ヴァンドレッド the second stage連載「Eternal Advance」
Chapter 17 "The rule of a battlefield"
Action7 −衝突−
マグノ海賊団。タラーク・メジェール両国家を脅かす荒くれ者の彼女達だが、勇猛果敢なだけではない。
大胆かつ、慎重。罠だと知りつつ飛び込むのは喰い破れる自信と、罠を事前に把握する洞察力を持っているからである。
ブザムは交渉相手の脅しに怯まなかったが、だからといって無防備に飛び込んだりはしない。事前に手は打っていた。
内と外――交渉班の上陸と同時刻、分析班が中継基地ミッションを外部モニターで観測していた。
「……心配は無さそうだな」
分析班の仕事場所はメインブリッジではなく、医務室。ドゥエロ・マクファイルが、ミッションの分析を行なっている。
忘れられがちだがドゥエロは船医であり、軍医でもある。艦に乗船する医師は人間だけではなく、船や施設等の分析も得意とする。
メインブリッジに医師である彼の席が用意されているのもその為で、彼の分析力は海賊団のメインブリッジクルーに匹敵する。
医務室には人間を診る医療機器が揃っており、今回の場合は中継基地を軍医が"診察"していた。
「人間の生体反応以外、特に怪しいものは見受けられない」
診断結果は、良好。中継基地ミッションの全体を分析してみたが、罠に該当する反応は発見されなかった。
分析は短時間で終わっていたのだが、ドゥエロは念入りに行う。仲間の生死がかかっているのだから、尚更である。
その結果異常なし、ブザムの懸念は杞憂に終わった。時間の無駄ではない。仲間の安全を確保出来たのだから、立派な労働である。
ドゥエロは分析結果をマグノ海賊団の主だった面々に送信、作業の手を一旦止める。
「上陸早々集団に取り囲まれたようじゃが、今のところ問題なく事を進められておるか」
「油断の出来ない数だが、武器を所持しているのはこちらも同じ。彼女達ならば、集団戦にも長けている」
ドゥエロが白衣ならば、助手は着物。SP蛮型の専属エンジニアであるアイが今回、分析班に抜擢されていた。
まだ背丈が伸び始めた年代だが、技術力は超一流。ハード・ソフトウェアの両分野で同年代で彼女に勝る者はいない。
海賊になった経緯は不明。子供ながらに変わり者であり、それゆえにカイやカイ機に並々ならぬ興味を持っている。
ミッションの分析補佐を引き受けたのも、上陸したカイを思いやっての事でもあった。
「武器システムや防衛システムはどうじゃ? 人的な罠は無くとも、システムを悪用したトラップも考えられる」
「……確かに。ミスティが持っていたカプセルのウイルスは、ニル・ヴァーナのシステムをも停止させた」
エンジニア観点での意見を、ドゥエロも重視する。彼女を助手としたのも、そうした観点からの助言を期待したからである。
旅を始めて最初の半年間は人間関係のトラブルが大半だったが、半年を過ぎてシステム関連のトラブルが多発している。
赤い光や、ウイルス――タラーク・メジェールにはない未知なる力に、ドゥエロ達は苦しめられてきた。
交渉相手は明らかに、自分達の知らない情報を持っている。植民船時代の通信パターンの他に地球に関する情報を持っているかもしれない。
ミッションは中継基地、設備は老朽化しているが使用は出来るだろう。防衛システムも稼働するならば、調査しておく必要がある。
「何より、奴らが何者なのか調べてみたいものよ」
「同感だ。私も、興味がある」
二人して、笑う。知りたいという欲求は、優秀であればあるほどに強いのかもしれない。
人に対する好奇心はそれ以上であり、男女共同生活を通じて他者への興味は高まるばかり。分析班の本意でもあった。
無論、単に自分達の欲求を満たすだけではない。交渉相手を事前に知るのは、取引する上で必須事項。
特に彼らの友人であるカイは、他者との交流を重視している。彼らが何者なのか、調べておかなければならない。
「あの人達ってさ、何であんなところに住んでいるのかな?」
患者のいない医務室で、パイウェイはカルテ整理しながら自分の思ったことを口にする。
病の惑星での救命活動を通じて、彼女は急速に看護師として成長しつつある。大事なカルテも、彼女ならば任せられる。
とはいえ、パイウェイはまだ子供。未知に対する興味は、今もまだ幼い彼女の胸の内で輝いていた。
「住めば都というからの、案外居心地が良いのかもしれんぞ」
「宇宙に出る手段がないのかもしれない。刈り取りが居なくても、宇宙を航海するには危険が付きまとう」
「だったらさ、食べ物とか水とかどうやって手に入れてるの? 基地に蓄えられているのかな」
ドゥエロとアイが、顔を見合わせる。子供なりの疑問が、思い掛けず盲点となっていた。
植民船時代ミッションは停泊地点としても使用されており、物資の蓄えは当然あるだろう。だが、物には限度というものがある。
生体反応を確認する限り、ミッションで生活する人間は意外と多い。居住区に該当する部分は満杯に近い。
ならば、彼らはどうやって物資を手に入れているのだろうか……?
