ヴァンドレッド the second stage連載「Eternal Advance」
Chapter 17 "The rule of a battlefield"
Action22 −白熱−
この戦況下でキツイのは、現場だけではない。現場の状況を把握している司令塔も、部下達の苦境がリアルタイムで伝わってくる為に胸を締め付けられている。
追い詰められた仲間達を助けに行きたいが、持ち場を離れる事は彼らを根本的に救う事にはならない。メインブリッジクルーの素養には、そうした精神的強さも必須とされている。
アマローネ、ベルヴェデール、セルティック。彼女達は中継基地ミッションの内外の状況を逐一分析して、仲間達の悲鳴をお頭に届けていた。決して、泣き言を言わずに。
オペレーターのエズラも出産後の育休も取らず、仲間達の苦難に心を痛めながらも自らの職務に復帰していた。
「中央部に、敵が迫っています! このままでは、皆が!?」
エズラの悲鳴のような状況報告を聞かされて、マグノは眉を顰める。動揺を顔には決して出していないが、額に流れる汗だけは止めようがなかった。
彼女の右腕であるブザムは、辛くもミッションの住民達を中央部のメインコントロール・ルームに全員避難させたようだ。死人も怪我人も出していない、見事な働きと言える。
だが、状況は芳しくはない。交渉班として出向いたクルー達も全員、そこへ避難している。これでは、逃げ場のない場所へ追い詰められたのだと同じだ。
メインコントロール・ルームは、ミッションで一番安全な場所。しかし、絶対ではない。
「ミッションのセキュリティを、こちら側から何とか操作する事は出来ないのかい?」
「試みてはいますが、復旧には至っていません。主導権を握ろうにも、敵側が物理的に切断してしまっています」
「……何につけても、強引な連中だよ」
マグノの提案は、セルティック・ミドリの得意分野でもある。当然既に何度も挑戦は続けているが、破損しているシステムへの干渉は容易ではなかった。
彼女はマグノ海賊団の中でもお頭に乗る船のブリッジクルーとして認められた者、思春期の子供ながら大人顔負けの技術を有している。
ミッション内部からアクセスを試みれば、あるいは地球の兵器が相手でもシステムを掌握する事は出来たかもしれない。外部からのアクセスでは、どうしても限界があった。
「やっぱり、わたしが現場に行って――」
「駄目よ、セル。危険過ぎるわ」
「でもこのままだとどうにもならないよ、ベル」
「ミッション内部の映像を見せたでしょう。ウロウロしてたら、殺されるわ」
ベルヴェデールとセルティックの意見の衝突を、アマローネは意外そうに見つめていた。あのセルティックが、自分で行動に出ようとしている。
セルティックは最年少のメインブリッジクルー、子供特有の人見知りの傾向が彼女にもあり、仲の良い友人達以外とはあまり話をしない。
プレイベートでも部屋でコスプレかコンピューターの趣味に没頭している事が多い女の子が、仕事とはいえ自分から率先して現場に行こうとしている。仲間を、助ける為に。
決して望ましい選択ではない、判断としては浅はかだ。けれど、変化としては――お姉さん役として、歓迎してやりたいところだった。
「ディータ達から、何とか救援を向かわせられないかしら?」
「無理無理。バートも、ディータも、今外の敵に集中していてそれどころじゃないわ」
セルティックの思いを汲んでベルヴェデールが意見を出すが、戦況を随時観察していたアマローネが否定。嫌な仕事だが、希望のない可能性を切り捨てるのも必要なのだ。
ディータが率いるドレッドチームは、リーダー及びサブリーダーが居ない状態でもよく戦えている。ミッションから無人兵器を引き離すのにも、成功しつつある。
いわば彼女達は作戦半ばで、余力が無い。戦力を割くのは簡単だが、敵は間違いなくその動きに反応してミッションにも兵器群を向かわせるだろう。作戦が、無駄になってしまう。
均衡している事自体は、決して悪いことではない。このまま保ち続けるのが、難しいのだ。
セルティックが、唇を噛んでいる。
「……何しているのよ……」
「? セル……?」
「早く、早く……」
「ちょ、ちょっとセル、大丈――ア、アマロまで何笑っているのよ。焦ったり笑ったり、二人とも変よ」
手元のコンソールより、セルティックが何の反応を追っているのかよく分かる。直接見なくても、実によく分かる。だから、ついつい笑ってしまう。
セルティックは心配しているようだが、アマローネ本人は焦っていなかった。今何処に居るのか、いちいち探さなくても何となく分かる。
きっと間に合ってくれると、信じている。
「あっ!」
「――この反応は」
メインブリッジの中央モニターに、新しい機体反応を確認。エズラが急いで分析を行い、大きな安堵の息を吐いた。自分の部下の素直な反応で、マグノも安心したように目を閉じる。
反応を確認したセルティックは命令されてもいないのに、中央モニターの映像を拡大。出現した機体を、画面全体に表示。アマローネとベルヴェデールは、二人して吹き出した。
嬉しい知らせは何度あっても、やはり嬉しい。胸を大いに弾ませてくれる。あいつはいつも、期待に応えてくれる。
さあ、高らかに呼び出そう。混沌としたこの戦況を、鮮やかな反撃で白熱させてくれる彼らを――
「ドッキング部に、動体反応!」
「メイア機と、ヴァンガードです!」
映し出された二つの機影は即座に一つとなり、白く眩い光を放つ。発光現象は一瞬、次に映し出されているのは白亜の翼を持つ融合機であった。
ヴァンドレッド・メイアの見参ぶりに、メインブリッジの重苦しい空気が吹き払われていくようだった。白き翼は人々に雄大な空のような安心感を与えてくれる。
百戦錬磨の老海賊であっても、例外ではない。
「やれやれ……ハラハラさせてくれるじゃないか」
カイとメイア、あの二人が間に合った。これで状況は改善されると、誰もが信じて疑わない。それだけの働きぶりを、これまで見せてくれたのだ。今回もきっと、やってくれる。
だからこそ皆が勝利を確信して、喜び合う。まだ戦いの途中であっても、頬が緩んでしまう。無条件に、安心を与えてくれる。彼らこそ、ニル・ヴァーナのヒーローであった。
――逆に不安がっているのが、その英雄達であった。
「……ところでよ、合体したのはいいんだが」
「何を考え込んでいる。急ぐぞ、副長達が危ない」
「どうやって?」
「何……?」
「だから、どうやって助けるんだ。肝心の敵はミッション内部に居るんだぞ」
「――むっ」
コックピットの外部モニターに映るミッションを指さして、カイが根本的な疑問を投げかける。息せき切っていたメイアも、思わず息を呑んでしまう。
合体したのは、勢い任せではない。ヴァンドレッド・メイアは加速に特化された機体、急ぎ救援に向かう目的ではこの機体が一番適している。判断そのものは、間違えていない。
問題なのは判断ではなく、手段であった。
「中継基地の防衛ラインや外部隔壁に取り付いている連中はすぐに撃破出来るけど、内部侵入している生体兵器はどうする?
