VANDREAD連載「Eternal Advance」
Chapter 13 "Road where we live"
Action28 −時代−
『国を変えるだって!?』
――とある日の事。母艦との決戦が終わり、惑星メラナスに滞在していた頃。
カイにバート、そしてドゥエロ。男三人で医務室で仲良く雑談していた時に話題となった。
無事に故郷へ帰れたら――何を、するか?
『そうだ。タラーク・メジェールに戻ったら、俺はあの二国を根本から変えていく。
特に両国家間で起きている戦争を、絶対に終わらせなければならない』
『何を言い出すかと思えば……刈り取りの母艦を倒せてのぼせ上がっているんじゃないか、君?
毎回大怪我してドゥエロ君のお世話になっているくせに、大それた夢なんて見ない方がいいぞ』
『あれほど過酷な戦いからの生還だ、高揚による熱が残るのも無理はない。
特にカイは何度も死線を潜り抜けて生き残っている。万能感が生じてしまうものだ。
もっとも――カイの言いたい事も理解は出来るが』
『えっ、どういう事……?』
カイの大胆な望みにバートは呆れた顔をしていたが、頷いているドゥエロを見て身を乗り出す。
二人を大切な友達だと思っているだけに、一人だけ仲間外れになるのは絶対に嫌だった。
『バート、我々は士官候補生だ。もしマグノ海賊団と円満に別れたとしても、故郷へ戻ればタラークの軍人となる。
つまり――メジェールに生きる女達、最悪の場合はマグノ海賊団とも戦わなければならなくなる』
『げっ、そうだよ! やばいじゃん!?』
半年間苦楽を共にしたマグノ海賊団に、ドゥエロもバートももはや敵対意識を持っていない。
全員無事に生きて帰るという志を新たに、彼女達と共に戦い抜く覚悟があった。
そんな彼らの意思も、タラーク軍事国家にとっては何の関係もない。
二人がどのような考えを持とうと、軍人である以上メジェールの女達と戦わなければならない。命令に拒否権はない。
『それどころか、女を庇う素振り一つ見せてもしょっ引かれるぞ。
教育という名の鞭で上官に躾けられたいのか、お前?』
『ブルブルブルッ、士官学校の熱苦しい軍事訓練さえついていけないってのに……!』
『奇遇だな、バート。私も苦手だった』
ドゥエロの場合身体的ではなく、精神的な意味で男を祭り上げるタラーク軍事国家の訓練が苦手だったのだろう。
いずれにしても彼らの受けた軍事訓練の目的は国家防衛であり、敵と定められているのは惑星メジェール。
加えてマグノ海賊団はタラーク・メジェール両国家を荒らし回る、立派な犯罪者である。討伐の命が下っても不思議ではない。
自分の置かれた立場に気付いて、バートは顔を青褪めている。
『ど、どうしよう、ドゥエロ君!? 彼女達とまた戦うなんてしたくないよ!
傷は治ったけど、僕なんてこの前撃たれたんだよ? もう二度と御免だよ、仲間同士で争うのは』
『……仲間、か……』
『何だよ、ドゥエロ。口元が緩んでいるぞ』
『ほんの少し前まではカイだけだったのに、いつの間にか我々も彼女達を仲間だと認めている。
その事実が少し愉快に思えただけだ。自分を含め、人間とは何がキッカケで変わるのか分からないものだな』
『……変わってしまったせいで、僕達こんなに悩んでいるんだけどね……』
感慨深く己を語るドゥエロに、バートも苦笑気味に同意する。何度も死に掛けたのに、過ぎてみればあっという間の半年間だった。
もしもマグノ海賊団と出会わずタラークに居たままであれば、女という存在を敵と見なしたままだっただろう。
労働階級のカイはともかく、士官候補生のバートやドゥエロは軍人として彼女達と殺し合っていたかもしれない。
『――決めた! タラークに戻ったら、僕は軍人を辞める。おじいちゃまの後を継ぐんだ!』
『士官学校を卒業したばかりでもう辞めるのか、お前。折角パーティ会場でお祝いしてやったのに』
『無礼な態度ばかり取っていたじゃないか、君は!』
『帰還した時の状況にもよるが、我々士官候補生の確かな実績を国は望んでいる。
除隊は簡単には認められないぞ。それこそ軍人精神を叩き直される』
『うわーん、僕はどうしたらいいんだー!』
頭を抱え出すバート。友人の悲嘆に暮れる様子を見て、カイとドゥエロは目を向け合って笑う。
ここまで正直だと小気味いい。感情を上手く表現出来ない二人にとって、バートの素直な狼狽え振りは羨ましくもあった。
『だからこそ――国を変えようと言ってるんだ、バート』
『カイ……』
『アンパトスにメラナス、彼らの暮らしぶりを見て来ただろう。男と女が、同じ星で日々の生活を営んでいる。
性別こそ違えど、彼らの中に差別は存在しない。同じ人間なんだ』
一人一人が同じとは、カイも思っていない。生活環境一つで、人間は千差万別に変化していく。
マグノ海賊団との協力関係も、結局は破局を迎えてしまった。人間同士が分かり合うのは、確かに難しい。
だからといって、差別を正当化する理由にはならない。断じて。
『構造は違っても、彼女達は人間だった。傷付きやすい身体と、繊細な心を持っている。
血も涙もない鬼だとどれほど国が訴えようと、私は自分の目で見てきたものを信じる』
『僕だって、それは同じさ! 確かに色々酷い事もされたけどさ……楽しい事だって、沢山あったんだ。
彼女達となら、この先だってもっと仲良くやっていける気がするんだ!
