ヴァンドレッド the second stage連載「Eternal Advance」




Chapter 17 "The rule of a battlefield"






Action28 −小悪−







 カイは頭を抱えるしかない。難敵である地球の刈り取り兵器をようやく倒せたというのに、まさか守り抜いた人々からクレームを付けられるとは夢にも思わなかったのだ。

最前線で戦うパイロットの任務は敵を倒す事、司令塔の命令を聞いて作戦に準じて効率良く兵器を破壊する。敵を倒して仲間を守れば、最高の結果となり得る。それで終わりだ。

パイロットの使命に照らし合わせて考えれば、今のカイの悩みは余分でしかない。交渉や取引は上層部の仕事、パイロットに任せる任務ではない。


けれどその上層部が海賊であるというのであれば、任せっぱなしにはいなかった。


「――ということで、再交渉に望むことになった。ブザムが交渉日時を今相手と段取りしているけど、恐らく半日後には再開されると思う。
このまま望んでも平行線になりそうなんだ、何とか知恵をかしてくれ」


 カイはこの広い宇宙で一番のヒーローになることを望んでいる。半年間艱難辛苦を味わっても、タラークで見ていた夢に何の陰りもない。

ただ辛い経験を重ねて、自分一人で何でもやろうとするのはやめている。独力で立ち向かうべき事とそうでない事の区別くらいはもう出来ていた。

次の再交渉も決裂となれば、両者の関係が悪化するのは目に見えている。最悪の場合、実力行使での奪い合いにもなりかねない。それだけは、避けたかった。


こんな時頼りになるのは、同郷の友達に他ならない。


「話はブリッジで僕も聞いていたけどさ、施設の弁償なんて無茶苦茶な話じゃないか。真面目に聞く話じゃないよ。
商売でもそうだけどさ、交渉相手に下手に出ていたら付け上がるだけだよ」