あのネバネバ、多分ミッション全体を巣食っているぜ」
「敵の動きを見る限り、中央のメインコントロール・ルームに戦力を集中しつつある。タイミングを見計らって、奴らを掃討すればいい」
「ちょっとでもタイミング間違えるとブザム達まで吹き飛ぶぞ、それ」
「――むむっ」
ミッションの外で暴れまわる無人兵器群は、ディータ達に任せている。救援に向かえば戦況は圧倒的優位に立てるが、その間にブザム達がやられてしまう。
だからこそ一刻も早く救援に向かわなければいけないのだが、肝心の方法がない。下手な攻撃は、内部崩壊を招いてしまう。
メイアは考えに考えて――結論を、出した。
「お前の意見を聞こう」
「ハァっ!? 作戦を考えるのは、お前の役目だろう!」
「お前はいつも私の作戦にあれこれ口出しするじゃないか! 今回ばかりは緊急時、認めてやると言っている」
「緊急を逃げに使うなんて汚いぞ!」
「お前こそ、いつもの非常識な思い付きを見せてみろ!」
「じゃ、じゃあ……連中が中央に取り付いた瞬間、タイミング合わせて突っ込もうぜ」
「タイミングを間違えれば、副長達まで吹き飛ばしてしまうだろう!」
「俺が言ったことじゃねえか!?」
――二人共、分かっている。今回ばかりは、被害を出さずに済むのは無理だ。絶対に、何かを犠牲にしなければならない。ブザム達か、住民か、それともミッションそのものか。
敵を倒し、ブザム達を救い出すのは難しくはない。メインコントロール・ルーム全体をシールドでガードした上で、中央部を破壊すればいい。そうすれば、中央に集中する敵は完全に死滅する。
彼らが言い争いをしているのは、その被害。中央を吹き飛ばしてしまったら、中継基地全体が大きな損傷を被る。まず間違いなく、基地としての機能は停止するだろう。
メインコントロール・ルームは、避難所ではない。頑丈に出来ているのは、基地として最重要の施設だからだ。此処が機能しなくなると、基地自体成立しなくなる。
彼らの住む場所を破壊してしまう。それでは、敵がやっていることと同じだ。
しかし、それ以外の方法となると――それこそ、命を犠牲にしなければならない。
「いいよ」
「! お、お前……」
「そうしないといけない事くらい、ガキのアタシでも分かる。やっちゃえよ、あんなボロ家」
案内役として付いて来ていた、ミッションの少女。彼女は中継基地の映像を見ながら、口汚く――とても哀しげに、破壊を促した。
この少女にとって、中継基地ミッションは犬小屋に等しい。生きて行くために、仕方なく大人達に飼われている。不衛生な溜まり場に、膝を抱えて生きて来た。
出て行きたくて堪らなかった、場所。なのに、その場所を壊すしかないと気付いたその時、どうしようもない寂しさに襲われた。居た堪れなくなるほどの、感情に。
それでも破壊を促す――少女は、利発だった。哀しいまでに早く、大人になろうとしていた。
「……いいんだな?」
「いちいち聞くな、ボケ。だから、大人は嫌いなんだ」
「そうだな、悪かった――やるぞ、青髪」
「分かっている」
少女の決意を知り、カイとメイアは手を合わせて操縦桿を握る。彼らは、少女の決意を尊重する。その為ならば、自分自身の迷いすらねじ伏せる。
カイも、そして今ではメイアも、犠牲を是とはしていない。今はただ自分達の信念よりも、少女の心意気を尊重するまで。
破壊を躊躇ってばかりでは、創造は出来ない。カイはようやく――犠牲を、受け入れた。
<to be continued>
|
小説を読んでいただいてありがとうございました。
感想やご意見などを頂けると、とても嬉しいです。
メールアドレスをお書き下されば、必ずお返事したいと思います。
[ NEXT ]
[ BACK ]
[ INDEX ] |
Powered by FormMailer.