ヴァンドレッド the second stage連載「Eternal Advance」
Chapter 17 "The rule of a battlefield"
Action33 −家族−
滞在期間は、中継基地の修繕に一定の目処がつくまでの期間。機関クルーリーダーであるパルフェの仕事に妥協はないが、のんびり長居できない事情をマグノ海賊団は抱えている。
刈り取り最大戦力である母艦五隻が、タラーク・メジェールへと向かっている。一隻で太陽系圏全ての惑星を破壊出来る戦力を秘めた母艦、二つの惑星など容易く粉々に出来る。
現実的に難しいがタラーク・メジェール両国家が力を合わせたとしても、母艦一隻さえ破壊するのは困難を極めるだろう。それほどまでの脅威、文字通り人類の危機であった。
母艦破壊の可能性を秘めているのは、実績を持つヴァンドレッド。そして、戦闘経験を持つマグノ海賊団のみ。急がなければならない。
さりとて焦りは禁物、無策で挑んでも勝てる相手ではないのは皆が承知している。長期滞在を余儀なくされても、時間を無駄にせずに彼らは準備を進めていた。
カイとリズとの取引もその一環、貴重なペークシス・プラグマの結晶と引き換えにリズ達から情報を聞き出していた。
「少なくともこの近辺に、人が住む惑星はありはしないね。大概の人間は自分が住んでた惑星を放棄して、此処に逃げ込んで来ちまってる」
「ラバットのおっさんが言っていた通りか」
「言っただろう、はみ出し者の溜まり場だと。まっ、懸命な判断だとは思うぜ。未練たらしくしがみついてたら、連中に刈られていただろうからな」
パルフェが加工したペークシス・プラグマの結晶を提供、パッチとリズが丹念に検分してラバットがミッションの動力部に設置。ソラが直接出向いて調節し、安定したエネルギーを出力。
ミッションの全システムが稼働したのを確認し、リズは約束通りカイに情報を提供していた。ただ、本人との取引という事でカイのみ交渉の場に出向いている。
護衛として、ソラがカイの傍に控えていた。もしも彼自身に危害を加えれば、ペークシス・プラグマの結晶体を暴走させると睨みを利かして。
脅迫に屈するリズではないが、ラバットが宥めて情報提供が行われた。神秘的であれど外見は少女であるソラを、ラバットは不要なほどに警戒していた。
「となると、これ以上の戦力強化は望めないか。欲をかいても仕方がないけどな」
「一応言っておくけど、アタシらは関わる気はないよ。慣れ合うのは御免だ」
「対岸の火事を決め込むのは、無理だと思うぜ。連中は明らかに、人類そのものを適ししている。特に、地球から出て行った連中は格好のターゲットだ。
俺達の臓器が丸ごと狩られたら、次はあんたらを狙うだろうな」
「……ちっ」
舌打ちするが、否定まではしない、何しろつい先程、生体兵器に殺されかけたばかりなのだ。脅威は全て潰されたが、地球は無尽蔵に兵器を生み出せる。
彼らは集中してこの中継基地を狙わないのは、彼らの第一標的がタラーク・メジェールだからだ。母艦を一隻破壊されて、完全に敵視している。
彼らにとっての唯一の脅威さえ排除できれば、我が物顔で宇宙を蹂躙して回るだろう。対抗勢力はないに等しい、中継基地一つなど軽く捻り潰せてしまう。
リズも、その認識は正しく持っている。カイが交渉相手だからこそ、素直に頷けないだけだ。
「一緒に仲良く戦おうなんて、言わない。お互いを利用して、共通の敵を討とうと言っているんだ」
「はっ、すっかり対等でいるつもりかい」
「主力は俺達に押し付ければいい、それだけの話だ」
今度は口ごもってしまう。何なんだろうか、このガキは。場馴れしているというより、度胸が半端ではない。肝の座り方が、ガキとは思えないほど堂に入っていた。
例えば交渉相手がブザムであれば、この胆力も頷ける。同等かそれ以上の相手であれば、こうまで堂々と構えられても不思議でも何でもない。
明らかに格下であるカイだからこそ、押されている状態が信じられなかった。戦えれば勝てる、立場で潰せる、この場で殺せる。全てが上なのに、脅威を感じさせられている。
気に入らなかった。何とかして、一矢報いたい――
「分かった、手を組んでやるよ」
「いっ!?」
「えっ!?」
「なっ!?」
「何だい、パッチまで! アタシが素直になったら、そんなに変かい!?」
脳の血管が切れてしまったのかと、男達全員が心配げに見やる。荒くれ者達を暴力で支配する女ボス、妥協なんて断じてありえない。利があっても、我を押し通すタイプだ。
カイとの共同戦線は、理に適っている。地球は目障りな敵であり、追い払っても次から次へと新手を差し向けてくる。災害に等しい暴力、このままではいずれ潰されるのみ。
分かってはいても、気に入らない相手に背中は任せられない。意地で死ぬのは本望であり、部下を大勢巻き込んでもかまわない。正真正銘のはみ出し者であった。
