ヴァンドレッド the second stage連載「Eternal Advance」
Chapter 19 "Potentially Fatal Situation"
Action8 −突貫−
――悲しみよりも真っ先に、呆れてしまった。また事故を起こした、しかも大事な作戦の最中に。自分の立てた作戦を、自分の起こした事故で狂わせてどうする。
ヴァンドレッド・メイアとデリ機の衝突事故は、艦内に大きな混乱をもたらした。無理もない、クルーに愛されている上司と皆に頼られている少年が生死不明に陥ったのだから。
生死不明、行方不明。様々な憶測が大小飛び交っているが、極論すると真っ二つに分けられる。生きているか、死んでいるか、結局その二つでしかない。
ミスティ・コーンウェル、他のクルー達より付き合いの短い彼女が断言した。
「チーフ、艦内が混乱しています。根拠の無い憶測や出所不明の噂が蔓延して、クルー達がパニックになっているんです。
私達イベントクルー全員で声を張り上げて、全員を落ち着かせましょう」
「さすがあたしの見込んだ女の子、動くタイミングを見逃さないわね」
イベントチーフを務めるミカ・オーセンティックが、満足気に頷いた。良くも悪くも前向きな性格は周囲の動揺にも流されず、ドッシリと構えている。
彼女のみならず、チーフクラスの女性達は各職場で自分の部下達を落ち着かせている。最高幹部と主力パイロットが生死不明となっても、取り乱したりはしない。
戦争において戦闘員・非戦闘員に関わらず、パニックになるのが一番危険なのだ。混乱する味方は時に、敵より厄介な存在となってしまう。
内部崩壊は、絶対に避けなければならない。こんな時こそイベントクルーの出番、浮き沈みするクルーのメンタル面をサポートする。
「皆を落ち着かせるには、生死をハッキリさせる必要があるわね。どう思ってるの?」
「生きています」
「キッパリと、言い切ったわね」
混乱を収めるという面で見れば、生を確定させる以外にありえない。たとえ真実であってもガスコーニュ達の死が確定させてしまうと、更なる混乱も予想されるからだ。
嘘が必要とされるなんて通常あってはならないが、本当に必要であれば嘘でも何でもつける。正直者に、イベントクルーは務まらない。誇大広告も、嘘の一つだからだ。
だが、ミスティは決して嘘をついているつもりはない。楽観でも何でもなく、彼女はガスコーニュ達が生きていると確信している。
その根拠をミカが尋ねてみると、
「ガスコーニュさんはどうか分からないけど、あの馬鹿はいっつもこういう事故を起こしていますから」
「うーん、根拠になっているような、なっていないような」
「死んだりしませんよ、この程度で。ましてお姉様を巻き込んで死ぬなんて、地球が許してもアタシが許しません!」
「我儘になっているし!?」
鼻息荒く両拳を握りしめて力説する見習いに、呆れ半分ではあったが納得した。根拠も何もあったものではないが、こういう勢い任せは妙な説得力がある。
ミスティは多分この前のエレベーター事故を指して言っているのだろうが、カイはこの長旅で毎回事故やアクシデントを起こしているトラブルメーカーだ。
彼自身の責任ではないのが大半だが、彼がほぼ全て関わっている。平穏を愛する人間にとっては疎ましいだろうが、イベントクルーには貴重な存在である。
ミカにとっても、カイはクリスマスイベントを一緒に成功させた友達である。彼のトラブル体質は、この程度の事故をモノともしないと信じている。
「あはは、やっぱり押し通すのは難しいですよね」
「ううん、やっちゃおう」
「えっ!? で、でも、いいんですか……?」
「勢い任せでいいのよ、こういうのは。小理屈並べたって、どうせ皆落ち着いて聞ける状態じゃないでしょう。
生きているのだと、自信満々に胸張って言えば通じるわ」
「それでもし、死んでいたらどうするんですか!?」
「何言ってるのよ。カイ達が死んでたら、あたし達だって終わりよ」
納得した。これ以上ないほどに、納得させられた。確かにそうだ、もしカイ達が死んでいたらあの母艦を破壊する術が無くなるのだ。
どのみち、退路なんてありはしなかった。むしろ皆がカイ達の死そのもので混乱しているのは、まだ不幸中の幸いかもしれない。
カイ達が死んでいたら、次に自分達も殺される。その最悪の結果に気付いたら、まず間違いなく恐慌するだろう。
――ミスティは知る由もないが、先の母艦戦でその最悪に行き着きかけた。あの時カイが過去から帰還しなければ、マグノ海賊団は崩壊していたに違いない。
「よし、急ぎましょう。全員集めて、各部署を回るわよ。ああもう、こうなったら艦内一生放送しちゃおうかしら」
「あたしも知り合いの所へ行って、励ましてきますね!」
全員一斉奮起イベント、カイ達が生きていると決めつけてのライブ強行。無茶苦茶である。止める者がいないだけ、余計に。
イベント勃発に自分が奮起しているチーフに後を任せて、ミスティも行動に移る。と言っても、単にイベントに参加するだけではない。
彼女はイベントクルー見習いであると同時に、ジャーナリストでもあった。
(あの馬鹿、何やってるのよ。絶対に、生きてなさいよ!)
