ヴァンドレッド the second stage連載「Eternal Advance」
Chapter 18 "Death"
Action15 −二択−
地球母艦は、全長三キロメートルのニル・ヴァーナを遥かに超える規模の船である。火力も申し分なく、装甲も堅牢であると断言できる厚さ。攻防一体の巨大母艦であった。
これほどの規模の母艦を破壊するのに過去、爆発された恒星の熱とヴァンドレッド・ディータの最大火力に加え、メラナス同盟軍の集中攻撃が必要であった。
今回は同盟軍は無く、手頃な恒星もない。持ち札は限られており、手札は増やせない。カイの提案で製作した遠距離兵器ホフニングもオーバーロードで失い、明らかな火力不足であった。
よって完全破壊は作戦立案の段階で、諦めている。出来ない事に苦心するより、もっと現実的に敵を倒せばいい。ようするに、敵の目的を挫けばいいのである。
地球の目的は刈り取りであり、地球母艦は刈り取りを実行する船。ならば、刈り取りを行えないように無力化すればいい。
その為のピョロであり、切り札であり、内部工作である。完全破壊が不可能なら、内部の破壊のみに徹する。敵そのものを倒すのではなく、敵の脳を破壊するのだ。
肉や骨がどれほど硬くても、臓器である脳みそは柔らかい。敵の脳みそを司るのはコンピューターでありプログラム、カイ達の制圧目標はこれであった。
ただし、これもそう簡単ではない。敵は、皮まで分厚いのだ。
「偽ニル・ヴァーナを振り切って、母艦まで何とか辿り着けそうだけど――」
「ああ」
「どうやって母艦の装甲を破って、中に突入するんだピョロ?」
カイ達が駆り出すヴァンドレッド・メイアは、加速に特化した合体兵器。敵新型の偽ニル・ヴァーナでさえ振り切れる速度を持つ反面、火力には不足していた。
不足しているとはいっても、ドレッドや蛮型以下ではない。火力に特化したヴァンドレッド・ディータに比べれば、見劣りする程度である。
無人兵器であれば難なく倒せるのだが、地球母艦が相手ではそうはいかない。何しろ、ヴァンドレッド・ディータの火力でも苦戦させられるのだ。
ピョロの当然の疑問に、カイは笑顔で答える。
「そんなの、簡単じゃねえか。ようするに、お前を中に入れればいいわけだ」
「ふむふむ」
「母艦にある程度接近したら、お前を思いっきり投げ飛ばして母艦に穴を開けよう」
「ちょっと待てや!?」
アッサリキッパリ言われて、ピョロは狭いコックピット内で飛び上がった。死刑宣告同然の提案に、怒りどころか恐怖さえも感じて雄叫びを上げる。
本気にするだけ馬鹿馬鹿しいとメイアは嘆息しているのだが、当人はそれどころではない。ここまで来るのにも、冷や汗どころではない大変さだったのだ。
猛然と、カイに詰め寄る。
「断固反対ピョロ! 安全かつ、確実な案を求めるピョロ!!」
「あるか、そんなもん。命懸けだと最初から言っているだろう」
「命をかける意味が違っているピョロ、これじゃ単なる自爆ピョロ!?」
「あー、うるせえ奴だな」
実際のところ、作戦会議では母艦到着時ピョロを単騎で出撃させる案そのものはあった。特攻では無論ないのだが、比較的実現しやすくはあったのだ。
敵の目的が刈り取りならば人間は襲うだろうが、ナビゲーションロボットまでターゲットにされるとは限らない。母艦から見れば、ピョロなんて小粒同然なのだ。
のこのこ近付けば無人兵器が襲ってくるかもしれないが、カイ達が尻拭いすればいい。体内にさえ入れば小粒サイズのピョロは、文字通りウイルスそのものでしかない。
人間の体内にもさまざまな細菌はいるが、一匹一匹を気にする人間なんて誰一人居ない。体内で除去される仕組みなのだから、自然に任せればいい。
ピョロとて、同じ。違いがあるとすれば、ウイルスとは違って明確な意志を持っている点である。
採用する流れにまでなったのだが、ブザムから待ったがかかった。肝心な点が抜け落ちており、彼女の指摘で不採用となったのである。
本作戦の舞台はガス星雲の中――ピョロが活動出来ないのだ。
「お前がガス星雲の磁場の中頑張って泳いでくれたら、俺達だってこんな苦労しなくて済んだのに」
