ヴァンドレッド the second stage連載「Eternal Advance」
Chapter 17 "The rule of a battlefield"
Action25 −破綻−
ミッション内外における攻防戦が、ようやく幕を閉じた。生体兵器は一掃、無人兵器の群れも掃討されてマグノ海賊団とミッション側の勝利で終わった。
敵は全て片付けることは出来たが、味方側も無傷では済まなかった。マグノ海賊団側は怪我人も出ず、期待の損傷も無かったのだが、肝心の中継基地がボロボロであった。
セキュリティシステムが完全に大破、外壁が穴だらけ、生体兵器が蹂躙して壁や天井がボロボロ、メインコントロールルームは崩落。
避難していた住民達は死傷者こそ出ていないが、刈り取りの奇襲による急な避難で怪我人も多く出ている。生き残ることは出来たが、何とか助かった程度でしかない。
今や中継基地ミッションは、閉鎖の危機に追い詰められていた。
「……は?」
融合戦艦ニル・ヴァーナ、メインブリッジ。ミッション内外の攻防戦を終えた面々が帰還し、戦後の状況報告を行っていた。
戦闘後の事後報告は基本的に欠かさず行われており、反省会にも似た内容で今回の戦闘内容を吟味して、次の戦いに活かすように話し合いが求められるのである。
人間の臓器を刈り取る地球は高い学習能力を秘めており、どれほど疲労困憊であっても事後報告は必須とされている。敵の学習に備えて、こちら側も常に対策を練る必要がある。
最前線で戦ったカイも当然出席して、報告を行っていたのだが――
「悪い、ブザム。もう一度言ってくれないか、ちょっと混乱してしまっている」
「ミッションを統率している女性、リズがメインコントロールルームを破壊したお前に賠償を求めている」
「俺に?」
「そうだ、お前にだ」
「……何で?」
「破壊した本人に、倍賞を強く求めている」
「いやいやいや!?」
事後会議の最重要課題として急遽告げられたのが、ミッション側からの要求。何と、ほぼ名指しに近い形でカイに賠償責任を求めてきたのだ。
寝耳に水どころの話ではなかった。厚かましいかもしれないが、カイ本人はむしろミッションの住民達には今回の働きについて感謝されるとばかり思っていたのだ。
これまで大勢の人間を救ってきたカイだが、感謝されることはあっても非難されたことは一度もなかった。
――細かく言えばマグノ海賊団の女性陣には仲良くなるまで、救助はお節介のように扱われたのだが、それを差し引いてもこの一件は驚きの一言だった。
「えっ、何? 助ける必要はなかった、ということ?」
「救助する手段、厳密に言えば生体兵器の掃討における強引なやり方にクレームが来ている」
「いや、まあ、強引だったかもしれないけどよ――ああする以外、どうしろと!?」
カイは慌てて相棒のメイアを見るが、彼女もブザムの報告に半ば呆然としていた。驚き半分、呆れが半分といっていい。
全くもって、意味が分からなかった。カイ程ではないにしろ、メイアもミッション側から感謝こそ無くとも苦情が届くとは夢にも思っていなかったのだ。
当然、彼女も猛然と連絡を受けた上司に抗議した。
「副長。後で報告書を提出するつもりでしたが、今口頭で報告させて下さい。今回の救出任務において、私から見てもカイのやり方に問題があったとは思えません。
確かにミッションの重要施設であるコントロールルームは崩落いたしましたが、結果でしかありません。タイミングが違えば、生体兵器が破壊していたでしょう。
コントロールルームを避難先に提示したのも、あちら側です。こうなることは、予測して然るべきではないでしょうか」
「いいぞ、青髪。もっと言ってやれ」
「茶化すな、カイ。私は真面目に話している」
本人でも気付いていないが抗議よりも避難の色が強い。救出したのに文句を言われる筋合いはない、と言外から滲み出ているようだった。
助けてやったのだと高飛車にするつもりはないが、文句を言われるのは心外だった。助けられた側に、助けた側の手段にまで苦情をいう資格は無いはずである。
メイアの反論を聞いたブザムも実際、リズより抗議を受けて困惑気味だった。
「お前達の言い分は、よく分かる。私もまさか、彼女からこのような苦情が来るとは思わなかった。
荒事を好む性分はあれど、もう少し理知的な女性に見えたのだが」
「大体賠償と言っても、具体的に俺に何を払えと言うんだ」
「"ヴァンドレッド"」
「何だとっ!?」
仰天する。確かにリズには救出した際、ヴァンドレッド・メイアを見られている。彼らはタラークやメジェールを知っているようだった、その技術レベルも把握している可能性が高い。
そうなれば自ずとヴァンドレッドが、両国家では製作不可能な技術である事は分かってしまう。生体兵器を一掃した戦闘兵器が、彼女には魅力に見えたのだろう。
