VANDREAD連載「Eternal Advance」



Chapter 1 −First encounter−



Action6 −三人−




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『わああああああぁぁぁぁぁぁぁーーー!!!!』


広場の群集の高らかな叫びと共に、ただじっと沈黙していた巨大な宇宙戦艦が活動を始める。

盛大に音楽隊のファンファーレが鳴り響き、群集が熱い咆哮をほとばしる。

首相の演説に感動した者、映像に感化された者、女への怒りを漲らせている者―――

思いはそれぞれだが、いずれにしても国民の影響度は計り知れない。

モニターやスピーカーにより流された首相の演説によって、タラーク全土が気持ちを一つにしていると言えるのだから。


『イカヅチッ!イカヅチッ!!イカヅチッ!!!』


広場の中央に設置されていた台座の固定ボトルが一つ一つ外れていく。

イカヅチ下弦に取り付けられたノズルが艦内機関部より供給されるエネルギーを排出し、激しいまでに火を噴かせた。

帝国全土をリズミカルに震動させながら、イカヅチはその巨体をゆっくりと浮かべ始める。

都市に蔓延する蒸気を対流させながら上空の大気層を潜り抜け、いよいよ宇宙へと航路を取る。

熱意と大きな期待を背に、イカヅチは今タラークより旅立ったのだ――――















「グラン・パ様、ただ今出航にてございます」


とある一室で――――

薄暗い静寂に満たされた部屋で男の声が部屋内より発される。


「うむ、ご苦労」


男が控える部屋の入り口より奥行きを隔てる御簾の向こう側に、老齢の男が一人座っていた。

顔を覆う深い皺と年老いた肉体はひ弱な様相そのもの――――

しかし手元で映し出す立体モニターを見つめるその眼光は、辛酸と苦難をくぐり抜けた者のみに宿る鋭い光を発していた。

この老人こそ現在のタラークを導き、男の帝国を築き上げた第一世代『グラン・パ』である。


「・・・・いよいよ、か・・・・・」


立体モニターを見つめながら表情を険しくさせて、グラン・パはぽつりと呟く。

モニター内に映し出されているのは、いよいよ出航された宇宙戦艦イカヅチ。

タラーク全土の期待を一身に背負って飛び立つその姿は、正に雄大そのものだった。


「・・・・・」


だが、グラン・パは決して表情を緩める事も喜びを表情に浮かべる事もない。

ただ冷徹なまでにじっとイカヅチの姿を見つめていた・・・・・・・
















宇宙へ航海に乗り出したイカヅチ、その艦内の一画において――――
















「では、イカヅチの門出と仕官学校一期生の卒業を祝って・・・・乾杯!」


首相の演説も終わり、式典を仕切る司会の音頭によりパーティーが始まっていた。

装飾に彩られた会場は現在数多くのテーブルが並べられ、それぞれに大量の酒やペレットが振舞われている。

テーブルの周りには卒業生達が軍服に身を包んで談笑をしており、出航前までの緊張感は既に消失していた。


「いやあ、いよいよ演習となるとわくわくするな」

「ああ、今回の出航には大規模な軍部の作戦があるからな。
俺も今から血が騒いで仕方がないよ」

「お前は確か新型の蛮型要員だろう?前線で活躍するお前が羨ましいよ」

「俺のこの鍛えられた腕っ節で、女共を叩きのめしてやるさ!」


卒業生達は今回の出航に秘められた意味を理解しているのか、会話も演習の話題が中心となっている。

演習を待ち望む者、緊張している者、興奮している者等人それぞれではあるが、今この場は無礼講であり、誰もが和やかに語り合っていた。


「どうだ?今回の演習が終わったら、記念に子供でも作らんか?」

「貴様との子か、悪くないな」


首相も首相で用意された主賓席にて、談笑する卒業生を頼もしそうに見つめ、グラスの酒を美味しそうに口に運んでいた。

そんなパーティーの会場へ、どたばたとせわしない足音が近づいて来る。


「まったくやたら広い船だな、たく・・・・ここか!」


開け放たれている自動扉を通り過ぎ、給仕姿に身を固めたカイが飛び込んでくる。

どうやら慌ててきたらしく呼吸は乱れ、身につけた白いエプロンも少々乱れていた。

軍服に包んでいる彼等とは違って、カイの格好は妙に会場内に浮いた姿になっている。


