ヴァンドレッド the second stage連載「Eternal Advance」




Chapter 19 "Potentially Fatal Situation"






Action9 −烈女−







 ――ひとまず、修繕を行うことにした。機体だけではなく、機体を操縦するパイロットの身体も含めて。それほどまでに傷は深く、消耗が激しかった。

ガスコーニュとバーネットの乗るデリ機が刈り取り側に連れ去られたと判明しても、カイ達は直ぐに助けには行けなかった。「行かない」のではない、「行けない」のだ。


カイの蛮型は本体の損傷が酷く、メイアのドレッドはエネルギーが底を割っている。どちらの機体も動かすのが精一杯で、戦いになんて出せはしなかった。


気は逸るが、無茶はしない。此処は地球母艦の中、敵本拠地の内部に潜入しているのである。そんな中で機体も動かせずに救出に向かうのは、自殺に等しかった。

母艦内に空調が働いていたのは不幸中の幸いだったと言える。何しろメイアはパイロットスーツを着てはいるが、カイは行動しやすいだけの服を着用するのみなのだから。


急げば、回れ。一刻も早く救うべく、一つ一つ地道に作業を片付けていく。


「ソラ、ユメ。お前ら、この母艦のシステムに何とか介入することは出来ないか?」

『ユメならアクセス可能ではありますが――』

『駄目、今はアクセス不能になってる。マスター達が中に入っちゃったから、警戒してシステムそのものを物理的に遮断しているっぽい。ムカつくー!』

「ちっ、人間を軽んじている割にセキュリティは働くのか」


 侵入者が来ればセキュリティが働くのは、当然である。ただその当然を人間相手に適用しているのが、カイ達にとっては腹立たしかった。

何しろこの作戦、母艦内部に入ってからが本番なのである。この作戦の肝は破壊工作、地球母艦を内部から破壊するのが主目的なのだから。


圧倒的な大きさを誇る母艦を、外部から破壊するのは相当な火力を必要とする。先の戦いでは恒星一個分の火力を用いたが、完全破壊は無理だったのだ。


だからこそ内部に侵入して敵側のシステムにアクセスし、完膚なきまでに破壊してやれば停止する。それを目論んで予想外の事故は起こしたが、危険を犯して内部へ突入したのである。

もしも此処からシステムへアクセス出来れば破壊工作を行い、無人兵器達を停止させてガスコーニュ達を救えたのだがそう甘くはないらしい。

腹は立つが、想定内ではある。少なくとも、落ち込んだりはしなかった。


「となるとやはり、破壊工作はメインシステムへ直接乗り込む必要があるか。ピョロ、『秘密兵器』は無事か?」

「ぬかりはないピョロ。これだけはお前を放置して、必死で守りぬいたピョロ」

「……殴りたいが、死守しろといったのは俺だからな。無事だから勘弁してやる」


 そう、まだ最悪ではない。命があり、そして作戦も継続できる。敵地へ放り込まれて機体を損傷しているが、まだ戦うことは出来る。

今の自分達に命綱はないが、切り札は残されている。自分の生死よりも優先して『秘密兵器』を守ったピョロに、カイはそれでいいのだと肯定した。

それに何だかんだ言っても、ピョロはあの激しい衝突の中で精一杯自分達を守ろうとしてくれたのは知っている。責める気は全くなかった。


「お前一人先行させて、メインシステムを狙うのも手だな」

「ピョロ一人で!? あの怖い無人兵器が襲ってきたらどうするんだピョロ!」

「そもそもあいつらは人類を標的にしているのであって、同じ機械のお前だったら狙われないんじゃないか? 同類だと見なしてくれるかもしれないぞ」

「あんな凶悪メカと、ピョロUの父親であるピョロを一緒にしないで欲しいピョロ!」

「――その辺の価値観はともかく、我々のみでガスコさん達を救出に向かうよりも有効な手かもしれないな。
母艦のメインシステムさえ破壊できれば、無人兵器が止まる可能性は高い。そうなれば、ガスコさん達も救い出せる」