でも……タラークが認めないだろう、僕達がどれほど訴えかけたって』
バートやドゥエロが協力しても、男三人。国を相手にするのは無謀過ぎる。
タラークへ戻って国家に女の良さを必死で叫んでも、あっという間に制圧されてしまう。無視されて終わるだけかもしれない。
国家の教えは根強く、国民全体に浸透している。美辞麗句を並べても、彼らの差別意識は並大抵では揺るがない。
『一人では無理なら、三人。三人でも無理なら――百五十名ならどうだ?』
『ひゃくごっ!? お、おい、お前……まさか!?』
『アタシ達に協力しろって言うの!?』
「そうだ。今度は俺からマグノ海賊団に、新しく関係を結びたい。
故郷へ戻る為の、一時的な同盟じゃない。
俺達一人一人の過ちを正す為の、本当の男女関係を今から始めたい」
半年前、ワームホールで飛ばされた時の急場凌ぎではない。これから始めるのは、本当の人間関係――
タラークやメジェールでの教わった常識を完全にリセットして、新しくやり直す。
これまでの全てが間違いであったと言うのならば、これから全てを正しくしていく。
不可能であっても、全力で。自分達に足りないものを、互いに補って。
『海賊をやめろと一方的に言っておいて、自分の要求ばかり通ると思っているの!
だいたいタラーク・メジェールを変えると言うけど、どうやって変えるのよ!?』
「真実を国民全員に伝える」
『真実……?』
「男と女の真実を、俺達が伝えるんだ。俺は男の在り方を、メジェールに知らしめて見せる。
アンタ達はタラークに、自分達の本当の姿を見せてやってくれ」
『海賊を晒し者にでもする気!? 馬鹿じゃないの! 男達だって反発するに決まってるわ』
「それはどうかな」
『……随分自信タップリじゃない。何か根拠でもあるというの?』
「あるさ。何しろ――
俺も、バートも、ドゥエロも、アンタ達女を……心から、好きになれたんだからな」
『――なっ!?』
半年間の旅の結果が、この言葉に込められていた。やっと、素直に認める事が出来た。
故郷の教えで何度も何度も否定されていた感情を、ようやく自分自身の気持ちとして伝える事が出来た。
操舵席のバートも、医務室にいるドゥエロも、カイの言葉は伝わっている。素直な気持ちを、共感出来ている。
『はい、はーい! ディータも、宇宙人さんが大好きです! あとあと、お医者さんも、操舵手さんも、男の人はみんな好きです!』
『あ、ずるいわよディータ! ジュラだって、カイを狙ってるんだから!』
同じ人間である女性達にも、素直な感情を伝えられる者はいる。
メジェールでの教育なんて、籠から飛び出した海賊には何の制約にもならない。
本当の意味で自由となった自分自身の気持ちを、率先して彼女達は告げてくる。
それが本当に、嬉しくてたまらない……!
「バーネット。俺達は何度も喧嘩したけど……もう一度だけ、俺にやり直す機会をくれないか?
関係を元通りにしたいんじゃない。今の俺とお前で、向き合いたいんだ」
『……っ、勝手な事ばっかり、言って……』
ニル・ヴァーナ全鑑に通じている映像のバーネットは泣いて、笑っていた。
相手を激しく憎悪しながらも、堪えようもないほどに愛しく思っている。
生き方を共に出来ないと知りながら、傷つけ合っても分かり合おうとする。
何も考えずに嫌う事が出来れば、素直に好きになる事が出来たら、どんなにいいか――
『……お頭、副長、すいません……皆、本当に、ごめん……
――いいかな?』
マグノ海賊団全員に、バーネットは問うている。最後の後押しを求めている。
応える者は、誰一人いない。カイ・ピュアウインドの答えを、男達の心を見せられて、わざわざ口にして応えたりはしない。
マグノやブザムも、思いは同じ。好きなだけやれと、無言で促した。
バーネット・オランジェロは瞳を閉じて、
『カイ……アンタなんかと、誰が仲良くするもんか!! 総員、攻撃開始!!』
『ラジャー!!』
「お、お前らー!?」
とびっきりの笑顔で、親指を下につきつけてやった。爽快でたまらない。
お手々繋いで、仲良くやりましょう? 海賊に何を言っている、この馬鹿は。
バーネットの号令に従って、ドレッドチーム全機が攻撃を始める。
カイ・ピュアウインド――この生意気な男を、ぶっ倒すために。全力を尽くして、倒す。
宇宙を舞台にした、男と女の派手な喧嘩。笑い合って、相手をぶん殴る。
少年と少女達が分かり合うのに、友情や愛情なんて必要はなかった。
<to be continued>
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