「おーおー、雁首揃えてうじゃうじゃといるじゃねーか」


きょろきょろと会場を見渡して、カイは興味津々にしている。


「ピピ、ココニイルスベテノニンゲンハ、アナタヨリカイキュウガウエデス。
サキホドノハツゲンハブジョクザイヘノケイコクタイショウトナリカネナイノデ、ゴチュウイヲ」


冷静にカイの発言を分析し、六号はきびきびと注意をする。

どうやら演説も終えて、六号も再び起動したようだ。

カイは鬱陶しげに六号を一瞥し、その機体を腕に抱えて会場の外に出る。


「お前はごちゃごちゃうるさいの!
俺は今からちゃんと仕事をするから、お前はどこでもいいから待機しておいてくれ」

「ピピ、リョウカイ。オシゴトノセイコウヲイノリマス」


カイの皮肉めいた発言も聞き流して、淡々と比式六号は格納庫入り口のセンサーの傍にちょこんと停止する。

その姿は、まるでセンサー前に設置されたオブジェの様に自然だった。

カイはそんな六号の姿に口元を緩めて、再び会場内へ出戻りする。


「さてと、早速仕事をこなすとするか。給仕ってどういう仕事をやればいいんだろうな・・・・」


きちんと厨房の家事長から説明があったはずだが、聞き流していたカイであった。


「ようするに、軍の連中の相手をすればいいって事だな。
んじゃあ・・・」


考え込んだ挙げ句、勝手に一人で納得したカイはさっそく会場内を歩き始める。

賑やかな会話に包まれ、奇麗に装飾された会場がカイの目に飛び込んできた。


「すっげえ奇麗な会場だな。
あの馬鹿親父の酒場もこれくらい煌びやかだったら、ちっとは客も来るってのによ」


実に客商売の経験者らしい台詞を言って、彼は何気なく一つのテーブルへと向かう。

そこには、士官学校卒業生達のとあるグループが話しこんでいた。


「・・・て言う事で、僕は護衛艦『霧島』のオペレーターを全面的に任される事になった」

「へえ、さすがは通信学を学んだだけあるな」


会話は周りにいる卒業生達となんら変わりはないが、彼等にはある共通点があった。

それは彼等は士官学校でもトップに位置するエリート集団であり、今回の演習で重要な任務を命じられている人達ばかりだった。

ある一人を除いて、だが・・・・・・・・・






「ドゥエロ、お前は今回の演習はどういう仕事を任されたんだ?」

「はっはっは、お前だったら引く手数多だろう。羨ましい限りだぜ」






エリート集団の人間が話し掛けているにも関わらず、ドゥエロは沈黙を守ったままだった。

まるで質問に対する答えを述べる事に意味はないと言わんばかりに。


「それがよ、こいつ進路志望を白紙で出したそうだぜ」

「ええ!?本当かよ!?お前だったらどんな仕事でも思いのままだろうに!」


エリート一同は信じられない顔をして、口々に話し掛ける。

ドゥエロ・マクファイル、彼は士官学校内でもエリート中のエリートに位置する人物である。

学業のみならず運動能力もトップの成績を評価されており、軍部でも期待されている人物だ。

だが彼自身はそんな成績には何の興味もなく、また彼にとっては当たり前の事だった。

当たり前であるが故に、彼がこなす全ての仕事は100%達成できる事柄であり、自分が持つ才能をきちんと把握できる人物であった。

よって彼には今回の出航すらも興味がもてる任務でもなく、退屈な出来事とも言えた。


「・・・・・・・・」


エリート達の質問にも目を伏せるばかりで答えず、彼は淡々とグラスの酒を飲む。

やがて他のエリート達も彼の淡白な反応に無駄だと判断したのか、やがて遠ざかっていった。

ところが、そんな彼に逆にてくてくと近づいた行く者があった。


「どうもどうも、お邪魔致しやす。酒のお代わりはいかがっすか?」

「・・・?」


聞き慣れない声にドゥエロが顔を上げると、そこには笑顔で立っているカイがいた。

白いエプロンに腰に十手の彼の姿は、エリートのドゥエロの興味をひくには充分だった。


「君は三等民か?」

「そうっす!今日づけで臨時配属になった給仕のカイ=ピュアウインドです。
どうぞよろしくお願いします」


はきはきと営業スマイルで、カイは答える。

この辺りは酒場で鍛えられた客さんへの接客マナーが役に立っているようだ。

本来ならここまで堂々としているカイを咎めるのが普通だが、ドゥエロは逆に興味を持った。


「臨時の給仕か。なかなか風変わりな格好をしているな」

