ヴァンドレッド the second stage連載「Eternal Advance」
Chapter 14 "Bad morale dream"
Action10 −再来−
故郷への旅路の途中に発見されたポット、価値有りと判断されて回収作業が行われようとしている。
あらゆる可能性を考慮して万端の準備を整えた作戦総指揮者、ブザム・A・カレッサ。今の彼女に、油断はない。
どれほど完璧に仕上げても、常識を覆すのが彼女達の敵。ブリッジの中央モニターを鋭く見据え、回収の機会を伺う。
「救難信号の発信源、補足しました」
アマローネの操作の元、モニターに宇宙観測図が映し出される。中央には、分析を終えたポットの機影。
ポットの回収は既に決定事項ではあったが、そのポット自身に問題がないとは限らない。
救難信号を発しているからと言って、無害である保証など何処にもない。
マグノ海賊団が初めて上陸した砂の惑星では星そのものが罠の巣窟と化していて、上陸班が危うく全滅しかけた。
土壇場でのカイの機転が無ければ、死者が出ていたであろう。カイ自身も、危うく死にかけたのだ。
反省は生かさなければ、同じ失敗を繰り返す羽目になる。ブザムは事前にポットの安全性を、アマローネに調べさせたのだ。
「これより、デリ機による回収作戦を開始する!」
作戦開始の合図、メインブリッジが一気に緊張に包まれる。本作戦は戦闘ではないが、何が起きるか分からない。
本来ならポット一つの回収にデリ機は大袈裟と言えるが、ブザムはガスコーニュに回収を命じた。
ベテランである彼女ならば、どのような事態に陥っても冷静に対処出来る。
「――ドゥエロ、メイア達の検査の進み具合はどうなっている?」
『バートは間もなく終了する。カイは麻酔をかけて現在精密検査中、メイアは順番待ち。
ディータ・ジュラは既に検査を終えたが、異常はない』
「分かった」
ヴァンドレッドの要である彼女達、ブザムとしてはなるべく出撃させたくはなかった。
半年間命懸けの戦いの連続で、彼女達は心身共に傷ついている。今日に至っては、悪夢による頭痛や発熱等の異常まで出ていた。
ペークシス・プラグマが直接の原因であるかどうかは不明だが、ペークシスの恩恵を授かった彼女達を今まで酷使させたのは事実だ。
今日はポット回収だけの平和な任務、せめてこの時だけは休ませてやりたかった。
「ガスコーニュ――いつ敵襲があるか、分からない。警戒は怠るな」
『その為のアタシだろう? たまには、大人がカッコいいところを見せないとね』
何も言わずとも、ガスコーニュもまた同じ気持ちだったらしい。頼もしい返答だった。
戦いはまだまだ続く。母艦はまだ数機は健在していて、故郷への侵略を行なおうとしている。激戦は必至だった。
カイやディータ、メイアにジュラも、どれほどの困難が待っていても立ち向かおうとするだろう。
仲間の為ならば、自分の命の犠牲すら辞さない。その気概を頼もしく思うがゆえに、無理をさせてばかりの自分達を歯痒く思う。
上官である以上、部下に死を命じる事も任務だ。危険を恐れていて、海賊など務まらない。いざとなれば、覚悟はある。
だからといって、危険な目に遭わせるつもりはない。ポット回収もまた、少しでも敵を知る為の手掛かりを求めての事だ。
未来ある子供達の為、デリバリー機に乗ってガスコーニュは発進する――
「……酷いダメージだね」
広い宇宙に漂うポットを間近で見た、ガスコーニュの率直な感想だった。
デリバリー機のコックピットの計器が伝える観測データは、ポットの損傷の深さを知らせてくれている。
難しい表情を浮かべて、ガスコーニュはニル・ヴァーナのメインブリッジに観測データを送信。
検査を終えて戻ってきたオペレータのエズラが、データの解析を行って――驚くべき結果を報告する。
「生体反応、確認しました!?」
「! 刈り取りを、逃れてきたのか……?」
救命ポット内に、生体反応。この観測データが正しければ、生きている人間がいる事を意味する。
救難信号が出ていたと言っても、生存は絶望的と予測していただけに意外な形で予想外が生じた。
生存者発見の知らせを受けて、ブザムは素早く頭を働かせる――
救命ポットの大きさからして、生存者は一名。現在の航路に惑星は観測されておらず、長期間漂ってきた事も考えられる。
ポットは植民船時代のパターンが検出された。謎の商人ラバットが居たミッションと同じ、古き時代の遺産。
つまり、地球より出立した植民船と同じく――乗員は、冷凍睡眠状態にある可能性が高い。
自分達の知らない過去を知る、生き証人。保護する事が出来れば、大きな手掛かりとなり得る。
祖先の星地球が敵だと判明した今だからこそ、有力な情報だと認識出来る。このタイミングは、まさに神懸り的だった。
救命ポットであるという事が、敵ではない何よりの証拠だ。
生存者を餌とした罠の可能性も捨てきれないが、そこまで追求すると何も出来なくなる。
多少の危険性は覚悟の上で、ブザムは副長としての決断を下した。
