ヴァンドレッド the second stage連載「Eternal Advance」
Chapter 17 "The rule of a battlefield"
Action21 −結果−
鞭使いのブザムと火炎放射器のリズが前衛、銃器とサーベルの両方を扱うジュラが中衛、銃火器を用いるバーネットとラバットが後方より火力支援。
にわか連携ではあるが、少数精鋭の熟練者達。チームワークの構築に時間をかけず、見事な協力態勢で生体兵器を迎え撃っていた。敵は着実に、数を減らしている。
とはいえ一進一退とは到底行かず、数の暴力に押されて少数精鋭は切り崩されていった。退陣を余儀なくされて、追い込まれていく。
「くっ……一体何匹いるのよ、こいつら!?」
「バーネット、早く下がって!」
「分かってる!」
弾薬を使い果たした重火器を未練だけ残して放棄、後で必ず回収すると心に誓ってバーネットはサブマシンガンとハンドガンを両手に持って撃ち続けている。
撤退戦で後方支援が立ち往生するのはよろしくないのだが、銃器の数の多さは彼女が圧倒的だった。どうしても頼らずにはおれず、任せてしまっている。
ブザムも最初はバーネットより銃器を借りていたが、弾数も少なくなりバーネットに後方を委任。愛用の鞭を使って、前に出て戦っていた。
ラバットとリズも熟練の戦士であり、この中継基地についても隅々まで知り尽くしている。彼らが基地内のセキュリティを活用して、生体兵器を足止めしていた。
セキュリティシステムの大半は無人兵器に破壊されてしまったが、基地内の原始的なセキュリティはまだ生き残っている。
防火用のシャッターや防衛用の電磁ネット、重厚な自動扉の認証セキュリティまで使って、少しでも長く彼らを足止めして時間を稼いでいた。
単純に防衛するだけが脳ではない。逃走もまた一つの選択肢と割り切っているラバットらしいやり方で、マグノ海賊団と利害を一致した行動を取っている。
ラバット達の指示に素直に従って、ブザム達も行動を共にしていた。逃げ遅れつつあるバーネットに大声で呼び込む。
「――どうだい、片付きそうかい……?」
「ちっ、どうみたらそう見えるんだ!」
生体兵器の大群に怯えてしまったウータンを背負い、逃げ込んだラバットは背後の声に舌打ち混じりに返答する。彼らしくもない苛立ちが、今の危機的状況を表していた。
苛立ち度合いでいれば、指揮官であるブザムの方が強い。彼女は声の主に目を向けて、睨みを利かせた。
今の状況を理解していないのかと言わんばかりに、ブザムは声を荒げてしまう。
「何をしている、住民達を任せた筈だぞ!」
副長に叱責を受けた声の主、ガスコーニュ・ラインガウは大きく溜め息を吐いた。彼女は何も反論せず、自分の背後に親指を向ける。
怪訝に眉を顰めるブザムであったが、ガスコーニュの背後を一瞥して目を大きく見開いた。状況を正確に認識出来ていなかったのは、自分だった。
逃げ込んだ先は、中方のメインコントロール・ルーム。このミッションで一番安全な場所であり――住民達の避難先であった。
「今でも、そのつもりだよ……追い付いたのは、お前さんたちの方さ」
メインコントロール・ルームにはミッションの全住民、そしてマグノ海賊団の交渉班。中継基地に取り残された人間全員が、揃って隠れていた。
場所を変えては少しずつ後退して、避難する人達を安全に逃がすべく防衛戦に出ていたつもりだった。まだ時間と距離を稼げる算段ではあったのだが、甘かったらしい。
此処が、行き止まり。此処が、終着駅。遂に――逃げ場を、失ってしまった。
メインコントロール・ルーム内の人数は多いが、戦闘員は数少ない。住民達は平和な一般人ではないが、荒くれ者達といえど生体兵器が相手では物の数にもならない。
ブザムはバーネットを一瞥、視線の意味に気付いてバーネットは言葉も無く首を振る。弾薬も銃器も、もう予備すらない。戦う武器も無くなってきている。
あらゆる猶予が、なくなってしまった。
「――こうなったら」
「バーネット!?」
ジュラの静止も聞かず、バーネットはメインコントロール・ルームより飛び出す。出入り口の前に陣取って、彼女は凶悪な笑みを浮かべて銃を両手に構えて発砲。
弾薬も銃器も限られている為残弾に気を配って戦っていたが、今は思う存分ぶっ放す。追い詰められて開き直ったのではなく、追い詰められたゆえの行動。
追い詰められてしまった以上、出し惜しむのはそれこそ弾の無駄。ならば全弾使い果たしてでも敵の数を少しでも減らし、足止めしたほうが効果的。
何よりも、すっかり溜まったフラストレーションを発散できる。
「何やっているの、バーネット!? 早く!」
「分かってる! これで……在庫切れ!」