そんな彼女が一転して、同盟を認めた。警戒を通り越して、正気を疑うレベルであった。
「これ以上要求されても、何も出せないぞ。ペークシス・プラグマの結晶でも、貴重な鉱物なんだ」
「早とちりするんじゃないよ、坊や。こっちは手を組んでやる上に、土産までつけてやろうというんだ」
「……おい、お前のボス。大丈夫か?」
「……昨日、深酒してたからな……特に姉さんは、二日目にクるんだ」
「……仕方ねえな、薬を持って来てやるか」
「……あんたら……」
男三人、いつの間にかすっかり仲良く密談。丸聞こえの会話に、リズは今度こそ血管が切れそうな形相を見せる。言いたい放題であった。
だが、すぐに機嫌を直してニヤリと笑う。当惑する男達に、女ボスは言い放った。
「お前んところの女連中、メジェールでは有名な海賊なんだってな」
「まあな、それがどうしたんだ」
「うちの若いのが一人、お前のところで海賊やりたがってるんだよ。連れて行ってやってくれ」
「海賊志願!?」
取引どころの話ではない、新手の嫌がらせに等しい条件であった。海賊の所業を嫌うカイにとって、海賊に憧れる人間は未知に等しかった。
到底、容認は出来ない。そもそもマグノやブザムが、簡単に入団を認めない。海賊には誰でもなれるかもしれないが、『マグノ海賊団』の一員になるのは難しい。
自分の推薦にどれほどの効果があるのか分からないが、どこぞとも知れぬ者を推薦するのも躊躇われた。
そもそも、カイは皆に海賊を辞めてほしいと思っている。増やすなんて、余計にありえない。
「確かに俺は同盟を求めてはいるが、肝心のあんたは俺達との友好関係に否定的だったじゃないか。何で、人をよこすんだ」
「本人の強い希望だ。可愛い部下の頼みは聞いてやるのが、ボスの器ってもんだろう」
「今までいがみ合っていた人間の下に、可愛い部下を引き渡すつもりなのか。面子とやらはどうし――
ちょっと待った」
そして、気付く。リズはこの理解不能な交換条件に、やけに乗り気でいる。同盟という不本意な申し出を、意味不明な好条件で応えようとしている。明らかに、おかしい。
ならば、逆に考えてみよう。この好条件こそが、リズの本意であるとするなら? 不本意こそ本意、好条件であるからこそ彼女に望ましい結果となる。
彼女が今望んでいるのは、カイという人間を困らせること。ならば――
「……海賊志願者というのは誰だ。もしかして、俺の知っている人間か?」
「よかったな、坊や。お前の部下になって旅に出ると、昨日の夜アタシに訴えてきやがった。このアタシに対してあのクソ度胸、将来は大物になるかもしれないね。
ここを出て行って一旗あげると息巻いてたぜ、あのメスガキは」
「あいつかぁぁぁぁぁぁーーーー!!!」
ミッションでカイの知っている女の子といえば、一人しかいない。可愛い顔をして口の悪い少女を思い出して、カイは頭を抱えた。
ミッションでの戦闘中に案内役を頼んだのだが、カイとメイアのヴァンドレッドにまで乗り込んで目を輝かせていた。すっかり、宇宙に魅了されてしまったらしい。
戦闘後妙に大人しく引き上げたかと思えば、どうやら単身リズの元へ乗り込んで絶縁状を叩きつけたようだ。旅立つ気満々だった。
実に、困ったことになった。一人前の大人が海賊志願というなら、遠慮無く断れる。スパイの可能性もあるからだ。だが子供となると、スパイもへったくれもない。
何しろ既にソラやユメが我が物顔で乗船しているし、バートはシャーリーを連れている。ミスティだって海賊入りは拒否しているのに、すっかり仲間扱いされている。
そこへ海賊志願の勇ましい女の子が乗り込めば、どうなるか。子供を叩いたって、埃なんて出ない。必要な食料等は、当のミッションが提供している。
となれば、マグノやブザムに話を通せば受け入れるだろう。彼女達が口を揃えて、こういうに違いない。
『お前が面倒を見ろ』と――同盟を望んでいる本人に、対して。
「うぐ……」
「嫌というなら、仕方がない。そんな薄情な連中とは、組めないだけさ」
「うぐぐぐ……」
「こっちはこれから仲良くやろうってのに、まさか拒否するつもりじゃねえだろうな」
「うぐぐぐぐぐ……」
こうして、中継基地ミッションとの同盟が正式に結ばれた。友好の架け橋となったのは書面ではなく、一人の女の子。平和の証として、人類を救う船に乗り込む。
この戦記がもし歴史に刻まれるのであれば、さぞかし美談となるであろう。少女の輝かしい未来に期待し、少年の英断に胸を打たれる、感動的エピソードとなる。
――現実では、厄介者を押し付けられた少年が頭を抱えるだけであったが。
<LastAction −荒野−>
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