ヴァンドレッド the second stage連載「Eternal Advance」
Chapter 16 "Sleeping Beauty"
Action6 −取材−
ミスティ・コーンウェルは悩んでいた。思い立ったが吉日、行動に移したその日に同じ問題にぶつかってしまう。
カイ・ピュアウインドの紹介で、イベントクルーに仲間入り。海賊への入団は断った彼女だが、熱烈に歓迎された。
遥か過去から来たメッセンジャー、異文化に触れた異星人、男女関係を知る人間――是が非でもスカウトしたい、人材。
加えてイベントの華となりそうな美少女とあって、採用試験などは一切無く正式にイベントクルーとなった。
見習い期間に散々苦労したカイとしては、複雑な気分であった。
『ミスティが本採用になったから、見習いのあんたは彼女の部下ね』
『俺はまだ見習いかよ!?』
『ふふーん、こき使ってやる』
ただ仮にも海賊稼業に関わる身となるのだから、集団行動に適しているか人格面をチェックしなければならない。
イベントチーフのミカ・オーセンティックは、本採用を前提にした面接を行った。一対一で、真剣に向き合う。
チーフが第一に聞きたかったのは、志望動機。何故突然、イベントクルーとなることを希望したのか?
『あたしはメッセンジャーとして、父と母の遺志を多くの人に伝えなければいけません。
その役目はこの船の皆さんに伝えれば終わり、とは思っていません。
自分がこれまで見聞きした事――地球人を含めた、私の知る人間そのものについて、その全てを伝えたいんです』
『その為に、イベントクルーとなる事を選んだと? 具体的に何をやりたいのか、教えてくれる』
『病に侵されたこの星について取材し、地球により苦しめられている人々の事を全世界に伝えます。タラーク、メジェールにも』
『現地で取材!? 感染する危険もあるのよ! それに地球に関する情報を公開したら、両国家も黙っていないわ!』
『覚悟の上です』
『気に入った、採用!』
とんでもない事である。ミスティが本当に実行すれば、植民船時代以降の歴史が引っ繰り返ってしまう。
男だけの星タラーク、女だけの星メジェール。一つの性のみで国が成り立つのは、もう一方の性の真実が明らかにされていないからである。
地球が男女共存する星なのはもう明らかであり、地球出身である両国家の首脳が真実を隠蔽しているのは間違いない。
ミスティは国家機密に属する情報を全て、全世界に公開しようというのである。明るみに出れば、国が仰天する騒ぎとなるだろう。
彼女は海賊の仲間にはならないと言っている。つまり、いざとなれば自分一人で公開する覚悟なのだ。
今までとは比べものにならないスケールの一大イベント、ミカはすっかり惚れ込んでしまった。
『すぐにお頭と副長に許可をもらってくるわ! それと、わたしの子供を産んでくれる?』
『さり気なく何を言っているんですか!? あたしはお姉様一筋なんです!』
『女の子好きか、よしよし。時間かけて堕とそう、待っててね』
『この船は馬鹿な男か、変態な女しかいないの!? 助けて、エズラさん!』
チーフは意気込んでいたが、結局許可は出なかった。救命チーム志願と同じく、退院したばかりなので上陸許可が降りなかったのである。
大いに不満だった。体調は回復しているので余計にそう思うのだろう。ミスティは憤然とチーフに詰め寄った。
やる気は漲っているのに、行動に出られない。目標を見出せただけに、歯痒かった。
「これは大事なことなんです! 今も地球のせいでこの星に住む人達が苦しんでいるんですよ!?
