ヴァンドレッド the second stage連載「Eternal Advance」




Chapter 17 "The rule of a battlefield"






Action27 −破城−







 中継基地ミッション側との再取引、武力による衝突ではなく頭脳による駆け引きの交渉戦。再交渉の結果は様子見、互いに要求内容を確認した上で引き上げる事となった。

良好でも悪化でもないこの結果、双方共に歩み寄れた形に見えるがそうでもない。交渉内容としては始終強気で望んだリズに、軍配が上がったといえよう。

慎重だったといえば聞こえはいいが、マグノ海賊団側は相手のペースに翻弄されてばかりで駆け引きは成立もしなかった。戸惑いばかりが目立った、雲行きの悪い結果となっている。


よって、反省会が行われたのは自然と言えよう。


「なるほど、相手さんは一貫してこちらの譲歩を訴えているのかい」

「あんなの譲歩でもなんでもねえよ。無茶苦茶言ってやがるんだぞ!」

「やめろ、カイ。交渉事は結果が全てだ」


 会議室に集まっているのは交渉に参加した面々と、マグノ海賊団幹部であるガスコーニュとメイアの二名。ブザムより交渉内容の詳細を聞いている。

ひとまずミッション側の要求を伺った上で、持ち帰っての検討。文字通り検討でしかなく、今のところは相手の要求を拒む流れとなっている。

それほど無茶な要求だったのは事実なのだが、ブザムはカイの交渉内容について言及していた。


「どうして矛を収めたんだよ。まさか、弁償しろなんて戯言を受け入れるつもりなのか!?」

「メインコントロール・ルームの破壊についての弁済を求めているが、もし受け入れた場合他の区画についても追求してくるだろうな。
生体兵器によるものなのか、我々の防衛戦によるものなのか。破壊の痕跡を色分けするのは不可能だ」

「じゃあ尚の事、弁償なんてクソ食らえだと一蹴すればいいじゃねえか。ミッションは刈り取りの連中に破壊されて、ボロボロだ。
俺達が手を貸してやらなければ、困るのは向こうなんだぞ。ここへ来た当初よりも、立場はむしろ有利に立っている」

「……頭に血が上って、高慢になっているよ。少し落ち着きな」


 拳を握って熱弁を振るうカイに、ガスコーニュは口に咥えた長楊枝を揺らす。カイの言い分も分かるのだが、何とも青臭い主張を聞かされて背筋が痒くなってしまう。

カイ・ピュアウインドは理想家だが、夢想家ではない。人間関係を通じた半年間の苦い経験を経て、理想と現実の区別も付けられるようになってきている。

ミッション防衛や住民の救助についても、決して見返りを求めての行動ではない。もし相手側がお礼代わりに補給を申し出ていたら、カイ本人が頭を下げて感謝していただろう。

今回の場合救助された相手が感謝するどころか、弁償を求めているから腹が立っている。その点に、ガスコーニュはカイの未熟さを感じた。

何とも悲しい話だが、救われた相手がこうした態度に出るのは珍しくも何とも無いのだ。


「いいかい、カイ。人間なんてのは、基本的に打算的な生き物なんだよ。助けられたら感謝もするが、時間が過ぎたらコロリと恩を忘れてしまう。
あのミッションは今、危機的な状況にある。財布の紐が固くなっても無理もないよ」

