VANDREAD連載「Eternal Advance」
Chapter 1 −First encounter−
Action4 −演説−
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「おーい、新入り!テーブルにグラスを並べてきてくれ!!」
「ういーす!すぐに持っていきまーす!!」
宇宙戦艦『イカヅチ』内左方に位置する厨房、そこは今戦場ともいうべき忙しさがあった。
厨房内を指揮する家事長が忙しなく数種類の酒やペレットを用意し、給仕担当の三等民達が大量の食器類を準備していた。
そんな中、カイも給仕の新入りとして働かされているのだった・・・・・
「うっしょ、うっしょ!たく、やたらこき使いやがるな・・・・」
家事長の指示に従い、カイは器用に皿を積み上げる。
元々酒場で毎日働いていた彼にとって、こうした厨房内の仕事はお手の物だった。
「後数分で閣下の演説が始まる。その後は卒業生達のパーティだ!
ぼやぼやしている暇はないぞ!きりきり働け!!」
迫り来る時間に焦っているのか、家事長の怒鳴り声が絶える事はない。
ちなみに行われる式典の予定として、まずは第二世代首相である白波の演説。
その後「イカヅチ」の出航、そして旧艦区格納庫内で祝いのパーティがある。
今回の「イカヅチ」出航には仕官学校の第三世代卒業生達の大規模な演習も兼ねているからだ。
(はあ〜、本当に雑用ばっかりだな・・・・)
人の動きが絶えない中、カイは内心ため息を吐いた。
アレイクに聞かされていたし、マーカスにも散々立場についてを説明されていた。
自分の立場や扱われ方についてはちゃんと覚悟も出来ている。
しかしながら、現状でずっと雑用ばかりやらされている事に、どうしようもない焦りとやるせなさを感じてしまう。
(親父にあれだけ啖呵を切って飛び出したんだから、何かでっかい事をやりたいのにな・・・・)
カイの頭の中に宇宙を彩る華やかな戦闘が浮かび上がる。
本で何度もかつてのタラークの英雄伝を読み、いつも空想していた壮大で迫力のある戦艦―――
そんな戦艦に今日は現実で乗っているのだ、興奮するなという方が不可能だろう。
「・・・・なのに現状は下働きときた・・・・」
白いエプロンを身につけている現在の自分を見つめ、カイは深々とため息を吐いた。
これでは晴れ舞台どころか、酒場で働いていた頃とまったく変わりがない。
(俺はこんな事をやりたいんじゃねーんだよ、チクショーーー!!!)
心の中で絶叫を上げながらも、積まれた皿を拭く手は休めない。
悲しい習性とも言えるが、真面目に働いている分立派かもしれない。
一応言われた仕事はきちんとこなしており、人一倍きちんと作業を仕上げているのだ。
元々器用な方であり、性根は真っ直ぐなカイはやるべき事はちゃんとやる。
無論内心、不満だらけではあったが・・・・・・
そして滞りなく作業は進み、数分後厨房内の準備は全て完了した。
「皆、ご苦労だった。まもなく閣下の演説が始まる。
艦内に設置されたモニターや放送施設にも閣下の演説は流れるので、皆漏らす事なく拝聴するように。
以上だ」
家事長の言葉が終わり、作業をしていた三等民達はそれぞれに持ち場を離れる。
次の仕事がある者もいれば、休憩時間に入る者もまたいる。
所詮艦内の雑用を強いられた三等民達であり、密接な繋がりは存在しなかった。
「さてと仕事も終わったし、演説が終わるまでは何してようかな・・・・・」
エプロンを脱ぎ捨てて、カイは思案下にたたずむ。
首相の演説はそろそろ始まるのだが、彼にはあまり興味はなかった。
カイにとっては首相はお偉いさんという認識しかなく、所詮雲の上の人だった。
「うーん・・・・・そういや、ここに乗船してから働いてばっかりでまともに艦内を見てなかったな。
よし、いっちょ探検といくかな!」
湧き出す好奇心に従って、カイはさっそうと厨房を出て行こうとする。
ところが出入り口付近で白い手がにゅっと出て、カイの手を掴まえる。
「わわっ!?いきなり何しやがるっ・・・って、お前!?」
「ピピ、カッテナコウドウハイケマセン」
白い手の正体は、今日カイのサポート役に任命された比式六号だった。
白い水晶型のこのロボは顔の部分がモニターとなっており、ナビゲーション用のパネルが搭載されている。
どうやらカイが作業している間は、厨房の入り口付近でずっと待機していたようだ。
「いいだろうが!俺が何をしようとお前には関係ないだろう!」
「イケマセン。カッカノエンゼツガハジマリマス」
「俺は演説なんぞに興味はないの!それよりこの艦を冒険するという仕事が待っているのだ」
「ナリマセン。エンゼツノハイチョウはギムヅケラレテイマス」
カイの反論にも淡白に対応し、比式六号は淡々とカイに義務を押し付ける。
その様子に、カイはがっくりと肩を落とす。
「アレイクのおっさんめ〜〜、何が俺をサポートする案内役だ。
結局、俺が勝手な事をしない様にする為の監視じゃねーか」
アレイクの別れ際の笑顔を思い出して、悔しそうに拳を握り締める。
「ピピ、エンゼツカイシまでゴ・・・・ヨ・・・サン・・ニ・・・イチ・・・・」
六号の顔の画面が点滅し、カウントダウンが始まる。
突然の反応に驚愕したカイはじろじろとそのモニターを見つめる。
そして数字がゼロになった途端六号のモニターから、そして艦内の放送施設からファンファーレが流れる。
「うおう!?何だ、何だ!?」
盛大なファンファーレが流れ、そして後に続くように大音量の拍手が鳴る。
同時に、厨房外の廊下がどやどやと騒がしくなりはじめた。
「おお!!ついに閣下の演説が始まるぞ!!」
「さっさと俺達も中央モニターを見に行こうぜ!あそこなら大画面だ!!」
ばたばたと走る音に興奮した声、艦内のクルー達が我先にとモニター前に集まろうとしているのだ。
「いよいよ開始か・・・・・そっか、待てよ?
