ヴァンドレッド the second stage連載「Eternal Advance」
Chapter 17 "The rule of a battlefield"
Action32 −酒縁−
中継基地ミッションとの再交渉は円滑とはお世辞にも言い難いが、ボスのリズが矛を収めて取引は成立した。立会人であるブザムやラバットが呆れ果てるような形で。
リズの弁償請求を全面的に受け入れて、コントロールルームを破壊したカイは正式に謝罪。弁償代として、マグノ海賊団主力兵器であるヴァンドレッドを提供する。
その代わりリズはミスティの個人財産であるカメラのネガを、そのヴァンドレッドで買い取る。ネガの中身は一切秘密、現像は禁止、その一切を闇に葬り去るのを条件に。
マグノ海賊団の負担はゼロ、ミスティが貴重なネガを失っただけ。本人はケロリとした顔で、リズと握手する。
「お買い上げ、ありがとうございました。二人のツーショットもバッチリ撮っているので、大事にして下さいね」
「……いい根性してるよ、あんた……」
怒る気力も失せたのか、意気消沈してミスティに為すがままにされている。これにて交渉成立――では断じてなかった。
そもそもリズの要求自体が一方的かつ無茶苦茶な要求だっただけで、取引らしい取引は一切されていない。双方共に、何も得られていないのだ。
マグノ海賊団は故郷へ向けての旅を続ける上で物資が必要であり、ミッション側は地球に破壊された中継基地の修理をする上でエンジニアが必須となる。
そして、求める物を両者が持っている。
「一つ、提案がある」
「これ以上、何を交渉するってんだい」
「ラバットから聞いているかもしれないが、こちらにはペークシス・プラグマというエネルギー結晶体を所有している。
無尽蔵のエネルギーを保有するこの結晶体は加工することも可能で、一握りのサイズでも十分なエネルギーを確保出来る。
この結晶を、あんた達に提供しよう」
「な、何だって!?」
ペークシス・プラグマの存在は、リズも知っている。その希少価値も、そのエネルギー量も、その利用度も、熟知している。喉から手が出るほど欲しい代物だった。
そもそもこの中継基地が腐敗している原因は、時間の経過だけではない。エネルギー資源が底を尽きつつあり、根幹のシステムが出力不足で機能低下しているのだ。
ペークシス・プラグマは、エネルギー不足を一気に解決できるお宝といっていい。結晶体ともなると、金山に匹敵する莫大な価値がある。その一部でも、貴重であった。
リズは、一気に警戒心を強める。美味しい話ほど、裏があるものだ。
「何が狙いだい……? アタシに貢ごうってんなら、喜んで受け取ってやるが」
「俺が欲しいのはあんたが持っている『情報』だ。あんたはどうやら俺達の故郷、タラーク・メジェールを知っているようだな。となれば、この先の針路にも詳しいはずだ。
最初に話した時、俺達の事を『磁気嵐の向こうから来た』と言っていたよな。その辺も含めて、全てが知りたい」
これまでの旅で不足していたのは物資だけではなく、何より情報であった。未知なる遭遇の連続、広大な宇宙の船出において灯りも見えずに航海していたのだ。
地球という嵐に翻弄される大海原で無事に生き残れたのは、幸運と仲間に恵まれていただけに過ぎない。故郷まで残り半分、何事も無く進めるとは思えなかった。
敵に関する情報は揃いつつあるのだが、肝心の味方になってくれそうな情報が何一つない。この先々で人と出会える機会があるのなら、尚の事知っておきたかった。
ブザムとてそれは同じ、ただ情報を敢えて取引としてカイが持ちかけるとは思わなかった。この点について、ブザムはギリギリ及第点をつける。
情報を欲しがっていると相手に知られてしまったのはマイナス、情報は確かに得難い価値があるが交渉時のやり取りで相手から聞き出せばいいのだ。
カイも恐らくその点は理解しているのだろうが、自分の今の交渉力ではリズ相手には難しいと判断した。自身の能力不足を自覚し、補ったのは評価に値した。
実際、リズもカイを侮るのは止めて真剣に取引内容を吟味している。
「……悪くはないね。だが、ペークシス・プラグマってのは紛い物も多い。扱いの難しい鉱物ってのは理解しているのかい」
「こっちには専門家がいる」
「ペークシス・プラグマの専門家? はん、聞いたことがないね」
「ラバットもそいつを知っている」
身元保証に名前を持ちだされて、ラバットは口元を歪める。同盟の範囲内ではあるが、こうも便利に利用されると却って清々しかった。悪党になれる素質がある。
言うまでもなく、ペークシス・プラグマの専門家とはソラとユメである。パルフェも専門分野として扱っているが、彼女には機関クルーとして取引材料にしたかった。