だからといって、ホイホイと差し出せるものではないが。
「あんなボロっちいミッションの、しかもロクに使用もされていなさそうなメインコントロールルームと、引き換えになんぞ出来るか。
避難先に指定するような所だぞ。日々、使っていたのかどうかも怪しいじゃねえか」
「わざわざ調査しなくても、価値の違いは明確だ。釣り合わない取引なのは向こうも承知だろう」
「だったら何で、こんな要求してくるんだ。シカトされることくらい、分かっているだろうに」
「支払わなければ、一切物資の提供は出来ないと言ってきている」
「何でだよ!? ブザムに負けたじゃねえか、あいつ!」
「敵の横槍が入って無効だと、言ってきているんだ」
……呆れて物が言えなかった。地下闘技場での戦いを見れば、一目瞭然だった。誰がどう見たって、ブザムが勝利していたのだ。リズは気を失って、戦闘不能になっていた。
問題があるとすれば試合を撮影しておらず、取引も口約束でしかない事――つまり証拠が何もない事だが、逆に証拠がないから反故になんてすれば面子は丸つぶれになる。
海賊に荒くれ者達、裏社会に住む彼らに法は成立しないが、だからこそ彼らは取引の大切さを知っている。
裏社会において、取引を強引に反故になるような輩は出世しない。そんな人間と、手を組む人間などいないからだ。
「……妙な話だね。取引の重要性も理解できない人間に、荒くれ者達を統率なんて出来るはずがない」
「私もそう思います。特に今回、我々は多大に彼らに協力もしている。こんな真似をすれば、求心力を失う。
それが分からない彼女ではありません。なのにどうして、こんな暴挙に出たのでしょう」
敵の思惑が見えず、マグノやブザムも深刻に考えこむ。彼女達は自身の感性に自信を持っている。第一印象を見誤るほど耄碌はしていない。
そして印象が異なれば自分の目を疑うのではなく、相手の変貌の理由について熟考する。自信への確かさが、彼女達を人の上に立たせるのだ。
無人兵器討伐の立役者であるバートやディータが、それぞれに意見を述べる。
「あんなすごい兵器を見せつけられたんだ、欲が出ちゃったんじゃないっすか? ほら、僕のニルヴァーナも大活躍だったし」
「申し出に応じない事くらい、予想が付きそうなものだ。ゴネ得にもならない」
「宇宙人さんの乗り物が目的、と見せかけて、ほんとはご飯をあげるのが嫌なんじゃないですか?」
「さっきとは、状況がまるで違う。今のミッションは閉鎖寸前、我々の協力がなければ修繕も出来ないのだ。エンジニアは喉から手が出るほど欲しいはずだ。
ここで交渉をややこしくしても、意味が無い。我々も物資は必要としているが、今日や明日の話ではない。最悪、次を求めることも出来る。
その点、彼女達は違う。ここで我々に見捨てられたら、終わりだ」
「うーん……」
論破されて悩み込んでしまう二人だが、ブザムは内心彼らの評価を上げていた。二人の意見は、それほど悪いものではない。
地球に対抗するべく兵器を欲しがるのも頷けるし、ミッションがボロボロになった以上物資を惜しむのも不自然ではない。有り得る話ではあるのだ。
ただ、ミッション側とは先程まで多少なりとも関係は良好だった。交渉次第ではあったはずなのだ。
「――あるいはあの男、ラバットが一枚噛んでいる」
会議に参加していたドゥエロの発言に、全員が緊張した顔を見せる。ラバットが相手側に加わったのなら、交渉は一気に難航してしまう。
急にゴネだしたり、取引内容に変更を求めたのも、ラバットならばあり得る話だった。そうして最初に無茶を言って、交渉を行って少しでも自分に利となるようにする。
彼はヴァンドレッド、そしてペークシス・プラグマに強い興味を示していた。十分に、考えられる。
ならば、とカイは手を挙げる。
「ここでグチャグチャ言い合っていても、仕方がない。相手が指名しているのは、俺なんだろう?
だったら、あのおっさんが何か絡んでいそうだ。俺が直接相手と話をしてみる」
「お前一人だと、言いくるめられる可能性がある。私も一緒に、話を聞こう。
コントロールルームの破壊に文句があるのならば、実行したのはお前だけではなく私もだ」
「――そうだね、まずは相手の出方を伺ってみるかい。ただし、直接交渉するのはなしだよ。ブリッジで通信を繋いで交渉する。
BC、段取りは任せたよ」
「分かりました」
戦闘が折角終わっても、まだ戦いは終わろうとはしない。
相手は人間――ただ倒せば済む敵ではないだけに、頭が痛くなる思いだった。
<to be continued>
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