VANDREAD連載「Eternal Advance」
Chapter 13 "Road where we live"
Action27 −同志−
名残惜しくも別れを告げて、惑星メラナスを出立。共に戦ったセラン達に見送られ、ニル・ヴァーナは船出する。
一ヶ月間の長期滞在で戦艦はほぼ修繕済み、ドレッドや蛮型も整備を終えて出撃も可能。
戦いのない日々の中で傷ついた身体を休め、心を癒し、気持ちを新たに故郷への旅に出る。
いつでも、戦う準備は出来ていた。
「許可が出るとは思わなかったよ。直談判した甲斐があったな」
『二十年も生きていない坊やが、生意気言うんじゃないよ。
アンタよりずっと前に、アタシらは覚悟を決めてこの宇宙へ飛び出したんだ。そうだろう、皆?』
『はい!!』
マグノ海賊団主戦力、ドレッドチームの総出撃。国家を脅かす宇宙海賊が華やかに宇宙に列をなしている。
対するは、SP蛮型一機。蒼と紅、二つのペークシス・プラグマを動力とする機体、"ヴァンドレッド"。
両機共に万全の状態で、星空の戦場で対峙していた。
『う、宇宙人さーん……本当にこんな事しないといけないの? 仲良くしようよー』
「お前の怪我が原因とはいえ、同盟は既に決裂したんだ。この戦いだって初めてじゃない。
このまま単純に味方に戻れるほど、俺達は簡単に割り切れないんだよ」
地球の母艦を打倒し、メラナスの人々を救った。記憶が退行していたディータも無事に回復した。
けれど、全てが元の鞘には収まりはしない。一度壊れたものは簡単には直らず、過去もまた変えられない。
男と女の協力関係は、破棄されている。有耶無耶のまま、元通りには出来ない。
『だからといって、我々が戦う必要がどこにある!? 貴重な時間と戦力の無駄遣いだ!
これから先、刈り取りと戦うにはお前達男の協力が必要不可欠だと、我々も認識している。
これ以上、私達が戦う必要はないんだ!』
カイ・ピュアウインド、彼はマグノ海賊団に宣戦布告を行った。
ドレッドチームリーダーのメイアが言うように、地球を相手に男でも女でも孤軍奮闘では倒せない。
カイは死に瀕した事で、マグノ海賊団は決定的な敗北を味わって、思い知らされた。
力を合わせなければ勝てない――それは、男も女も分かっている。
「確かに力を合わせる事は大切だ。俺も皆と一緒に戦っていきたい。
ただ――その後は、どうするつもりだ?」
『その後?』
「故郷まで一緒に旅をして、襲いかかってくる敵を残らず倒したとしよう。
平和になったタラーク・メジェールを標的として、また略奪を続けるつもりなんだろう?」
『……』
男や女である前に、一人の人間。過去も現実も、そしてその先も同じ道を歩む者などいない。
戦いでは協力して戦えても、平和が訪れれば考え方の違いから睨み合ってしまう。
根本的な部分で噛み合っていない以上、元の木阿弥となる。
『――だったら、どうだっていうの?』
「俺の意思は変わらない。まだ略奪を続けるつもりなら、全力で止めるまでだ」
揺るぎない信念、ではない。何度も悩み、迷い苦しんで、地獄のような現実を思い知っての少年の返答。
マグノ海賊団と同じ過去は共有出来ない。似たような苦しみを味わっても、彼女達の心の痛みを理解する事は決して出来ない。
ならばせめて、自分の心を素直に見せる。嘘偽りない気持ちを伝えて、マグノ海賊団の往く道を阻む。
表面上だけの関係なんて、これ以上続けられない。先延ばしにはしないと、過ちから少年は学んだ。
少女達もまた、その気持ちは同じ――ゆえに少女達の親のような存在、マグノはこの戦いを許してクルー全員に見せている。
『アンタの言ってる事は、アタシ達に死を強制しているのと変わらないのよ』
「生き方は変えられないと決め付けている――その諦めこそが甘えであり、罪だ。お前達の人生に可能性がないなんて言わせない!