「……そういやお前って、タラークだといいトコの御曹司なんだよな」

「タラークでも有数の財閥であるガルサス食品の跡取りだよ、僕は!?」


 商売人ならではの解釈をするバートに、カイは妙に感心した声を上げる。今更の事実を忘れられて、バートはムキになって自己主張した。

故郷タラークであれば、三等民のカイには口を利くことも許されない相手である。階級には厳しい軍事社会においては、上下関係による罰則は何よりも厳しい。


もっともここは自由の船、ニル・ヴァーナ。同性異性に上下はなく、こうして同じ部屋で気軽に笑い合える。


「事情は分かったが、聞けば聞くほど妙な話だ。バートの言う通り、相手の要求は言いがかりに等しい。到底受け入れられないと、相手も分かっているはずだ」

「だとしたら、最初から俺達の悪口を広めるのが目的なのか?」

「それもおかしい。相手は海賊なんだぞ、風評被害を恐れたりはしないだろう」

「海賊だから、悪評が大っぴらになるのはまずいんじゃないのか」

「情報が流布されるのに問題がないとは言わないが、神経を尖らせるほどではない。風評被害を恐れるのは、対面を気にする人種だ」


 ドゥエロの考え方は、マグノ達とは若干異なるようだ。彼女達は風評被害の影響力を警戒していた。とはいえ、ドゥエロの指摘も決して的外れではない。

ようするに、状況に合わせて動けるのが大人であるということだ。スタンスに固執して物事を見る視野を狭めていては、相手と交渉なんて出来はしない。

マグノ海賊団も、ドゥエロも、それぞれの立場と考え方でこの交渉の問題点を追求している。


考えれば考えればほど、頭の痛い交渉であった。


「弁償しないと悪評を広めるというのも、悪質なやり口だな。裁判とか、公の場でやり合えればいいんだけど」

「法による制定がないからな。民事においても、感情論が加わってしまえば長引いてしまう」

「くっそう、面倒な奴らと関わってしまったな……」


 揉めるくらいなら助けるべきじゃなかった、そう言わないのがカイらしい。命を救った事への後悔を感じていない友人に、ドゥエロやバートが顔を見合わせて笑う。

守った相手に文句を言われても、守る行為そのものへの疑問を持たない。実を言うと、バートやドゥエロはこの辺をとても気にしていたのだ。

この世の中、全てが正当には出来ていない。義理や人情が全て、評価されるとは限らないのだ。裏切り、そして裏切られるのも、世の常。

カイの真っ直ぐな正義感は、不義理によって曲がったりはしない。その事を確認できただけでも、二人にとっては安堵する思いだった。


「それにしても、そのボスさんは何でそんなに目くじらを立ててるのかな」

「だから、俺がミッションの重要な施設を破壊したからだよ」

「そんなの、カイに言っても仕方がないだろう。壊されて困るのなら、そんな所に立て篭もらなければいいじゃないか」

「こういうのは後から何とでも言えるからな。あーくそ、面倒臭い」

「――いや、バートの言う事ももっともだぞ」


 ドゥエロが居住まいを正して、カイに問いかける。


「要求そのものはマグノ海賊団に突きつけているが、取引の標的としてはカイに狙いを絞っている。
この交渉飲むにしろ、引くにしろ、被害が及ぶのはマグノ海賊団よりもカイ本人だ」

「風評被害は、バアさん達だって困るだろう」

「マグノ海賊団が困れば、お前だって困る。相手はそんなお前の人間性を見抜いて、こんな交渉を強引に行おうとしている。
この取引の本当の目的はカイ、お前自身を攻撃するためではないのか」

「お、俺を……? 何で!?」


 カイ本人にも、全然自覚がなかったわけではない。リズの切り出し方や追求はブザム達よりも、自分自身に向けられていたのは薄々察していた。

メインコントロールルームを破壊したから怒っているのだと、カイは思っていた。施設を破壊した犯人に、弁償を求めているのだと。


けれどもし、そうではないのなら――何故……?


「お前、女性を怒らせる達人だからな。知らない内に、何かやったんじゃないのか?」

「どんな達人だよ!? 俺は何にもしてねえ!」

「本当に、何の心当たりもないのか? 些細な事であっても、時には相手を深く傷付けてしまうのだぞ」

「ド、ドゥエロまで……」


 カイはがっくり肩を落とした。女性関連の問題については、友達にすら全く信用されていない。カイは腹立たしいやら悔しいやらで、大きな溜息を吐いた。

反論できないのは、ここ半年間でマグノ海賊団の女性陣相手に何度も諍いを起こしているからだ。撃たれたこともある。経験が、何よりも物語っていた。


そこまで言われては、無下にも出来ない。カイは腕を組んで考え込んだ。


「恨み、恨みね――ブザムとの一対一の決闘で、相手が罠を張っていたのを阻止したからかな」

「確かにそれも恨みを買いそうだが……彼女は、ミッションを支配するボスだ。罠を阻止されたから文句を言う、瑣末な人間には思えないな」

「それで文句を言うってのもどうよ。僕だったら恥ずかしくて、むしろなかった事にしたいね」

「だたらやっぱり、メインコントロールルームを破壊したからか」

「それってそもそも、刈り取り連中にむかつくもんじゃない? 何度も嫌がらせされたんだろう」

「確かに、バートの言う通りだ」

「うーん、だとしたら何なんだろう」


 男三人、首をひねって考えこむ。パイロットに操舵手、そして医者。それぞれのエキスパートが揃っても、問題点は見えてこない。


「ラバットに聞いてみてはどうだ。あの男、今もミッションに滞在しているのだろう」

「何度も交信しても、連絡が取れない。どうもミッション側から拒否されているようだ」

「ミッションが……? それって、ボスさんがラバットに取り次ごうとしないのか」

「そうそう、ラバット本人はこの件に関しては中立なのに出そうとしないんだ」



 途端、声を止めて――三人揃って、見つめ合う。



「何で?」

「何でだろうな」

「ふむ」



 もしもそこに問題があるとすれば――その答えは!



「俗に言う、女の癇癪というものではないか?」

「ヒステリーかよ、やだやだ」

「女性は怖いよねー」



 子供以上、大人未満――まだまだ性悪な、生意気盛りな年頃。

三人揃っても、女心が全く理解出来ていなかった。





























<to be continued>







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