銃器をどれほど持とうと、所詮一人では多勢に無勢。弾丸の嵐を物量で突破した生体兵器の大群が、通路を埋め尽くす勢いで押し寄せてくる。
大雪崩で攻め込んできた敵に目を剥いて、ジュラが半泣きの顔で親友の手を引っ張る。バーネットも流石に腰が引けてしまうが、腰を抜かさない分こうした修羅場には慣れていた。
最後の銃をホルダーに収めて逃走、自動扉を閉める前に認証セキュリティを破壊。メインコントロール・ルームを、完全に閉め切ってしまう。
認証セキュリティをわざわざ破壊したのは、クラッキングを警戒しての事。生体兵器は明らかにセキュリティシステムへの介入手段を持っている。認証されて、開けられると一巻の終わりだ。
メインコントロール・ルームでの、籠城。リズの付き人パッチが太鼓判を押すだけあって、安全性には優れている。他の部屋とは違い、壁や天井も頑丈であった。
しかし、完全に逃げ場を失ったのも事実。ここを突破されれば、言葉にも出来ない悲惨な結末が待っている。今回の敵は臓器の刈取りではなく、抹殺を目的としているのだ。
バーネットは肩で息をしている。他の面々も、精神的にも肉体的にも疲労の色が濃い。
「――どっちみち、ここを突破されれば命取りってことか」
「……」
ガスコーニュの険しさを秘めた呟きに、ブザムは無言で同意する。二人共一流の強さを持つ戦士ではあるが、生体兵器の大群を相手では個々の戦力は焼け石に水であった。
長年生体兵器に嫌がらせをされ続けたミッションの住民達も、敵の脅威は理解している。混乱しないだけでもまだマシかもしれない。後がないのは、どのみち変わらないが。
燃料の少ない火炎放射器を床におろして、一緒に行動してきた男に恨みがましい目を向ける。
「あんた、絶対に組む相手を間違えてるよ」
「焦らすのが好きな野郎だからな……いつも、ハラハラさせやがる」
危機的な状況で余裕のないリズとは違い、ラバットはトボけた顔で自分の銃を手先で弄ぶ。この期に及んで、同盟を組んだ相手を責めようともしない。
そもそもこのラバットという男は、基本的に他人を信用しない。単独行動を主としており、相棒も動物のウータンだけ。後は、利用するだけの人間でしかない。
リズは比較的懇意にしているが、彼の心の奥底まで見抜けない。つまり、この男は自分に対しても本心を見せたことがない。
なのに――あんな十代の若造と、同盟を結んでしまった。しかも、この状況下でのこの余裕ぶり。あんなガキに、自分の命を預けている。
リズの苛立ちは、まさにその点にある。青臭い子供を信頼しているラバットの甘さに、苛立っているのではない。むしろ、その信頼ぶりにこそ怒っている。
ラバットが対等な相棒に選んだのが自分ではなく、あの少年。その事実が、許せない。ラバットも、カイも、どちらも許せない。
どうして自分が選ばれなかったのか、分からない。だから追求してしまう、こんな状況においても。
「あいつなら敵を皆殺しに出来ると言いたげだけど、何か秘密兵器でも持っているのかい?」
「秘密兵器ね、くくく……まあ、確かに持ってはいるな」
カイ・ピュアウインド、見た目も中身も思春期のガキンチョ。肉弾戦で戦えば、何回やろうとぶち殺せる。ミンチにしてられる自信がある。
そんなガキが生体兵器と戦えるというのだから、何か武器を持っていて然るべき。連中の言い分から察するに、少年はパイロットなのだろう。
どんな兵器を持っているのか分からないが、ラバットの持って回った言い回しにリズは怪訝な顔を向ける。
「何だい、それほど値打ちのある兵器ならぶん取ればいいじゃないか」
「だからこそ、手を組んだのさ。まだ値段の付かない品だがな」
この言葉で、リズは気付く。ラバットは兵器を欲しているのではない。兵器を持ったあの少年、カイ・ピュアウインド本人を望んでいる。
燻っていた感情に、火が灯った。極めて危険な感情、敵だけではなく自分自身まで激しく燃やしてしまう。リズは両手を固く握りしめて、唇を噛んだ。
……あのガキ……
どういう結果になりそうなのか、もう何となくは分かった。少年を信頼に足る相手だと認識したのではない。むしろ、真逆。
ラバットがここまで信用しているのであれば、ほぼ確実に結果は出すだろう。それこそヒーローばりに敵を倒し、味方を救うのに違いない。
それで助かるのならば、御の字。敵を倒してくれるのであれば、お礼の一つもしてやろう。それこそ盛大に、ミッションのボスである自分が直々に派手に礼をしてくれる。
――ぶっ殺してやる。
<to be continued>
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