VANDREAD連載「Eternal Advance」



Chapter 1 −First encounter−



Action5 −相棒−




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『同胞達よ!兄弟達よ!!
今こそ第二世代・第三世代が互いに手を結び、タラーク帝国の礎として男の証を立てる時である!!』


『おおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉーーーー!!!!!』





式典開始より行われている首相の演説に、中央広場の男達は一斉に沸き立つ。

階級を問わずに集められた男達が見上げるその先には、中央に大きく浮かぶマルチモニターがある。

モニターには威勢堂々と振る舞う、輝かしいまでの勲章が並ぶ軍服を着こなした一人の男の姿があった。

男は奇麗に剃り上げられた頭にやや赤み走った目をして、朗々と演説を続けていた。

彼こそがタラーク帝国首相である−白波 玄宰−その人だった。


『諸君達も周知の通り――――
男の誇りを、そして偉大なる魂を踏み潰さんばかりに、女共は我々を虐げ、悪行の数々を恥知らずにも実行してきた!!』


首相の演説は熱を帯びて、より一層力強くモニターを通して響き渡った。

中央モニター下に興奮を隠し通せずに、群集達が異様な空気を漂わせている。

そして帝国内のあちこちに設置しているスピーカーに耳を傾ける住民達もまた、首相の演説に心を震わせた。


『だが、我々とていつまでも女共の好きにさせる訳にはいかない!そうであろう!?』

『うおおおおおぉぉぉっ!!!』


声を張り上げて叫ぶ首相に、聞いている男達もまた力強いをあげる。

その叫びは帝国内全てに反響し、叫びに連なるように、国民達の女への憎しみや怒りも高まっていく。


『昨今の憎き宿敵の数多くの侵犯には目に余るものがある!!
見よ――――この映像を!!
これこそが我らの倒すべき敵である!!!』


首相の張りのある声と入れ替わるように首相の姿は消え、やがてモニターはある映像に切り替わる。

そこには暗き深淵の宇宙空間において、視界を遮るかのように多くの宇宙船の残骸があった。

その残骸の間隙を縫うように、はっきりと一つの宇宙船の姿が映し出されている。

まさにその船こそ、首相の言葉にある宿敵をはっきりと指し示す映像だった・・・・・・










「へえ、こいつが女の船か・・・・・・」


小さな灯火のみの薄暗い空間の中で、マーカスはグラスを傾けた。

元々客が少ない酒場ではあったが、今日は式典のために人々は殆どが帝国中央に出向いており、人が寄る気配もない。

マーカスはカウンターの席に腰をかけて、酒場に設置されている小さなモニターに目をやっている。

その間つまみを口に含み、グラスを傾け酒で流し込む。

ほのかな明かりに照らされたその表情はどこか寂しく、そしてどこか楽しそうだった。


「うちの馬鹿野郎が果たして女相手にどう出るか、ちゃんと見れないのが残念だな・・・・」


くっくっくと楽しそうに笑って、マーカスはグラスに酒を注ぐ。

笑ってはいるものの、その瞳に宿りし感情は色は旅立った息子への思いであった―――










「はっくしっ!
誰か俺の噂でもしてやがんのかな・・・・・・?」


巨大な艦内をあてもなく歩きながら、カイはそう独り言を呟く。

現在厨房内の仕事を終えたカイは、独断でイカヅチ艦内を見学している。

だが構造そのものが巨大な上に複雑に入り組んでいる内部の通路を案内もなく進むのは、明らかに愚かな行動だった。

元々イカヅチは古くから存ったある船に、急ピッチで新しく設備を増設した戦艦を重ね合わせた船である。

新艦区・旧艦区と船内は区画されており、クルー達のこれからに備えての装備を保管する格納庫などの設備があった。

艦内の通路の分岐点にそれぞれ案内が書かれてはいるが、さすがにすぐに全てを把握するのは難しい。


「どこに何があるんだ、この船は・・・?」


やや不安そうに、カイはきょろきょろと周りを見渡す。

そんなカイの腕に抱かれて、比式六号は黙々と式典の映像をモニターしていた。




『罪深き女共を討ち滅ぼすべく、我らは立ち上がる時である!!!!
屈辱と辛酸にまみれた歴史を終結させ、男の尊厳を取り戻すべく、本日この良き日に我々は新しい力を手に入れたのだーー!!』