カイがミッションの弁償を請求されていると知って、二人はこぞってカイに申し立てたのである。ペークシスを使用すれば、システムの復旧も行えると。
最後にプライドが邪魔するのか悩みに悩んでいたが、いい加減見かねて側近のパッチが進言する。
「姐さん……潮時ですぜ」
「うるさいね……ハァ、分かったよ。どうせアタシが言わなくても、ラバットがベラベラ言うんだろうからね。
取引成立としてやる。ただし、現物を見せてもらってからだ」
「分かった。じゃあ、後のことは大人同士でやってくれ」
ようやく、取引成立。随分と時間をかけさせられたが、再交渉は何とか成功に終わった。カイがひいてブザムが出てきた時は、さすがにリズも疲れた顔をしていたが。
その後のブザムとの交渉は驚くほどスムーズに進み、ミッション側からの物資の提供とマグノ海賊団側からのエンジニア派遣で取引は成立。
詳細は実際の取引現場で詰めることとなるが、少なくとも交渉班の出番は終わりとなった。敵も倒し、人間関係も何とか築き上げたのだ。
これでようやく、このミッションでの全ての戦いが終わりを告げた。
取引成立となり、ひとまずマグノ海賊団はしばしの間ミッションに滞在する事となった。物資の提供を受けて、中継基地の大規模修繕と改修作業が行われるからである。
破壊されたのは建造物だけではなく、生体兵器による破壊工作でシステムもほぼ完全に壊滅。ライフラインがかろうじて生きているだけで、基地としての機能は壊滅的であった。
いっそ引っ越した方が手間はかからないが、住民達はそもそも他の星から逃れてきた難民達。行く宛もないから、迷い込んできたのだ。ここ以外に、逃げ場はない。
ボスとして君臨するリズも、ミッションの破棄には断固反対。あくまで修繕ということで、作業を行うこととなった。
そうなれば、機関クルーリーダーであるパルフェの出番である。機械をこよなく愛する彼女はミッションの荒んだ現状を憂い、クルー全員を引き連れて現地入り。
まず中継基地全体をすみずみまで見て回り、破損箇所をチェック。全システムも徹夜で分析して、改修が必要な部分を要件定義にまとめて基本設計を行う。
基地に不案内な彼女はパッチの襟首を掴んで、無理やり案内させた。荒くれ者のパッチもパルフェの機械に対する情熱と迫力に負けて、泣きながら引き摺り回されたという。
彼女の恐るべきところは、住民達全員にも改修作業を呼びかけたことだった。
当然中継基地全体を改修ともなれば、何ヶ月もかかってしまう。工数を補えるのは優れた計画と人員のみ、その二つを揃えるべくあらゆる所から引っ張ってきたのだ。
最初は誰もが嫌がっていたが、泣く子も黙る海賊にして機械の鬼と化したパルフェに誰も逆らえなかった。あのリズでさえも、ボスの座を脅かされると恐々とさせられるほどに。
システム面はさすがに人を増やすだけではどうにもならないが、ソラとユメが力を合わせて解決。直接システムに介入できる彼女達は、非常に優秀なエンジニアだった。
カイが行った取引なだけに、ソラやユメも進んで作業を実施。主の力になれるのなら、他者が支配するシステムであろうと手を抜かず作業をやり遂げた。
こうして――マグノ海賊団とミッション住民が一丸となって、作業を達成したのである。
「……ど、どうだ。ちゃんと終わったぞ、ボスさんよ……」
「……ご、ごくろうだったね、一応褒めてやるよ……」
「――お前ら、もう帰って寝ろよ」
全てが終わった、夜。中継基地ミッションにある酒場のカウンターにて、カイとリズが突っ伏していた。疲れ果てた彼らに残っているのは、単に意地だけだった。
交渉をまとめた責任者である彼らは全作業に立ち合う義務があり、何日もロクに睡眠時間も取らずに駆けずり回ったのだ。
それだけならまだいいのだが、ことある事に衝突しては喧嘩の毎日。余程気が合わないのか、顔を見合わせるなり嫌味と皮肉の応酬であった。
ラバットも最初は二人の様子を楽しんでいたのだが、こう毎日だとウンザリしてくる。
仲直りにと酒に誘ってみたはいいが、どうやら逆効果だったらしい。カウンターに二人並んで座り、こうして突っ伏していても睨み合っていた。
ラバットの相棒であるウータンはカイに全面的に味方しており、カイと一緒にリズにうなり声を上げていた。それがまた、不毛な争いを駆り立てる。
「やれやれ、ロマンもクソもねえな」
それもまた人間関係かと、ラバットは苦笑して酒の入ったグラスを傾けた。
<to be continued>
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