「助けたのはついさっきなんだぞ。それに、こっちはパルフェ達を派遣してのミッションの改修を提示しているんだ。
天秤が釣り合った、正当な取引じゃないか」

「カイ、交渉というのは少しでもこちらに利益が出るようにするものだ。商売事においても、等価交換が成立してばかりではない」


 メインコントロールルームを破壊した共犯と思われているのは憤りを感じているが、カイが怒っているので逆にメイアは冷静になれていた。

相手の言い分はともかく、交渉内容としてはそれほど的外れではない。論外な要求であっても、相手の反応を見て付け入る隙を探るのは手段としてはありだ。

ただミッションのボスであるリズが交渉術によりこのような法外な真似をしてきたのか、即断はできなかった。


いずれにしても、カイのやり方が不味いのは傍で聞いていても分かった。


「だからといって、相手の無茶な要求を飲む訳にはいかないだろう」

「その点についてはその通りだ。だが、無碍に拒否するのも問題だ」

「――俺の問題点もそこにあるというのか?」

「ふふ、ようやく冷静になれてきたようだね」


 マグノに微笑みを向けられて、カイは憮然としながらも席に座った。反発はしているが、ブザム達が自分よりも人生経験を豊富に積んでいるのは認めている。

メイアからも海賊流を理解するように、忠告されてもいる。海賊の言うことだからと頭から否定するつもりは、カイには無かった。

対等な取引だけを求めるのは問題なのは、分かった。だが肝心の交渉内容のどこに問題があったのか、考えてもわからない。

首を傾げるカイを見ながら、マグノはメイアに向き直る。


「メイア。今の話を聞いていて、この坊やの交渉のどこに問題があったのか分かるかい?」

「肝心の交渉相手について、自分の印象だけで決めつけている点です」


 まがりなりにも同世代であるメイアにハッキリ問題点を指摘されて、カイは驚きを顕にする。自分が分からない点を、第三者のメイアが理解している。

メイアの解答は合格点だったのか、マグノは満足そうに頷いた。


「坊や、お前さんは先程から自分達の立場が上であることを主張している。本当に、そうかい?」

「見たら分かるだろう。ミッションはもうボロボロ、住民達は疲労困憊。俺達が手を貸さない限り、この先生きていくのは無理だ。
逆に、俺達はあいつらから補給を受けなくてもまだやっていける」

「そこだよ、お前さんの問題点は。交渉事を一種の戦いだと認識しているのは悪くないが、お前さんの場合パイロット視点で見ている。
つまりは相手の戦力、物量等でしか認識していないんだ。確かにミッションは半壊し、住民達は傷ついている。お前さんはそれを戦力の低下と見ているんだろう?

これが本当の戦闘ならば降伏させて物資を出させることも出来るだろうが、あくまでも交渉なんだよ。それじゃあ駄目さ」


 メイアの指摘やガスコーニュの説明を受けても、カイは今ひとつ理解できなかった。戦う力が低下しているのならば、それこそ有利になれるのではないだろうか?

力尽くで物資を分捕るつもりはない。こっちは補給代わりに、相手の損傷を修繕するつもりなのだ。戦力を回復させる分、こっちは物資を補給する。

それの何が問題なのか、実際に交渉に加わっていたブザムが指摘する。


「我々が肝心の交渉相手の実態が見えていない。もしも弁済しなければ、我々の悪評を広めると言っている」

「だからそんな影響力、あいつらにないだろう」

「何故、そう言い切れる?」

「何でって――あんなガタガタの中継基地に引き篭っているんだぞ。国ならまだしも、基地だ。他との交流なんてあるはずがないだろう」

「だから、どうしてそう言い切れる。そもそも奴らはタラーク・メジェールを知っていた。地球のことも分かっているようだった。
カイ、此処からタラーク・メジェールまでどれほどの距離があると思っている。それほど遠方の地を、国家の体制に至るまで把握しているんだ。

もしかすると、我々マグノ海賊団の事も知っているのかもしれない。悪評が広まれば、今後は交渉も満足に出来なくなってしまう」

「――うっ」


 ブザムの厳しい指摘に、カイは声を詰まらせる。疲弊している相手を、弱いと決め付ける。これこそ正にパイロットの視点、戦闘による勝敗でしか判断していない。

相手はこちらを知り尽くしているのに対し、こちらは相手をよく知らない。何故知っている気になったのか、それは相手が弱っているように見えたからだ。

確かに相手は弱ってはいる。だがそもそもカイは相手を殺す気はないし、奪う気もないのだ。交渉によって、物資を手に入れようとしている。


リズはそんなカイ本人の心中を見透かしているから、居丈高で弁償を求めているのである。力ずくで奪う気はないと、足元を見られているのだ。


交渉事において、相手に足元を見られているようでは終わりである。話にもならない。相手には手札がバレているのに、自分は相手の手札がちゃんと見えていないのだ。

なのにカイは一方的に決めつけて、要求しているだけ。絶対安全だと分かりきっている交渉相手を、一体何処の誰が怯えるというのか。

弱っている相手を踏み潰す事の出来ないカイでは、交渉は成立しない。


「くっそ、あの女……足元、見やがって」

「カイ、一応言っておくぞ」

「何だよ!」

「お前では交渉出来ないと判断したら、我々が交渉のテーブルにつく。その際は、我々のやり方でやらせてもらう」

「それって、まさか!?」


「我々は、海賊だ。海賊なりの手段を用いて、交渉する。相手が無茶を言うのならば、こちらも無理を通すまでだ」


 マグノ海賊団副長の宣言に、カイは拳を震わせる。その拳で殴りかかりはしない。間違えていると分かっても、拳を振り上げられない。

他ならぬ自分が、相手に舐められているのだ。無力な拳では、無力な言葉では、相手には何も伝わらない。


人間としての価値を今、試されていた。





























<to be continued>







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