ヴァンドレッド the second stage連載「Eternal Advance」




Chapter 14 "Bad morale dream"






Action4 −進展−






 半年もの歳月を経てようやく始められた、男と女の健全な関係。故郷の教えや他国の偏見もなく、一個人として接していく生活――

お互いに必要だと認識して、男と女は手を取り合った。艦から醜く罵り合う声は消えて、恐る恐るでも歩み寄ろうとしている。

ただ、一人の人間として意識しているからといって、すぐに好きになれるとは限らない。

そこから先の領域はタラーク・メジェール一切関係なく、完全に個人の問題だった。


「ねえ、知ってる……? カイ達が最近あたし達の居住区域に出入りしているらしいよ」

「仲の良い子の部屋に泊めてもらってるんでしょう。消灯時間までパジャマ姿で遊んでるんだって」


 化粧室で、女性クルー二人が話している。通常業務中の、ちょっとした休憩中だった。

敵からの襲撃はなく、艦も立て直して、地球母艦戦の傷痕もようやく消え始めた頃。

流行に敏感な彼女たちは、最近の管内の変化について話題にしていた。


「何かもう、男が居るのが自然になってきたわねー」

「同じ"人間"、なんでしょう? ピンと来ないけどね、まだ……」


 この感覚は女性クルーの多くが持つものである。メジェールで教わった男像とのギャップに戸惑っているのだ。

男への嫌悪感や拒否反応が無くなったからといって、感情が突然反転したりはしない。女にとって、男はまだ未知なる存在なのだ。

分かりあえても、理解にまで至るにはまだ早い。人間関係特有の悩みどころだった。


「――甘やかしたら駄目よ、男はすぐにつけあがるから」

「あっ、バーネット!?」


 奥の扉が開いて、白いシャツを着た女性が出てくる。入っていてたまたま聞いていたのだろう、少しだけバツが悪そうだった。

男達との確執といえばこの女性で、一時は殺し合いにまで発展している。女性二人が身を固くするのも無理はなかった。


「あいつらとは手を組んでいるけど、お互いの立ち位置はちゃんとしておかないと。特に、カイは味方ではないんだから。
女の権利はちゃんと勝ち取りましょう! うかうかしていると、立場が逆転しちゃうわよ!」

