ヴァンドレッド the second stage連載「Eternal Advance」




Chapter 14 "Bad morale dream"






Action13 −白濁−






  改良型ピロシキの襲来により、状況は一層危うくなった。ピロシキ型は単体でも手強い兵器、ドレッド単独で撃破するのは難しい。

メイアやジュラといった、戦闘経験豊富なパイロットなら倒す事自体は可能。ただし、戦闘に集中出来る状態であるならば。

彼女達の任務はあくまでポットの回収であり、刈り取りの阻止ではない。この戦闘自体、望むべきものではないのだ。

敵主力の登場、脅威は感じるがリーダーであるメイアに焦りはなかった。


「バート、私が奴を足止めする。お前はその間に、ポットをニル・ヴァーナへ急ぎ回収してくれ」

『了解! で、でも、大丈夫なのか……?』

「改良されているとはいえ、敵の特性は掴んでいる。時間を稼ぐぐらいなら出来る。
一番気をつけなければいけないのは、奴自身にポットを回収される事だ」


 困難ではあるが、今回の任務には数少ない有利な点がある。敵を倒す必要はないという事だ。

今までの戦闘では敵の目的が刈り取りにあった為、戦力を消費する事になっても倒さなければならなかった。

だが、今回は違う。敵の目的は救命ポットにあり、自分達を含めて周辺に刈り取り対象がない。戦わなくてもすむ。


ペークシス・アームはペークシス・プラグマのエネルギーが具現化した、光の腕。敵の攻撃で打ち砕く事は不可能だ。


バートの援護により、救命ポットは既に回収済み。腕の中に収められたポットに、敵は手出し出来ない。

後は敵の追撃を阻止してポットをニル・ヴァーナへ回収し、帰艦。そのまま立ち去れば、改良型といえどピロシキでは追って来れない。

メイアの戦況分析は的確だったと言える。マグノやブザムも、この時点で異論はない。

敵が、未知数である点を除いて。


「あの形態は格納型、万が一にでもポットを回収されると奪還は困難だ。絶対に、ポットを離――!?」


 改良型ピロシキの胴体が開かれて、格納型である無人兵器の腹の中が見える。モニターに映し出されているのは砲台、兵器搭載型・・・・・

ドレッドのコックピットが紅い光に染まった瞬間、メイアは無意識に操縦ポットを180度回転させる。警戒心が生んだ、咄嗟の回避行動。

次の瞬間発射されたレーザーが回避したドレッドの真横を駆け抜けて――


ニル・ヴァーナのペークシス・アームを、破壊した。


『うわあああああっっっ!? いつもより全然痛えぇぇぇぇぇーーー!!』


 紅い光が、蒼い光を砕いた。その事実はメイアのみならず、マグノ海賊団全体を震撼させた。

ペークシス・プラグマは無限のエネルギーを放つ結晶体、その光が生み出す奇跡こそ強大な敵である地球に勝てる唯一の要素だった。

マグノ海賊団にとって、蒼い光は単なるエネルギーではない。絶望に負けそうな心を照らしてくれる、希望の光なのだ。


その光が――無敗神話がこの瞬間、粉々に打ち砕かれた。


「バート、何をしている!? ポットを離すなと言ったばかりだろう!」

『無茶言うな!? 見ろよ、この手!

――おい、機関室! どうなってるんだよ!?』

『こっちが聞きたいわよ!?』


 無残に引き裂かれたバートの両腕、紅い光に浸食されたペークシス・プラグマ――

操舵席と機関室の無残な状態を見せられて、メイアにようやく理性が働いた。仲間同士でいがみ合っている場合ではない。

男だとか、女だとか、そんな理由で責任の擦り付け合いをする愚を二度と犯さない。一致団結して、必ず故郷へ辿り着く。

母艦戦での絶望的な戦況を乗り越えた経験こそが、彼女の精神を強くさせていた。


『何か、紅い光の影響を受けているみたいなの。ソラちゃん、分かる?』

『――ペークシス・プラグマは、触れた者の心によって変質していく存在。紅の光は、閉じた心を映し出しています。
不安や恐怖、そういった負の想いに囚われてしまえば心は閉ざされてしまう。

