ヴァンドレッド the second stage連載「Eternal Advance」
Chapter 16 "Sleeping Beauty"
Action3 −募集−
救命チームへの志願者は、意外にも多く集まった。チームを指揮するドゥエロが選別しなければならない程に。
選別方法は極めて単純だ。健康診断、すなわち健康な身体である事。これが唯一の条件、人手は多いに越したことはない。
防疫措置を施すにしても、絶対ではない。艦内への感染を防ぐ為にも、病に負けない丈夫な人間である事が望ましい。
まして出産したばかりの女性や、冷凍睡眠から目覚めて間もない女の子は論外だった。
「当たり前だろ、馬鹿」
「ば、馬鹿って言ったわね!? エズラさん、こいつ志願した私達を笑ったわよ!」
「ミスティちゃんと一緒に病に苦しんでいる人を助けてあげられれば、と思ったのだけど」
「自分の体をまず労ってくれよ、おふくろさんは」
不採用となったミスティやエズラを誘って、カイはカフェテリアでお茶を共にしていた。
カイ本人としては二人を慰めるつもりで誘ったのだが、ドゥエロに一言で断られたと聞いてつい笑ってしまったのである。
エズラは特に怒らなかったが、ミスティは同世代の男の子に笑われて黙っているほど大人しくはない。
「何で駄目なのよ、こんなにやる気はあるのに!」
「つい最近まで入院していた奴に、人助けなんて重労働を任せられないだろう」
「偉そうに言っているけど、あんただって断られた口でしょう!」
「残念、俺は別に仕事を任されたの。不採用になった君と一緒にしないでくれないかな、くくく」
「ぐぬぬ……その憎たらしい顔に、コーヒーをぶっかけてやりたいわ」
口にするだけで実行しないのは、エズラが同じテーブル席にいるからだった。彼女の前で、品のない態度は見せられない。
エズラは、ミスティにとってこの艦で一番素直に話せる大人である。母親のように慕っている。
カイは友達では絶対にないが、本音を言い合える関係ではあった。当人は、あまり意識していないが。
「何でこいつ、こんなに張り切っているんだ?」
「ミスティちゃん、自分の出来ることを探している最中なの。カイちゃんも、相談に乗ってあげて」
二人同時に救命チームに志願したのは偶然ではない。ミスティがエズラに相談して、一緒に志願したのである。
メッセンジャーであるミスティの役目は、植民船で旅立った開拓者達の子孫に地球の現状を知らせ、両親の意思を伝える事。
マグノ海賊団が決起した今、彼女の役目は完了している。あくまでも、メッセンジャーとして。
では一個人として、愛する両親の意思を受け継いで何を為すべきか、明確なビジョンはまだ見えていない。
救命チームに志願したのも、悩み込まずに自分なりに行動するという前向きな姿勢だった。
この惑星の劣悪な環境が地球の仕業であるのだとすれば、尚更である。何も出来ないから、何もしない少女ではなかった。
「それでおふくろさんも付き添ったのか。ドゥエロが認めても、バアさんが怒るよ。子供の世話だってあるんだから」
「ミスティちゃん、それにカイちゃんだって私の大事な子供よ。
閉ざされたエレベーターの中で、二人が懸命に赤ちゃんを救ってくれた事は今でも感謝しているわ。
本当に、ありがとう。あの子にとっても、素敵な誕生日になったわ」
全システムダウンに停電、エレベーターの停止に無人兵器の襲撃。本当に酷い一日だったが、エズラは嬉しそうに思い出を語る。
ミスティの力になるのは彼女なりの恩返しであり、子供の進路を心配する親の心境でもあった。
出逢って間もない少女だが、エズラにとってミスティは家族同様だった。ミスティも頬を赤らめて、照れ臭そうに笑顔を見せる。
「子供といえば、あいつらが何か色々面倒かけているみたいで悪いね」
「ふふふ、ユメちゃんもピョロちゃんも毎日赤ちゃんを見に来てくれるのよ」
「自分の子供ヅラして、取り合いしているんだよ」
自分の仕事をそっちのけで、ニル・ヴァーナのナビゲーター二人がエズラの赤ん坊と遊んでいた。
エレベーターでの救助作戦後二人は仲良くはなったのだが、赤ん坊を巡って取り合いになっている。赤ちゃんが気に入ったらしい。
人間という存在に関心を示している何よりの証拠だが、人の子の扱い方には苦慮しているとの事。理解には、まだまだ遠い。
自分達のやりたい事をやるユメ達とは違い、やるべき事が見えない少女は今も悩む。
