ヴァンドレッド the second stage連載「Eternal Advance」
Chapter 14 "Bad morale dream"
Action11 −恐悦−
精密検査で一日休暇を取っていた面々が、緊急事態により休暇返上で持ち場へ戻る。たった一人を除いて。
カイ・ピュアウインド、若き少年パイロットは何も知らずにメディカルマシーンで眠っている。麻酔により、休眠状態に入っていた。
彼がいなくては、ドレッドと蛮型の合体が実現しない。主力兵器であるヴァンドレッドが使用出来なくなる。
大幅な戦力低下となるが、ニル・ヴァーナ内で誰一人文句を言う人間などいない。ドクターであるドルエロも、承諾済み。
この半年間仲間を守る為にカイがどれほど傷付いたか、マグノ海賊団の誰もが知っていた。
「救命ポットの回収を第一とし、不要な戦闘は可能な限り回避する。
現在、デリ機による回収作業は完了している。メイア、デリ機の護衛を頼む」
『了解』
緊急事態での出撃の為、本来精密検査の予定だったメイアは患者用の服を着たままドレッドに乗り込んでいる。
布一枚の服装は敵によるダメージを緩和してくれないが、贅沢は言ってられない。彼女は任務を優先した。
メイア機の発進を見届けたブザムは、事前に想定していた無人兵器襲撃への対応を迅速に行っていく。
「ドレッドチームはガスコーニュの帰投を援護。ジュラが指揮を取れ」
『了解――アンタも手伝いなさいよ』
『うん、宇宙人さんの分まで頑張る!』
体調不良の素振りも見せずに出撃するジュラに、未知の敵にも恐怖を見せないディータ。頼もしくなったものだと、ブザムは思う。
恐るべき加速性能を持った鳥型にメイアが重傷を負った最、代理指揮官を命じられたジュラは重責の余り縮こまっていた。
ディータもまだ新人パイロットであり、無人兵器に襲われれば都度カイに助けを求めて悲鳴を上げていたものだ。
カイと共に数々の苦難を乗り越えてきた二人は、まぎれもなく強くなっている。当人達すら自認出来ない、成長速度で。
成長しなければ、彼女達は生き残れなかった。強制された形ではあるが、それでも一人の上司として喜びを覚える。
もう新人扱いは出来ないと、半ば冗談気味に彼女は微笑した。
「パルフェ、シールドの展開は可能か?」
『……完全なコントロールは出来ません。不安定なままです』
最善を尽くしても、最良の結果を得られるとは限らない。不測の事態が起きれば、尚の事である。
長期戦に耐えうる状態ではないと、ブザムは冷徹に自分達の艦ニル・ヴァーナについて分析する。
それでもこの緊急事態の中で、不安定であってもシールドを張れる状態にまで復旧出来たのは朗報とも言える。
カイ達が悪夢を見た翌日より、ペークシス・プラグマが出力ダウンしたのだ。立ち往生するよりは、遥かにマシだ。
密航者として一時疑われた少女、ソラ。パルフェの強い推薦だけあって、機関部クルーとしての能力は優秀らしい。
とはいえ――
「のんびりしている訳にはいかない。任務完了後、離脱する」
『了解。逃げるのは大得意っすよ!』
精密検査の後とは思えないほど、元気のいい声を上げるバート・ガルサス。先程戻って、操舵席に就いている。
離脱命令ではあるが、本作戦においては重要な役割。それでいて得意分野とだけあって、バートは俄然張り切っていた。
大喜びで逃げようとするバートに、さしもの副長も肩を落とすしかなかった。
マグノ海賊団副長からの命令を受けて、クルー達は即座に行動に移した。
救命ポットの回収は既に完了しているので、無駄な抗戦は不要とデリ機は急速離脱する。護衛となったメイア機も併走。
出撃したドレッドチームが殿について、急襲を仕掛けてきた無人兵器に対して警戒を行う。
副長の命令はあくまで離脱、デリ機がニルヴァーナに帰艦した段階で作戦は終了する。
間違いなく無人兵器はニル・ヴァーナを襲って来るだろうが、急速離脱すれば逃げ切る事は十分に可能。これまでの戦いで経験済みである。
――勿論、敵側も。
「来たか――なにっ!?」
敵機接近を告げるシグナルより早く、無人兵器の群れがデリ機に襲い掛かる。
護衛についていたメイア機を当然のように無視して、デリ機のハンドアームにレーザーを浴びせた。
メイアの反射能力、ガスコーニュの認識力を超えた敵の動き。仕掛けられたと認識したその時には、既に攻撃を受けていた。
ハンドアームは溶解――掴んでいた救命ポットが切り離され、無人兵器が素早く取り去った。
「っ……いつの間に、下へ!?」