先立って、私達が全世界に伝えないと駄目です!!」
「気持ちは分かるけど、落ち着いて。今あなたが上陸したら、感染する危険があるの」
「自分の命をかける覚悟は出来ています。お願いします、チーフ!』
『いいね、そのイベント魂。子宮が疼いちゃ――痛っ!?」
「セクハラですよ、チーフ」
「……そんなに怒らなくてもいいのに」
感染すると、船内にまで広がってしまう。物資も限られたこの状況では、船内感染は致命的だった。
地球を喜ばせる結末になるだけ、それはミスティも分かっているがこのままにはしたくない。
「取材チームは編成しているから、彼女達に任せましょう」
「あたしが企画したイベントですよ! あたしがやらないと意味が無いんです!!」
「ミスティ、わたし達は同じ部署のメンバーよ。信頼し合って始めて、結果が出せるの。一人でイベントは出来ないわ」
「はい……すいませんでした」
「じゃあ留守番をお願いね、わたしチームリーダーだから行って来るわ」
「裏切り者ぉぉぉーーーー!!」
チームとは、何だったのか。ウキウキしながら取材に出かけるチーフの背を、恨みがましくミスティは見送る。
自分以外のメンバーは全員上陸許可が出たのが、腹立たしい。大人しく留守番なんて出来そうになかった。
正確にはミスティはマグノ海賊団ではないので、その気になれば降りられる。彼女は足並みを乱したくないのだ。
生来の使命感の高さ、真っ直ぐな性根が良くも悪くも作用してしまっている。
「こうなったら、お頭に直訴してやるわ!」
拳を握って、ミスティはメインブリッジへと走る。こうした思い切りの良さは、なかなか小気味がいい。
カイ達男三人とは違い、彼女は早くも海賊の気風に馴染みつつあった。
病に侵された星でもイベントは行われる。楽しさなんて微塵もない、故人を偲ぶだけのイベント。お葬式。
この星では死者が出るのは珍しくない。お葬式も毎日のように行われれば、悲しみさえも擦り切れてしまう。
先日病院で命を落としたのは、三名。葬儀にはマグノ・ビバンやブザム・A・カレッサも出席して故人の冥福を祈る。
海賊にとって、死は身近にある。海賊業はそれほど危険であり、二人もこれまで多くの仲間を見送ってきた。
老僧は祈りを捧げ、遺体に手を合わせる。赤の他人であっても、死者への礼儀は欠かさない。
「さあ、土に返してやろう」
「それはできません」
葬儀に参席する星の代表者に拒否されて、マグノは怪訝な顔を向ける。葬儀の場に相応しくない発言だった。
個人を軽んじているのではない。この星の代表者は、一人一人の死を悼む心を持っている。
マグノが問い質すと、星の代表者は哀しげに視線を落とす――
「遺体は、地球が回収しに来るのです。
――あの機械で山頂へと運ばれ、定期的に地球の輸送船が回収しに来るのです」
「……何てことだい……」
上陸する前に話は聞いていたとはいえ、衝撃的だった。到底、許されることではない。
地球の手により汚染された星で生を強要され、死ねば墓にも入れずに遺体をバラバラにされてしまうのだ。
生を荒らされ、死を汚される。生死の全てが彼らの掌の上、自由や誇りなどありはしなかった。
老僧であるマグノにとっては尚の事、許せる話ではなかった。死すら弄ぶ彼らには、罰を下さなければならない。
海賊は、天に任せたりなどしない。罰を与えるのならば――自分達の手で、下す。
「遺体の回収が行われるのならば――」
「――そう遠くない内に、刈り取りが来るでしょう。メイアにも伝えておきます」
今回は誰かを守る、防衛戦ではない。誇りと自由を取り戻す為の、聖戦だ。
生者を助けるのではなく、死者を救う。失われた命を、また地球に奪わせたりはしない。
今も苦しむ人達全員の命は助けられない。ならばせめて、死者の遺体だけは守らなければならない。
心静かに決意を固めるマグノに、ニル・ヴァーナから通信が入った。
『お頭さん、お話があります!』
「おや、珍しい顔だね……何の用だい、ミスティ」
『うちのチーフから話は伝わっていると思いますが――』
ミスティの直訴を聞いて、マグノは葬儀の場ではあるが口元を緩める。まだ子供なのに、何とも痛快な提案をするものだ。
実現は極めて困難だが、後々の事を考えれば効果的なアイディアだった。上手く事を進めば、世論すら味方に出来る。
手回しなどやらねばならないことは山積みだが、彼女のやる気は買いたかった。
「駄目だよ、上陸は認められない。船でおとなしくしてな」
『お頭さん、お願いです!』
『……船で大人しくしていれば、何をやってもいいんだけどね……』
ミスティは一瞬キョトンとした顔をするが、次の瞬間表情を輝かせる。マグノは代表者に話をして、通信機を渡した。
見て見ぬ振りをしてその場を後にするマグノ達と入れ替わるように、通信画面を通じてミスティが代表者に訴えかける。
この星で自分達に何が出来るのか――それぞれに今、問われていた。
<to be continued>
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