ヴァンドレッド the second stage連載「Eternal Advance」




Chapter 14 "Bad morale dream"






Action2 −影響−






 ペークシス・プラグマの暴走、全てはそこから始まった。

惑星タラーク最新鋭の軍艦イカヅチに眠っていた結晶体の覚醒、眠りから覚めた力が新たな進化を促した。

未知なる構造と物質が出てくるペークシスは、今日もまた不可思議な現象を見せていた。


「どんな感じ!?」

「……駄目です。出力が下がって、数値も安定しません」

「何時からこうなったの!?」

「十分ほど前からです」


 融合戦艦ニル・ヴァーナの機関室に保管されているペークシス・プラグマが、不気味な鳴動を見せている。

"赤い光"の点滅――太陽の光を放つ結晶体に、突如異変が生じたのだ。

ペークシス・プラグマは艦の動力源、ニル・ヴァーナのシステム全体にも影響が出始めていた。


「このペークシスはプロトタイプだからね……何が起こるのか、予想がつかないよ」


 ペークシス・プラグマは無限のエネルギーを秘めた結晶体、ドレッドや蛮型など幅広く活用されている。

ただ解明されていない部分も多く、その殆どは扱い易いようにカスタマイズされて運用化されている。

ニル・ヴァーナのペークシスは覚醒後そのまま使用されている。迂闊に手を加えれば、何が起きるのか分からないからだ。

機関室の長として豊富な知識を持つパルフェ・バルブレアも、このペークシスの扱いには困り果てていた。


「――ソラちゃん、システムは立て直せそう?」

"イエス、チーフ。航行に支障が出ない状態で維持出来ます"


 透き通るような銀色のツインテールの髪に、深い青の双眸。幻想的な美しさを持つ女の子が、パルフェと並んで作業を行っている。

ツナギの作業着に伊達メガネが妙に不釣合いだが、彼女は最近新しく入った機関クルーの一員である。

少女の名前は、ソラ。身元不明だが、優秀な能力と日々真面目な勤務態度で早くも信頼を得ていた。

愛想がないのが玉に瑕だが、機関クルーは元々エンジニア気質な人間が多く、職場で浮いた様子はない。


「いやー、ほんとソラちゃんが来てくれて助かるよ。ありがとね」

"マスターの・・・・御友人である皆さんの安全に務める事も、私の仕事です"

「うんうん、立派立派。でさ――今回の不具合の原因、分かりそう?」


"――外的要素によるペークシス・プラグマへの干渉が、主な原因であると思われます"


「それって、やっぱり……あいつら・・・・だよね?」

"はい、間違いありません"


 人類の臓器を刈り取る無人兵器――超大型無人宇宙母艦を保有する敵、地球。

パルフェは地球にもペークシス・プラグマ、そのプロトタイプの結晶体があると推測している。

今起きている現象も、そのもう一つのペークシス・プラグマからの干渉が原因ではないかと、ソラと議論していた。


"開発・・、急ぎますか?"

「お願い、あたしも今日中に設計を終わらせる。ペークシスからペークシスへの干渉が可能なら、システムの介入だって出来るはずよ。
今後の対無人兵器、対母艦への切り札になるわ」

"では、幹部会議に提出する資料を作成致します"

「ありがとう、ガスコさんにも事前に打ち合わせはしておくわ。


ハァ……まったく、困ったちゃんなんだから!」


 保管されているペークシスに、唇を尖らせるパルフェ。それでも向けられている瞳は、眼鏡越しに笑っていた。

数々の現象を起こしてクルーを混乱させるペークシスだが、これまで多く助けられた事も事実。

機械も友達とするパルフェにとってペークシス・プラグマは戦友であり、手のかかる我が子のような存在だった。


そんなパルフェを静かに見つめる、ソラ。その目には、温かさのようなものが宿っていた。















 ――ペークシス・プラグマは"赤い光"の干渉を受けた、同時刻・・・


"ますたぁー、あっそぼ!"

