ヴァンドレッド the second stage連載「Eternal Advance」




Chapter 14 "Bad morale dream"






Action12 −壊血−






   タラーク・メジェール両国家にすら恐れられる、マグノ海賊団。主戦力であるドレッドチームは、国家の軍事力に匹敵する。

抜群のチームワークと高度な戦略を持って、彼女達義賊は国を追われた民の為に物資を略奪する。

国家戦力級のドレッドチームを率いるメイアは指揮能力ばかりではなく、操縦技術も超一流のエースパイロット。

合体兵器ヴァンドレッドの活躍ばかりが目立っているが、数ある無人兵器を葬った彼女の存在そのものも敵の脅威足り得る。


「そのポットを回収したのは、我々が先だ。返してもらうぞ!」


 サブリーダーのジュラにドレッドチームを託し、メイアは愛機を駆り出して敵の胸元へ飛び込んでいく。

襲撃を仕掛けてきた新型キューブの大半がドレッドチームと抗戦しているが、ポットを回収した敵集団がメイアの動きを察知。

ポットを手にしたキューブ以外の無人兵器が、追尾するメイア機に牙を向いた。


「ドレッドに匹敵する加速が可能なのか。カイが居れば引き離す事も可能なのだが――
ふふ、泣き言など聞かれれば奴に笑われてしまうな」


 カイ・ピュアウインドの蛮型との合体により、ヴァンドレッド・メイアの誕生が実現する。

加速に特化した白亜の翼があれば、改良型といえどキューブ如きに速さで遅れは取らない。その自負が、メイアにはあった。

現在精密検査中のカイを呼べば、この戦局を打開するのも容易だろう。ポットの回収が、今回の任務なのだから。


だが――と、メイアはドレッドの操縦ポールを強く握り締める。


キューブの放つビームを回避して、旋回。態勢を変えようとするキューブの側面に向けて、ミサイルを叩き込む。

通常兵器でも的確に命中すれば、ひとたまりもない。爆発、破片を飛び散らして霧散する。

味方が倒されて悲しむような感情など、無人兵器にはない。続けざまに攻撃を繰り出すが、メイア機はアクロバットな飛行で敵を煙に巻く。

敵はプログラム、攻撃は正確無比な分パターンは読み易い。エースパイロットであるメイアでは、一呼吸で攻撃の流れも読み取れる。

一機、また一騎と確実に落として、ポットを回収したキューブの周囲を裸にしていく。


この戦闘において、カイの手はかりない。今までのような敵対意識ではなく、仲間として負担をかけたくなかった。


麻酔をかけられて眠っている少年は、この非常事態を何も知らない。それでいいと、自分だけではなく皆が思っている。

自分が以前鳥型の攻撃で重傷を負った時も、彼は仲間達に檄を飛ばして辛い戦局を何とかしてくれた。

生死の境を彷徨っていた自分を、カイが懸命に励ましてくれたのも知っている。彼がいなければ、今の自分はなかった。

この任務は、何としても自分達の手でやり遂げたかった。恩返しなどと、押し付けがましく言うつもりはない。

困ったとき頼ってばかりいるようでは、いざという時彼は決して自分達を頼ってはくれないだろう。

そんな関係を、仲間とは決して言わない。


「一刻も早くポットを回収して――ニル・ヴァーナに帰艦する!」


 ドレッドチームに苦戦しているのか、こちら側に兵力を割く余裕はないらしい。今がチャンスだった。

ポットを奪ったキューブを除いて、周囲に敵影はない。再度確認した後、一気に切り込んだ。

無論敵側も攻撃を仕掛けてくるが、ポットを手にしている状態では素早い動きは不可能。メイアは時間をかけず、撃破に成功する。


持ち手から離れて、宇宙空間を漂う救命ポット。メイア機は加速してポットの回収を――


「! 敵の攻撃――何っ!?」


 ポットを再び取り戻した程度で安心はしない。ドレッドチームリーダーとしての責任感と用心深さが、彼女を救った。

何とか救命ポットを取り返したその瞬間、遠距離砲撃がメイア機を狙い撃ちする。

彼女が驚いたのは、奇襲だからではない。此処は戦場、警戒は緩めない。メイアは確かに、砲撃そのものは避けられた。


回避した際に見えた、攻撃の光は――"紅"