地球の真実を追求し、世界中に知らしめる。刈り取りという狂気を否定する、彼女なりの戦い方。彼女はペンを握り、少年は剣を取って戦っている。
戦い方こそ違うが、ミスティにとってカイは同士に近い存在だった。カイは刈り取り兵器そのものを駆逐し、ミスティは刈り取りという概念を破壊する。
仮にカイが死んでも自分は戦い続けるだろうが、それでもカイには生きていて貰いたかった。彼と自分、二人が揃って初めて刈り取りを根絶出来るのだから。
必ず、生きている。戦うこともきっと、諦めていない。だったら、自分だって戦ってみせる。
「お願い、協力して!」
「話は分かったけど、どうしてここに?」
「無人兵器や母艦に一番詳しいのは貴方だと聞いたわ、パルフェさん。あたしが出来る事って、なにかないかな!?」
「無駄に凄い行動力……確かにあんた、カイの相棒だわ」
自動扉を蹴破る勢いで、機関室へ乗り込んだミスティ。機関クルーがギョッとするのを尻目に、そのままパルフェに鼻先近くまで接近して頼み込んだ。
敵は無人兵器の大群に地球母艦、生身でどうにかなる相手ではない。実際、彼女も自分自身で戦うつもりはなかった。犠牲者が無駄に一人、増えるだけである。
ただ、じっとしていられなかった。カイ達が生きているのなら作戦は継続されるが、支障が出ているのは間違いない。無傷とも思えなかった。
ミスティの本気を察して、パルフェは神妙な顔で返答する。
「ミスティは、立派に役立っているよ。分かってるでしょう、今回の作戦の肝は」
「でも、あたし自身は何の力にもなっていないわ!」
「貢献しているよ、立派に。作戦が成功したら、功労者はミスティに間違いないよ」
「そういうのはいいから、今何か出来そうな事はないか教えて!」
ミスティの表情は真剣そのものだったが、無鉄砲をするつもりもない。現実的に今の時点でカイ達のサポートが出来ないか、聞きに来たのだ。
恐らく、自分自身悩みに悩んだのだろう。信じて待つという選択肢もあったし、艦内の仲間達を勇気付けるというイベントクルーならではの役目も果たせた。
でも彼女が望んでいるのは、そうではない。今この瞬間にカイ達の援護が出来ないものか、そう考えている。
他の仲間達はカイ達の生死に一喜一憂する中、ミスティだけはその先――生きているから助ける、という一歩先の選択を取ったのだ。
「よっぽど信じているんだね、カイやメイアの事」
「お姉様を信じないなんて、ありえない」
「はいはい。うーん……ミスティがやれそうなことっていうのは、思いつかないよ」
「あたしに限らず、だったらどうかな」
「どういう意味?」
「あたしには無理だけどカイ達を助ける手段ならありそうか、聞きたいの。何かそういう言い回しだったでしょう、今の」
ミスティにやれそうな事"は"、ない。言い換えると、助けられそうな手段はあるけどミスティには出来ない。つまりは、あるのだ。
本人でも気付かない微妙な言い回しを指摘されて、パルフェは面食らう。心中を見透かされたような、驚きがあった。ジャーナリストと名乗るだけの事はあるらしい。
そしてミスティに指摘されて、パルフェも自分の心で無意識に組まれていた手段に気付かされた。
「一応言っておくけど、助けになるかどうかは分からないからね」
「いいよ、それで。聞かせて!」
「以前の母艦戦とこれまでの無人兵器との戦闘記録を元に、レジクルーの皆と合同で製作していた武器があるの。その名も――」
「その名も……?」
ゴクリと息を呑むミスティのリアクションに気を良くして、パルフェは紹介する。
「"パニックン"――母艦と無人兵器の命令系統を遮断する、妨害兵器。これを使えば母艦とのリンクが遮断され、無人兵器は停止するわ」
「す、すごいじゃない!? どうしてこの作戦で、使おうとしないのよ!」
「それは――」
「私に、出撃する許可を下さい」
生きているかどうか、ではない。その程度で悩むような、次元ではないのだ。
仲間達が苦悩する中でただ一人、ミスティは何も悩まずに助けに向かっていった。
"――ガス星雲の強い磁場の中では使えそうにないからよ。不発に終わったら、無駄死にするわよ"
<to be continued>
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