ヴァンドレッド the second stage連載「Eternal Advance」
Chapter 19 "Potentially Fatal Situation"
Action7 −進捗−
ガス星雲内での戦闘は、引き続き継続されている。チームを率いるリーダー格はアクシデントによりチームを離れているが、指揮官であるブザムは健在なので戦闘継続は可能であった。
マグノ海賊団マグノとブザムはまだ確たる事実は掴んでこそいないものの、カイ達が生きている事を前提に作戦を推し進めている。
すなわち救命ではなく、打倒。カイ達を救うことを率先して行わず、敵を倒すことを再優先に実行している。母艦の破壊を、仲間の救出より上に置いたのだ。
非常な決断に見えるが、戦争においては当然ともされる決定であった。少数の救出を優先して、大勢の犠牲を出すなんて許されない。
「カイやガスコーニュもきっと、同じ気持ちでしょう」
「逆の立場なら、同じ決断をするだろうね」
カイ達はガスコーニュ達を守り、ガスコーニュ達はカイ達を庇った。その一部始終こそ確認出来なかったものの、きっとそうしたのであろうと想像はついたのだ。
自分より仲間を優先する彼らであれば、この決断を歓迎してくれるだろう。一刻も早く勝利することが、結果として全員助かる道に繋がるのだ。
大穴が空いた地球の母艦は現在停止していて、復旧作業が行われているようだった。ケタ違いの復元力を持っているが、その点はこちらも熟知していて妨害に出ている。
ドレッドチームが無人兵器の大群を相手にして、ニル・ヴァーナ本艦が母艦を攻撃しているのである。
ホーミングレーザーで母艦を守る防衛戦力を一掃し、ペークシス・アームで復元しようとする装甲を殴りつけているのだ。母艦といえど、再生するゆとりがなかった。
余裕が無いのは攻撃する側も同じであり、操舵手のバートは休憩も取らずに攻撃し続けている。
「バート、無理するんじゃないよ」
『何言っているんすか! ここで無茶しなきゃ、中にいるカイだってやばくなるでしょう。
ほんと、あの突撃バカのおかげでこっちはいっつも苦労させられるんすよねー!』
苦笑いの滲むバートの言葉に、マグノはブザムと顔を見合わせて笑い合った。なかなか根性のある、友達思いな言葉であった。
バート・ガルサスは、カイ・ピュアウインドの生存を信じている。何の疑いも抱いていない。むしろ生きていることを当然として、無茶したことに怒っている節がある。
半年以上同じ釜の飯を食い、生死を共にして、彼らは分かちがたいほどに深く結びついているようだった。
男同士の友情は理解し難いものがあるが、女性としては羨ましい面もあった。
『こっちの事は気にしなくていいんで、命令をお願いするっす。このままじゃ、ジリ貧っすよ』
「分かってるよ。頭はアタシらが働かせるから、アンタは身体を動かしな」
『この戦いが終わったら、絶体休みを取るぞー!!』
そして、勝つことを前提として未来を語る。ニル・ヴァーナの操舵手は本当に、頼もしくなったものである。
今までは他に動かせる人間がいなかったからバートを操舵手としていたが、今では他に誰かが動かせてもバート以外には務まらないだろう。
初めて乗艦した頃、彼が望んでいた特別待遇――それが今では本人が望んでいないというのに、すっかり特別扱いされている。
特別とは誰かに取り入って得るものではなく、結果として特別となるものなのだ。それがこれほど顕著な例も珍しかった。
バートはもう自分が特別となるより、自分が特別だと思える人間の為に頑張れる男となった。本人はきっと、分かっていないのだろう。
自分がどれほど特別な、いい男になったのかを。
「案外アタシらが叱るよりよっぽど、いいストッパーになるかもしれないね」
「仲間のためとはいえ、カイは自分をあまり顧みません。前々から危うさは感じていましたが、そろそろ彼も学ぶべきでしょう。
教訓として与えるよりも、友人からの気持ちとして受け取る方がきっと心に染み入ります」
男達の逞しさを頼もしく思いつつ、ブザムとマグノは心を引き締めて作戦会議に入る。といっても会議室ではなく、あくまで最前線での話し合いだ。