六号の小さなモニターからでもはっきりと分かるほどに、首相の声色は熱さでヒートしていた。

カイも少しは興味を覚えたのか耳を傾け、六号をひょいと持ち上げてモニターを見る。


『恐れ多くも、この広大な大地に我らを導いて下さったグラン・パを初めとする第一世代への多大な恩義に報いる為!
我らはタラークに永劫の戦功を刻まなければならない!!
さあ諸君、見よ!そして称えよ!!
宿敵を叩き潰さんがために生まれ変わった我らの誇りと魂の結晶であり、帝国シンボルとして最強の戦艦へ進化したイカヅチの姿を!!!』


ようやく出番が来たとばかりに、中央広場の台座に設置されていた巨大な戦艦が浮かび上がる。

その堂々とした外観や重量感、エンジン各部から漂わせる蒸気が見ている群集を圧倒し、心を激しい熱さと戦慄に浸らせた。


「へへへ、そんな船に俺が乗っているんだよな・・・・・・
くう〜、なんか燃えてきたぜ・・・・もううずうずして仕方がねえよ」


一度リアルで見たとはいえ、モニターごしにもう一度見るイカヅチの姿はカイの心を躍らせる。


「おっと、モニターに見惚れている場合じゃねえ。
艦内を早く見て回らないと、仕事に呼び出されてしまうぜ」


カイはぺしぺしと気合いを入れるように頬を叩いて、足を速める。

その歩足に合わせるように、腰に結ばれている十手が銀色に輝いた。


「とりあえずここがどの辺りか分かればいいんだけどな・・・・・うん?」


視線の先には通路が二手に分かれており、分岐点の中央に案内の矢印がある。

左に示しているのは『第三機関部』、そして右に示しているのは――――















『旧艦区格納庫』















首相の演説は続く。


「我らの誇りの証として、イカヅチは今ここに蘇った!!」


首相が実際に今どこにいるかというと、イカヅチ艦内の旧艦区格納庫内にいた。

格納庫内は本来は戦力を温存する役割を果たすのだが、今は装飾に彩られた会場に変わっている。

会場中央には等身大のタラークの指導者グラン・パの銅像が建てられていた。


「そして今日という日に、タラークの未来を担う第三世代の若者達が新たに仕官として誕生した!!」


演説を首相の前には、第一期仕官候補生達がきちんと整列をしていた。

まだ十代と二十代の狭間を行き交うその若者達は、どの顔も皆一様に責任を果たそうと引き締っていた。


「諸君達はもったいなくも第一世代の遺伝子を受け継いだ優秀な者達ばかりである。
新生タラークの幕開けとなる今この時より、イカヅチ乗船を許されるのだ。
士官学校第一期生諸君、卒業本当におめでとう!」


