ヴァンドレッド the second stage連載「Eternal Advance」




Chapter 17 "The rule of a battlefield"






Action29 −余地−







 女の考えることは、男には分からない。散々悩んだ挙句この世の真理とも言える結論に達した男達は、結局明確な対策も打てずに話し合いを終える。

バートとドゥエロは職務に戻ったが、カイはこのまま戻ると無策のまま交渉再開となってしまう。残り時間は少ないが休む暇もなく、カイは次の行動に出る。

といっても、行動方針は変わらない。自分一人で考えても思い浮かばない以上、誰かに相談するしかない。そして誰に相談するべきか、分かっていた。


男達で答えが出ないのなら、女性陣に頼るしかない。半年前とは違い、今なら相談に乗ってくれる女の子達はいる。


「ドゥエロやバートと話し合った結果、どうも俺があのミッションの女ボスを怒らせてしまったらしいんだ。
経緯は今話した通りなんだけど、俺の行動の何処がまずかったのか指摘してほしい」

「――あんたのこの無駄な行動力だけは、凄いとは思う」


 融合戦艦ニル・ヴァーナの憩いの場、カフェテリア。海賊船の中では唯一喧嘩は御法度とされる安全地帯で、カイの呼び掛けに応じて麗しき女性達が集まっていた。

各職場に乗り込んで真剣な顔で拝み倒す少年に半ば呆れつつも、素直に応じて彼女達は集まってくれたのだ。カフェテリアはほぼ満席、集った面々も有力者ばかりである。

休憩時間ということで応じたアマローネは、所狭しと集まった面々に度肝を抜かれていた。よく半年で、これほどの人望を集められたものだ。


オレンジジュースを美味しそうにストローで飲みながら、ベルヴェデールがヒラヒラと手を挙げる。


「タラークの習慣には、"切腹"というお詫びの方法があるらしいね」

「自分の命で詫びろというのか!?」


 彼女の隣でクマの着包みをつけたセルティックが盛んに拍手している、思いっきり賛成しているようだ。好き勝手に言われてしまい、ヒーローを目指す少年は形無しだった。

地球より差し向けられた刈り取りとの戦闘、中継基地ミッションでの攻防戦。そのどれもが女性陣を大いに沸かせる話で、カイから事の顛末を聞いて会場は熱狂していた。

そしてトドメに、ミッションの女ボスとの謎に満ちた確執。海賊とはいえ多感な乙女達、仲間のスキャンダルは大好物であった。


男であろうと女であろうと、他人の秘密には貪欲なパイウェイは熱中してメモを取っている。


「カイの事だからまた余計な事を言って、怒らせたんじゃないケロ?」

「お前の上司にも似たような事を言われたよ、たく。全然信用ねえな」

「あるいは態度が悪くて、頭に来たのかもしれないね。目下の者には厳しそうだから」

「お前は一緒に行っていただろう!?」


 取材するパイウェイの隣で、パルフェがのんびり休憩を取っている。カイの相談に乗っているというより、友達の困り事を楽しんでいる様子が見受けられる。

困っているのを笑っているのではない。どんな困り事でも目を背けず、答えが出るまで決して投げ出さない。そういう人間だと知っているから、安心して見てられるのだ。


――逆の立場から見れば、笑われているようにしか見えないが。


「そもそも余計な事と言うが、女にとってどういう発言が頭に来るんだ?」



「そうね……基本的に無神経な発言が嫌よね」
「デリカシーのない発言も嫌い」
「自惚れの強い言い方もむかつくわ」
「相手のことを考えない発言なんて論外よ」
「口を閉じてろって言いたいわね」
「むしろ居なくなってほしい」

「早く死んでくれないかな」


「いい加減泣くぞ、お前ら!?」


 カフェテリアに、女性陣の華やかな笑い声が響き渡る。相談する相手を絶対間違えたと、カイは頭を抱える。そんな少年の態度が、海賊達の笑いを誘っているのだが。

かしましい女の子達の笑い声に、悪意は微塵もない。男がどうとかではなく、カイ本人を弄んではしゃいでいるのだ。


昔ならば考えられないほど、彼女達は好意的に接している。


「そうは言うがな、あのミッションの女ボスだって居丈高な態度だったんだぞ。自分は偉そうにしていて、俺がちょっと態度でかかったら怒り狂うのかよ。
理不尽だろう、そんなの。さっきも話したが、お前らの副長相手に罠を仕掛ける卑怯な奴なんだぞ」