「これが俺の基本スタイルなもんで。で、お代わりはいかがっすか?」

「ああ、もらおうか」


ドゥエロがお代わりを受け取ろうとしたその時、横から口を挟む第三者が入った。






「いやー、皆さん盛り上がってますか〜?」






小さな小箱を手にして笑顔で会話に割り込んで来たのはバードだった。

整った顔つきを笑顔に変えて、彼は二人が口を返答する暇も与えずべらべらとまくしたてる。


「これ、うちの会社の新製品が極秘で特別に精製された『滋養強壮丸』!
大きな声じゃ言えないけど、他の会社の製品とは段違い!
どう?お近付きの印に」


バードが小箱の中身を広げると、カラフルな色彩をしているペレットが飛び出てくる。

元々彼はガルサス食品というタラーク一の大手食品会社の御曹司である。

ガルサス食品はタラーク中の主食であるペレットの生産をしており、国民の食料を賄える程の規模を有しているのだ。


「へえ、変わったペレットだな。こんな色のペレットなんて初めてみた」


バードの話に興味を持ったカイが、ひょいとバードの小箱を覗き込む。


「何だぁ?お前、三等民か。じろじろと見るなよ」

「そんな固い事言わなくてもいいじゃないっすか。
そのペレットが美味そうだったので興味を持ったんっすよ」


いつも酒場で食べていたペレットは醤油味かソース味だったので、バードが持っている小箱の中身が余程珍しかったようだ。

興味津々に見ているカイに気を良くしてか、バードもやれやれと言いながらも嬉しそうに話し始める。


「まったくしょうがないな。
本来なら三等民には贅沢すぎる一品だけど、どうしてもと言うなら説明してあげなくもない。
これはだね・・・・」


再び凄い勢いで話し始めるバードに、しきりに相づちをうつカイ。

端から二人の様子を見ていたドゥエロは、やがて興味を失ったようにグラスを手に去ろうとする。

そこへ突然会場中の証明が落とされて、正面にスポットライトが当てられる。


『卒業生の諸君!正面に注目せよ!!!』


会場内のスピーカーから流れる声に、一同はサッと正面を注視する。

同時に正面の陣幕が降ろされ、登場した大きなスクリーンに映像が流れ始めた。

その映像とは今回の演習で初使用される新型の蛮型の紹介であり、外見・性能・武装の全てをやや大袈裟に表現した内容になっていた。

だが見つめる卒業生達はすっかり感化されたように、大きな歓声を上げた。


『諸君、改めて紹介しよう!!大きな拍手で迎え、そして称えよ!!
我らが九十九式蛮型撲滅機である!!』


再び会場内を照明が眩く照らされ、正面のスクリーン及び隔壁が左右に展開される。

同時に開かれた隔壁より出てきた数十体の蛮型が、ずらりと正面に並べられた。


「うおおお、しびれるぜ〜!?」

「かっこいいじゃねーか!」


映像による脳内に残るリアリティにプラスして、派手な演出による蛮型の登場―――

卒業生達の興奮と熱意を高めるには充分すぎる程であった。

だが、そんな彼等に比べて―――






「か、かっこわる・・・・・あんなの、どこがいいんだ?」

「つまらん」






バードは少し引きつり気味に、ドゥエロは冷淡にそうコメントした。

個性的な考え方と感性を持っているバ−トとドゥエロは、あまり関心がない様子だった。

ゆえに・・・・・






「・・・・・・・・いつか一緒に戦おうぜ、相棒」






傍らで熱い視線で最前列に位置する一体の機体を見つめる一人の男がいる事には気づく事はなかった・・・















そして――――



















バチバチバチ、ドドーーーン!!!!















激しい轟音と共に、突然旧艦区の格納庫である会場が激しく震動した。


「な、何事だ!?演習にはまだ早すぎるぞ!!!」


全てが滞りなく進んでいた式典の突然の予定外に、首相は顔を赤くして叫ぶ。

すると、非常回線から切羽詰まった声が流れ出す。






「これは演習ではありません!
女です!女の奇襲です!!!!」






後にタラークの歴史に刻まれる大事件の始まりの鐘が鳴るのであった・・・・・・・





















<First encounter その7に続く>

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