ヴァンドレッド the second stage連載「Eternal Advance」




Chapter 14 "Bad morale dream"






Action3 −理解−






 融合戦艦ニル・ヴァーナのメインブリッジ後方にある、ブリーフィング・ルーム。

マグノ海賊団幹部以外立ち入り禁止とされている部屋で、重鎮達による会議が行われていた。

ブリーフィング・ルームの中央に星系図を表示させて、今後の運航について話し合っている。


「メジェールまで、後九十日の距離にまで到達しました。地球による身体器官の"刈り取り"作戦による情報ですが――」


 会議の進行役を務めているのは、マグノ海賊団副長を務めるブザム・A・カレッサ。

知的な分析と論理的な判断により信頼と実績を買われ、若くして頭目の参謀役に抜擢された女性である。

ブザムを推薦したレジシステムの店長ガスコーニュ・ラインガウも、会議に出席している。


「既に我が母星メジェールと、男達の星タラークへ通信ポットを送りました」


 通信ポットとは故郷へ帰還中のニル・ヴァーナより先行して出射した、情報データ入りの小型ポットである。

ブザムが報告した通信ポットの内容は惑星アンパトスとメラナス両国家より入手した、地球に関する情報。


半年間戦い続けた刈り取り兵器との戦争記録、そして――巨大母艦襲来に関する、警告。


男女共同作戦による母艦撃退によって、地球が刈り取りに向けていた戦力を全てタラーク・メジェールに集中させたのである。

マグノ海賊団も急ぎ故郷へと向かっているが、相手は強大な戦力を保有する地球。最低限、備えを万全にしておくべき。

よってマグノの決断により、タラーク・メジェールに通信ポットが送られる事になったのである。


「……その前に、アタシらが送った通信はどうなったかね?」


 本会議最重要人物であるマグノからの質問に、ブザムは厳しい表情を見せる。

地球母艦等の情報が載せられた通信ポットは第二便であり、数カ月前に第一便を送っている。

カイとディータ達が殲滅した無人兵器の残骸を解析して、刈り取りの存在が発覚。タラーク・メジェール両国へと情報を送ったのだ。

無人兵器の残骸を隠れ蓑としており、刈り取り兵器に撃破されずに両国へと到着する手筈になっている。


「届いている筈ですが……タラーク・メジェール、双方からの通信は今だにありません」


 順調に行けば半年間が経過した現在、既に両国家の首脳陣に渡ってもおかしくはない。あくまでも、計算上では。

無事に届く保証は何処にもなく、無事に届いたとしても真意が伝わるかどうかは分からない。

第二便はともかく、第一便では刈り取りに関する情報は少なく、黒幕が地球である事も分かっていなかった。

無人兵器との戦闘データも搭載しているが、何しろ荒唐無稽な話である。惑星の一大事であるからこそ、実証するには確かな証拠がいる。


「シカトされちゃいましたかね……?」

「まあ……いくらなんでも今度の情報は、母星の連中も引っ繰り返るだろうよ。
なんたって奴らの狙いは、アタシらの『生殖器』を奪う事なんだから」


 溜息を吐くガスコーニュに、マグノが頭部を覆った法衣の下より決然とした瞳を向ける。

真贋を定めるのは両国家の決断次第だが、遅球による刈取り作戦が実行に移されているのは紛れもなく事実である。

刈り取りに関する情報を信用されずに疑われ、結果タラーク・メジェール両惑星が滅ぼされたのでは泣くに泣けない。

情報を疑った両国家も、情報を送ったマグノ海賊団も、大間抜けとなってしまう。


「アタシらは嫌われモノの海賊ですからね……信じてもらうってのもなかなか難しい」

「その為の情報であり、我々が生き残った意味である。何としても、理解されなければならない」

「可能性がない訳とも限らないさ、アンパトスやメラナスにも協力を得ている。未来にもちゃんとした希望がある。
それにあの坊やだってこれまで散々痛い目にあいながらも、アタシら海賊と上手くやっている。