「紅い、光……くっ、考えるのは後だ」


 コックピット内を禍々しく照らし出す、紅い光。昨晩見た悪夢を濃厚に思い出させて、メイアは唇を震わせる。

昨日の今日だ、意識しない方がおかしい。けれど、彼女は敢えて意識する事を拒んだ。

考えても分からないから、職務を休んでまで精密検査を行ったのだ。戦場で立ち止まって、答えなんて見える筈がない。

不吉な予感を無理やり振り払って、彼女は任務に集中する。


  「ポットを回収して、早くニル・ヴァーナへ!」


 一瞬であっても、足止めされたのは事実。紅い光にメイア機が停止させられたその隙に、別のキューブがポットを持ち去って行く。

精神的には不安定であっても、彼らの動きは見逃さない。メイアは操縦を切り替えて、追尾する。

だが、敵もさるもの。メイア機を強敵と分析して、先程の倍以上の新型キューブが押し寄せてくる。

動きは洗練されていないが、とにかく早い。メイアも必死で撃墜していくが、順調とはとても言い難い。

攻防に必死になっている間にも、救命ポットを奪ったキューブが戦線から離脱していく。


「断じて、お前達には渡さない!」


 目標を確保したら、速やかに帰艦する。どこまでも自分達の行動を真似た敵に、メイアは苛立ちを覚える。

人前では感情を見せない彼女だが、繊細な内面を持っている。感情を制御する意識が常に働き、周囲に悟らせないのだ。

その分、自分一人の場合では抑制されている感情が出てしまう。見る見る内に離れる敵に、焦りを感じていた。


救命ポットの奪還は、自分だけの望みではない。ジュラやディータ達も強く望んでいる。


彼女達がサポートしてくれたから、リーダーである自分が前に出て戦えているのだ。奪われたら、指揮を託した意味がなくなる。

責任問題なんて、今のメイアの頭の片隅にもなかった。彼女は今、仲間達の為に一心不乱になっていた。

心は波風立てて荒れ狂っていても、本能が正確なドレッドの操縦を行う。敵は確実に、数を減らしていった。

だが、遅い。足止めを受けている間にも救命ポットは遠く離れ、ついには見えなくなって――


――大きな手のひら・・・・・・・に、包まれた。


「あれは、まさか!?」

『よっしゃー、いただきぃー!』


 コックピットの外部モニターが映し出す光景に、メイアは目を見張った。

融合戦艦ニル・ヴァーナの左右のアームより放射されている、ペークシス・プラグマの光。

かつて分断された戦艦を一つにした、無限のエネルギーを持つ結晶体の奇跡。ニル・ヴァーナの新しい武器が、再び出現した。


この力を使用出来る人間は、一人。他ならぬ、ニル・ヴァーナの操舵手である。


『どうだい……? 僕もなかなかやるだろう!』

「……助かったのは事実だが、素直に喜べなくなった」


 ペークシス・プラグマの光はキューブを完全に焼き尽くし、救命ポットを包み込んでいる。

敵側も必死で奪い取りに来るのだが、ペークシスの光に触れた瞬間に消滅していった。

自分一人では間に合わなかった。バートの救援にメイアは心から感謝していたのだが、得意げな彼の顔を見た瞬間に礼を言う気が失せた。

実際にお手柄なのだが、わざわざ任務中に通信までして自慢されたらむしろ叱りたくなってくる。


「話には聞いていたが、どうやら制御出来るようになったようだな。その力」

『"ペークシス・アーム"、僕の自慢の武器だよ。カイがいなくても、僕だってちゃんと戦えるんだ!』

『……ご自分で戦えるのでしたら私の助力は必要ありませんね、バート・ガルサス』

『わーわー、ごめんなさい、ごめんなさい! どうかこれからも、わたくしめを助けてくださいませ!』


 こんな男に一度命を救われたのかと思うと、自分が情けなくなってくる――

操舵席で通信映像の少女に土下座する男の姿を見て、メイアはガックリと肩を落とした。

おかげで余計な力は抜けたのだが、まだ肩の力を抜いていい状況ではない。メイアは気を引き締め直した。

気持ちを切り替えて、状況を分析。敵味方の状態を把握した上で、バートに指示を出す。


「……敵は観察モードに入ったらしい。この間に、救命ポットをニル・ヴァーナに運び込んでくれ」

『了解! 操作は僕が行うから、ソラちゃんは出力の制御をお願い出来る?』

『イエス、バート・ガルサ――』





『――ユメも仲間に入れてよ、ソラ』





『!――警告。敵本体、接近』


 新型キューブが突如左右に展開、開けられた道を意気揚々と大型の兵器が渡り歩いて来た。

奇抜なデザイン、だが新しさを感じさせるフォルムではない。警戒心だけを促す、不吉な外装――

新たな、無人兵器。ブリッジより届けられた、正体不明の敵とはこいつの事だろう。メイアもバートも、真剣な顔になる。


禍々しい紅い光を放つ、無人兵器――大規模改良された、ピロシキ型。


尖兵のキューブ型でも、これほど苦戦させられている。こんな時に、格上の敵まで現れた。

主戦力の、ヴァンドレッドは使用出来ない。戦略を練る、カイ・ピュアウインドはいない。



楽だったはずの回収任務は今まさに、命懸けになろうとしていた。






























<to be continued>







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