ヴァンドレッド the second stage連載「Eternal Advance」
Chapter 16 "Sleeping Beauty"
Action10 −使命−
病に侵された惑星を救うのは、決して他人事ではない。仲間達が危険を顧みず惑星に上陸して、苦しむ人達を救っているからだ。
地球の企みを阻止する目的以上に、何が何でも救いたかった。英雄だろうが海賊だろうが、男でも女でも一切関係ない。
戦闘員・非戦闘員関わらず、一致団結して困難に挑む。地球母艦との戦闘以来の、総員決死であった。
ともなれば、仲間達の悲願を背負って立つ者達の覚悟は自然と重くなる。
「ヴァンドレッド・ジュラ、発進!」
「"ヴァンドレッド"、起動!」
カイのSP蛮型とジュラのドレッドの合体機、ヴァンドレッド・ジュラ。二つの機体が一つとなった時、二つのペークシスが同時起動。
防御機構に特化したヴァンドレッド・ジュラが蒼と紅の光を放ち、小型ポットから放出されたエネルギーが惑星全体を覆う。
合体後の"ヴァンドレッド"起動は初となるのだが、動作確認すら行なっていない試みは驚くほど順調に進んだ。
蒼と紅のペークシス・プラグマ、味方と敵のエネルギー結晶体が"合体"して強い光を放出する。
「やってみるもんだな……本当に上手くいった。シールドの強度も高まっているんじゃねえか?」
「それだけじゃないわ。ホールドの展開も早いし、エネルギーの出力率も段違いよ。
これなら美的センスの欠片もない母艦が何隻来ようと、ジュラの敵じゃないわね」
敵と味方が力を合わせたその時、奇跡すら起こす。マグノ海賊団とカイ達男三人は一致団結して、地球母艦を攻略した。
そして今、新しい奇跡が実現した。相反する二つのペークシス・プラグマが一つとなり、ヴァンドレッドを進化させたのだ。
外見は何も変わっていないが、機能は全てヴァージョンアップされている。心の成長を体現したかのような、内面の向上。
この嬉しい誤算に、女性陣は大喜びした。
「ジュラに感謝しなさいよ、カイ。ジュラの協力のおかげで、こうして成功したのだから」
"違うもん! ユメがますたぁーを応援しているからだもん!"
"マスターの御力となれたのでしたら、この上ない喜びです"
「あんた達、何の関係もないじゃない!」
「……作戦が成功してから手柄を争えよ、お前ら……」
通信モニター越しに喚き合う女の子達を前に、一人ぼっちの少年は嘆息する。何とも、逞しい娘達である。
作戦はまだ途中。ヴァンドレッドの機能は飛躍的に向上したが、エネルギーの出力度はまだまだ足りない。
惑星のテラフォーミングを行うには破片ではなく、ニル・ヴァーナにある本体のエネルギー結晶体の力が必要だった。
オリジナルのペークシス・プラグマとニル・ヴァーナがリンクして、惑星に光をもたらさなければならない。
「俺達は成功した。後は――」
「――バートね」
ペークシスの破片を使用するのと、ペークシス・プラグマの力を運用するのは難易度がまるで違う。
一番の違いは、エネルギーの出力だろう。惑星全土の環境改善を行うともなれば、あの現象に匹敵する。
時空間移動――カイ達を宇宙の果てまで飛ばした、ワームホール現象。時空を歪めるエネルギーが必要とされる。
それほどの力となれば、通常運用では起こせない。あの時のように、ペークシス・プラグマを覚醒させなければならない。
眠れる獅子を起こすには、人間の強い想いが必要。ニル・ヴァーナとリンクするバートが今回目覚めさせる。
「心配しているの? あいつなら大丈夫よ、上手くやれるわ」
「……意外だな。馬鹿にしているように見えたけど」
自慢の金髮を切ってから、ジュラは随分と性格が丸くなったが、それでもたまには人をからかったりする。
バートはお調子者なので、女性に嫌われてはいないがよく馬鹿にされている。ジュラも何かと、本人に悪口を言ったりしている。
無論バートがいざという時頼りになるのはカイも分かっているが、ジュラがこれほど信頼しているとは思わなかった。
カイに問いかけられて、ジュラは苦笑いする。
「普段ヘラヘラして頼りないけど、あいつはメイアを命懸けで守ってくれたからね。
それに、敵に破壊されたニル・ヴァーナを直してくれたのもあいつでしょう? 今回もあんな感じでやってくれるわよ」
ジュラはバートの成功を疑っていなかった。自分達の役目を果たした後は、バトンを渡してのんびりしている。
むしろジュラが気になったのは、カイが煮え切らない態度を取っている事。心配そうな顔をして、黙り込んでいた。
カイならむしろ友達の成功を確信するはず、ジュラは怪訝な顔で問い返す。
「アンタこそ、一体どうしたのよ。バートの事、信じてないの?」
「信じてない訳じゃねえけど、今回の仕事は船を操縦するのと訳が違うからな……」
少女シャーリー、あの惑星での友人の存在がカイを不安にさせていた。第三者ではなく、唯一の大事な人間。
一人の人間を特別扱いすれば、他の人間への思い入れが薄くなってしまう。バート自身が自覚して、嘆いていたのだ。
友達1人を救おうとして、他の人間をおざなりにしてはいけない――悲痛なまでの覚悟が、逆に不安要素と化している。
何よりカイが、バートの悩みに明確な答えを出せてやれなかった。今の今でも、答えを出せずにいる。
仮に九人救うために一人を犠牲にしなければならなくなったら、自分に出来るだろうか?