「相変わらず脈絡なく出てくるな、お前は」


 悪夢を見て眠れなくなったカイ。ヴィータ達と話し合った後、気分転換に散歩していた矢先に捕まってしまう。

血よりも赤いドレスを身に纏い、ルビーのような紅の瞳を持つ美少女。明るく無邪気だが、冷たい微笑みが口元に浮かんでいる。

少女の名前は、ユメ。カイ・ピュアウインドには依存して甘えきっている。


「今は遊ぶ気分じゃないの。また明日、来なさい」

"ぶー、つまんない"

「一緒に散歩するくらいならいいぞ。暇なら話し相手にでもなってくれ」

"本当に!? やったー、だからますたぁー大好き!"


 頬を膨らませたり、大はしゃぎしたりと、ユメは本能で感情を豊かに表現する。

身元も何もかも不明の、怪しい少女。気がつけばニル・ヴァーナに乗船しており、カイに懐いていた。

地球母艦との戦いでカイが死にかけてからというもの、ほぼ毎日ベッタリである。


「お前がこの前皆の前で姿を見せたせいで、説明が大変だったんだぞ」

"ソラだけ好かれて、ユメ一人仲間はずれなんて嫌だもん"


 祝勝パーティで初めてソラをマグノ海賊団に紹介した際、ユメまで乱入してしまった。

第二の密航者に会場は大騒ぎ、カイは女性陣に袋叩きにされてしまう羽目に。

身元不明を大いに怪しまれる結果となったが、一つの要素がソラとユメが無害である証明となった。


「それにしてもお前ら、艦内を好き勝手に行動出来るんだな」

"自由に動ける訳じゃないよ。ユメはますたぁーの傍か、ソラが許してくれた場所だけ"


 人間のような存在感があるが、ソラもユメも生身の人間ではない。二人は、立体映像である。

艦内のシステムやネットワークを活用して映写された存在、何故意志を持っているのかカイ自身も分かっていない。

絶対的な真実なのは、二人がカイ・ピュアウインドを主として慕っているという事。

同じ女性として二人の好意が本物だと判断したマグノ海賊団は、二人の身柄をカイに預ける事となった。


――意外にも身元不明者二名の受け入れを承認したのは、マグノ海賊団副長を務めるブザム・A・カレッサだった。


『私も昔故郷を出て・・・・・、宇宙に漂流していた所をお頭に助けられている。
身元のハッキリしない人間など、我々海賊の中には幾らでもいる。大切なのは、実績と信頼だ』


 立体映像相手にスパイ容疑も身体検査も無意味だ、とのブザムの冗談混じりの一言で会場内の空気も緩和した。

自由を誇りとする海賊ならではの考え方――お頭であるマグノ・ビバンの懐の深さを伺える。

価値観の違いから何度も対立しているが、宿敵の偉大さには時折頭が下がる思いだった。


ソラは機関クルー、ユメはというと――


「あー、いたいた! お前、仕事を放り出して何しているぴょろ! ――ヒックッ」

"もう、うるさいな……ますたぁー、あのロボット壊していい?"

「駄目、ピョロはお前と同じニル・ヴァーナのナビゲート役だろ。ピョロと二人で頑張って艦の隅々まで調査してくれ。
俺達が住めそうな部屋を探してくれるんだろう?」

"うん! えへへ……ますたぁーとずっと一緒の部屋なの"

