ヴァンドレッド the second stage連載「Eternal Advance」
Chapter 15 "Welcome new baby girl"
Action14 −両腕−
全システムが停止しているニル・ヴァーナ、丸裸の城を守る兵士達は強敵を相手に善戦していた。
刈り取り兵器は先日襲来した改良型のキューブとピロシキ、数は多いが一度は倒した敵。対処法も心得ている。
無人兵器に学習機能が備わっているように、人間も経験から学ぶ。改良型に対応した戦術を駆使して、パイロット達は奮戦していた。
戦局は優勢であっても、決して油断はしない。改良された兵器には、未知なる武器「紅い光」がある。
『両舷より、敵母艦接近!』
メインブリッジクルー・アマローネの警告を聞いて、チームリーダーであるメイアは鋭く視線を向ける。
彼女が特に警戒していたのは尖兵のキューブではなく、キューブを格納する母艦役を務めるピロシキ型。
ペークシス・プラグマの力を無効化する赤い光も、ピロシキ型の内部から発射されたのだ。
前回は一機でも苦戦させられたのだが――
「今回は二機用意してきたか……私はキューブを掃討する。ジュラはチームを率いて、ニル・ヴァーナの防衛を優先しろ!」
「もう、カイがいれば戦艦一隻丸ごと守れるのに!」
"ヴァンドレッド・ジュラ"は防御に特化した合体兵器。地球母艦戦ではシールドで惑星全部を囲い、圧縮して爆発させた。
全長三キロを超える融合戦艦を包みこむのは簡単だが、肝心の蛮型がなければ合体は出来ない。
仕方なくジュラ機のみ先行するが、防御力に優れている分速度が遅い。敵の動きの方が早かった。
二機の改良型ピロシキがニル・ヴァーナの両舷に迫り、シェルターを開いていく。
「何だ……? 何をおっぱじめるつもりだ!?」
メインブリッジの操舵席前でモニターを見ていたバートが、恐怖に声を震わせて叫ぶ。
システムダウンにより操舵席に乗り込む事が出来ず、彼は立ち往生していたのだ。ペークシスの補助がなければ戦艦とのリンクが出来ない。
少し前の彼ならば戦えないのを理由に早々に逃げていただろうが、今は戦えずともブリッジにいる。
無人兵器は怖い。敵と向かい合うのは本当に怖い。そして一番怖いのが――仲間を、大切な友達を喪う事だった。
「まさか――や、やめろっ!!」
改良型ピロシキ二機は大口を開けて、"紅い光"を放射――シールドも張れない、ニル・ヴァーナへ向けて。
発射された二つの光は両舷を貫通、左右のアームを貫いた。バートは顔を歪めて、自分の両腕を触る。
ニル・ヴァーナとリンクしていなくとも、操舵手としての職務意識を高く持つ彼の頭が苦痛を訴えていた。
両舷を貫通した光は放射状に展開して、絡め取る。ニル・ヴァーナの両腕が、紅い光で拘束されたのだ。
「……単なるビーム兵器ではなく、物質化も出来るのか!? あの紅い光は、やはりペークシスの力を運用しているな」
ペークシス・プラグマは無限のエネルギーを持つ、結晶体。エネルギー化出来る結晶、エネルギーの物質化も可能である。
光線ならば回避すれば済む話だが、物質化出来るとなると応用範囲も劇的に広がって厄介さも増す。
少し考えても多くの兵器利用が思い浮かばれて、メイアは眉間に皺を寄せる。
今回のような場合だと光というより、鎖――あの二機のピロシキはニル・ヴァーナを拘束する、デバイスであった。
「奴らの目的はニル・ヴァーナ、そして先の戦いで我々が奪取した救命ポット。
戦艦ごと持って行こうとは随分と大胆不敵、そして――横着な発想だ。私達海賊から、略奪しようとはな」
自分達海賊と敵対するカイのこれまでの言葉を思い出す。奪われる痛みと苦しみ、それらを強いる海賊のやり方。
かつて故郷で全てを奪われた自分が、奪う側に回った。以前は疑問にも持たなかったのに、今ではよく考えさせられる。
バーネットは引退し、ジュラは目的を果たしたら海賊を辞める。メイアは、今でも答えが出せなかった。
悪い事だから辞めるという考え方も、無責任な気がしたのだ。かといって、このまま続けられる気もしなかった。
カイの正しさには否定も肯定も出来ない。理解出来るのは理不尽に奪おうとする敵への、怒りだ。
「ごめん、メイア!? 敵に先手をうたれた!」
「ニル・ヴァーナは全システムが停止している。あのままでは、苦も無く運び去られてしまう。
敵が鎖で船を固定している間、恐らく例の赤い光は放射出来ないだろう。急いで片付けるぞ!」
「ラジャー!」