データ観測図をモニターに展開し、状況分析を行いながら今後の対策を練り始める。
「先程まで優位に立っていた戦況が、作戦決行の要であるカイ達の事故により崩れ始めています。
ガス星雲内での戦闘という特殊な環境下により事態の悪化は防げていますが、主戦力を失った影響は大きいですね」
「元々、数では負けているからね……個々人の戦力はこちらが上だが、向こうさんは数で押してくる」
ドレッドチームも数そのものは多いのだが、絶対数というものがある。比べて地球側は製造が可能なので、戦力増強を図れるのだ。
増え続ける一方ならば圧倒されて終わりだが、ガス星雲の強力な磁場により地球側は激しい行動制限に陥っている。その為、戦況は何とか維持出来ているといえる。
ただ長期戦になってしまえば、ジワリジワリと押されてしまう。作戦結構前からそれは強く懸念されており、どうしても避けたい事態であった。
だからこそカイ達がヴァンドレッド・メイアで特攻していたのだが、事故により行方不明になってしまっている。
「敵の本丸は母艦、主戦力は偽ヴァンドレッドシリーズと新戦力の偽ニルヴァーナ。偽ヴァンドレッドシリーズは、ディータ達が撃破しております」
「再製造は可能だろうけど、向こうさんもそこまでの余力はないか」
「不幸中の幸いですが、母艦に大きなダメージを与えられたのは大きいですね」
「ガスコーニュのしてくれたことは、大きいね――敵の母艦に、大穴を開けてくれたんだから」
――そうなのだ。カイ達ヴァンドレッド・メイアとガスコーニュ達デリ機の衝突は、確かに大きな損害となってしまった。
だが、それは向こうも同じなのである。母艦という敵の本丸に、穴を開けたのだ。敵の本拠地に大きな損害を与えられたのは、殊勲賞ものであった。
地球の母艦は、刈り取り兵器の最大戦力。キューブやピロシキ型は何機潰されても問題ないが、母艦は替えのきかない主戦力であった。
その為母艦が損傷を受ければ、そちらの修繕を再優先とする。無人兵器をどれほど潰されようと、まず母艦の修繕にリソースを割くのである。
となれば無人兵器の製造は当然遅れてしまい、個々人の戦力では上なこちらが楽となる。
カイ達にとっては不幸な事故ではあるが、マグノ海賊団全体としてはチャンスでもあった。
「母艦はバートがニル・ヴァーナで押さえにかかっており、無人兵器はドレッドチーム総員で何とか対処出来ているのが現状です。
ただ――」
「ニルヴァーナの偽物、人型にも変形するあのデカブツが難儀だね」
「ディータやジュラなら引きつける事自体は可能ですが、その場合作戦の継続が困難となるでしょう」
戦況の維持というのは、言い換えれば膠着を意味する。一進一退の攻防は悪くはないが、良くもないのだ。長期戦を避けたいのであれば、特に。
偽ニルヴァーナの相手を務められる戦力は、どこかを割いて回すことそのものは出来る。ただそれをしてしまうと、戦力バランスは確実に崩れる。
バートが偽ニルヴァーナの相手をすれば、母艦が再生してしまう。ドレッドチームを回せば、無人兵器の大群が押し寄せてくる。
ディータやジュラに相手をさせれば、母艦内に居るであろうカイ達に援護が一切出来なくなる。
「歯痒いね、戦況をこのまま維持していけば少しずつでも押し返せるんだろうけど――」
「長期戦に繋がってしまいます。避けた方がよろしいかよ」
「むぅ……何とか、思い切った手に出れればいいんだけどね……」
戦力が少しでもあれば、逐次投入している状況である。これ以上生み出すのは、不可能であった。人員は現在、総出で動いている。
ソラやユメはカイ達の捜索を行うべく姿を消しており、ペークシス・プラグマはフル稼働中。ピョロも至るまで全て、出撃済みの状態。
今現状、手の空いている人間なんて――
『ちょっと失礼しまーす。許可を頂きたいのですけど』
「ミスティ……?」
『私に、出撃する許可を下さい』
<to be continued>
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