「ガスコーニュ、最善の注意を払ってポットの回収をしてくれ」
『そのつもりだよ』
モニター越しに、不敵な笑みを浮かべるガスコーニュ。任務の重要性が高まり、彼女のやる気も刺激されたようだ。
注意深く様子を伺うブザムに合わせるように、大胆かつ繊細にデリ機のハンドアームを操作。
宇宙に漂っていた救命ポットを、見事に掴んだ。
「……」
何事も無く、回収。油断は出来ないが、ブザムは小さく息を吐いた。期待が高まっていた分、気負いも大きかった。
とはいえ、安心はしていられない。これまで無事だったのが不思議なほど、ポットの損傷は酷い。
ニル・ヴァーナへ移送させて、要救命者を安全に保護しなければならない。治療や診断も必要だろう。
帰還命令を出そうとして――ブザムは、目を剥いた。
中央モニターに映し出される観測レーダーに、新たなシグナルがキャッチされていた。
「敵影確認、接近中――距離、二万!」
『くっ……何てタイミングだい!』
歯噛みする。ポットを発見したタイミングに一瞬でも浮かれた瞬間に、これだ。
こちらの隙を常に伺っているのではないかと思うほど、絶妙に嫌らしいタイミングで攻めてくる。
回収作業を終えたばかりのガスコーニュも、苦々しい声を上げる。これで、安全な任務ではなくなった。
無人兵器が攻めてきた以上――カイ達を、出撃させなければならない。
「……来たか、あたしらもすっかりお尋ね者だね。ま、海賊らしいけどさ」
ブザムの心中を読み取ったように、艦長席から気軽な声が届いた。
ブザムが振り返ると、マグノ海賊団を率いる老婆が苦笑しているのが見える。彼女の表情が、こう言っていた。
海賊という生き方を選んだ、自分達の宿命だと。この道を歩む限りは、逃れられないのだと――
他人から奪って、のうのうと生きている。他人に恨まれて当然であり、やり返される事も覚悟しなければならない。
絶対の安全なんてないのだと、老僧は告げていた。ブザムも、頷くしかない。
「今までにない信号パターンです。敵戦力データ、把握出来ません」
メインブリッジクルーの一人、ベルヴェデールからの報告。極めて悪い知らせであり、覚悟はしていた報告内容だった。
刈り取りと称している、無人兵器。この機体は倒せば倒すほど改良され、新型となって襲撃を仕掛けてくる。
尖兵であるキューブやピロシキ型は常に襲いかかって来るが、他に強力な戦闘手段を秘めた兵器が襲来するのだ。
ただ、気になる点もある。
「別の母艦から発したもののようですね。敵も、かなりの距離まで進撃してきたようです」
無人兵器は母艦より生み出されて、都度襲撃を仕掛けてくる。それはメラナス戦を通じて、分かった事実だ。
その母艦本体を破壊した事で、カイ達はここしばらくは平穏無事に旅をしてきた。
だが、ここへ来て新しいタイプの敵。別の母艦が近くまで攻め込んで来たと、仮定して然るべきだろう。
「五隻もいっぺんに向かって来ているんだ。何処でぶつかっても不思議はないさ」
マグノも同意見だった。地球母艦という悪夢の再来、分かっていた事ではあるが意気揚々とはしていられない。
さあ、決断しなければならない――ブザムの葛藤は、一瞬だった。
甘えなど許されない。部下にも、自分にも。彼女は、ニル・ヴァーナ全体に非常警報を鳴らした。
当然、医務室にも伝わったであろう――検査中の、彼らにも。
すぐに、ブリッジに連絡が入る。ブザムは表情を引き締めて、応答する。
『お頭、副長。本日の休暇を返上し、私も今から出撃致します。ただ――』
『宇宙人さんを休ませてあげてください、お願いします!』
『ジュラ達でちゃんとカバー出来ます。だから……あいつは、そのまま寝かせてあげて下さい』
『ピョ、ピョロもカイの代わりに頑張るぴょろ!』
『ぼ、僕はパイロットじゃないですけど、ニル・ヴァーナの操舵手として援護します!
どうか、頼みます! あの馬鹿に知らせたら、また無茶するから……せめて、今日だけ! 今日だけは!』
次々とメインブリッジに通信モニターが開いて、メイア達が揃って頭を下げる。
マグノも、ブザムも、これには驚かされた。彼らがこれほど個人を思って強く願い出るのは、初めての事だった。
全員、恐らく示し合わせたのだろう。タイミングが良すぎる。
カイがメディカルマシーンで眠っている事は、検査中だった彼らが一番知っている。
この最悪のタイミングを、あろう事か彼らはチャンスと捉えたのだ。カイへの、恩返しをするチャンスだと。
自分達も相当疲労しているというのに……
「――のんびりはしていられない。不必要な戦闘は避けて、離脱する。時間が勝負だ、急げ!!」
『さすが、副長さん! 素晴らしい決断です!』
バートの調子の良さも含め、彼らの頼もしさにブザムも思わず笑みがこぼれる。
心配など無用だったようだ。ならば、自分も毅然として立ち向かわなければならない。
敵の襲撃を受けて、マグノ海賊団は再び戦の雄叫びを上げた。
<to be continued>
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