諦められないから、海賊になったんだろう!?」
『アンタはその海賊をやめろと言っているのよ!』
発言をしているのは、バーネット。パイロットは正式に引退したが、この戦いだけは彼女の意思で出撃した。
マグノを始めクルーや幹部達、ドレッドチーム全員が彼女に発言を任せている。横槍を入れる者は誰もいない。
個人的な不平不満はあっても、カイ本人に私怨を抱いている者はマグノ海賊団の中には既に一人もいなかった。
血の一滴まで吐き出すような壮絶な戦いを経て、自分達を守り抜いた少年――その心を、誰が疑えるというのか。
『……どこまで言っても分かり合えないわね、アタシ達は。言いたい事は、他にも沢山あるんだけど』
「母艦相手に戦う方がよっぽど気が楽だよ、俺も」
戦場で弛緩した空気が流れる。憎しみ合わない者達の間に、殺意が飛び交う事もない。
仲良しという訳では決してない。譲れない者がある限り、本当の意味で分かり合う事も出来ないだろう。
男女協力関係が維持出来ていれば、いずれは手を取り合えたかもしれない。
ありえない仮定の話。過ちを犯した男女に引き返す道はなく、関係を清算しなければならない。
『ジュラやメイア達を助けてくれた事は感謝している。これは、本当よ』
「俺も皆が助かって、本当によかったと思ってる」
マグノ海賊団――特にバーネットとは、何どもぶつかり合った。殺し合いにすら発展しかけた事もある。
意地の張り合いになっていたが、ここに来て関係は良好になりつつある。
大きな過ちを犯し、心身共に深く傷ついたが、悲惨な事件を通じて得たものもある。
『あんたなら、どうするの?』
「……」
『アタシ達のやり方が非難するのなら、アンタのやり方を示して見せなさい。
海賊が悪いなんて、それこそ誰でも言えるわ。冷たい目を向けられる事も承知の上で、アタシ達は海賊をやってるの。
それを間違えていると言うなら、何が正しいのか教えなさいよ!』
何が正しいのか――それはきっと、この事件で誰もが皆悩んだ問いだろう。
自分の過ちには気づけても、正し方が分からずに暴走してしまい事態を悪化させてしまった。
カイも同じく、答えを出せていなかった。中途半端な態度ばかりで、根本的な問題を後回しにし続けた。
この旅が始まった頃、マグノ海賊団から問われていた事なのに――
何が正しいのか? カイ・ピュアウインドならどうするのか?
半年間共に生き、厳しい現実を超え、苦しい戦いに挑み続けて。
英雄に憧れる少年は、自分のやり方を示す――
「俺なら、国を変える」
この半年間多くの人達と出会い、タラーク以外の広い世界を少年は知った。
誰一人として、同じ人間はいない。それゆえに様々な価値観に触れる事が出来た。
「あんた達を追い出した国が間違えているのならば、国そのものを正せばいい。無関係な人間からこれ以上奪うな。
ただ奪うだけの力なんて、人を傷つけるだけの暴力でしかない。
あんた達マグノ海賊団の本当の敵は、男じゃない。メジェールという国そのものだ」
マグノ海賊団総員がこの言葉を聞いて呆気に取られ、次の瞬間には少年の正気を真剣に疑った。
物資や兵器などではなく、一国を略奪しろと進めているのだ。立派な叛乱、国盗り合戦である。
海賊を止めるより遥かに現実性のない答えに、バーネットは反射的に怒鳴り散らした。
『ばッ、馬鹿じゃないの! アンタ、本気で言ってるの!?』
「勿論本気だ。お前、このままやられっぱなしで悔しくないのか?
今まで散々故郷の文句を言ってたじゃねえか。それを直接、メジェールに言ってやればいい」
『アタシ達の言葉なんて聞いてくれる筈がないでしょう! アタシらは海賊なのよ!?』
「――訴えかけてみたのか?」
『えっ……?』
「訴えても無駄、だから一度も国に自分の言葉をぶつけなかった。そうだろう」
『そ、それは……だ、だって、アタシ達だけで国を相手に――』
「あんた達だけじゃない、俺がいる。この際だから、ハッキリ言っておこう。
――タラークとメジェールは、地球の手先になってる。
国を作った連中は、国民全員を地球に売り払おうとしているんだ。
俺は、タラークと戦う。武器だけではなく、言葉も使って」
遥か遠い故郷を打倒する為に、少年は高い目標を掲げる。
現実味のない、理想。そして敵は――悪夢のような戦力を、故郷へ向けて出撃させた。
艱難辛苦が待っていようと、夢を叶えるしか生き残る道はない。
<to be continued>
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