ヴァンドレッド the second stage連載「Eternal Advance」




Chapter 17 "The rule of a battlefield"






Action24 −一体−







 宇宙船や宇宙基地に向けて連結する過程を、ドッキングという。バート・ガルサスがミッションに連結を試みた際困難だったのがこのドッキングであり、カイの閃きのヒントになった。

ミッション中央にあるコントロールルームにブザム達が避難した事は、作戦上分かっていた。地球が送り込んだ生体兵器が、コントロールルームを包囲する事も容易く予想出来た。

敵の殲滅のみを考えれば、コントロールルームごと破壊するのが一番手っ取り早い。今回の任務はあくまで救出を第一としなければならない為、これまた困難を強いられた。


今までの戦いでは敵の殲滅に悩まされたが、今回は味方の救出に難航してしまう。毎度頭を悩ませる敵に、カイやメイアも顔をしかめるしかなかった。


味方を犠牲にして敵を倒す選択肢は、二人にはない。ヒーローを目指すカイはともかく、メイアも最初からその選択は除外していた。昔は自分の変化に驚いたが、今はもう受け入れている。

自分は、一人で戦っているのではない。"ドッキング"している男を目の前にして、少年と同じ観点で物事を考える。その当たり前が、何だかこそばゆい。

そして、二人が考え出した案もまた同じだった。ドッキングをヒントにした、救出作業。いわゆる"バーシング"を用いた作戦を決行する。それが、二人の結論であった。


そもそもドッキングとは、宇宙機同士が速度を有したままハードに結合する事を指す。対して、アームなどを用いてゆっくりと結合させる方法をバーシングと呼ぶ。


『もう一度、作戦内容を確認しよう。ヴァンドレッド・メイアを構成する私のドレッドから展開したシールドを用いて、コントロール・ルームと連結する』

『展開したシールドでコントロール・ルームごとブザム達を守り、その上で敵を撃破するんだな』


 ここまでは念密な打ち合わせすら必要とされなかった。発想が同じだっただけに、意見も合っている。作戦会議はすぐに終わり、認識も一致した。

ミッションから何とか脱出したメイア達は各自自分の機体に乗りこんで、合体。ヴァンドレッド・メイアに移行して、追いすがる敵を振りきってミッション中央へと向かう。

加速に特化した融合機は敵の追撃から逃れるにはうってつけだが、狭い空間での戦闘にはあまり向いていない。下手にあちこちぶつかれば、ミッションを機能不全にしてしまう。


とはいえ、カイとメイアも幾度と無く同じ戦場で戦って息も合ってきている。ヴァンドレッドを操縦する腕も、向上が見られた。


『何度も言うが、タイミングを間違えるなよ。ドッキングよりむしろ、バーシングの方がデリケートな作業だ』

『加速に特化した機体で、ゆっくりとした繊細さを要求されるのも酷だぞ』

『ちょうどいい機会だ。この先の戦いのことも考えて、我々の呼吸をこの機に合わせておこう』

『分かった。ちゃんと合わせろよ』

『待て、今のはどういう意味だ。お前が、私に合わせればいいだろう』

『何でだよ、メインで操縦しているのは俺だぞ。お前がフォローしてくれればいいだろう』

『この機体は私のドレッドをベースにしている。お前が合わせなければ、機能が発揮できない』


 しかしながら、肝心の人間関係には変化があってもなかなか進展が見られない。ちょっとした事で言い争いになるのは、いつもの事だった。

メイアも任務中は無駄口は叩かない真面目な性分なのだが、カイとのコンビになると一人での戦いでは無くなるので自分に相手を合わせようとする。

カイはカイで個の強い性格なので、当然相手に意思疎通を求める。となれば、自己主張のぶつかり合いになるだけだった。


味方がピンチであるにもかかわらず、二人は自己主張を続けていた。


『この際だからハッキリさせようぜ。このヴァンドレッドは、どっちに操縦権があるのか』

『お前はまだ半人前だ。私の指示に従えばいい』

『お前の指示はメジェールの常識に沿ったものだから、無人兵器との戦闘にはむいていない。俺に任せろよ』

『指揮や作戦は奇想天外であれば良いというものではない。成功率が高いからこそ、常道なのだ』

『だから、その常道が通じない相手なの。怪我の負傷具合はむしろ、毎回お前の方が酷いんだからな』