集中攻撃を受けたデリ機だが、装甲の強度は折り紙付き。加えて、ガスコーニュは熟練のパイロットである。
火花を散らすハンドアームを即座にパージして、操縦桿を握って態勢を立て直す。
致命打を受ける事はなかったが、致命的とも言える失敗を犯した。折角回収したポットが、敵に奪われたのである。
何の為にブザムが自分に任せたのか――ガスコーニュは、歯噛みする。
「母艦撃沈は奴らにとって、相当痛手だったようだな……尖兵のキューブ型まで改良したのか」
これまでの戦いでは、戦いの度に新型兵器を繰り出してきたがキューブやピロシキ型は通常のままだった。
尖兵は量産する事で戦力とし、臓器刈り取りの目的遂行もしくは対ヴァンドレッド用に新型兵器を用意していたのだ。
その前提をも、今回から破ってきた――恐らく、地球母艦撃墜が彼らの危機感を煽ったのだろう。
これまでの戦闘の失敗を教訓に、無人兵器を一から全て造り替えた。
数を持って戦力とするキューブ型まで徹底的な改良を行い、三等兵を大将の実力にまで引き上げたのだ。
明らかに、カイやマグノ海賊団を敵として意識した戦力編成である。
メイアと一緒に最前線で戦ってきたジュラやディータも、すぐにその事実に気付いた。
「こいつら、前のキューブより全然早い――ディータ!?」
「うう……早く、早く皆を助けてあげて……!」
新型キューブに襲われそうになったジュラ機を、ディータ機がカバーに入る。
どれほど度胸がついたといっても、パイロットの実力まで跳ね上がりする訳もない。狙いを切り替えたキューブに、ディータ機が襲われる。
苦戦するディータだが、保身など頭の片隅もない。必死で、ジュラに作戦の指揮を訴えかけた。
ディータの懸命の思いは、混乱しそうになったジュラを冷静にした。目頭だけは、熱くさせて。
「カッコつけちゃって……ジュラも負けないわよ!」
代理指揮官の権限で、全通信回線を開いてチームに命令する。同時に新型キューブの戦力の分析も試みて、状況打開を図る。
策を練るのを苦手とするジュラは、自分の弱点も熟知している。自己判断のみで、全てをやり遂げようとするつもりはなかった。
己の役割だけに固執せず、チームの為に行動する。任務完遂と仲間の無事を最優先に、彼女は最前線へ突撃した。
そんなサブリーダーの動きと狙いを、リーダーであるメイアがいち早く気付いた。
わざと大胆に戦力図を広げて攻防戦を行い、ジュラ機が最前線に出てまで指揮を取っている。全てを、自分達に注目させる為に。
改良されたキューブでも、彼女の狙いは読めない。無人兵器に学習出来るのは、過去の戦闘経験のみ。
経験から生かされる、人間の成長――未来の戦力を、彼らは決して読み取る事は出来ない。
「すまない……この場は任せたぞ、ジュラ。私が必ず、ポットを取り返す!」
けれど、仲間ならば理解出来る。苦労を分かち合い、共に血と汗を流した同胞ならば通じ合える。
任務に固執していた昔ならばありえない行動を、メイアは取る。デリ機の護衛を彼女に任せ、敵を追撃に移った。
自分の屈辱も、仲間の痛みも、全て報える方法は存在する。
救命ポットの回収――自分達の目的を、成し遂げればいい!
「敵機、ポットを回収して母艦に戻っていきます!」
「……狙いは我々ではないというのか」
メイア機の行動は、ブリッジ側でも補足している。部下の行動から敵の狙いを看破し、ブザムは表情を引き締める。
無人兵器であるというのに、敵が嘲笑しているように思える。明らかに、こちらを馬鹿にした行為。
無人兵器、地球側の意図。それは――自分達の行動を、完全に真似ている。
救命ポットの回収を先にさせた上で、奪って逃げた。海賊らしいやり方だ。
子供の無邪気な悪意を、感じさせる。無人兵器である筈なのに、どこかで誰かがくすくす笑っている感じがした。
「――だとしたら、ますます譲れないよ」
明らかな挑発行為を、むしろ面白がるように老婆は笑う。
長い年月を生きた人間にとって、酸いも甘いも噛み分けられる。この程度でビクつくようでは、海賊家業など出来はしない。
「あのポットは地球側にとって、よっぽど大事なものらしいからね」
それほど貴重であるというのならば、尚更奪ってみせよう。どれほど困難な壁があろうと、破壊して奪い返す。
軍事国家も恐怖に陥れた、マグノ海賊団が今こそ本領発揮する。
彼女達を制止する少年は、いない――海賊達の逆襲が、始まった。
<to be continued>
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