「そういえばお前、所属は何処になったの?」
「――今のところ、保留」
「保留……?」
ミスティ・コーンウェル、彼女に対する待遇は客人扱いとなっている。部屋を用意され、艦内への権限も与えられた。
身体が良くなってからマグノやブザムとも顔を合わせ、これからの事について色々と話し合った。
マグノ海賊団にも誘われたのだが、ミスティは返答を保留。ニル・ヴァーナの一員として、残留している。
メッセンジャーの役目を終えたとはいえ、彼女に帰れる故郷はない。冷凍睡眠していた時間は長く、両親もこの世にはいない。
友人も何もかも過去に置いてきて、彼女は今も生きている。先の見えない不安を、常に心に抱えながら。
「いい人達なのは分かるけど、海賊の仲間入りには抵抗があるわよ。エズラさんには、申し訳ないけど」
「そうだよな! それが普通だよな!?」
「嬉しそうな顔しているところ悪いけど、あんたと仲良くするつもりはないからね」
ミスティに冷たくされても、カイは嬉しそうな顔を崩さなかった。初めて、自分と同じ心境の人間と出会えた。
カイも別にマグノ海賊団の皆が嫌いではないのだが、彼女達の生き方には常に疑問を抱いている。
海賊流には明白に否定しており、略奪行為を行うのならば敵対してでも阻止する姿勢でいる。
義賊であっても、海賊は海賊。線引きをきちんとしてくれる人間は、カイにとって貴重だった。
「あーあ、お姉様はどうして海賊になったんだろう。あんた、何か聞いてる?」
「俺が聞いて教えてくれるような奴に見えるか?」
「全然。お姉様とアンタじゃ、全くつり合わないもん」
「対等じゃないから教えないとかじゃねえからな、言っておくけど!?」
カイがメイアに過去を聞いた事は、一度もなかった。自分の過去も知らないのだ、相手になんて聞けるはずがない。
過去があるから現代があり、今のやり取りが未来に繋がる。海賊となったのは、海賊に至る過去があったからだ。
ガスコーニュに以前、メジェールで起きた悲劇は聞いている。故郷から追い出された事まで、全て。
ミスティが同じくガスコーニュに聞いても、彼女は答えてくれるだろう。でも、カイは自分から話すつもりはなかった。
隠し事をするつもりはないが、隠しておきたい事は誰にでもある。
「お姉様は救命チームに志願するのかな……?」
「しないと思うわ。メイアちゃんには大事なお仕事があるもの」
「大事なこと?」
「この船と、この船の中にいる仲間を守る事よ。パイロットだもの」
「介護という柄でもねえしな、あいつは。今頃惑星の分析データとか見て、また一人で色々考えているんじゃねえかな」
そう言って笑い合う二人を、ミスティは眩しそうに見つめる。二人の笑顔には、メイアへの深い信頼が感じられた。
同時に、目が覚める思いでもあった。敬愛する女性は義憤に振り回されず、自分の成すべき事をきちんと見つめている。
パイロットの任務は、病に苦しむ人達の救護ではない。苦しむ人達を襲う悪鬼羅刹と戦い、守ることだ。
ならば、自分の出来る事は――ミスティはコーヒーを一気に飲んで、立ち上がる。
「マグノ海賊団にはイベントを企画する部署があるのよね?」
「ああ、イベントクルーがいるぞ」
「お願いがあるの。その部署のチーフさんに、あたしの事を紹介してくれない?」
「見習いになるつもりか!? どういう心境の変化だ?」
突然の申し出に、カイは目を白黒する。彼女のやりたい事が何なのか、サッパリ分からない。
ミスティは、自分自身を親指で突きつける。
「あたしはメッセンジャー、真実を広く知らしめるのが仕事よ」
明るく笑って言いのけるミスティに、エズラは思わずクスリと笑ってしまう。
本人は分かっていないだろうが――大胆な決断と行動力は本当に、カイとそっくりだった。本当に、お似合いの二人だ。
目の前で起きている悲劇を何とかするべく、立ち向かう。そのやり方は、人それぞれ異なってくる。
ミスティのこの勇気ある決断が――後に、宇宙全土を揺るがす事となる。
<to be continued>
|
小説を読んでいただいてありがとうございました。
感想やご意見などを頂けると、とても嬉しいです。
メールアドレスをお書き下されば、必ずお返事したいと思います。
[ NEXT ]
[ BACK ]
[ INDEX ] |
Powered by FormMailer.