ヴァンドレッド the second stage連載「Eternal Advance」




Chapter 18 "Death"






Action13 −外乱−







 地球母艦との、決戦。ガス星雲を利用した本作戦は今のところ難航はしているが、全く功を奏していない訳ではなかった。戦況は決して有利ではないが、不利でもない。

長期戦になれば人材も物資も限界があるマグノ海賊団側が不利に見えがちだが、今回においてはそうではない。何故なら、地球側にも現実的なリミットがあるからである。


ガス星雲が起こす、強い磁場が発生する空間――プログラミングされた無人兵器では、地球が施した刈り取りシステムが磁場により機能不全を起こしているのである。


機能停止とまではいかないが、ガス星雲内で荒れ狂っている磁場がプログラムに悪影響を及ぼしている。こんな状況で無理な稼働を続ければ、影響範囲も広まっていく。

時間が経過すればするほど誤作動や誤認が激しくなっていき、システム自体が劣化を引き起こしているのだ。戦えば戦うほどに、プログラミングが狂っていってしまう。

無論、無人兵器の戦闘システムにも自動修正機能は備わっている。高い学習機能と合わせてシステム劣化の原因を探って、バグの修正は常に続けていっている。

だがバグを起こすそもそもの原因が磁場である以上、悪影響を完全に取り除くのはどだい無理な話であった。ガス星雲から出ない限り、回復と劣化を繰り返すのみである。


戦況は今だ、未知数であった。



「しつこいな、もう!?」



 操舵席に座っているバートが、盛大に舌打ちする。本作戦においては主戦力となっているニル・ヴァーナが、現状作戦通りの行動が行えずにいた。

カイより託された役割は、殲滅。ガス星雲で機能が劣化した無人兵器の大群を、ホーミングレーザーとペークシスアームで掃討するのがバートの役目であった。

彼自身としては偽ニルヴァーナを倒したかったのだが、作戦指揮者であるカイの嘆願により渋々矛を収めて、役目を果たすべく動いてはいる。


だが、任務中に邪魔が入った。


「くそ、こうなったら反転して――」

『ダメだ、バート。そいつを倒したって、また作り出されて同じ邪魔が入るだけだよ』

「そんな事言ったって、今邪魔されてるんですよ!?」


 カイ達ヴァンドレッド・メイアが偽ニル・ヴァーナに苦戦している頃、バートが操舵するニル・ヴァーナに偽ヴァンドレッド・メイアの妨害が入ったのである。

ヴァンドレッド・メイアは加速に特化した機体、本物と比べて機能が落ちるがその加速力は侮れない。ホーミングレーザーでも、なかなかロックオン出来ないのだ。

ペークシス・アーマを繰り出されば、素早く回避されてしまう始末。ホーミングで狙うには、正確に照準を当てる必要がある。つまり、動きを止めて狙い定めなければならないのだ。


