ヴァンドレッド the second stage連載「Eternal Advance」
Chapter 16 "Sleeping Beauty"
Action2 −志願−
病に侵された、星。地球による悪意が加えられたこの惑星では空気や水、大地に至るまで感染している。
自然の全てが蝕まれており、劣悪な環境で人々は生を強いられていた。生体実験、人間という種族の生命力を調べる為に。
地球の目的はミスティ・コーンウェルがもたらしたメッセージにより、マグノ海賊団全員が把握している。
刈り取りによる、"地球"の再生――苛酷な環境下で生き延びた子孫達の臓器を略奪し、自己を保存。
彼らの目的からすれば、この星は実に適している。重力異常を起こした地球の環境に似せて、人々に生を強いて強靭な生命を製造する。
実験の過程でどれほどの人間の命が死に絶えても、地球人は罪悪感など感じない。死体もまた、実験材料となるのだから。
ニル・ヴァーナの船医ドゥエロ・マクファイルは地球の野望を砕くため、この惑星の再生を誓った。
「――それで志願者を募ったのか?」
「お頭と副長から正式に許可は出たが、この任務ばかりはクルーに無理強いは出来ない。
志願者には厳重な防疫措置を施すが、感染する可能性は零とは言い切れない」
故郷への旅の途中に発見された惑星、上陸前に幹部会議が行われてクルーは全員艦内で待機。
一パイロットであるカイも当然その一人で、上陸するのだと意気込んでいただけに肩透かしを食らった形となった。
友人であるドゥエロが会議に出席したと聞いて、カイは医務室へ訪れて事情を聞いたのである。
「ブリッジクルーの連中も惑星環境の分析もしたんだろう? あいつらのデータはいつも正確だし、お前の腕も確かだから大丈夫だよ」
「信用してくれるのは嬉しいが、過度な信頼は目を曇らせる。常に客観的な視点を持った方がいい」
「折角褒めてやったのに叱るなよ」
「友人としての忠告と受け止めてくれ」
二人はそう言って笑い合う。お互い大口を開けて笑うタイプではないが、歓談するのに遠慮はなかった。
男二人で話していると、二人の共通の友人が飛び込んで来る。
「ドゥエロ君、見たよ志願者募集のビラ! 僕が志願者一号になってあげるよ!」
「……耳聡い奴だな……」
「彼はニル・ヴァーナとリンクしているからな、情報を掴むのが早い」
「単に人の噂話が好きなんだろう、こいつの場合」
「こらこらこら、本人の前で悪口を言わないように!」
先のウイルスによる停電事件で大怪我したバートだが、その後無事完治している。ドゥエロも驚く回復力だった。
地球も救命ポットについては諦めたのか、追撃も仕掛けて来なかった。束の間の平和が、彼の傷を癒したのだ。
もっとも元気一杯なら、それはそれで騒がしい男ではあるのだが。
「志願者一号とか名誉っぽく言ってるけど、いいのかお前」
「何がだよ。言っておくけど、今回ばかりは君に一番槍は譲らないぞ」
「いいよ、別に。病原菌に身体中犯されて倒れても、俺は知らないからな」
「だっ――だ、だだ、大丈夫! 僕はドゥエロ君を信じている!」
「……足が震えているのは、君の本心と受け止めていいのだろうか?」
バートの言うビラと言うのは、ドゥエロがリーダーとなる医療チームの人員募集の事である。
紙ではなく、ニル・ヴァーナの通信を通じて全部署に配布したデータ媒体。ニル・ヴァーナ全クルーに行き渡っている。
ビラを配布して、一時間。最初に飛び込んで来たのが他でもない、バート・ガルサスその人だった。
「何でお前、そんなにやる気なんだよ。人助けとかに積極的なタイプじゃなかっただろう」
「ドゥエロ君が配信したビラを読んだ。この前のメッセージもそうだけど、地球人のやる事が許せないんだ!
