、限りなく危うい戦場。安全も安心も、何の保証もない。
あるのは、仲間を信じる気持ちだけ。乙女達はただそれだけの思いで、無敵になれる。どんな事だって、やれる。
彼女達の反撃が、始まった。
<to be continued>
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