先のミッション戦でも浮き彫りとなった、ホーミングレーザーの弱点。命中率に優れた武装だが、照準を定めるのに多少の時間を必要とされる。


本当に多少の時間でしかないのだが、一瞬の攻防が明暗を分ける戦闘では多少の差が致命的となる。なかなか狙えずに、苛立ちがつのるばかりであった。

明らかにカイ達による偽ニルヴァーナとの闘いを、そのまま真似されている。向こうの苦戦を、そのまま再現されているのだ。

反転して狙いを定めば確実に倒せるのだが、偽物シリーズは一体破壊するとまた作り出されてしまう。


『カイ達の援護もしてやりたいのに、このままじゃジリ貧っすよ』

「落ち着きな、バート。戦況はさほど悪くないんだ。腰を据えてかかれば、追い込まれるのは向こうの方さね」

『うう、辛いな、畜生……!』


 メインブリッジの艦長席で、マグノが溜め息を吐いた。どうやらカイも同じようだが、作戦の要となる男共が焦れてきてしまっている。

良くない傾向ではあるが、バッサリと叱り飛ばすのも躊躇われる。今抱えこんでしまっている悩みは、成長過程にあるからこそ発生する問題なのだ。


進捗の遅ればかりに気を取られて、作戦全体の動きが把握できていない。


進捗に遅れが出れば焦るのは無理もないのだが、だからといって質を落としてしまったら駄目なのだ。進捗そのものは取り戻せても、仕事の成否に悪影響が出てしまう。

逆に言えば時間をかける結果になっても、きちんと完成出来れば結果的に取り戻せるのだ。早さと出来栄えを、天秤にかけてはいけない。

早くて質も良ければ当然一番いいのだが、仕事はいつでも簡単に上手くはいかないものだ。単純に早くすればいいというものではない。


仕事を覚えてきた人間に、ありがちな落とし穴であった。


「いいかい、バート。逃げているように見せかけて、作戦軌道上を回りこむんだ。出来る限り多くの敵を引きつけて、倒していくよ」

『どこまで逃げればいいんですか……?』

「逃げているように、見せかけるだけだよ。本気で逃げてどうするんだい!」


 と言ってから、マグノは考え直す。バートは芝居がかった仕草を好んでしているが、基本的に正直者である。怖ければ逃げる、勝てそうなら戦う。非常に、分かりやすいのだ。

そんな男に逃げるフリをしろというのは、案外難しいかもしれない。操舵席がニル・ヴァーナとリンクしている分、バートの一挙一動が船の動きに反映される。

芝居ががった逃走をされると、敵に察知されてしまう可能性がある。作戦がバレてしまえば、前線のカイ達がより苦戦を強いられる。


本気で逃げろ、とも言えないので、マグノらしい皮肉をバートに浴びせる。


「逃げるのは十八番だろう、バート。頑張りな」

『何っすか、それ!? せめて逃げ場所を教えて下さいよ!』


 芝居と本気を強要されて、バートはパニックになったらしい。そのせいか、先程の迷いは消えている。良くも悪くも切り替えの早い男に、マグノは苦笑する。

傍らに控えるブザムを一瞥するとすぐに頷き、ブリッジクルーに命じて作戦軌道上のルートをバートに伝える。ニル・ヴァーナは速度を上げて、敵の追撃から逃れていく。

偽ヴァンドレッド・メイアは即座に回り込もうとするが、ペークシスアームを振り回して振り切る。蝿を払うような仕草だが、強力無比な腕には敵も逆らえない。

万が一前方に回りこまれても、ホーミングレーザーを浴びせられる。この戦い方ならば、ひとまず眼前の危難は拭えるだろう。


「ひとまず何とかなりそうだが……カイとメイアの様子はどうだい?」

「ガスコーニュが出向いて、一旦待避させたようです。あの偽ニル・ヴァーナに、執拗に追われています」

「……よりにもよって、あの子達が目をつけられたのかい」


 カイとメイアが駆り出すヴァンドレッド・メイアに、ピョロが乗船している。彼こそ本作戦の秘策であり切り札、地球母艦の内部工作要員である。

ピョロを地球母艦の中に送ることが出来れば、宇宙空間でも活動できる彼が地球母艦内部を探索して破壊工作を行える。その為には、何としても母艦に最接近する必要があった。

そういう意味でヴァンドレッド・メイアを選択したカイとメイアの判断は正しかったのだが、敵側の秘密兵器に狙われる羽目になったのは運の尽きというしかない。

嘆息しながら、マグノは火花散らす宇宙を見上げる。


「作戦行動中に、一時的とはいえ待避。あの血気盛んな坊やが、よく決断できたね」

「メイア、そして何よりガスコーニュが上手く諭したのでしょう。両者との関係は、親密であるようですから」

「ようやく大人の意見に素直に耳を傾ける気になったのかい、良い傾向だね」


 カイだけではない。メイアやガスコーニュにも、良い傾向となっている。マグノは三者の関係を想像して、目元を緩ませた。

作戦行動中にトラブルが発生すれば、誰でも焦る。まして自分の立てた作戦ともなれば、その焦りも倍増する。何としても、何が何でも成功させたいに違いない。

カイは大胆不敵、奇想天外に見えるが、基本的に慎重に考えて行動している。考えあっての行動、リスクの大きい感情的な行動に出るのは、自分以外の何かがかかっている場合に限られる。


だからこそ自分の考えが煮詰まってしまうと、焦りからすぐに決断してしまう。それが最上であると、思い込んでしまうのだ。


正しいか、正しくないか、の判断は間違えないにしても、良い悪いだけで行動してしまうのは悪癖といえる。かくあるべしの理念は、時に視野を狭くしてしまうのだ。

悩みに悩んだ末に行動するのではなく、待避を選んだカイに今までにない変化が見受けられる。彼自身の変化ではなく、その周りとの関係だ。

メイアは近頃顕著に変化してきているが、ガスコーニュのような大人にも変化の兆しが見られたのは嬉しい誤算だった。


マグノにとってはメイアも、ガスコーニュも同じく、自分の孫のような存在であった。


「ディータをリーダーとする編成チームも、偽ヴァンドレッドシリーズ相手によく戦っております。
こちらの行動妨害に出た偽ヴァンドレッド・メイアにジュラが追撃を出向いてきましたが、こちらから命令を出して作戦行動へと戻しました」

「それでいいよ。作戦は、このまま継続する。カイ達が動き出すタイミングで、次のフェーズへ移行しよう」


 マグノ海賊団の狙いは無人兵器の大群ではない、あくまで地球母艦だ。地球母艦を倒す手は、内部からの破壊工作。今の戦況は、囮のようなものだった。

外側で派手に戦って無人兵器を出来る限り引きつけ、倒して数を減らしながら、母艦への干渉を試みる。その為になるべく派手に動きまわり、どんどん戦っていかなければならない。

ガス星雲での戦闘は、数の差を埋めるハンディを与えてくれている。下手に作戦を瓦解させて、手にしている利を失う真似はしてはならない。


その辺の判断は的確ながらも、不確定要素による懸念は拭えない。


「しかし、新型である偽ニル・ヴァーナの動きがやはり気になります。このまま何事も無く、母艦への突入が行えるでしょうか」

「例の"紅い光"もあるしね、多分あの偽物も使えるんだろうよ。直撃すれば、強制的に合体を解除させられる」

「となれば、乗り込んでいるピョロにも悪影響を及ぼす危険性が出てきます」


 そもそも現時点では肝心の地球母艦にも乗り込めておらず、外の闘いに始終させられているのである。外乱ばかりに奔走させられるわけにはいかなかった。

何とか戦況を立て直さなければならないが、それにはやはりカイ達が目の前の危難を突破しなければならない。

立ちはだかる大きな壁、ニル・ヴァーナの偽物に。


「闇雲に攻撃を加えても、意味が無い。何か、策を提案する必要があるかと」

「その必要はないよ」

「しかし……!?」


「あの坊やのことだ。このままやられっぱなしで終わるとは思えないね」


 マグノの信頼に呼応してか――間もなく、メインブリッジに連絡が入った。

ガスコーニュが駆り出すデリ機より、ヴァンドレッド・メイアが再出撃。カイとメイアが、作戦に戻ったとの報告が寄せられる。


過去との対話が終わり、現実の危難へ少年少女が挑もうとしていた。



























<END>







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