タラークにいた頃は祖先の星として、僕なりに敬意を払っていたんだ。それなのに……!」
「……そういえば爺ちゃん子だったな、お前」
バート・ガルサスは軽い性格の男だが、男三人の中で一番目上を敬う人間である。
タラークでは大企業であるガルサス食品を創設した祖父を敬愛し、メジェールでも一目置かれているマグノを尊敬している。
祖先である地球も敬っていただけに、彼らの裏切りが許せないのだ。大事なモノを汚された心境であった。
バートは熱心に志願するが、肝心の選別者は厳しかった。
「駄目だ、バート。君は連れていけない」
「ど、どうしてだよ、ドゥエロ君!? 僕、何でもやるよ!」
「君の切なる思いは、十分に伝わった。技能に関係なく、その熱意があれば多くの人達の力となるだろう」
「だったら、どうして!?」
「自分の職務を忘れたのか、バート。君はニル・ヴァーナの操舵手だ、替えがきかない」
「そ、それは……」
「カイ、君も同じだ」
「お、俺!?」
「世間話だけをしに来たのではないのだろう? 君は、病気に苦しむ人々を見過ごせる男ではない。
困っている人、苦しんでいる人、悲しんでいる人がいれば、男でも女でも――誰であろうと、君は助けようとする。
そんな君の強さは、今後の戦いで必ず必要となる。"ヴァンドレッド"は、君にしか操縦出来ない」
ニル・ヴァーナの操舵手と、"ヴァンドレッド"のパイロット。地球との戦いには欠かせないメンバーである。
自覚が薄いが、彼らはこのニル・ヴァーナに必要不可欠な存在。一度喪った後で、マグノ海賊団もその重要性を痛感していた。
今回上陸する星は、病に感染した世界。どれほどの奇跡を起こしても彼らは人間であり、病気にだってかかる。
万が一死の病に侵されてしまえば、ニル・ヴァーナは停止。ヴァンドレッドで戦う事も出来ない。
主力兵器に母艦まで沈黙してしまえば、刈り取りの餌食になるのはまず間違いない。為す術もないだろう。
ドクターとしてだけではなく、ニル・ヴァーナの一員としても到底許可は出せなかった。
「たとえ私が許可を出しても、お頭や副長が絶対に許さないだろう。今回ばかりは諦めるんだ」
「じゃ、じゃあ、蛮型で降りるよ。力仕事くらいなら出来る!」
「だ、だったら、僕はニル・ヴァーナで――!」
「君達の個人的な思いで、機体の出撃なんて許可はされない」
感情面こそ豊かになってきたが、ドゥエロは情に絆されるような男ではなかった。二人の願いも冷たくあしらう。
土下座をしても眉一つ動かさずに、却下するだろう。友人である二人はそれが分かるだけに、無駄な努力も出来ない。
となれば、いつも通り――見苦しく喚くのみである。
「お、俺達二人をそんな簡単にあしらってもいいのか!? 貴重な人材だぞ!」
「そうだ、そうだ! 大体こんな危険な任務に志願する女の子がいるのか!?」
「半年前までは、俺達と一緒の空気を吸うのも嫌だとぬかしてたんだぞ!?
病原菌だらけの星に上陸なんて嫌がるに決まってる!」
「君が天才なのは認めるが、一人ぼっちではどうしようもあるまい。
頼れるのは君の数少ない友人である、僕達だけだ!!」
「……言いたい放題だな、君達は……」
人助けという尊い願いから出た言葉であっても、暴走気味の二人にドゥエロは眉を顰める。
感情的になった二人を説得するのは困難だ。何しろ正当であっても、理屈が通じない。ゴリ押ししてくる。
最悪許可が出なくても、無理やり上陸してくる事も考えられる。危険だと言っても、多分無駄だろう。
安易な行動は被害が増えるだけなのだが、二人は梃子でも動かない。どうしたものか――ドゥエロは珍しく、悩みこむ。
『話は聞いたよ、お二人さん』
「パルフェ……?」
ドゥエロと二人の間に、通信画面が割り込んでくる。映しだされているのはツナギ姿の女性と、その助手。
機関部の長を務めるパルフェ、そして配属されたばかりの新人ソラである。
パルフェは、二人に負けないテンションの高さで言い放った。
『ニル・ヴァーナの操舵手に、ヴァンドレッドのパイロット――君達二人に適任の仕事があるよ!
この星を救う一大プロジェクトのメンバーに、入れてあげる』
愛用のメガネを怪しく光らせて、パルフェが笑みを深める。
一大プロジェクト――その怪しげな響きは男達に僅かな警戒と、例えようのない胸の高鳴りを与える。
パルフェ・バルブレア、彼女もまた奇跡に挑もうとしていた。
<to be continued>
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