今がチャンス!!」
六号の画面に映し出された首相を見ながら、カイは思いついた名案に表情を緩めた。
『女は魔物である!!』
大音量で、スピーカー越しに全てに響かん限りの声が流れる。
帝国全土に、そしてイカヅチ艦内に設置されたモニターにはある映像が映し出されていた・・・・
『タラークの歴史が始まりし時から今まで、憎き女共は我らを弾圧し続けてきた!』
演説に沿う様に流れる映像は、まさに女からの弾圧の情景が映し出されていた。
絶え間ない闘争の数々、そして壊滅されるタラークの軍勢。
旧世の宗教に由来する地獄に存在するという鬼さながらに映像化された女達―――
まさに恐怖と憎悪が具現化したような怪物の映像だった。
『女共は男の肝を食らい尽くし・・・・暴虐に!残酷に!!精をも啜り上げる!!!』
映像は切り替わり、襲われた男達の姿がまざまざと映し出される。
包帯を全身を巻き苦しそうにしている者、恐怖で震え上がり泣き出す者。
女に襲われた男達のなれの果てがそこにあった。
『「滅志」といっては男から略奪を繰り返し、「圧私」といっては苛酷な労働を強いてきた!!』
カイがアレイクと待ち合わせした中央広場には、現在大勢の国民が集められている。
見た所階級は低い者が多かったが、その人数はまさに膨大である。
そんな彼等の真上には巨大モニターが設置され、首相の映像が映し出されている。
巧みな話術、そして飛躍された女への負の感情の増大を促す映像に、国民達は興奮と熱狂の声をあげた・・・・
「へえ、女ってこんな悪そうな生物なのか・・・・・」
熱狂している国民とは裏腹に、カイはどこか感心した様子で一人モニターを見ていた。
六号に映し出される映像はビジュアル的にも申し分なく、はっきりとした映像が映し出されている。
「確かにこれじゃあ敵だっていうのも無理はねえな。ひっでえ事しやがるぜ」
軍部の巧妙な憎しみの感情を促す映像とも知らず、カイは妙に納得していた。
「あー、くそ!!俺にも活躍の場があればな〜〜
こんな奴等、俺がヒーローの名にかけて一掃してやるのによ!」
うずうずする気持ちが押さえ切れずに、カイは足踏みを繰り返す。
幸い他のクルーは皆艦内のあちこちに設置されているモニターに夢中で、彼を咎める者はいない。
「・・・って、こんな所でのんびりしている場合じゃない。今のうちに艦内を見ておかないとな・・・・
いちいちうるさいこいつも、今は映像を映しているだけだからな」
映し出されている六号の画面をこつこつと叩き、カイはにっと笑った。
クルー達の注意が演説に向いている間に、艦内を回ってみようというのが彼の考えだった。
「じゃあさっそくレッツゴー!」
六号の小さな機体をひょいと持ち上げて、カイは廊下を走り出す。
そして運ばれながらも、六号は首相の演説を画面より流し続ける・・・・・
『そんな永きに渡る女共の屈辱と隷属の歴史に、終止符をうつ時がやってきたのだ!!!』
「女への屈辱と隷属の歴史か・・・・・・」
カイは耳に入る首相の演説を聞きながら、ぼんやりと考え込む。
『・・・・・をお願いしますね・・・・・』
脳裏に浮かぶ姿は白いワンピースを着た一人の―――――
「あれが女だと思ってたんだけどな・・・・・・」
消えた記憶の中に残されたかすかな映像。
それがどれほどの意味を持ち、どれ程の大切な情報なのか、カイには分かってはいなかった・・・・
<First encounter その5に続く>
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