ヴァンドレッド the second stage連載「Eternal Advance」
Chapter 16 "Sleeping Beauty"
Action5 −修理−
病に苦しむ人々を救うべく、急ぎ発足された救命チームが惑星に上陸。彼らの懸命なる救命活動に、人々は感激した。
反面、救う側の顔色は優れなかった。一生懸命活動を行っても死者が出てしまい、完治した人間にも再発の危険があった。
人々のみならず、星そのものが病に蝕まれている。星が病んでいる限り、星に住んでいる人々も健康ではいられない。
ドゥエロ・マクファイルは名医だが、この星の人間ではない。いずれは、旅立たなければならない。
人々を救いたいのであれば、この星そのものを治さなければならない。
「――ということで、カイとバートはあたしの仕事を手伝って欲しいの。惑星の、テラフォーミング!」
「……」
「……」
「何なに、その顔。カイの大好きな人助けだよ。やる気を出して!」
「何故パイロットの俺が呼ばれたのか、まるで分からん」
「俺は操舵手だけど、右に同じく」
ドゥエロが惑星で救命活動に勤しんでいる最中、カイとバートはニル・ヴァーナの会議室で打ち合わせをしていた。
救命活動の一環だが、対象は人ではなく星。惑星丸ごと治療する作戦に参加することになったのだ。
自分達に出来る事があれば、と意気揚々と参加した二人だが、作戦名を聞いても出来る事がまるで見えなかった。
パルフェはごめん、ごめんと言って、頭を掻いた。
「この星は地球の実験場の一つで、生命活動には適さない環境下で人々は生を強いられている。
現地の人の話だと、この星で亡くなった人の遺体も運ばれているそうなの」
「や、病で死んだ人の遺体まで奪われているの!? 何で!?」
「自己の保存が彼らの究極の目的、その為には丈夫で長持ちする臓器が必要となる。
敢えて厳しい環境に種を撒くことで、現状の地球の環境にも耐えうる肉体を育てているのだと思う」
完全に、人間扱いしていない。尊厳も何もかもを踏みにじる行為に、バートもカイも改めて強い憤りを覚えた。
ミスティが時代を超えて届けてくれたメッセージのおかげで、パルフェもこうして推測が出来た。
彼らの狂気を止めるには、彼らが為すこと全てを阻止しなければならない。
「それで、テラフォーミングか」
「うん、この星は明らかに地球による手が加えられている。元々は、これ程酷い環境ではなかったと思うの。
壊れてしまったものを修理するのが、あたしの仕事だよ」
ドゥエロは医者として人の治療を行い、パルフェは機関士として星の修理にあたろうというのだ。
タラークやメジェールでも、惑星のテラフォーミングには成功していない。今までのやり方では、絶対に成功しない。
惑星そのものの修理、壮大なスケールの仕事に男達は息を呑んだ。実現可能ならば、歴史に残る偉業だ。
実現可能であれば、の話だが。
「話は分かったけど……そんな事が可能なのか? 協力はするつもりだけど、俺達は何をすればいいんだ?」
「二人が戸惑うのも分かるわ。正直に言うとこの作戦はあたしも試みたことはないし、作戦実行にあたり実験も必要になる。
だからこそ、二人の力が必要なの! ソラちゃん、分析データを出力してくれる?」
「イエス、チーフ」
まだ新人だが、すっかりパルフェの助手となっているソラ。少女は会議室の中央に、救命活動中の惑星の映像を出力する。
惑星外には融合戦艦ニル・ヴァーナと、合体兵器ヴァンドレッド・ジュラの船影が見える。
作戦の概要データも表示させながら、パルフェはテラフォーミングの詳細を説明する。
「テラフォーミングに必要なのは、三つ。ニル・ヴァーナとヴァンドレッド、そしてペークシス・プラグマ。
ワームホールで飛ばされた時、二つの船が一つになった現象があったでしょう? あの現象を再現する」
「お前……この惑星を、結晶化するつもりか?」
「もしかして、僕達にペークシスを暴走させろというの!? 無茶だ!」
ペークシス・プラグマが暴走した際、海賊船と軍艦イカヅチが結晶体に覆われてしまった。
結晶はペークシス・プラグマが産み出したもので、結晶を介してペークシスのエネルギーが流れこんで改良。
素材の質まで変化させて、新しい船が誕生したのである。品種改良ならぬ、品質改良。
パルフェ・バルブレアは劣化した惑星の品質を改良するべく、星丸ごと結晶化させるつもりなのだ。
暴挙の一言では済まされない作戦に、男達は揃って反対の声を上げた。
「大体な、惑星を結晶化してしまったら、星に住んでいる人達も巻き込んでしまうだろう!」
「あんたもバートも暴走に巻き込まれた口だけど、ピンピンしているでしょう。ドクターからも検査結果は聞いたよ」
ペークシスの暴走で結晶が船全体に広がった時、船内にいた150名以上のクルー全員が怪我一つしなかった。
まるで乗員は傷つけまいとしたかのように、ペークシス・プラグマによる被害は発生しなかった。
ただしそれはあくまで結果的に無事だったというだけの話で、次も安全だという保証はない。
「で、でもさ、万が一何かあったら――」
「――万が一もありません」
「ソラちゃん……?」
「ニル・ヴァーナのペークシス・プラグマは、決して人を傷つけたりはしません。御安心下さい」