信用されるというのは難しい事だけど――ここでめげてちゃ、坊やに舐められてしまうよ」


 タラーク・メジェールに対して、マグノ海賊団は数多くの略奪行為を繰り返してきた。

両国家にとっては存在すら不確かな敵よりも、何度も物資を奪ったマグノ海賊団を目の敵にしている筈。

犯罪者集団から送られてきた情報を鵜呑みにしろというのも、酷な話だろう。まして、信用なんてそう簡単にはされない。

果てしなき困難な道程ではあるが、マグノ達に悲壮感はない。自分達の罪は他の誰よりも、自分自身が自覚している。

明確に罪を突きつけた、英雄志望の少年もこの船に乗っている。彼の存在がある限り、罪を忘れる事は決してない。


少年は男女共存を理想とし、これまで半年間訴え続けてきた。女性陣に爪弾きにされながらも、諦める事無く真剣に向きあって。


共感したバートもドゥエロも、決して諦めなかった。文字通り命懸けで彼女達に接し、遂には信頼を勝ち得たのである。

子供達が体現した理想を、大人が簡単に諦めて夢物語に変えるなどあってはならない。

マグノやブザム、そしてガスコーニュも心を新たにし、少年と少女達を守る為に理解を求める努力を続ける。


会議はこうして、結論を得た。



『会議中、すいません。機関室、パルフェです!』

「どうしたね、パルフェ」


 今後についての見通しも立ったところで、機関室より緊急連絡が入ってくる。

顔を見合わせるマグノ達だが、驚きも焦りも見せない。深刻な事態であればこそ、冷静さが必要となる。

マグノが通信許可を出して、会議に立席する形で通信映像が表示された。


『はい、今朝からのぺークシスの異常ですが――元凶は判明していませんが、原因が分かりました。
研修中であるソラちゃんの解析によりますと、ペークシス・プラグマが外部からの干渉を受けています。

現在も制御作業中で、出力は何とか正常値を保っています』

「……やれやれ、またかい……新米にあんまり無茶させるんじゃないよ」

『ラジャーです』


 ペークシス・プラグマの不安定は今に始まった事ではないが、刈り取り兵器に続いて頭を悩ませる問題だった。

しかも今度は外部からの干渉を受けており、明確な妨害行為を被っている。故郷への旅を邪魔するものなど、簡単に想像がつく。

地球母艦を撃破しても、のんびり平和な旅とはならないらしい。マグノは息を吐いた。


『それとお頭、機関室より正式に開発の許可を頂きたい案件があります』

「開発……? また何か新兵器でも作るつもりかい?」

『幾つかの懸案事項がありまして即実用化は出来ませんが――こちらとなります』


 ソラが作成したデータ資料が、重鎮達に提出される。その内容に目を通して、マグノ達は驚きに目を丸くする。

個人用の兵器ではない。"ヴァンドレッド"のような桁違いの規格でもない。

誰もが思い付く案でありながら、見過ごしていた発想――資料の内容を確認した瞬間、マグノ達を唸らせた。


「……これを思い付いたのは?」

『あたしです。あたしの思い付いた案を、ソラちゃんが図面にしてくれました。
必要な部品及び武装は後日一覧にして、提出致します。是非、ご検討を』

「その一覧資料、出来たらアタシに回しておくれ。用意してみるよ」


 ガスコーニュの回答は、実質実用化の許可が出たのと同じである。パルフェは歓声を上げて、元気に返答する。

ブザムは資料に内容を通した時、カイの発案かと疑ったのだが違ったらしい。それほどまでに、意表をつかれたのだ。

実用化に成功すれば無人兵器はおろか、地球母艦にも対抗しうる"策"となるかもしれない。少しだけ、展望が明るくなった。

その後は現在の船に対する状況を説明し、パルフェからの報告は終わった。


「……女と男の船が融合した拒否反応も、今だにあるのかもしれませんね」


 ペークシスに関する推測をブザムは立てる。タラーク最新鋭の軍艦と、メジェールの海賊船が融合した戦艦ニル・ヴァーナ。

ペークシス・プラグマの暴走が生み出した結晶により二つの船が融合し、一つの巨大な戦艦となった。

言うならば、このニル・ヴァーナもまたペークシス・プラグマの影響を受けているのである。

規格の異なる二つの船を無理に融合化させた負担が、ペークシス・プラグマにかかっている。ブザムの推測も、的外れなものではない。


「――アタシらと変わりゃしないって事じゃないの? なかなか溝が深いよ、女と男はさ」

「彼らは上手くやっていると思うが……?」

「甘いよ、BC。仲良くなっているからこそ、ややこしくなる事もあるんだ」


 理解が難しいと首を傾げるブザムに、ガスコーニュはトレードマークである長楊枝を揺らして微笑む。

人生経験豊富だからこそ、思い当たる点があるのだろう。マグノもまた愉快げに笑っていた。


機関室に研修中の新米クルー、ソラ。ナビゲーション役として働き始めた、ユメ。


良好な男女関係に新しい要素が加わって、クルー内でも新しい変化が生まれ始めている。

その流れを敏感に感じ取っているガスコーニュは、最後の報告として一言告げる。


「男達の部屋もこの前のドンパチで壊れちまって、連中別の部屋で寝泊まりしているんだ」

「別の部屋……? まさか――」


「仲良くなったクルーの部屋だってさ。それで今、色々揉めてるみたいで」


「……お頭、どうします?」

「ふふふ、平和な証拠だよ。ほっときな」


 ガスコーニュの報告に頭を抱えるブザム、マグノは声を出して笑った。

一時はクルー同士の殺し合いにまで発展した男女の諍い、その新たな火種が生まれようとしているのに上層部は放置。

干渉する必要もないと思っている。


『夫婦喧嘩は犬も食わない』――そんな言葉も昔あったもんだと、マグノは目を閉じる。






























<to be continued>







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