光を物質化しているという事は、絶えず発射し続けているという事だ。ニル・ヴァーナを拘束している限り、ドレッドに攻撃出来ない。
最前線で戦い続けて来たメイアの分析力は、即座に敵の弱点を見つけ出した。ジュラに命令を出し、自身も愛機を発進させる。
ピロシキ型を倒そうとすれば、キューブが必ず妨害に入る。急げば回れ、ピロシキ型に向かう前にキューブ型を倒す。
メイア達の奮戦を、メインブリッジからバート・ガルサスが悔しそうに見つめていた。
「くそう……僕がニル・ヴァーナを動かせたら、あんな光消してやるのに!」
「落ち着きなさいよ。副長が今、ウイルス除去に動いてくれているわ」
言葉はきついが、アマローネの言葉には労りがあった。船を思うバートの気持ちに感じ入るものがあったのだ。
前線で戦えない悔しさは、ブリッジクルーが共有する感情だ。仲間が傷つくのを、常に客観的に観測しなければならない。
己の悔しさを吐露するバートは、プロとしては甘い。そしてプロから見れば、強く共感出来る気持ちだった。
忙しなく動くメインブリッジの中で、バートは操舵席に繋がるクリスタルの前で座り込む。
「僕は何て頼りないんだ……ドゥエロ君も、カイも、皆も一生懸命戦ってるのに、何も出来ない。
ニル・ヴァーナ、お前がこんなに傷ついているのに……一緒に、戦えない!
ペークシス、頑張ってくれよ! 僕でよければ幾らでも力になるから――だから」
透明なクリスタルに、己の拳を力強く叩き付けた。
「ウイルスなんかに、負けないでくれ!!」
少女が、目を開ける。何か聞こえた気がする。すごく邪魔で鬱陶しくて、目障りで――熱い何かが自分の中に飛び込んで来た。
少女には、心がある。目覚めたばかりの、幼い魂。脳で考えるのではなく、心のままに動き、想いのままに生きている。
人間に近しい、存在。何かが足りないのか、何かが多いのか、少女はまだ分からない。分かっていない。
"ペークシス、頑張ってくれよ!"
何百年も観測した。人の作る歴史を、世界が動く瞬間を、時代が流れる様子を、ただ黙って見つめていた。
結果を求めているのではなく、過程を分析しているだけ。成果は求められず、成功も期待されていない。
観測する事を至上の目的とする、存在。それ以上でもそれ以下でもなく、それゆえにそれ以外にもなれなかった。
"僕でよければ幾らでも力になるから"
自分は誰なのか、外を見つめるのではなく、己が内に問いかける。自己を認識して、初めて少女となった。
少女となったその時に、王子様に出逢えた。世界を観測するのをやめて、少女は男性だけを見つめた。
誰かをずっと見つめていたら、他は見れなくなる。全知全能だった存在は一個人となり、神から人へと堕落した。
"だから"
人間による事故で、自己が消えてしまった。完全に消滅していれば、個は全となっていただろう。
観測するだけの、存在。個を見るのをやめて、全体に視野を広げ、世界を見つめていく。
人が一度消してしまったのに――人がまた呼んでいる。望んでいない声、でも――必要としてくれる、声。
"ウイルスなんかに、負けないでくれ!!"
(――うるさい)
「あれ……? 揺れが収まったわよ」
「青髪が敵を倒したのかな……?」
停止しているエレベーター、押し寄せる震動が急に収まったのを見計らい、カイとミスティが頷きあう。
腹を括ったミスティから、カプセルのパスワードは聞いている。赤ん坊の鳴き声、生命の歌声がキーワード。
どういう巡り合わせなのか、自分達の前には妊婦がいて、もうすぐ可愛い赤ちゃんが産まれようとしている。
出産するには厳しい戦場で、何故か敵の攻撃が収まってエレベーターの震動が止まった。
まるで赤ん坊を守る母体のように、このエレベーターが守られているように二人には感じられた。
「何にしても、今がチャンスだ。ばあさんに手順を聞いて、此処で出産しよう」
「その通信機、バッテリーがもう無いんでしょう。最後までもちそう?」
「ギリギリ勝負なのは、今に始まった事じゃない。こんな俺が生きているんだ、赤ん坊だってきっと無事に産まれるさ」
「何よ、その訳の分からない根拠。アンタらしいけどさ」
二人は現実を知っている。人は簡単に死ぬ事も、奇跡なんて簡単に起こらない事も、分かっている。
だからこそ、今この瞬間に起きた奇跡を偶然とは思わない。疑問にも持たず、訪れたチャンスを生かす。
少年と少女、男と女は手を組んで――新しい命を生み出す覚悟を決めた。
<to be continued>
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