首相の祝いの声に、並ぶ候補生達の顔に熱き血潮が流れる。

だがその逆に、首相の演説をどこか冷めた表情で佇む二人の生徒がいた。

一人は短く奇麗に揃えられた金髪にどこか軽薄そうな表情を浮かべている美男子―――

もう一人は逆に腰までに長く伸ばした髪に鋭い眼光を秘めている男だった。

彼らは−バート・ガルサス−、−ドゥエロ・マクファイル−

共に士官学校卒業生である。
















「格納庫、格納庫、と・・・・・やっぱり軍の秘密兵器か何かが温存されてるんだろうな」

長々と続く通路を足取り軽くカイは案内に従い、一直線に走っていた。

モニター越しに聞こえてくる首相の演説内容からすると、そろそろイカヅチの発進が近いようだ。

発進後行われるパーティの臨時給仕の仕事が入ってるカイは、それまでに厨房に戻らなければいけない。


「えーと、どの辺りなんだ・・・・格納庫、格納庫・・・っと、あった!
『旧艦区主格納庫』、ちゃんと書いてくれているじゃねえか」


プレートに表記された場所へ辿り着いたカイは、そのまま扉を開こうとする。

胸に秘める憧れの兵器への期待に、カイはドキドキが押さえ切れなくなっていた。


「さあ、今こそ俺の前にその雄姿を見せるのだ!レッツゴーーーってあれ!?」

『ピーピー!!照合、不確認。掌紋ヲ照合セヨ』


当然ながら、軍の機密が所持されている区画には厳重なセキュリティーが施されている。

侵入者ならびに内部の階級への隔離を徹底する為のシステムである。

扉のすぐ横に小さな四角いセキュリティーマシンがついており、手の平を押し付けて身分証明をはかるのだ。

人それぞれに手のパターンが違う構造を利用した完全なシステムである。


「くそ、ここまで来てセキュリティーなんぞかましてやがるのか!?
これだから上の奴のやる事は嫌いなんだよな・・・・・」


大きな期待の反動か、カイは睨みの利いた瞳でセンサーを見やる。

特に格納庫は軍部でも最高レベルの機密である新型が保管されている為に、セキュリティーも厳重だった。


「どうしようかな・・・さすがに蹴飛ばしてどうにかなるようなもんじゃないし。
うーん・・・・・・」


どうしても諦めたくないのか、彼はその場に座りあれこれと対策を練り始める。

その間にも六号は首相の演説を流し続けていた。


『さあ時は満ちた!!皆の熱き叫びはこちらにも届いている!!
もはや出発時刻など待ってはおれん!!そうだな、諸君!!!』

「な、何だってーーー!?もう出発かよ!?」


出航への熱き想いに耐えられなくなったのか、首相はそう宣言した。

逆に慌てたのが、まだ目的も果たしていないカイだった。

このままでは何の為にサボったのかよく分からないまま、モニタリングを終えた六号に職場に連れ戻される。


「あー、もう!!どうせ駄目で元々だ!!
うまくいかなかったら、おっさんに悪戯でやってしまったと謝ればいいや」


元来より楽観的な考えを持つ彼はそう結論をして、手の平をガリガリと床に擦る。

そして真っ黒になった手にフーフーと息を吐きかけて、マシンに手の平を置く。

セキュリティーマシンを混乱させようと、カイなりに行動に出た結果である。

稚拙かつ無謀過ぎる行動だが、運命の女神がカイに味方をした。


『ピー、照合確認。セキュリティーヲ解除シマス』


機械の音声と共に、重々しい音と共に扉は開かれていった。


「よっしゃ!何でもやってみるもんだな、うんうん」


土壇場で思いついたアイデアながらも上手くいった事に喜びを隠せないカイ。

にこやかな笑顔を浮かべて、意気揚々と彼は開かれた扉内へと足を入れる。


「おおおおおお!?これが新型かよ!?」


主格納庫内は証明が点いておらず、暗く、そして静かだった。

彼がこれまで住んでいた酒場の二倍以上の広さがあり、まるで喪に服しているような静謐間があった。

そして格納庫内の左右には、きちんと整列された『蛮型』が格納されていた。


「すっげえ〜〜、リアルで見るとこれだけ迫力があるんだな・・・・・」


カイは魅入られたようにゆっくりと歩きながら、一体一体の蛮型を見つめていた。

全長五メートル程の人型の蛮型は、頭部に外部センサーとモニターを兼ねられた大きな赤き瞳がそれぞれに虚ろを見つめている。

強重を備えている胴体、固く握り締められた拳、バランスの取れた手足―――

敵には容赦ない狂暴な牙をむくその機体に、カイはすっかり心を奪われていた。


「これだよ、これ。こういうのに乗って、宇宙で活躍したいんだよな。
俺の求めるヒーローの姿が今、ここにあるんだ・・・・」


想像でしか見れなかったその勇姿に、感動と興奮を禁じずにはいられなかった。

ずっと眺めていたい彼ではあったが、どうやらそこまで女神は優しくはなかったようだ。

非情に、抱きかかえる六号のモニターから声が聞こえる。


『イカヅチ、発進!!!!』


首相の叫びと共に、艦内全体が大きく揺れ動く。

激しい振動と同時に発生する重力に、カイは足を踏ん張るのが精一杯だった。


「っち、やばい!?もう発進の時間か!?
そろそろ厨房に戻らないと、さすがに怪しまれるな・・・・」


まだまだ名残惜しかったが、さすがにいつまでも禁止エリアにいるわけにはいかなかった。

カイは渋々ながらに激しい動音に耳を閉じて、主格納庫の入り口に走る。

そしてもう少しで辿り着きそうになったその時、彼の脳裏に閃光のように閃くものがあった。


「そうだ!せっかくここまで来たんだし、記念に・・・・・・」


カイは腰にぶら提げていた十手を引き抜いて、ぐっと手に握り締める。

そしておもむろに傍にある一体の蛮型の足元に近づいて、ガリガリとその表面を深く削りとる。

揺れる上に焦りが混じっているのか、やや忙しげにカイは作業を終わらせた。


「よし、これでお前は今日から俺の相棒だ!!」


カイが見上げる一体の蛮型。

その足元には十手によってある文字が刻まれていた。










・・・・・・・「HERO」と・・・・・・・・





















<First encounter その6に続く>

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