「無茶言うなピョロ!? お前なら感電風呂に飛び込めるピョロか!」
「……上手いようで、微妙な例えだな……」
マグノ海賊団全員が決死の覚悟で戦っている、大作戦。そのメインであり、作戦の要でもある彼らが敵を尻目に言い争いをしているというのに、止めもせずにいる自分。
作戦の重要度は、理解している。作戦の難解さは、承知している。作戦への責任も、持ち合わせている。作戦を達成するためなら、命だってかけられる。
ドレッドチームリーダーとしての自分は何一つ変わっておらず、それでいて人間面として余裕も持てるようになっている。変わらず、そして変わっている自分に、メイアは口元を緩める。
馬鹿揃いではあるが、頼もしい奴らだと思う。けれどやはり馬鹿なので、注意はする。それが、自分の役目だ。
「言い争いをするのは結構だが、目標が迫っているぞ。どうするんだ?」
言い争いはしていても、決して手は抜いていない。ヴァンドレッド・メイアは速度を上げて戦場を駆け抜け、母艦へと一直線に向かっている。
文字通り一直線で一切の回避もなく、特化された加速機能を最大限活用している。どんな兵器が立ち塞がろうと、突撃して蹴散らしていた。
カイは、真っ直ぐに前を指した。
「このまま、ぶち破る」
「おいおい、冗談もほどほどに――」
「本気だ。最高速度で、母艦内部へ突入する」
ピョロは囃し立てる声を止め、メイアは息を呑んだ。本気で言っているのだと、すぐに察した。事実、ヴァンドレッド・メイアはスピードを上げ続けている。
無茶無謀の一言に尽きる。本作戦においてはディータやジュラ、ニル・ヴァーナやドレッドチームの援護を受けて、母艦の装甲を破壊して内部突入する段取りだった。
作戦は偽ニル・ヴァーナの抵抗を受けたものの、順調に進んでいる。なのに肝心の局面でどうして無茶に走ろうとしているのか、同乗するメイアやピョロはすぐに気付いた。
作戦が順調に、進み過ぎてしまった――地球母艦の周辺に、脅威となる敵が一切存在していない。これ以上ない、突入のチャンスとなってしまっている。
偽ニル・ヴァーナが焦って、人型変形してしまったのが大きい。結果として最大の脅威を振り切ってしまい、予想外に良いペースで敵の懐へ飛び込んでしまったのだ。
ニル・ヴァーナを除いて、ヴァンドレッド・メイアが一番速い。後続のディータやジュラ達、ドレッドチームの援護を待っている間に敵の態勢も立て直されてしまうだろう。
折角懐をガラ空きにしているのに、刃を突き立てない選択肢はない。今この瞬間こそ、最大最高の好機なのだ。
メイアもピョロも難しい顔をするが、反対意見も上げづらい。
「……確かに今飛び込めば、追手より早く母艦の中枢に辿り着ける可能性が高い」
「……ピョロが安全に破壊工作する事だって出来るピョロね」
「決まりだな」
不安要素は、母艦の装甲を破壊できるかどうかの一点のみ。もしも装甲の厚さが上回れば、神風アタックによる自爆と変わらない。
チキンレースでも何でもなく、最大加速でぶち当たる。少しでもブレーキをかければ、間違いなくぶち破れずに激突して死ぬだろう。一瞬の躊躇が、死を意味する。
生か、死か。二つに一つの、極限の選択肢――三人は顔を見合わせて、頷き合った。
「俺は、お前らを信じる」
「私は、お前を信じる」
「ピョロは、ピョロUの笑顔を信じるピョロ!」
微妙に噛み合っていない意思表明に、三人は大いに笑い合った。後方の仲間を待つ安全策ではなく、後方の仲間を守る危険策。
下手すれば死ぬというのに、三人に悲壮感はない。冷静に、馬鹿げた選択をしている。こうして笑えているのは、心が確信に満ちているから。
仲間を守るという"気持ち"ではなく、仲間を護り抜く"覚悟"を固めている。
「行くぞ!」
三人は風となり、光となり、星となり――
そして。
灰と、なった。
<END>
|
小説を読んでいただいてありがとうございました。
感想やご意見などを頂けると、とても嬉しいです。
メールアドレスをお書き下されば、必ずお返事したいと思います。
[ NEXT ]
[ BACK ]
[ INDEX ] |
Powered by FormMailer.