「で、でも、また反対運動とかしたら、今度こそお頭や副長が黙っていないと思いますし……」

「本当に戦うわけじゃないわよ。自分の出来ることからちゃんとやって、男達に胸を張れるようにするの」


 清々しく笑ってウインクし、バーネットは化粧室を出て行った。その後ろ姿を、女性二人は呆然と見送った。

バーネット・オランジェロは地球母艦戦との死闘後――パイロットを正式に引退し、レジクルーとして働いている。


彼女なりにケジメをつけたのか、カイとの戦闘後反対運動の責任を取る形で辞職。レジクルーに転属となった。


緊急時は予備パイロットして出撃するが、第一線から身を引いた形になる。

彼女は驚くほど変わった。刺々しかった性格は丸くなり、カイ達ともすっかり仲良くなっている。

心の整理がついて親友のジュラとも仲直りして、新しい人生を歩み出そうとしていた。


「……変わったよね、バーネット……男を知ったら、あんな風になるのかな?」

「んー、でも男と何を話していいのか分かんないのよね。興味はあるんだけど」

「あるんじゃない、興味!?」

「へへ……今晩、わたし達も遊びに行かない?」


 少しずつ変化していく関係。もどかしくもゆるやかで、臆病なほどに。

濁り淀んでいた流れが清められて、徐々に滑らかになっていく。


男と女の関係は、新しい関係に発展しようとしていた。















「男三人揃って、朝飯食うのは随分久しぶりじゃねえか?」

「パイロットに操舵手、それにドクターだろう僕達。何かあればすぐに呼び出されるじゃんか。
僕もやっと休憩時間でもうクタクタだよ……」

「我々がそれほど必要とされているということだ」


 カイにバート、そしてドゥエロ。融合戦艦ニル・ヴァーナの数少ない男三人組が、揃ってカフェテリアへと訪れていた。

マグノ海賊団の憩いの場、女性の華やかな声が絶えないカフェ。かつては男子禁制だったが、今では気軽に利用している。

たまたま同じ時間に休憩時間となった彼らは誘い合って、遅い朝食を取りに来ていた。


「女は男の肝を食うと聞いてたけど……こうやってメニューとか見ると、全然違うよね」

「実際、男よりいいもの食ってるからな。そりゃ戦争だって負けるだろ。
――なのにお前は朝からペレットを食べるのか、バート。わざわざ持参とか、嫌がらせだろ」

「僕は毎朝これを食べないと元気が出ないの! ドゥエロ君だって野菜ばかりじゃないか!」

「ここの朝食のサラダが気に入っている。カイ、私のカードで追加注文してもかまわないぞ」

「お、悪いな。俺のセキュリティカードだと水と野菜しか頼めないからな。
その代わり、サラダの分は出すよ。バートは水でいいだろ?」

「奢られているという感じがしないんだけど……いい加減、セキュリティカードの更新をしてもらいなよ」

「海賊の仲間にはならん」

「その一線は譲れないか、君らしいな」


 士官候補生と三等民、タラークに入れば友情など芽生える機会がない者達が仲良く話している。

三人で同じ卓について、美味しい食事を肴に、他愛のない話で笑い合っていた。


「いいよなー、カイは。今日、休みをもらえたんだろ?」

「一日中、検査入院だぞ。医務室で器具つけられて、ジッとしてなければならねえ」

「いい機会だ。最前線にいる君は勿論の事、彼女達三人も一度は検査しておきたかった」


 昨晩突然襲いかかってきた、悪夢。眠りの世界が血に染まり、夢が絶望に満ちた悲劇で演出されていた。

カイ一人ではなく、ディータにメイア、ジュラの四人全員が見せられた悪い夢。体調不良を訴えて、パイロット達は今日休暇を取った。

原因と思われるペークシス・プラグマの暴走、その影響を受けた四人の身体を本格的に診てもらう事にしたのである。


「ヴァンドレッドで戦うだけでも、君達の身体に相当な負担になっている。
勤務熱心なのは結構だが、今後定期的に検査を受けてもらいたい」

「……うっ、俺も面倒だからずっと断っていたな」


 ペークシス・プラグマの影響が無くとも、カイ達四人のパイロットは傷つき過ぎている。

故郷への旅を始めて半年、SP型と改良型ドレッドを駆り出して最前線で彼らは戦っていた。


ヴァンドレッド・ディータ、ヴァンドレッド・メイア、ヴァンドレッド・ジュラ――対地球戦の切り札である、合体兵器。


彼らにしか扱えない力であり、彼らがいなければ勝利はありえない。その為常に最前線に出撃して、戦い続けてきた。

どれほど兵器が優れていても、操縦するパイロットは生身の人間である。ドゥエロは医者の立場から、彼らの身体を常に案じていた。

気の抜けない任務だと承知していても、時には休み、身体を労って欲しかったのだ。


   「カイはともかく、女の子達は心配だな。宇宙人の娘だってこの前、頭を怪我したばかりだろ?
リーダーさんは毎日一生懸命で休憩なんてしそうにないしさ、倒れられたら大変だよ」

「そういえばお前、青髪を庇って撃たれたんだっけな。あいつが死んだら、お前の頑張りも無駄だな」

「不吉な事を言うなよ!? ねえねえドゥエロ君、彼女達大丈夫だよね……?」


「心配しなくていい――と言いたい所だが、今朝方ジュラが医務室を訪れている。頭痛がするらしい。
痛み止めの薬を飲ませて、医務室のベットに寝かせている」


「ほら、見ろ!? 君があんな事言うから倒れたんじゃないか!」

「人聞きの悪いことを言うな!? 皆、こっちを見ているだろ!

――ち、違うぞ!? 俺のせいじゃねえ!」


 カイさいてー、デリカシーがないよね、等とブーイングが飛んでくる。騒ぎに便乗しての野次程度に。

珍しくバートに責められて困り果てているカイの姿を見るのが面白いのだろう。女性陣が揃って囃し立てていた。

ジュラの頭痛がカイの責任とは、微塵に思っていない証拠だった。やがて、大きなゲンコツ音と悲鳴が飛び出る。 


「な、殴ることはないじゃないか……!? これだから、三等民の野蛮人は!」

「女みたいな事を言うな、たく……それでドゥエロ。金髪は大丈夫なのか?」

「夢見が悪かったそうだ。今日一日、大人しく寝ていれば良くなるだろう。彼女の診断は既に終わっている。
異常はないと思うが、精密検査も行うつもりだ。今は寝ているので、後に回そう」

「だったら、俺を最初にしてくれ。青髪を一番にやらせると、検査が終わった途端仕事に行くだろう」

「なるなる、絶対にそうなる。彼女、絶対に休まないよ」

「ならばディータを君の次の順にして、三番目に回そう」


 女性を大っぴらに噂話にして笑えるのも、最近になってからの話だ。本人が聞いていても、笑って許してくれるだろう。

噂話の中でも、メイア達を真剣に思い遣る気持ちが見えている。隣で聞いている女性達も、男達の話に耳を傾ける余裕があった。


「診察ならともかく、精密検査だからな。一人一人、時間をかける必要がある」

「ドゥエロなら手際よくやれるだろう。メディカルマシーンだってあるんだし」

「女性の体については勉強不足だ。まだまだ知らなければならない事が多い。

近頃は、私もこのような本を読んで勉強している」


「『コンニチハ赤ちゃん』――こんな物、何処で見つけたんだ……?」

「ほら、クリスマスパーティの準備の時に倉庫を漁っただろう? あの中に本も埃と一緒に埋れていたんだよ」


 融合戦艦ニル・ヴァーナ、この艦が誕生する前は植民船時代の船を改造したタラークの軍艦だった。

ペークシス・プラグマの力で男女の船が融合したのだが、古き時代の名残が遺されたままとなったのだ。

ユメとピョロが現在ナビゲーション役として探索している最中だが、それより前にカイ達がクリスマス前に色々探り当てたのである。

ドゥエロ・マクファイルが持ち出した本も、地球より持ち出された物である。


「なになに、"赤ちゃんはお父さんの精子という種を、お母さんの卵子という卵が受け入れるのが始まりです"?


……お前、この本に書かれている内容が分かるか?」

「全然、僕にもサッパリ分からない。ドゥエロ君、面白いのコレ……?」


「すこぶる、面白い」


 久しぶりの、怪しげな笑みを浮かべるドゥエロ。好奇心と興味に彩られたこの笑顔こそが、彼なりの感情表現かもしれない。

とはいえ、カイ達にとっては理解不能である。処置なしと言わんばかりに首を振って、食事に没頭する。

友人に面白さを理解されなかった事に、ドゥエロは肩を落としてサラダをつつく。


男も女も、平和な朝を過ごしていた。






























<to be continued>







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