希望を持って下さい、皆さん。人の強き想いが、奇跡という現象を生み出せるのです』


 抽象論、精神面のみに特化した激励。何の根拠もなく、論理的でも何でもない。

そんな言葉をこの少女の口から聞けた事にバートやメイアはおろか、彼女を部下にするパルフェも目を丸くする。

彼女より告げられたペークシス・プラグマの性質は驚くべきものではあるが、不思議と納得出来る部分もある。

カイ・ピュアウインド、彼が奇跡を起こせたのはペークシス・プラグマではない――彼自身が、諦めなかったからだ。


「まだやれるな、バート?」

『ああ、逃げ足の早さには自信がある! ポットを回収して、宇宙の果てまで逃げてみせるさ!』


 敵の脅威はまだ消えていないし、二人とて艱難辛苦を味わった。励まされただけで、単純に危機を乗り越えられるとは思っていない。

思い出したのは、敵に対する気構え。刈り取りに屈さない強い気持ち、一致団結した時の気高い決意。

不屈の心を再燃させて、二人は再び戦場へと戻る。落ち着きを取り戻したメイアは態勢を立て直し、バートに語りかける。


「救命ポットはまだ敵に回収されていない、先程と同じ連携で行くぞ。
私が奴の足止めをしている間に、お前は救命ポットを急いで回収しろ」

『分かった、紅い光だけは何とか発射させないようにしてくれ!』


 救命ポットは戦場のど真ん中で、所在無く漂っている。敵も回収に急いでいるが、ドレッドチームが妨害して触れられない。

敵の本丸である改良型ピロシキが自ら回収に乗り出そうとすると、メイア機が先回りして阻止する。

攻防戦が激化していく中、膠着状態へと移行。敵味方両名にとって、望まぬ戦闘が続いていく。


宙に浮いた時間の中で、ニル・ヴァーナのメインブリッジが敵の分析を進めていく。


「ペークシス・アームが破壊された原因は判明したか?」

「詳しくは分かりませんが、あの光の干渉によって強制的に分解されたようです」

「強制的に分解……? そうなると、ヴァンドレッドにも影響が出る可能性があるか」

「――あの光に触れると、ヴァンドレッドも分離させられると見るべきだろうね」


 アマローネの報告を聞いて、ブザムやマグノが最悪の予測を導き出す。戦場での安易な考えは、即座に死に結び付くからだ。

改良型のキューブやピロシキ、そして紅い光によるペークシス・プラグマへの妨害。

その全てがマグノ海賊団対策であり、カイやドレッドチームとの戦闘を意識した対策。極めて性質が悪いが、有効的だった。


ヴァンドレッドにペークシス・プラグマ、こちらの切り札が全て潰されてしまった――


地球母艦との戦闘も地形が味方した事もあるが、何よりこの二つの要素があって勝利したといっていい。

これから先、他の母艦との戦闘を控えて切り札を潰されたのは痛い。これ以上の手札がないという意味では、特に。

苦虫を噛み潰した顔をするマグノに、ブザムが進言する。


「我々にはまだチャンスがあります。救命ポットはまだ奪われておりません。
ポットを確実に回収し、新しい情報を得られればこの戦況を変えられる要素にもなり得ます」

「それに、母艦と戦う前に敵の新しい戦力を見られたのも大きいよ。この情報は、必ず生きる。
知らずにいたら、故郷を守る大事な戦いで取り返しのつかない結果になっていたかもしれない」


 紅い光は脅威である。眩い希望の光を濁す負の力、ヴァンドレッドやペークシスを破壊する強力な戦力。

その力をこの回収任務で知れた事は大きい。後に控える母艦戦でやられたら、立て直すのは不可能だったかもしれない。

望まぬ形で起きてしまった戦闘だが、敵の戦力情報を貰えたのは利点でもあった。


(――カイ達が昨晩見た、悪夢。紅い光の脅威に、我々が敗れたと言っていたが……

もしかするとあの夢は、ペークシス・プラグマからの警告なのか……?)


 ペークシス・プラグマは今朝方から調子が悪かった。この敵の接近が、何か関係しているのかもしれない。

不明瞭なままにしていたが、彼らの夢についてはもう少し詳しい検証が必要かもしれない。


マグノ海賊団副長ブザム、彼女はこの戦いから新しい脅威に対抗する策を考え始めていた。















"とても近い、けれど遠い――近づくのは危険、でも呼び合ってしまう。とても怖い、存在"



「ドクター……何、これ?」

「――ピョロの診断結果だ。電子頭脳を分析した。どうやら、本当に精密検査が必要らしい」


 戦場から離れた部屋で、真実のベールが剥がれようとしていた。






























<to be continued>







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