『機体の性能に助けられているからこそ、お前の作戦は成り立つんだ。自分一人で戦おうとするのは思い上がりだ』

『鏡に向かって言えよ、その台詞』


 どちらが正しくて、誰が間違えているのか。少なくとも結果論で話す二人には、到底答えは出せないだろう。何故なら二人の過程があって、一つの結果を生んでいるからだ。

一番肝心なのは、今言い争っている場合ではないということだ。白熱した口論を一喝したのは、マグノ。二人は慌てて仲間の救出へ向かう。

結局、結論は出ず。それどころか、意識合わせもしていない。タイミングをどうやって合わせるのか、合図の一つも決めずに――



二人は行動で、結果を示した。



「こんな感じか」

「ああ」


 ブザム達交渉班やラバットの無事、そして敵の殲滅を確認して二人はホッと息を吐いた。あれほど言い争っていたのに、行動した後はとても端的だった。

別段、喜びはない。上手くやれた事への安堵はあっても、達成感はなかった。神がかり的なタイミングが必要とされていたが、二人にとっては出来て当たり前だった。

理屈でそう思ったのではない。感覚で通じ合えた。一緒に行動していく内に、共に戦うのが当たり前になっている。傍に居ることが、自然になっている。


その感覚こそが、二人の呼吸であった。


「カイ」

「何だ?」


「――いや、何でもない」


 一瞬訪れた強烈な衝動に動かされて呼びかけたのに、相手から反応があった途端羞恥が芽生えた。不慣れな感覚に、メイアは戸惑いを覚えた。

当然となりつつある、一体感。考え方や価値観、そして何より性別が違う相手。けれど劣等極まる醜悪な存在ではない、彼は自分と同じ人間だ。

仲間であるという意識は持っている。今更敵だと思ってはいない。けれど今まで、同じ海賊達にこんな感覚を覚えた事は一度もなかった。


ジュラとバーネットが通じ合えている感覚と、同じなのだろうか……?


「どうやら、あっちも上手く連携できたみたいだな」

「むっ」


 ミッション防衛戦。バート・ガルサスが操舵するニル・ヴァーナとドレッドチーム、戦艦と戦闘機による連携作戦が見事功を成していた。

ディータ・リーベライが指揮するドレッドチームが無人兵器群をミッションから引き離し、バート・ガルサスがホーミングレーザーを発射して敵を一網打尽。

拙くともチームワークは上手く働いて、ミッションへの損害は最小限で済んでいる。レーザーの精度も確かなもので、敵は一機も逃さず仕留められていた。


ミッション内外での戦闘はこれで終了、完全勝利であった。


「新米リーダーにしては大した初陣だったんじゃねえか」

「時間を不要にかけ過ぎだ、指揮もまだまだなっていない。こちら側が動いていなければ、今のような掃討は難しかっただろう」

「お前は本当に自分だけではなく、仲間にも厳しいよな」

「ディータに限った話ではない。初陣でああも鮮やかに勝利を収めると、慢心が生まれてしまう。ディータは特に、甘えがまだまだ強い。
褒めるべき点を探すよりも、反省点を上げてやるのが今後の為になる」

「だったらせめて、一緒に反省会でもしてやれよ。あいつなりに、自分の課題を見つけているだろうしな」

「……そうだな、分かった」


 話している内に、羞恥めいた感覚は消えていった。今の感覚は何だったのだろうか、メイアは胸をそっと抑えて深呼吸する。

昔の自分であれば不要と断じた感覚、他人との一体感。この感覚を手放したくないと思うのはパイロットとして必要なのか、人間として大切なのか。


それとも――


「何にしても、俺達もようやく一緒にやれるようになったよな」

「ああ、私達はこれからだ」


 これからも、一緒に戦える。一人では困難でも、二人ならばやれる。奇跡さえ起こせると、今までの結果が示している。

今までずっと探していた、不変なる強さ。どんな事にも揺さぶられない、不動の感覚。心から望んでいた、揺るぎのない信念。確かな、心の在り方。



一体感――メイアは今日の勝利を、カイと共に感じた感覚を、胸に甘く刻みつけた。





























<to be continued>







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