「もしや奴ら……地球と、取引を?」
「地球は刈り取りを行なっている。連中にとって、人間は臓器の塊でしかない。交渉など、不可能だ。
――そう断ずるのは、危険か。彼らが関わっているのならば、人為的な罠よりもシステム面でのトラップがある可能性が高い。
彼らが何者なのか、このミッションには何があるのか。引き続き、調べてみよう」
「了解じゃ」
「むぅ……二人共、パイの事仲間はずれにして……!」
自分の意見が重用されたのだと気付かず、パイウェイは頬を膨らませる。
成長しても、人の本質はそうそう変わらない。大人びても、パイウェイはまだまだ子供らしい。
「……」
「……」
「……、……」
「……、……」
「――!」
「――!」
「ついてくるんじゃねえよ!?」
「ついてくるんじゃねえよ!」
ミッション内部、これから交渉を行う過程でカイは問題を抱えていた。いや、問題児を抱えているというべきか。
三歩。ちょうど三歩手前を歩く女の子。自分の真後ろで小さな足音が続いており、カイはイライラしっぱなしだった。
彼も一応、成長している。問答無用で振り払わず、無視して歩いてはいた。ところが、少女はめげずに付いてくる。
しまいには走ったら、何と全力疾走で駆けてきた。息を切らせながらも追走する少女の根性は、感嘆ものであった。
「何か俺に用があるのなら、この場で言え」
「ハァ? 何にも用はねえし、キモイし」
「口悪っ!? いいから、どっか行けよ」
「てめえこそ、人の前を歩くんじゃねえよ」
「じゃあほれ、さっさと行け」
「あー、疲れた」
「ぐぅぅ……何なんだ、こいつは!」
カイが足を止めれば、少女も足を止める。この繰り返しで大事な交渉を行う道中、緊張ではなく笑いばかりを誘ってしまっている。
ブザムもガスコーニュも仕事中だと諌めたりせず、微笑ましく見守るばかり。というより、明らかに楽しんでいた。
カイ一人気付いていないだけで、他の女性陣は同性だけに少女の気持ちが伝わっている。
「おい、青髪。お前がびしっと言ってやってくれ」
「お前が言えばいいだろう。我々海賊にぶつけた啖呵を浴びせてやれ」
「おい、ジャーナリスト。取材の時間だぞ」
「取材は後にしろといったのは、あんたでしょう」
二人共冷たい口調だが、目元は笑っている。力を貸すには容易だが、子供の一人あやせないようでは他者との交流など不可能だ。
カイが少女に乱暴でも働けば止めに入るが、その様子はないしそんな事はしないと分かっている。信頼、していた。
もっとも大人達は笑っているが、子供達はそれなりに真剣だった。
「よーし、がきんちょ。白黒ハッキリつけようじゃねえか、何が狙いだ」
「べー」
「何て可愛くねえガキだ……親の顔を見てみたいぜ」
「――いねえよ、そんなの」
つっけんどんに、孤独であることを告げる少女。その目に、寂しさはない。全てを、感情の赴くままに吐き捨てていた。
子供だからじゃない。子供であるからこそ、子供なりの現実を知っている。知ってしまったがゆえの、達観。
この世界で願いなど叶わないのだと、神様に唾を吐きかけていた。
「何だよ、その目。あたしを、バカにしてんのか!!」
「おう、そうだ。所詮、お前なんぞガキンチョよ」
「あたしは、親が居なくても生きていける! お前なんかにバカにされてたまるか!」
「だから、ガキンチョなんだよ。子供が一人で生きていけるもんか」
一人で生きていけると思っているのは、助けられている事を知らないからである。大人の優しさは、子供にはとても分かり辛い。
カイは説明しなかった。どれほど述べても、少女には伝わらない。自分がそうだったから、とても良く分かる。
少女が怒りに目を燃やし――ほんの少し悔しさに涙を滲ませて、カイの後ろをついていく。
「! おい、ブザム。あいつは――」
「お喋りはここまでだな。カイ、連れて行くのならばその子から目を離すな」
停泊所を抜けて、武装集団に見守られながら、居住区を通過。男が一人、腕を組んで立っていた。
ミッションへの最初の通信で出てきた、スキンヘッドの男。交渉の窓口が薄ら笑いを浮かべて、出迎える。
こっちだと――奥の見えない闇へ、カイ達を招き入れる。
<to be continued>
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