 今までの戦いでピョロが戦場に出た事はないので検証しようがないのだが、確かにピョロ本人が襲われたケースはない。

リズ達の居たミッションではカイ達と行動した際生体兵器に襲われたが、ピョロは狙われていなかった。恐らくピョロ本人が生体ではなかったからだろう。

ただあくまでも一つの推測の話でしかなく、無人兵器が問答無用で襲い掛かってくる可能性もあった。

ピョロもここまでくれば覚悟の一つも決めてはいるが、一人で特攻というのはさすがに尻込みさせられてしまう。


「せ、せめて、メインシステムまで一緒について来て欲しいピョロ。そこから先は、ピョロが何とかするピョロよ!」

「今の俺らが言っても足手まといになるだけだしな……ユメ、此処からメインシステムまで距離はあるか?」

『一番近い道を案内できるけど、歩いて行くとすっごい時間がかかるよ』

「ドレッドや蛮型に乗っていけば、無人兵器に発見される可能性は高いな」

「となると、やっぱりお前が一人かっ飛ばして行ってもらうしかないな」

「勘弁して欲しいピョロ〜!?」


 ロボットなのに、器用に頭を抱えるピョロ。カイやメイアも、危険がある以上無理やり行かせる訳にもいかない。窮地に陥っているのは、自分達の責任でもあるのだから。

話し合った結果、ピョロが単独で行動する案は保留となった。没にしなかったのは、他に手がない場合強行するしかないとの結論に達したからだ。


――あるいは、カイやメイアが無人兵器に見つかって殺された場合。口には出さなかったが、暗黙の了解とされた。


「それでどうする? ここから時間をかけて、徒歩で向かうか」

「連絡が取れない現在、多分ブザム達は俺達を生死不明として扱って行動しているはずだ。作戦会議の時、こういった場合も想定して対策は立ててある。
戦いが長期戦にもつれ込めば時間を費やして辿り着けるかもしれないが、楽観的に過ぎるな。このまま見つからない保証もない。

まず、この機体を動かせるようにしよう。蛮型に搭載された二つのペークシスはまだ生きているから、その結晶体を利用してお前のドレッドのエネルギーを供給しろ」

「いいのか? 今度は、お前の機体に支障をきたすかもしれないぞ。それに適応するかどうか――」


『私達がサポートするので、問題ありません』

『ますたぁーの為だし、仕方ないから協力してあげる』


 取り扱いの難しいペークシス・プラグマに対して、100%の保証を出せる者はこの世に存在しない。ペークシスの結晶体について、専門家のパルフェでさえ熟知していないのだ。

そもそも破片とはいえ、オリジナルのペークシス・プラグマ二体の結晶体を組み込める機体など聞いたことがない。これほどまでに見事に同調する筈がないのだ。


二つのペークシスに、二人の少女――メイア・ギズボーンはこの時、一つの推測を立てた。


考えがまとまったところで、作業に取り掛かる。一番傷の深いカイは手当、機体のダメージが大きいメイアは修繕、共に問題のないピョロは二人の補佐に回る。

ソラは二つのペークシスを運用する作業に回り、ユメはこの母艦へのあらゆるアクセスを試みる。敵の懐の中という危うい状況に置かれても、全員諦める気配もなかった。

通信機器については、改善する余地もなく早くから放置する。通信できない場合の対応も作戦会議で考慮していたが、機体そのものが動かせないとどうにもならない。


作業を行いながら、今後の活動方針を検討していくが――どのやり方においても、同じ壁にぶち当たってしまう。


「やはり、母艦内に居る無人兵器をどうにかしないとやばいな」

「この際救援を待って、攻めるか。ディータ達が駆けつけるかもしれない」

「外には、あのデカブツが居るんだぞ」

「くっ……あの敵に対する対処も必要か」


 ディータやジュラなら自分達の生存を確信して、救援に来てくれる可能性は大きい。救援に来てくれるのが、カイ達にとっても一番であった。

ただ彼らとてチームを率いる人間、作戦上重要な役割があっても仲間の危機は見過ごせない。母艦の外にも、大量の無人兵器が健在なのだ。

メインシステムへの道を阻んでいるのは無人兵器、ガスコーニュ達を攫っていったのも無人兵器、ディータ達を足止めしているのも無人兵器、マグノ達を苦しめているのも無人兵器。


何もかも今、無人兵器が邪魔をしている。



「くそ、せめて少しの間でも止められたら――」



 その全てが、一気に動き出す。


作戦の全てを阻んでいるものに苛立ちを覚えながらも、機体を動かせないカイ達には手も足も出ない。

せめて動けるように、今の内に機体を直しておくしか出来る事はなかった。歯噛みしながらも腐らず、彼らは作業に戻った。



全てが動き出すその時を、虎視眈々と狙って。


























<to be continued>







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