ヴァンドレッド the second stage連載「Eternal Advance」
Chapter 16 "Sleeping Beauty"
Action11 −隔離−
たとえ途中過程であっても、仕事が失敗した時は上司に報告しなければならない。海賊業であっても、社会の常識は変わらない。
バート・ガルサスがペークシス・プラグマのリンクに失敗した事は、パルフェを通じてブザムに報告が行われた。
お頭のマグノは病に苦しむ人達を見舞うため、現地に慰問中。艦内の業務は全て、副長のブザムが取り仕切っている。
ニル・ヴァーナには現在、約三分の一が救命チームとして惑星に上陸。メインブリッジにも、人は少ない。
「そうですか……バートが、失敗してしまうとは」
「まだ一度目の実験だ。現地に降りたパルフェの報告では、引き続き実験は続けていくそうだ」
「ヴァンドレッド・ジュラによる惑星のホールドと、"ヴァンドレッド"の起動。そしてペークシス・プラグマへのリンク――
実験を行うメンバーに相当な負担がかかります。少しでも、休憩を入れるべきでは?」
メインブリッジには、二人の重鎮が控えている。マグノ海賊団副長のブザムと、ドレッドチームリーダーであるメイア。
メイアは滅多にブリッジに直接訪れないが、今の所敵襲もなく艦内で待機。カイ達の実験が気になって、様子を見に来ていた。
日頃激務に追われるメイア、待機中であれ本人こそ休息を取るべきなのだが、彼女自身の責任感が許さないらしい。
職務熱心を咎められず、ブザムも黙認していた。休息を促す彼女の進言に、内心苦笑いしていたが。
「バート本人たっての希望だ、失敗した責任を感じているのだろう。
その強い責任感を、日頃から持ち続けてもらいたいものだが」
「確かにそうですが、いざとなれば頼れる男です。心配は無用かと」
ちらりと、横目でメイアの表情を伺う。照れも何もない、ごく当たり前の顔。彼女は当然のように、男を賞賛した。
過去命を救われた恩、というだけではない。言ってみればそれはキッカケでしかなく、メイアはようやく彼を評価出来るようになったのだ。
ブザムもバートの事は日頃の職務態度は別にして、彼の働きぶりは認めている。でなければ、船の舵取りなど任せたりはしない。
バートを評価しているからこそ認め、そして心配もしていた。
「……バートは、大丈夫でしょうか」
「と、言うと?」
「今回の任務は、ニル・ヴァーナの操舵とは勝手が違います。初めての試みであり、誰も成し遂げた事のない実験。
難易度の高い実験でありながら、多くの人の命運を背負っている。責任を重く受け止めすぎていないか、心配です」
「難しいところだな……それこそ、奴の舵取り次第ではある」
惑星のテラフォーミング、彼女達の故郷メジェールの悲願でもある。もし成功すれば、船団国家の在り方そのものを変えられる。
今回の任務も実験という名目だが、その成否には惑星に住む人達全員の命運がかかっている。失敗すれば、彼らに未来はない。
その責任を重く感じるのは、決して悪い事ではない。任務を軽んじるようでは、成功など絶対にあり得ないのだから。
だからこそ、今のバートに上手く伝えられる言葉が見つからなかった。肩の力を抜けという程度しか、声はかけられそうもない。
一度目が失敗したのは本人のせいではない、と気休めにも言えはしない。それ以外の理由が、思い浮かばないのだから。
ブザムは計器のチェックを行い、実験に支障は出ていないか確認する。せめて、このくらいはしてやらなければ。
「それに断続とはいえ、惑星をホールドしている時間はかなりのものとなるでしょう。
カイとジュラ、あの二人への負担も大きくなります。実験を多く積み重ねるのも難しいかもしれません」
「パルフェの話によれば二人の気力と、ペークシスの機嫌次第との事だ」
分かっていた事ではあるが、実験には数々の困難が待ちかまえている。その際たるは、ペークシス・プラグマだろう。
ペークシス・プラグマの完全制御は、機械にも人間にも行えない。原因不明に不安定になり、皆を一喜一憂させる厄介な代物。
今回の実験では、このペークシス・プラグマが成功の鍵となる。ペークシスの力を借りて、惑星の浄化を行う。
ペークシス・プラグマの力を引き出すには、結晶体へのリンクが必要となる。バートは一度目、それに失敗してしまったのだ。
「ペークシス、ですか――この星も、ペークシスのデータを欠損させて作り出された星と聞きました。
時々、この物質は何なのだろうと思う時があります」
「……私もだ。今までは単なるエネルギー源と思っていたが、時々意思があるように思える時がある」
無機物である結晶体に、意思が存在する。何ともファンタジーな話だが、二人は大真面目に話していた。
ペークシス・プラグマはこれまで、超常とも呼べる現象を次々と起こしてきた。人の意思が入る余地が無いほどの、恐るべき現象を。
人はただ、巻き込まれるだけだった。多くを飲みつくし、変えてしまう。未知なる力に、振り回される一方だった。
恐れながらも、使わなければ生きてはいけない。この超常現象に、これまで何度も助けられてきたのだ。
人を救う意思があったのかどうか、結局のところわかってはいない。ただ、偶然では決して無い。
必然であることを確信出来たのは――カイ・ピュアウインドの生還だった。
「カイから話は聞きました。母艦を相手に一人で立ち向かい、最後はペークシスの力を臨界させて時空間を歪めた。
そして今では、二つのペークシスの破片を使いこなしている。
ペークシス・プラグマ――この結晶体はまぎれもなく、あの男を助けている」
「途方も無い話だが、そう考えるとワームホール現象が起きた理由も一応の説明はつく。
あの時タラークの軍艦がミサイルを放ち、我々のいた戦艦そのものを破壊しようとした。
同じく戦艦に取り残されていたカイを救うべく、宇宙の彼方へ逃がしたのかもしれない」
過程に基づいた過程、結論ありきで推論しているだけ。答えなんて出ず、解答に対して検証すらも出来ない。
カイ本人は決して、特別な人間ではない。少なくとも出逢った当初は綺麗事を語るだけの、未熟な子供だった。
成長はしている。成果も出している。大事な仲間となったのも確かだ。けれどそれでも、何処にでもいる人間なのだ。
メイア達にとって特別となったのは、特別となるような行為を行った為。ペークシスも同じくであれば、認められる何かを成したのか?
