ヴァンドレッド the second stage連載「Eternal Advance」
Chapter 18 "Death"
Action14 −釣針−
打開策は、なかった。聞かされたガスコーニュの過去は大いなる教訓はあっても、現状を打破出来るヒントは何もない。ガスコーニュとて、それを期待して語ったのではないのだろう。
時間の無駄とは、カイもメイアも思わなかった。メイアは事実のみではあるが、ガスコーニュの過去はそもそも知っていた。さりとて、この時間を歯痒くは感じなかった。
人生の先輩より与えられた教訓は自分自身の自制を促し、彼女の後悔を経て自分の反省へと至った。休息を終えたカイはメイアと合流して、再びヴァンドレッドを出撃する。
ガスコーニュのデリ機より離れた際、カイ達はガスコーニュ本人へ感謝の礼代わりに声を投げかける。
「貴重な話、ありがとよ。色々、勉強になったぜ」
「ありがとうございました、ガスコさん」
『ガスコじゃないよ、ガスコーニュ! 退屈しのぎになったのなら何よりさ――死ぬんじゃないよ、二人共』
「頭は、冷えている。大丈夫さ」
「生きて、必ず帰還します」
ガスコーニュはレジ店長であり、黒子達の親分。本来最前線へ出張って、戦うべき役割ではない。偽ニル・ヴァーナのような主力と戦うのは、彼女の本分ではなかった。
カイとメイアの休息時間を稼ぐためとはいえ、無茶してしまった事に苦笑する。カイにあれほど説教したのに、自分が本分を忘れるようでは説得力がない。
話すべきかどうか、悩む前に打ち明けてしまった自分の過去。らしくない感傷だと、自分でも思う。上司と部下の関係を超えて、カイやメイアに深入りしてしまった。
女が自分の過去を進んで話すなんて、よほどのめりこんでいる証拠ではないか。
「やれやれ……生きて帰ってこなきゃ、承知しないよ!」
照れ隠しに彼らにハッパをかけて、ガスコーニュは再び戦場へ舞い戻る。戦うためではない、今も戦っている仲間達への支援の為だ。
己の職務へ戻ったガスコーニュと別れたカイ達も、自分の役割へと戻る。自分達の役目は作戦の実行、すなわち内部への突入。
そして何より、この内部工作員を地球母艦へ潜入させるのが目的である。
「おーい、おいおい……うおおおおお〜〜〜〜ん!」
「いつまで泣いてるんだ、てめえは!」
「な、泣いてないピョロ!? これは、男の汗だピョロ!」
「汗を流すロボットというのも、どうかと思うのだが」
ちゃっかりガスコーニュの話を聞いていたのか、ピョロはデジタル画面の両目から滝のような涙を流している。映像なのかどうか、確かめるのも馬鹿らしい。
そもそも性別なるものがあるのか不明だが、ガスコーニュという偉大な女性の過去はピョロの男心を熱く燃やすには十分だったらしい。
地球母艦や偽ニル・ヴァーナへの恐怖は燃え盛る炎により消し飛んで、彼の目に熱き闘志が宿っていた。
泣きながらも拳を振り回して、雄叫びを上げる。
「こうなったら、何が何でも成功させてやるピョロ! 亡くなったお姉さんの魂が、ピョロを見守ってくれているピョロ!」
「これ以上ないほど他人じゃねえか、お前」
「言うな、カイ。やる気になっているんだ、好きに言わせておこう」
どうあれ、三人の意思は統一された。もはや仲違いも何もない。意見の違いすら無く、作戦成功を目指す意志に満たされて心が安定している。
単なる気持ちではない、強い覚悟。決意より生み出されるそういった意思は熱いものだとばかり思っていたが、むしろ胸の中はとても静かだった。
本当の覚悟が決まった心とは氷のように冷たく、揺るぎないものであるのかもしれない。
「行くぞ。青髪、ピョロ」
「ラジャー」
「合点承知!」
ヴァンドレッド・メイアの翼が、白く光り輝いた。翼より生み出される加速力は、先程とは比べ物にもならない。
ガスコーニュのデリ機相手に集中していた偽ニル・ヴァーナも本来の獲物を見つけて、まっすぐに追いかけてくる。が、追いつけても追い越せない。
攻撃を放つが、全て回避。加速に頼った、大回りな回避行動ではない。早く、繊細で――そして、速い。切れ味のいい加速は美しい奇跡を描いて、羽ばたかせる。
三人の"覚悟"に呼応するように、三機一体と化していた。
「どうした、デカブツ。欠伸が出るほど遅いぜ」
「お前達の思い通りにはさせんぞ」
「べー、だピョロ」
機敏な動きに合わせた、高度な操縦。加速力と機能性に優れたヴァンドレッド・メイアは火力こそ劣っているが、こうした防衛戦には一日の長があった。
新型の偽ニル・ヴァーナを倒すのが目的であれば話は別だが、今回必要とされるのは最終目標である母艦への突破力である。戦況は、次第にカイ達の有利に傾きつつあった。
このまま突き放すのは難しいが、翻弄するには十分な機体性能。持久戦を強いられることになるが、もはやカイやメイアに焦りはなかった。
今のところ、作戦に進展はない。一進一退の攻防ゆえに焦りが生じていたのだが、今となっては望むところであった。
目に見える成果はなくとも、地球母艦や新型の無人兵器相手に少なくとも互角に戦えてはいる。ドレッドチームやニル・ヴァーナ本船も、善戦はしている。
敵は半年前の敗北を学習しているようだが、自分達も半年前の大勝利を経験として強くなっているのだ。自分ばかりに囚われていたから、その事実を見逃してしまった。
一人は皆のために、皆は一人のために。理想ではあるが、現実で体現するのは難しい。自分一人成果が出なければ、全員の足を引っ張っているのだと錯覚してしまう。
決して、そうではない。誰かがミスしても、誰かが補えばいい。全員で、一つの成功を得ればよいのだ。
「! カイ、敵が前方に回り込んできたぞ」
「あんな前方で回り込んでどうするんだ。余裕で回避出来るわ、馬鹿」
「で、でも、なんか様子が変ピョロよ……?」
突如、としか言いようがなかった。ヴァンドレッド・メイアに翻弄されていた偽ニル・ヴァーナは、何を思ったのか突然速度を上げてカイ達の進路上に立ち塞がった。
追い越されたように見えるが、大回り過ぎる。進路を読んでいたといえば高度な戦術に聞こえるが、過度な距離を置いて回りこんでも待ち伏せしているのは見え見えだった。
苦戦を強いられて無茶な行動に出たのかと呆れた顔をするカイだが、ピョロは警告を発する。メイアも同感だった。
そのまま突き進むのは危険、と様子見を兼ねて速度を減退――その、瞬間!