ソラの断言に、バートは勢いを失う。何の根拠もないのに、反論する余地がなかった。
ペークシス・プラグマには意思がある――ニル・ヴァーナとリンクするバートが確信している事実。この結晶体にバートも助けられている。
ソラの言葉をゆっくりと噛み締めて、バートは深く頷いた。自分の役割がようやく分かったのだ。
「僕はペークシス・プラグマとリンクすればいいんだね、パルフェ」
「バートなら――ううん、バートにしか出来ない事だと思うの。あたしがシステムを通じてリンクしても、暴走させてしまうだけ。
ペークシス君に任せっぱなしではなくて、お互いに協力してこの仕事を行う必要があるの」
「ペークシスとの共同作業か……」
ペークシス・プラグマに意思があることを前提とした、作戦。タラーク・メジェールで提唱すれば、鼻で笑われるだろう。
無限にエネルギーを発するとはいえ、ペークシスは結晶体であり鉱物。物体に、意思などありはしない。
通常なら実現不可能な試み、その難しさをソラが指摘する。
「ただし、ペークシス・プラグマとリンクするには貴方自身の強い想いが必要です」
「えーと、具体的に言うと……?」
「ペークシス・プラグマは、触れた者の心に反応します。貴方の想いが弱ければ、ペークシスには届きません」
「心配ないよ、僕はこの星を救いたいと思ってる!」
「自分の命に代えても?」
「い、命って……は、はは、大袈裟だな」
「先の戦いでペークシス・プラグマが貴方に力をかしたのは、自分の命に代えても仲間を救いたいと貴方が願ったからです。
人間は、自分の心にまで嘘はつけない。もう一度、問います。
貴方は自分の命に代えても、他人を救いたいという想いはありますか?」
「それは、その……」
安い同情では、ペークシス・プラグマは動かない。人の心と同じく、想いは真剣でなければならない。
故郷のタラークにいた頃、バートは自分本位な男だった。自分を第一に考え、他人なんて二の次だった。
今は違う。友人も出来て、仲間と呼べる人達も多くいる。彼女達のためならば、命だってかけられる。
ならば、赤の他人ならばどうだろう――全く無縁な人間にまで、自分の命を投げ出せるだろうか?
――無理だ、バートは唇を噛み締める。助けたいという想いはある。気の毒に思うし、地球は許せない。
その気持ちは一体どれほどのものか、バート本人が一番よく分かっている。そこまで、人の良い人間ではない。
彼は決して非情な人間ではない。見ず知らずの人間にまで、自分の命は普通はかけられない。
ペークシス・プラグマを動かすには、それほど強い想いが必要だということ。ゆえに、不可能なのだ。
悩めるバートに、カイは声をかけられなかった。自分と彼とは違う、主義主張をぶつけ合っても仕方がない。
人助けを命懸けで出来ないからといって、カイはバートを責める気にはなれなかった。
「それで、俺はどうすればいい?」
「まずヴァンドレッド・ジュラで、惑星全体をシールドで覆ってほしいの。
テラフォーミングを行うには、ペークシスのエネルギーをまんべんなく行き渡らせる必要があるから」
「大気圏外にまで影響を及ぼすのもまずいからな。それで?」
「ここからが、重要。合体した状態で"ヴァンドレッド"を起動、2つのペークシスからエネルギーを星全体に出力させる」
「合体した状態での起動!? やったことがないぞ!」
「あの星はね、地球が持っているもう一つのオリジナルペークシスの力で汚染されているの。
"紅い光"――恐らくペークシスの破片が星全体に埋め込まれていて、惑星に害を与えている。
この星を治すには、紅い光の影響をまず取り除かなければならない。その為に紅いペークシスの力を使い、除染する」
「紅いペークシスを使ったら、余計に汚染されるんじゃないのか?」
「ソラちゃんが言ってたでしょう。ペークシス・プラグマは、人の心に触れて反応する。この説は、正しいと思う。
力はあくまで力であり、意思ではない。カイが方向性を変えてやれば、悪影響を取り除く事が出来る。
ただ除染しただけでは、惑星は疲弊したまま。だから、あたし達のペークシス君が元気にしてあげるの」
「……よくそんな事考えついたな、お前……」
カイ達が見た悪夢、具合が悪くなったソラやピョロ、ジュラにいたっては激しい頭痛と発熱に襲われた。
紅い光の影響は、あらゆるものに害を与える。毎日紅い光を浴びた土壌の上で生活をすれば、具合だって悪くなる。
幾つかの判断材料とソラの助言により、パルフェが熟考を重ねて立案した作戦だった。
彼女なりの、刈り取りに対する意趣返しである。
「でもよ、俺の機体にある紅いペークシスがまた言う事を聞くとは限らないだろう」
「大丈夫です、マスター」
主の懸念を、従者が一蹴する。珍しく、穏やかな微笑を浮かべて。
「必ずや、マスターに力をかしてくれます」
人とペークシス・プラグマ、人類初となる共同作業。
病に支配された世界を救うために、人と人ならざる者が力を合わせて戦おうとしている。
果たして、二度目の奇跡は起こせるのか――バート・ガルサスは、頭を抱えたままだった。
<to be continued>
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