全員救えればいいに決まっている。ただその為には、全員平等に想いを向けなければならない。
「そもそもあいつだけがどうしてニル・ヴァーナの手綱を握れるのか、俺達は知らないんだぞ」
「他の人間には出来ない仕事――そう考えると、余計にプレッシャーを感じるわよね」
過去メイアが戦闘中に倒れた時、サブリーダーのジュラがドレッドチームを指揮しなければならなかった。
あの時のプレッシャーを思うと、ジュラは今でも夢に見るほど震える。困難な状況であればあるほど、心が締め付けられる。
仲間達が励ましてくれなければ、難局は乗りきれなかった。自分の非力を痛感した瞬間でもあった。
しばし考え込んでいたジュラだが、表情を明るくして手を叩く。
「そうだわ、今度はジュラがあいつの力になってあげるわ!」
「力になるというと?」
「それを今から、二人で考えるのよ」
「俺も!? 自分で考えろよ!」
そうは言いながらも、カイはジュラの脳天気なアイデアに背中を押される形で考える事にした。
自分の大事な友人に贈る、自分なりの意見。彼の問いに答えてこそ、本当の意味で彼の力となれるだろう。
全員を救わねばならない状況で――たった一人に思い入れするのは、正しいのだろうか?
任務に、私情を挟んではならない。個人を優先させて、大勢を見捨てるような真似をしてはならない。
何かを選んでしまい、結局何もかもを失ってしまう。そんな事があっては、ならない。絶対に、何もかも救わなければならない。
だから僕に、力をかしてくれ――ペークシス!!
『――失敗です』
「なっ……何で、何でだよ、ペークシス……!」
無慈悲に告げられる、試みの失敗。不安が的中してしまい、バート・ガルサスは操舵席でもがき苦しむ。
クリスタル空間に木霊する彼の絶叫は、まるで悲鳴のようだった。苦しむ人々を救えなかった、その後悔が新しい苦しみを生み出す。
平等に全身を救おうとして、平等に誰も救えなかった。大事な、友達さえも。
「僕に、何が足りないと言うんだ!!」
『ペークシス・プラグマは人の想いを――』
「僕の思いが不純だと、君はそう言いたいのか!!」
『――』
「……ごめん、言い過ぎた……」
『まだ一度目です。気にせず続けていきましょう』
今はまだ実験段階、この失敗も次の成功への大事な材料となる。それは分かっているが、バートの不安は晴れなかった。
必死になって消そうとすればするほど、シャーリーへの想いが強くなってしまう。その気持ちが、邪念となっている。
後ろめたさが膨れ上がるばかりで、想いが強くなってくれない。不安であればあるほど、心が曇っていくようだった。
バートは突っ伏したまま、ソラへと声を投げかける。
「人の想いって、何なんだろう? ペークシスは何を感じとろうとしているのかな?」
『貴方は、他人の心が分かりますか?』
「そんなの、分からないけど――」
『同じです。ペークシス・プラグマも、知りたいのです。貴方の、心の中を』
――全ては、見抜かれているということか。自分の、浅はかな心を――
バートは頭を振って、少女の事を頭から追いだそうとする。救済だけを、考えればいい。人を救うことだけを、考えろ。
神に、なれ。困った人達を救う、ただそれだけの神に――
「……神に……神になるんだ……僕は……」
『――』
ソラは、ただ見ているだけだった。
<to be continued>
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