「自分が偉いと思っているから、偉そうにされるのが気に入らないんじゃないの?」

「なんだ、その無茶苦茶ぶりは!?」


 レジ仕事の合間にやって来たバーネットが、のんびりと指摘する。案外ありえそうなだけに、相手側の理不尽さに髪の毛を掻き毟りたくなる衝動に駆られた。

女性陣のこれまでの事件をまとめると、リズが怒っている理由は感情論。コントロールルームの破壊なんて、単なる理由付けでしかない。

考えてみればカイ本人に何度も賠償請求しているのに、同乗していたメイアには文句一つ言おうとしないのだ。


責任の追求先は明らかに、カイ個人にあった。


「宇宙人さん、ディータが一言言ってあげるよ。宇宙人さんを悪く言わないで、とビシっと言ってあげるね!」

「意外と効果的かもしれないわよ、カイ。感情的なこの子とはいい勝負かもしれないわ」

「……果てしなく泥沼になりそうだからやめろ」


 ディータの頭を撫でながら笑って進言するジュラに、カイは渋面する。ディータとリズの口喧嘩、想像するだけで胸焼けを起こしそうであった。

どんな化学反応が出てくるのか、分かったものじゃない。絶対に平和的には解決しないだろう。いや、もう平和的な解決はそもそも望めないのかもしれないが。


当事者ということで、仕事を抜けて早々に来たメイアが真面目に考える。


「そもそも、彼女は何時からお前に対する態度を硬化させているんだ」

「何時から……? 決闘の時罠が発動するのを妨害した時じゃないのか」

「その後刈り取りが攻めて来た時話し合ったが、彼女は特にお前に対して怒りを抱いてはいなかっただろう」

「……そういえば、そうだな」


 決闘に敗れて気絶はしていたが、地球が攻めて来た時嫌々ではあったが共闘は認めていた。彼女の怒りは再交渉時、全てが終わった後急に追求されたのだ。

その間、カイとリズは一度も接触していない。リズはミッション内で攻防戦、カイは基地の外で死闘を繰り広げていた。完全に別行動だったのだ。

怒る要素なんて何一つありはしない。そもそも、一緒に行動していなかったのだから。


イタズラ大好きの少女が、思い付いたように言う。


「あのラバットとか言う男が、こっそりますたぁーの悪口を言ったんじゃないかな。陰口だよ、陰口!」

「嬉しそうに言うなよ、ユメ……それにいくらあいつでも、緊急事態で俺の悪口言っている余裕はないだろう」

「あたしも一緒に行動していたけど、あの男はむしろカイのことを結構褒めていたよ」


 はしゃいでいるユメをたしなめるように、パルフェが口添えする。いつの間にか輪に加わっているが、誰もユメの出現に驚いたりはしなかった。

ユメ、そしてもう一人のこの子は、常日頃からカイの側に居る。連れ立っている光景が、半ば日常化しつつあるのだ。


そして、ソラが主に確信を告げる。


「マスター、もしかするとあの男がマスターを賛美していたので、彼女が怒っているのではないでしょうか?」

「へ……? 何でラバットが俺を褒めたら、あの女が怒るんだ」


「彼女が、あの男に好意を抱いているからだと思われます」



   場が静まり返り――女性陣が一斉に、カイを見つめた。



「――異性の男に恋してしまった、タラークの男。燃え上がる男同士の、恋」

「でも、待って!? ミッションのボスは女性なのよ。三角関係は成立しないわ!」

「馬鹿、あんたは今まで何を見てきたの! 外の世界では、女は男を好きになることもあるのよ!」



「これはひょっとして――三角関係?」



「……」

「……」

「……」

「待て待て待て!? 確かに俺はタラークの人間だけど、だからといってラバットなんぞに――えっ、でもそう思われているのか!?
あの女ボス、俺がラバットを寝取るのだと勘違いしているのか!?」


「キャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!」


 薔薇色の恋愛。男と男、そして女の三角関係。略奪愛、嫉妬の炎。

痴情ともいうべき人間関係のもつれに――少年は突っ伏しまい、



少女達は何故か、大歓喜した。





























<to be continued>







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