「何っ!?」
「嘘だろっ!?」
「ありえないピョロ〜〜〜!?」
遙か前方に立ち塞がった偽ニル・ヴァーナが、変形していく。
まるで蛮型とドレッドの合体を模倣するかのように、偽ニル・ヴァーナ本体の各パーツが稼働して己自身を再構築していったのである。
アームに位置する部分はそのまま真横に稼働して、本当の腕へと再現。大きな翼が折りたたまれて、両足に該当する箇所にそれぞれ可変していった。
メインブリッジに位置する場所に、司令塔の役割を果たす頭が出現。ピョロのようなデジタル画面が表示され、鋭い眼光を放つ赤い瞳が出力される。
頭、胴体、両手、両足――人型兵器に変形した、偽ニル・ヴァーナの降臨であった。
「……おい、バート。お前、あんな隠し球持ってたのか?」
『し、知らないよ! というかニル・ヴァーナって、実はあんなこと出来るの!?』
目の前で起きた事が信じられず、カイは思わずニル・ヴァーナ本体に訴えかけてしまう。先程までパクられて怒り心頭だったバートも、オリジナリティを出されては度肝を抜かれるしかない。
ニル・ヴァーナの新しい可能性なのか、敵新型の真の性能なのか。いずれにしても、劣化したとは到底考えられない。明らかに、パワーアップしている。
嘘のような、悪夢。悪夢のような、現実。一進一退の攻防戦で、よもやの新戦力投入。これで戦局は再び、大きく傾き出した。
カイ達の優位に、針を傾けて。
「あっはっは、ばっかじゃねえの」
「我々は、貴様と戦う気はない」
「お先に失礼するピョロ」
パワーアップとは、文字通り火力の向上。ヴァンドレッド・ディータと同じく、人型兵器に変形した偽ニル・ヴァーナは確かに驚愕の火力を発揮するのであろう。
しかしながら、今の戦いはあくまで防衛戦。相手に突破されたら負けなのである。加速が必要とされる局面で、火力をアップしても限りなく無意味に等しい。
船から人型に変形してしまえば、むしろ速度が低下する。ニル・ヴァーナ形態でもカイ達に追いつけなかったのに、人型になってどうするというのか。
変形には驚かされたし、予想外ではあったが、驚愕以外の感想はない。悠々と横を素通りして、カイ達は地球母艦へと突撃した。
偽ニル・ヴァーナも己の更なる不利にようやく気付いたのか、転進して追ってくるが加速力は段違いに低下している。あっという間に、機影も見えなくなってしまった。
これには、三人揃って大爆笑である。笑いの止まらない、好都合であった。
「よっし、形勢逆転だ。本当にありがとうな、青髪。お前がさっき、俺を止めてくれたおかげだよ」
「ふふ、まさかこうまで状況が好転するとは私も思わなかった。どうやら、我々にも風が吹いてきたようだな」
「これも、天国で見守ってくれているお姉さんのおかげピョロ。ありがたや、ありがたや」
結果論かもしれないが、もしも先程カイが決断して突撃していれば敵のミスは誘えなかっただろう。感情はないにしろ、カイ達の粘りが敵を決断させてしまったのだ。
立場が逆転したのである。カイが焦れなかった分、敵が焦れてしまった。その結果敵が決断して、自分自身を変形。決着を、急いだのだ。
敵のミスを見て、カイはガスコーニュの指摘が正しかったことを思い知る。彼女が教えてくれた過去が、今を打開してくれた。
ピョロではないが、彼もまた心のなかで手を合わせた。
(ありがとうな、お姉さん。あんたの育てた妹は、本当に立派な女性だよ。絶対に死なせはしないから、安心して見守っていてくれ)
いよいよ――地球母艦本体へと、迫る。
<END>
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