ブザムはふと、二人の少女の顔が思い浮かんだ。ソラとユメ、身元不明の少女達。
立体映像である彼女達は全身全霊でカイを守り、主として慕っている。その忠誠心についても、定かではない。
どれほど考えても、分からない。この実験がもし成功出来れば、その答えも見えてくるかも知れない。
「……直接、ペークシスに聞いてみるのもいいかも知れませんね」
「バートに期待するしかあるまい。リンクが成功すれば、意思疎通も可能となるかもしれん」
なので、今は冗談で済ませる。それを語り合えるくらいになれたのもまた、二人にとっての変化かもしれない。
貴重な変化をもたらした男達は、宇宙で苦心している。彼女達は見守り、その成就を見届ける。
この時の話を聞いていた者は誰もおらず――真実は、埋もれていった。
「……どうだった?」
『失敗。しかも、今度はペークシス君が全く反応もしてくれない。何かご機嫌斜めみたいなの』
休息も入れずに行った実験は、結局失敗に終わった。一度目よりも二度目、そして二度目より三度目の方が結果は悪い。
少なくとも一度目はペークシス・プラグマに反応はあったのに、三度目の実験ではまるで反応しなくなってしまった。
"ヴァンドレッド"の起動は問題なく行われ、惑星のホールドはスムーズに出来ている。リンクだけが上手くいっていない。
その事実が、バート・ガルサスの心を苦しめている。
『何度もごめん! 今度、今度こそうまくやるから!』
「ちょっと待ってよ!? いい加減、休憩しない? ジュラ、もう疲れたんだけど」
『こうしている間にも、大勢の人が苦しんでいるんだ! 僕達に休んでいる暇はない!』
「あのな……元気なのは、お前だけだから」
上手くいっているとはいえ、パイロットには過度の負担がかかっている。カイもジュラも、操縦席に寄りかかっていた。
確かにまだ、回数はこなせる。病に苦しむ人達を助けることに、何の異存もない。やる気だって当然持っている。
ただ失敗も三度目に至れば、自分達に何か問題があるのだと気付いてしまう。
「何を焦っているんだ、お前。もうちょっと深呼吸して落ち着けよ」
『この非常時に落ち着いていられるか! 真面目にやれよ、カイ!!』
「お、お前に真面目にしろと言われるとは思わなかった……」
頭を抱える。バートがこんな精神状態では、上手くは決していかない。悪循環に陥っている。
挽回するには成功に至る何かが、もしくは失敗した原因を突き止めなければならない。立ち止まる必要がある。
悩み苦しむ友人にどう説明すべきか、カイは考えあぐねる。自分が彼の立場ならば、絶対に止められたくはない。
こういう場合は――責任の所在を、別に押し付けるしかない。
「落ち着いて聞けよ。お前に責任があるとは限らないだろう?」
『どういう意味だよ!』
「ペークシスの機嫌が悪いのかも知れない。パルフェがさっき言ってただろう。
機嫌が悪い奴に頼み事をして、聞いてくれると思うか? そっぽ向かれるだけだ」
『……機嫌が直るのを待つしかないのか」
「ちょっと、一服入れようぜ。パルフェにその間、ペークシスの様子を見てもらおう。
この任務は協力してやらないと、上手くはいかない。ペークシスのご機嫌次第だ」
『……、分かった……怒鳴って悪かったな、カイ……』
「イラついている時はそんなもんだ、ペークシスだって同じだよ。さあ、休憩休憩。
そうだ、あの子のお見舞いにでも行ってやろうぜ。病院のベットで暇しているだろう」
『ああ、そうしよう』
ペークシスに何もかも押し付けるのは気が進まなかったが、バートが落ち着いたのでよしとしよう。
安堵するカイに、通信が入る――ソラからだった。
『……』
「ど、どうした、ソラ……? 何か、機嫌悪そうだな……?」
『――問題ありません。私には何も問題はありません、マスター』
責任はないのだと何故か強く主張されて、カイは汗混じりに頷くしかなかった。
命のかかった現場は、大変である。
<to be continued>
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