「バートとドゥエロも一緒だぴょろよ、ヒックッ」


 ユメとピョロ――基本的に手の開いているこの二人は、ニル・ヴァーナのナビゲーションを任命された。

簡単に言えば艦の案内役だが、ニル・ヴァーナ全鑑の探索と調査・分析が本務である。

全長三キロメートルの広大な戦艦、男と女の艦が融合して拡張された空間も多い。

加えて地球母艦との戦闘で無人兵器の侵入を許してしまい、艦内は随分と荒らされてしまった。

放置されている物資や施設の中には使えるものがあるかもしれない――二人の役割は大きい。

マグノ海賊団に仕事を任されたピョロはやる気満々だが、ユメは然程興味がないようだ。


「とにかく、仕事の途中だから遊んでいないで――ヒック――持ち場に戻るぴょろ!」

「……お前こそ、今日は仕事を休んだ方がよくないか? 調子悪そうだぞ」

「ヒック、そんな事ないぴょろ! ピョロはやる気に満ち溢れているぴょろよ――ヒックッ!」

「機械の分際でしゃっくりなんぞしやがって。パルフェに見てもらえ」


 ピョロはナビゲーションロボット、メタルボディにある画面にデジタルな目が表示されている。

その画面が"赤く"澱んでおり、音声もノイズが混じって、奇妙な音を立てている。


――人間でいうしゃっくりに似た症状だった。


「いや、待てよ……そういえばお前も、ペークシス・プラグマの暴走に巻き込まれた口だったな」

「カイの手伝いをしていて巻き込まれたんだぴょろ! 全部お前のせい――ヒックッ!?」

「――お前。その症状、ついさっきからだろう?」

「? 何で知っているぴょろ?」

「決まりだ。お前一旦仕事を休んで、パルフェに隅々まで検査してもらえ。
ペークシス・プラグマによる何らかの影響を受けているぞ。多分、そのしゃっくりも」

「ええっ!?」


 ヴァンドレッドのパイロット四人が共有した悪夢、赤い光の影響を受けているピョロ。共通は、ペークシス暴走の経験者。

ここまで一致するのならば、もう偶然では済まされない。確実に、何らかの影響を受けている。

そう確信して、カイはピョロに事情を話すと――


「ヒック……そういう事なら仕方ないぴょろ……お前はちゃんと仕事するぴょろ!」

"ベーだ、何にも知らないくせに"


 立体映像なのに舌まで出して悪態をつくユメと、湯気を出して憤慨するピョロ。

人間ではない者のコンビは案外、相性がいいのかもしれない。

二人のやり取りを見ていると、カイも悪夢なんて忘れてしまいそうだった。


"馬鹿なロボットに、いいこと教えてあげる"

「どうしてお前はそんなに偉そうなんだぴょろ!」


"お前のその不調はね……ユメが此処にいるからなの!"


 ユメは得意げな顔をして、フフンと笑う。本人なりの衝撃の告白に、カイとピョロが顔を見合わせる。

今自分達に起きている現象と、赤い少女の告白。その符号を一致させた上で、お互いに頷き合う。



「……カイ、こいつ何言ってんだぴょろ?」

「……言わせておいてやれ。背伸びしたい年頃なんだよ」

"ええっ!? ほ、本当の事を言ったのにー!"



 ヒソヒソ声で話す二人に、ユメは地団駄を踏んで悔しがる。幼くも愛らしい少女の狂態は、見ていて微笑みを誘う。

ユメは涙目になったが、何とか理解してもらおうと、愛する主人に擦り寄る。


"ますたぁー、あのね、大切な事を教えてあげる。そもそもユメはね、ペーク――"

「分かってる、分かってる。ペークシスによる影響はユメが原因なんだろ?」

"! やっと分かってくれたんだ、ますたぁー!!"


「うんうん、ユメは可愛いな。偉い子だ、本当に」

「なるほど、そうやってあやせばいいぴょろか。子供は奥が深いぴょろ……」

"真剣に聞いてくれてない!? ふえ〜ん、ソラー!"


 人やロボットに新たな変化が訪れつつある中、とりあえずは平和な光景を見せている。

新しい人材は受け入れられつつあり、男達も確かな立ち位置を築きつつあった。


戦いによって生まれた平和――ある種の矛盾を孕んで、少年と少女達は進んでいく。






























<to be continued>







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